坂崎玄信の憂鬱   作:小林 陽

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鱗滝さんのところにいた頃の日記

□□月××日

 

 

 

  鱗滝さんの家は大自然を使ったアミューズメントパーク型ジムなのだろうか。

 

  いきなり山頂に連れていかれ昼までに麓まで降りてこないと飯抜きだとおどされました。

 

  これが大正流RIZAPか。

 

  まぁ呼吸ヨガのお陰で基礎体力が上がってたからかわりと楽しくいけたけども石飛ばしてきたりするのはよくないと思う。これ当たりどころ悪かったら普通に死んでたよね。てか普通に当たっても痛い。腕折れるかと思った。

 

  じいさんから熊狩り対策講座を受けてなかったら危なかった……。

 

  鱗滝さんは結構驚いた様子だった。もっとかかると予想していたらしい。

 

  いや、実際俺も結構ビックリしてる。この山に来てからというもの体が軽くてしょうがない。

 

  そんなことを言ったらじいさんと住んでいた山の方が空気が薄いからだろうと言われた。なるほど、言われてみればこっちの方が深く息を吸える気がする。

 

  あまりにも向こうの環境に慣れてたから気がつかんかったわ。そりゃ4年も過ごせばそうなるわな。

 

 

 

  鱗滝さんがボソッと「罠の量を増やしても構わんか……」と呟いた。構いますよー、いきなりこんなんじゃ死にますよー?

 

  俺の言葉を黙殺し鱗滝さんは俺に刀を投げ渡してきた。午後は晩飯まで素振りだと言われた。刀というのは折れやすいのだそうだ。まっすぐ力を込めなければ簡単に折れてしまう。刀を折ったらお前の体もバキバキに折ると脅された。怖い。

 

 

 

  素振りは回数は特に指定されなかったので某会長をリスペクトして感謝の素振りをしてみた。いきなり一万回は無理だと思うのでとりあえず5000回からチャレンジしてみる。

 

  抜刀し、一回素振りをする。そして納刀し今生きていることに感謝。そしてもう一度このサイクルを繰り返す。

 

  やはり最初だというのもあってか半日では半分の2500もいかなかった。やっぱり会長ってすげぇな。

 

 

 

 

 

 ○○月××日

 

 

 

  今日から刀をもって山をくだることになった。大した変化はないだろうと思っていたが案外邪魔で殺意が高まりに高まった罠で何度か死を覚悟したがなれてしまえばこっちのものよ。普段と変わらず準備運動がてら降りれるようになってきた。最近ぐんぐん降りるスピードが早くなって余った時間は鱗滝さんと組手をするようになった。

 

  俺は真剣、相手素手。当然勝つと思ってたのが大間違いでした。鱗滝さんすっげぇ強ぇ。俺がどんなに勢いよく向かっていっても簡単に放り投げられる。完全に受け身の練習である。何かを忘れているような気がするんだが一体なんだろう。最初は違和感があったような気が……。まぁいいそんなことより今日は素振りだ。

 

  早いところ4000の大台に乗せて鱗滝をギャフンといわせてやりたい。

 

 

 

 

 

 ▽▽月○☆日

 

 

 

  最近では山下りを卒業し、午前は組手、午後は素振りとはっきりしてきた。

 

  先日やっと感謝の素振りを目標の5000回達成できたからか鱗滝さんに一発いれることが出来た。といっても面の鼻を少し短くする程度だが。

 

  まぁそれでも俺にとっては大きな進歩だ。目指せ一万回!

 

 

 

 □□月◇◇日

 

 

 

  今日は型を習った。この1年ほどでかなり「水の呼吸」を使いこなせるようになっていたので比較的簡単に覚えることが出来た。まぁキレがあるかは置いておこう。それはこれからの練習次第だな。

 

  素振りは6000回を越えるようになってきた。

 

 

 

 ◇◇月○○日

 

 

 

  素振りの回数が8000を越えてきたところで鱗滝さんに「もう教えることはない」と言われた。そして岩を切ったら免許皆伝だとも。

 

  たださらっと言ってくれたが岩を切るってなんだ? 岩って刀で切れるもんなの?

 

  鱗滝さんが連れて言ってくれたのは俺の身長の優に倍はあるであろう巨大な岩だった。

 

  うーん、これは無理じゃないかなぁ。俺の呟きに全く反応しないと思ってたらもういなくなってた。

 

  スニーキング黙殺をするとは流石だな、鱗滝さん。

 

  まぁいいんだけどよ。今日はこの岩にチャレンジするつもりはない。とりあえず10000回を達成してからだな。

 

 

 

  何だろう、この素振りを始めた頃から妙に心がざわつく時がある。何か大切なことを見落としているような……。

 

  まぁそんなことより素振りだな。早く10000回を達成せねば。

 

 

 

 △△月×☆日

 

 

 

  うぉぉぉぉ、ついにやったぞぉぉぉ! 一万回素振りをしても日が暮れていない。俺はついに会長と同じ場所に立てたんだぁぁぁぁぁ!ここまで長かった……約2年くらいかかっただろうか。俺も14歳になって体も大きくなってしまった。

 

  拳を高々と掲げてガッツポーズのまま倒れると色んな思いが去来してくる。

 

  達成感、疲労感、そして何より―――――――気恥ずかしさ。

 

 

 

  うわー、俺何しちゃってんだろ、感謝の素振りとかHUNTER×HUNTERヲタクのただのイタいやつじゃねぇか。確かに俺は14歳だけどもこれはないわぁ。前世から含めればもう34歳だっていうのに厨二病にかかってしまうなんて……。

 

  穴があったら入りたい……もう死にたい……。恥ずかしさのあまり山の穴蔵に込もって体育座りしていると鱗滝さんにこの2年間で一番優しくポンと肩を叩かれた。

 

 

 

  ――誰にだってそういう時期はある、気にすることはない。

 

 

 

  鱗滝さんにもあったんですね、やっぱりいつの時代も悩みは一緒なんだなぁ。

 

 

 

  ――当たり前だろう、誰だって一度は通る道だ。

 

 

 

  そう言ってもらうとまだ生きる元気が湧いてくる。でもやっぱ今日は無理。寝よう。

 

  しかし大正時代に来ても厨二病発症するんだなぁ。俺のポテンシャルが高すぎる。

 

  あ、岩は切れました。

 

 

 

 △△月◇▽日

 

 

 

  鱗滝さんにはこれで免許皆伝だ、最終選別からも生きて戻ってくるのだぞ。と抱き締められた。

 

  選別ってなに……?

