Purely chase the star.   作:でぃえん

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ベーカリーでの日常

Poppin'Party。

 

花咲川発のガールズバンド。 

結成されて6年、大ガールズバンド時代草創期から第一線で活躍し続ける。

一人の少女がランダムスターと出会って作られたこのバンドは、今や押しも押されぬ人気を誇る。 

 

 

父親が全ての店内BGMをポピパにして以来、それこそ耳にタコが出来るくらいにこのバンドの曲を聞かされている。 

ずっと店頭に立つ店員としては…流石に食傷気味。

 

もう累計何十回目か分からないLaLaLaLa…というコーラスをぼんやりと聞いていると、チリンチリンとドアの鈴が鳴った。

条件反射で接客モードに。背筋を伸ばして営業スマイルを浮かびあげる。

 

「いらっしゃいま…」  

 

「じゅんじゅん!久しぶりー!元気だったー?」 

 

言い終わる前に、彼女は飛び込むようにベーカリーに入ってきた。

大学生になっても変わらない猫のような髪型。  

星のように輝く瞳。

そして、未だに「じゅんじゅん」なんて恥ずかしい渾名で自分のことを呼んでくる人物。

そんな奴は、あいつしかいない。 

 

 

 

 

「…その呼び方やめろっていいましたよね?

 ………香澄さん」 

 

「えー?昔はじゅんじゅんって呼ばれてあんなに嬉しがってたのにな?」

 

「よ、喜んでねえし!」

 

 

ニヨニヨ、という擬音が相応しい顔。ものすごくムカつく。

 

「こーら、純。お客様に失礼な口利かない」

 

「げっ…姉貴」

 

「げっ、じゃないでしょ」

 

 

さらに後ろからベーカリー常連の牛込さんや花園さんが。

そして、一番遅れて、息を切らしながら市ヶ谷さんが入ってくる。

ポピパ勢揃いだ。練習が終わったあとだろうか?

 

「なんで…いきなり店の前で…走り出すんだよ…」

 

 

つられて全力疾走してしまったのか、口を開けるたびに思いっきりむせている。

汗を滲ませながら涙目になっている姿は正直、反応に困る。

そっとしておくのが吉だろう。

 

「あの、純くん!チョココロネ売り切れちゃったの…?」

 

「うさぎのしっぽパンも………ない」

 

 

牛込さんと花園さんはこの世の終わりのような表情をして、問いかけた。

 

「今焼いてるからもう少しで出来ると思う」

 

「ほんと?じゃあ待ってるね!」

 

 

ぱあっ、と二人の顔が明るくなる。かわい………クソ、言ってたまるか。

 

「りみとおたえの名前を使ってその2つのパンのポップ作ったら効果絶大だったよね…」 

 

 

姉貴がしみじみと呟く。

SNSで発信したら結構反響があって、姉貴の実家ということもありポピパ目当ての客が増えて忙しくなった。

 

「あー、あれな。結構バズってたし売れたんじゃねえ?」

 

 

だいぶ調子を取り戻した市ヶ谷さんが会話に入ってくる。

 

「そういえばいつまでSNS関係で猫被ってるつもりなんすか?」

 

「か、被ってねーよ!イメージを崩さないようにしてるだけで」

 

 

今やもう彼女にお嬢様のイメージを抱いてるファンはいないと思う。

 

 

「はいはい!私もリツイートしたよ!」

 

 

すごいでしょー褒めて!と、手を上げたあと香澄さんはふんぞり返った。  

……いや、確かこの人は。

 

 

「………思い出した!」

 

「えっ、何を?」

 

「よくも『沙綾のかわいい弟が店番してるんだよ!』なんて言ってくれたな!」

 

「えー!凄く宣伝になったでしょ!」

 

「店前に立つ俺の気持ちになってくれよ!あの発言を見たらしい人にめっちゃじろじろ見られたんだからな!」

 

「嘘は言ってないもん…」

 

口を尖らせて香澄さんは呟いた。

 

 

「……可愛いか?」

 

「いやー、身内補正がなかったら全然かな」

 

「沙南ちゃんや沙綾のほうがかわいいよね」

 

「おたえちゃん、女の子と比べちゃダメなんじゃないかな…」

 

 

はい周りうるさい。

ヒソヒソ声で喋ってるけど全部聞こえてるからな。

 

 

「とにかく!俺のことは書くなよ()()()()()()()!」

 

 

時が止まる。

しまった、と思ったときにはもう遅い。

つい昔の癖でねーちゃんだなんて呼んでしまった。

 

 

「アンタの姉ちゃんは私でしょ?…ブフッ」

 

「なに吹き出してんだコラ」 

 

「大丈夫。私もよく寝起きに教授とお母さんを間違えるから」

 

「それ全くフォローになってないですからね?」

 

「じゅんじゅんったら照れ屋なんだから…お姉ちゃんが直してあげるね!」

 

「お前がやっぱり一番ムカつくなあ!」

 

「じゅんじゅん!もう一回!もう一回ねーちゃんって」

 

「…もう帰れよおおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日々が終わるはずがないと思っていたのだ。

 

だって俺が物心ついたときから、姉貴はバンドをやっていて。

 

香澄さんたちは山吹ベーカリーに楽器を担いで来続けていたから。

 

こんな日々が終わるだなんて、まだ中学生の俺には意識できなかった。

 

 

 

 

 

でも、この頃にはもう、彼女たちは意識していたのかもしれない。

 

確実に訪れる選択を。

 

その時に否応なく迎えるかもしれない、終わりを。

 




未来のおねショタです(?)

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