坂崎玄信の憂鬱   作:小林 陽

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最終選別の頃の日記

 △△月○☆日 その1

 

 

 

  最終選抜に行くに当たって狐の面をくれた。厄除の面と行って悪いことから守ってくれるそうだ。

 

  最終選抜が行われるのは藤襲山と呼ばれる藤の花が辺り一面に咲き狂っている山だった。鬼は藤の花が嫌いらしいのでこれで閉じ込めているんだろう。

 

  そんな風に藤の花を眺めながら歩いていたところ後ろからあーっ!と大きな声が聞こえた。

 

  声の主は火のような髪色に炎を型どったような羽織に身を包んだヤバそうな女だった。

 

  こりゃあれだな。触らぬ神に祟りなしってやつだ。

 

  一瞬合ってしまった目を高速で逸らし、早歩きで集合場所まで向かおうとしたのだが回り込まれてしまった。

 

  逃げられないとかボス戦か何かなの?

 

  その女は俺ににっこりと笑いかけると「キミ、鱗滝さんの弟子なんだね」と言ってきた。

 

  なんで知ってるんですか。怖すぎます。ていうかお前みたいなド派手でお騒がせ成人式みたいな頭したやつとは関わりたくないんですごめんなさい。みたいなことをまるっと言ったらポカーンとされた後手を叩いて爆笑しながらキミ最高だわ! よし、これから一緒に行動しようよ!とか言われたので丁重にお断りしておいた。

 

  だって怖いです。つーかあの髪色は大正時代に攻めすぎだろ。

 

  周りのやつもなんかざわざわしてんじゃん。悪目立ちはしたくないので積極的に距離を取っていこうと思いましたまる。

 

 

 

  ただ、一回そんなやべぇやつと話してしまったやつが皆との輪には入れるかというと答えはNOだ。それにこの時代に来てから同年代の子どもたちと話した記憶がない。一体どんな話すると弾むんだろう。

 

  そんなことを考えながらボーッとしていると集合場所の中心にいた白と黒のおかっぱの子たちが最終選別の説明をしだした。

 

  なるほど、鬼がいる山の中で7日間生き残るという極めて分かりやすいテストらしい。

 

  まぁ鬼さえいなけりゃ温い課題だな。てか鬼がいる山でウサギとか猪とかは生きているんだろうか。それによっては難易度が違ってくるんだが。

 

  俺がその辺の質問をしようと手をあげた瞬間の白黒ガールズのでは行ってらっしゃいませ宣言で駆け出した人の波に流され俺は山に入ってしまったのだった。

 

 

 

 △△月○☆日 その2

 

 

 

  最終選別では戦いの面では特に苦労はなかったな。最初に会った手がいっぱい生えてる鬼がちょっと強かったくらいでそっからは大した鬼はいなかった。それは俺があの炎上娘と合流したこともあるだろう。あいつはあんな破滅的なセンスしてる割にメチャクチャ強い。どうやら鬼殺隊では名門と言われてる煉獄家の長女なんだとか。炎の呼吸とかいう文字通り烈火の如く攻める女だったので俺が鬼の攻撃を受け流している間に炎上娘が斬るという奇妙な共闘関係が出来ていた。

 

  私たち息ピッタリのコンビだと思わないかだって?

 

  バカか、炎と水は相容れないだろ。てか俺はそういう名門のドロドロとかには巻き込まれたくないんでパスで。

 

  俺がこんなにも丁寧に断っているというのにこのバカ女はまたまたーとにやりと笑った。

 

  何この生物、バカなの死ぬの?

 

 

 

  しかもこの生物はかなり感覚が鋭敏らしく鬼がいるところがなんとなく分かるようでどんどん鬼のところへ向かっていった。

 

  どさくさに紛れて逃げ出そうとしても俺は首根っこを捕まれて引きずられていった。やっぱボス戦じゃねぇかよ。

 

  俺は正直二人でいるんであれば交代で睡眠もとれるし鬼も怖くない。だから休もうぜと提案しているのにせっかくだし助けなきゃでしょと言って聞かない。あまりにも聞かないもんだから俺ももう諦めて鬼を斬っていくことにした。

 

 

 

  そうなってくると本来7日間生き残るという課題なのにも関わらず索敵殲滅の様相を呈していた。

 

  一晩中鬼を斬り続けて夜が明けたころ烏が飛んできて「広場ニ集合ゥゥゥ!」と言われた。お、おう、烏って喋れるんだな。知らんかったわ。

 

  俺が若干引いてるのを尻目に炎上娘は本物だー!よしよしー!と撫で回していた。おい、烏嫌がってるぞ。

 

  ていうかこの烏なんだよ鬼の罠じゃねぇの?

