坂崎玄信の憂鬱   作:小林 陽

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一気読みした余韻で書きました。楽しんでくだされば幸いです。


タイムスリップした頃の日記

  ○○月◇◇日

 

  始まりはなんだったか。俺は気がついたらタイムスリップしていた。

  異世界転生とやらの小説を読んだからかそんな夢をみたのかとも思ったが全然夢じゃない。なんか突然ふらっと倒れて崖から転げ落ちたんだが全然痛い。泣きそう。でも泣かない。大人だから泣かない。

 

  生活も落ち着いてきたのでとりあえず俺の置かれてる状況を整理していきたいと思う。

 

  俺は二十歳の大学生だったんだが体は縮み、大体7、8歳位の体格になっていた。実際はどれくらいか知らん。

  まぁそんな子どもが一人で生きていけるはずもなく死にかけていたところをじいさんに拾われた。

  この時代ではそういう助け合いが普通なのだろうか。そんなじいさんとの生活は山の中過ぎて一時間山下らないといけない位高い山に暮らしていることを除けば満足な生活だ。

 

  いきなりこんな生活を強いられてなんで自分でもこんな状況に置かれてるんだろうと思うのだがやっぱ一緒に暮らす人ってのが大きいのかな。俺じいちゃん子だったし。

  たまに家族のことを思い出して泣いたりもするがどっかで戻れるチャンスがあるはずだと信じてこの世界を生きていこうと思う。

 

 

 ○○月△▽日

 

 じいさんは畑いじりが趣味らしく大根やら何かを作っているらしい。当然居候である俺も手伝うのだがいかんせん本業ではないようなので1日中やっているわけではない。

 最初の内は物置を漁って本を読んだりその辺を散歩して暇を潰していたのだが飽きてきたのと浮浪者とか酔っぱらいとかにボコられてやめた。この体が7、8歳なの忘れてた。前の世界ではそれなりにケンカが強かったんだがなぁ……。とりあえずあいつら許さん、絶対いつかボコボコにしてやる。

 そんな強い決意をが芽生えたので体を鍛えることにした。筋トレはよく知らないので蔵にあった筋トレ本みたいなのを使ってトレーニングすることにした。でもこの本呼吸が云々みたいなことが書いてあるのでどっちかっていうとヨガか。大正の世にヨガってあったんだな。

  それはともかくこのトレーニングがきついのなんのってとにかく腹に力をいれなきゃいけないのだとか。ひょっこり出てきたじいさんに言われたのだがすげぇなじいさん、これ出来るんだ。じいさんがあんだけ元気な理由がこれなんだろうか。

 

 

 ○○月○☆日

 

  単純にこの山の空気薄くてしんどい。こっちにタイムスリップした時にふらっと倒れたのは空気が薄いのに慣れてなかったからなのか。

  てか呼吸法の練習してるだけで全身筋肉痛なんだがこの本大丈夫か?

 

 △△月◇◇日

 

  なんとか呼吸法を会得することが出来た。出来たんだがこひゅぅぅぅみたいな風を切る音がするんだが波紋なの? 俺波紋を練習してたの?

  タイムスリップじゃなくてジョジョの世界に転生なのか?でもどうも違うみたいなんだよな。じいさんに聞いても「波紋? なんだそれ」としか返ってこないし。じゃあなんだよと聞くと「水の呼吸だ」とかなんとか。

  なんだそれなんの役に立つんだ?

  じいさんは答えてくれない。ただ俺に刀と薪を渡してきた。すげー、本物の刀始めてみたわ。テンション上がるなー。え、あぁこの薪割っとけってことか。うへー、すげぇ量。テンション下がるわー。つーかこれ明らかに二人ようじゃねぇだろと思いつつ俺は薪を一刀両断にしていくのだった。

 

 △△月◇▽日

 

  まぁまぁの量の薪を割るので疲れてちょっと昼寝をしてるとじいさんに叩き起こされた。なんでも寝てるときにも「水の呼吸」を忘れるなとか。1日中「水の呼吸」を続けていると体力がついて楽になるのだそう。

  それならやってみるかと思いながらやってみたんだがこんなもん絶対無理だろ、肺も痛けりゃ耳も痛い。苦しすぎて逆に死ぬ。あぁ、楽になるって死ぬってことだったの?もうちょっと優しくしてほしい。

 

 □□月○◇日

 

  じいさんにずっと呼吸をやると楽になるぞという嘘から3ヶ月ほどでその効果を実感できるようになってきた。確かに楽にはなってきた。

  というか基礎体力が増えた感じかな。畑仕事しても疲れなくなってきたしな。この呼吸すげぇな、じいさんなんでこんなこと知ってんだよ。といったら「借り本屋から盗んできた」とはぐらかされてしまった。ちなみにこの本裏に値段の紙はっつけてあるんだがホントにはぐらかしてるんだよな……?

 

 ▽▽月◇▽日

 

  最近じいさんの体調がよくない。寝込むことが増えたし医者にはいかないと行って聞かない。ホントにこれだから年寄りは……。どんだけ医者が嫌いなんだ。今はまぁ許してやるがこれ以上寝込むんなら医者呼ぶからな。

 

 ▽▽月○☆日

 

  一向にじいさんの容態がよくならないので医者に来てもらうことにした。

  だが医者も理由は分からないという。不治の病というやつだ。先生の見立てによればもう長くはないのだとか

  とりあえず鎮痛剤だけ出してもらったがこれも気休め程度しかないらしい。

  まぁあまり心配してもしょうがない薬草とかじいさんの好きブリ大根とか食わせときゃ治るだろ。

 

 ▽▽月○☆日

 

  あれからじいさんの容態はよくなることはなく2週間ほどでじいさんは息を引き取った。

  出会ってからかれこれ4年ほど経つ。こんなよく分からん場所に飛ばされても寂しい思いをしなかったのはじいさんのおかげだ。そんな言わば心の支えというべき存在を失ったのは俺になかでは大きかったようでじいさんの墓を作って家に帰ると思わず涙が零れてきた。

  一晩中止まることはなかった。

 

 

 ▽▽月◇◇日

 

  じいさんの遺品を整理していると文机の中に俺宛の手紙と鱗滝という人宛の手紙を見つけた。

  じいさんからの手紙を読んだのだが内容は主に2つ。鱗滝という男のところへ行けということ。そして体を大事にな。と。口下手なじいさんらしい最後だな。溢れそうな涙をこらえて俺は手紙にかいてあった狭霧山へと向かった。

 

 

 ◇◇月○○日

 

  狭霧山を上がったほぼ山頂に鱗滝という男は住んでいた。ちなみに鱗滝さんは天狗の面をつけた妙齢のおじいさんでした。

  じいさんから受け取った手紙を渡すと月に向かって「バカ野郎が……」とか言っていた。何だろう、恐らくいいシーンなのだが全く心に来ない。天狗の面の存在感が強すぎる。

 

  鱗滝さんからはとりあえず今日はもう遅い。ゆっくり休むといい。と言われたのでお言葉に甘えることにした。

  この出会いが俺の人生を大きく変えてしまうことを俺はまだ知らずにいたのだった。

 

 

 坂崎玄信の日記より抜粋

 

 

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