 

  てか冷静に考えたると色々おかしい気がしてきた。最初はチンピラにボコられたからちょっと体を鍛えようと思っただけなのに厨二タイムのせいですっかり目的を見失ってた。

 

  何で俺は熊とか猪でさえ引っ掛かって死ぬ罠ばかりの山を半刻で駆け降りたり滅茶苦茶に強い鱗滝さんと組手をしてたはずなのにいつの間にか木刀で斬り合っていたのだろう。

 

 

 

  俺の発言に鱗滝さんは目を丸くしていた。お面被ってるけど。気配で。何言ってんのこいつみたいな。

 

 

 

  え、俺また何かやっちゃいました?

 

 

 

 

 

 △△月□□日

 

 

 

  鱗滝さんから免許皆伝から一晩が経った。

 

  昨日は正直話を受け止めきれなくてボーッとしたまま寝てしまった。

 

  昨日の話をざっくりまとめると俺は鬼と闘う修行をしていたそうなのだ。

 

  てか鬼って何だよ。ゲーセンでずっと太鼓叩いてる奴かよ。俺が友だちとやっているとき後ろから飲食の先輩みたいな目で見られてたの思い出すなぁ。あれは怖かった。

 

 

 

  それはともかく鬼というのは桃太郎やなんかがお手軽に倒しているものではなく人を喰って生きている鬼なのだそうだ。しかも厄介なことに異様に生命力が高く、特殊な武器や太陽の光でしか死なないそうだ。しかも力も段違いに強くなり妖術のようなものも使うんだとか。

 

  何そのチート。ズルくない?そんなんに俺がちょっと修行したくらいで勝てると思わないんですけど。体育の成績万年3の男だぞ?無理無理。

 

 

 

  そんな俺を鬼を絶滅させるための組織、鬼殺隊に入れる優秀な存在を育てるのが鱗滝さんやじいさんの仕事らしい。

 

  じいさんそれらしいこと一切言ってなかったぞ。じいさんから教えてもらったことと言えば春画の恥ずかしくない買い方とか水の呼吸をずっと続けると体が楽になるぞとか身持ちの硬い女は案外正面切って口説くといい。とかクソの役にも立たないことばっかりだったぞ。

 

  はっ、まさかあの薪割りは「水の呼吸捌ノ型 滝壺」の修行だったのか。なんてさりげない。

 

 

 

  そんな育て手二人に育てられた俺はそれなりにいい出来らしいのだが問題は俺自身に全く自覚がないということと鬼殺隊に入る動機がないということだ。

 

  育ててくれた鱗滝さんには申し訳ないがそんな怖い仕事には就きたくない。俺だって命は惜しい。

 

  でも、1日中修行に明け暮れてロクに働かない俺に飯を作ってくれたり殺す気で罠を仕掛けてくれたり、組手で容赦なくぼこぼこにしてくれたり、たまに風呂淹れてくれたりとやさ……優しかった鱗滝さんへの恩返しをしなくてはならない。

 

  そんな決意を俺は固めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 鱗滝左近次の追憶

 

 

 

 

 

 あの衝撃を儂は一生忘れないだろう。それほどまでにあの子は完成されていた。見ただけで分かるほどに体が出来ていた。なにより鬼殺で一番大切な常中を身に付けていた。

 

 その子は儂の古い先輩の書簡を携えていた。そこには一人前の男にしてやってくれ。と書いてあった。

 

 あの人は優秀な育て手だ。何人も柱を排出している。そんなあの人が見初めて育てたこの子を残して志半ばで死ぬのはさぞ悔しかったのだろう。

 

 だからこそ儂は他の子ども達に接するよりもかなり厳しく修行を課してきた。

 

 しかし玄信はそれらを軽々とこなしていった。この狭霧山よりもよほど空気の薄い水野辺山で育ったということもあるのだろう。

 

 

 

 何より驚いたのは岩をまるで豆腐のように斬ってしまったことだ。しかもまるで癇癪を起こした子どものように雑に斬りつけてである。3m近くある岩をバラバラにしたと思ったらその場でふて寝をしたりと中々に大物感溢れる男だ。

 

 

 

 才能というのはどこにでもあるものだな。この間武者修行に来た煉獄家の娘も常中を習得していてすでに炎の型を使いこなしていた。

 

 女だから力だけでなく柔軟な水の呼吸も習得したいとのことだったが元々この2つは相反する呼吸なので無理だったが彼女も玄信に負けず劣らずの才能だった。

 

 

 

 恐らくだが彼女もこの選抜を受けるのだろう。願わくば玄信と一緒に鬼殺隊を支える柱になってほしいと思うのは育てた者の贔屓目だろうか。

 

 おっと、余計なことを考えすぎたか。手が止まっていた。

 

 早く玄信のために厄除の面を作ってやらなければいけない。これをつけた子どもたちがほとんど戻ってきていなくても儂に出来ることはそれくらいしかないのだから。

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