 

  とりあえず斬ろうとしたら思いっきりぶん殴られて罵倒された。

 

  解せぬ。なぜお前はそこまでそいつの言うことを信用できるんだ。

 

  ちょっと呟いただけなのに滔々と説明をされた後行くぞ!とずんずんと広場の方へ向かっていった。

 

  はぁ、これだから貧乳は人の話を聞かないから嫌なんだ……。

 

  そんなことを考えていたら全集中のローキックをくらった。すっげぇ痛い。「ふぇ!?」みたいな変な声がでるくらい痛かった。

 

  どうやら口に出していたらしい。だってしょうがない、ホントに貧乳なんだもの。今回は口に出さなかった。えらい。

 

  そう思った矢先今度はリバーブローをくらった。吐きそうになったのをグッと堪える。

 

  あっぶねぇ、てかさっきからこいつの蹴りとかパンチとかの方がダメージ喰らってるんですけど。しかもだいぶ致命的なやつ。

 

  しかしなんだこいつ。なんでいきなり殴ってきやがった。ジロリと睨むとバカ女は「貧乳って言われた気がした」とか言って睨まれた。エスパーか何か?

 

 

 

  俺たちが広場に入ると白黒PUFFYが「これで全員揃いましたね」と言った。

 

  受験者は最初40人くらいいたはずだが今は半分の20人強くらいだろうか。俺と炎上娘で結構な数の鬼を斬って回ったはずだがそれでも助けられなかったのかと思うと少し悲しい。南無と心の中で手を合わせておく。

 

  PUFFYが言うことにはどこぞの誰かが鬼を斬りすぎたせいで藤襲山にいた鬼がもう一匹もいなくなってしまったそうだ。最初は人形のような印象を受けた二人も心なしか額に汗をかいているように見える。

 

  PUFFY曰くもう鬼はいなくなってしまったため後は食料を確保できるかの生存競争になってしまうためここで最終選別を打ち切って今生き残っているやつは全員合格なんだそうだ。炎上娘はさすおや……とうっとりしていた。もうこいつにツッコむのは疲れてきた。放置しよう。

 

  受かった人間には隊服の支給と刀を打つための鋼を選ぶらしい。そう言われて鋼を見せられるとみんな我先に大きいのを取ろうとしてタイムセールの時のおばちゃんが思い出される。かあちゃんと姉貴がよくやってたなぁ。ちなみにタイムセールは1人がブラインドになって手元を守り、1人が素早く取って行くというツーマンセルがおすすめだ。

 

  ちなみに炎上娘は大人げなく呼吸を使って一番乗りだった。絶対あの足運び型だろ。なんか炎っぽい幻影見えたぞ。

 

  そんなことをぼんやり考えていると残ったのは蝶のような羽織を着て優しそうな黒髪の巨乳と俺だけになってしまった。

 

  あのバカ女とは何もかも違うタイプの人だった。

 

  何でも仲間同士で争っても仕方がないと思ったらしい。どこぞの貧乳に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。やっぱり巨乳は最高だ。

 

  俺はレディーファーストの気持ちを持っているので先に選ばしてやった。といっても残っているのは小さくて見た目の悪いやつばかりだったのだが。

 

  いや、でもこれ結構重い。このサイズにしては中々な重量だ。暇すぎてじいさんの家の近くで石の重さランキングとかやってた俺が言うんだから間違いない。案外当たりが残っていたようだ。

 

  蝶巨乳はやや緑がかった小さい方を持っていき俺はやや青みがかった鉱石が覗く大きめの鋼を選んだ。といってもあくまで小さい中でだが。

 

  いや、小さいってべつにお前に言った訳じゃねぇから、いやホントに。確かにキーワードだけ拾うとお前への悪口言ってるように聞こえるがそれは貧乳のひがみだ。あ、痛い痛い。炎の呼吸使ってローキックするのやめて。

 

  ちょっと蝶巨乳の嬢ちゃん笑ってないで助けてよ。いやいや、全然仲良くないから。これ仲良しの蹴りかたじゃないでしょ、俺が全集中で足固めてなかったらもうバキバキよこれ。蝶巨乳はうふふと笑いながら見ている。そんな蝶巨乳を炎上娘が見ると突然大きな声を上げた。基本的に声がでかいんだよなぁこいつ。

 

  蝶巨乳の手をぎゅっと握って「も、もももしかして胡蝶カナエさんですか?」とアイドルにあったけど何も言えないネット弁慶みたいになってた。

 

  あまりに勢いが強いので蝶巨乳に若干引かれてた。「あ、あの私煉獄 千寿流(ちずる)っていいます!」よろしくお願いします!とすごい勢いで頭を下げてた。てか千寿流って名前なんだ。知らんかったわ。

 

  なんか貧乳が巨乳と仲良くしている内に俺はPUFFYに鋼を渡し、隊服の採寸をしてもらい、手のひらをこちょこちょっとされると鎹烏と呼ばれる烏をもらった。さっき来たしゃべるやつかこれ。主に連絡に使われる伝書鳩のようなものらしい。

 

  そして少し待つと背中に滅とでっかく書いてあるハイセンスな隊服をもらうと嬢ちゃんたちのとこへ戻ったのだが二人はなんか仲良くキャッキャウフフしながら烏と戯れたり階級入れてもらったりしてる。

 

  うーん、もう帰ろうかな、寝ずに鬼を斬ってたので流石に眠たい。

 

  せっかくの巨乳だから守っていきたい気持ちもあるのだがカナエちゃんは千寿流嬢ちゃんが守っていってくれるだろう。巨乳の近くで過ごすことで巨乳になれるといいな。よし、帰ろ。

 

 

 

  藤襲山の麓に差し掛かった頃後ろからおーい、おーいという声が聞こえた。なんだよ妖怪山彦かよと思って振り向くと千寿流嬢ちゃんとカナエちゃんが小走りで追いかけてきた。しかし正直走ったときにふわんふわんと揺れるカナエちゃんの胸しか見えなかった。え、千寿流嬢ちゃん? いなかったんじゃないかな。

 

 

 

「とーっ!」

 

 

 

  と思ってたら死角から嬢ちゃんの山の斜面を最大活用したドロップキックを喰らって吹き飛んだ。しかしそこは俺もプロ。カナエちゃんの胸から目を離すことはなかった。

 

  受け身を取ってすぐに起き上がる。鱗滝さんとの修行がここで活きるとは。

 

  てかなんで付いてきたんだ?

 

  なんでもせっかくの同期なんだから仲良くしようよー的なノリらしい。

 

  それはいいんだが千寿流嬢ちゃんがいらねー、暴力系ヒロインはお呼びじゃねーんですよ。

 

 

 

  はぁ!? あんたが1人だったから誘ってあげたんでしょー!

 

 

 

  うん、ありがとう、でも俺とカナエちゃんの間に入らないでもらえる? ほら、見えないじゃん色々。

 

 

 

  またそれか!と俺に肩パンをいれてくる嬢ちゃんの姿を見てカナエちゃんはクスクスと笑っていた。すげぇ楽しそうだなこの子。

 

  なんとなくだけどこの関係は一生変わらないんだろうなと思った。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

  煉獄千寿流の邂逅

 

 

 

 

 

  私は所謂転生者というやつらしい。転生した世界は私が大好きだった鬼滅の刃の世界。私はその世界における炎柱を代々担っていた煉獄家の長女として生を受けた。

 

  正直血統も体のスペックも最高で早めに修行を始めたこともあって戦いにはほとんど困らなかったし私が5歳のころに煉獄さんが生まれたしこの間には千寿郎も生まれた。この二人を愛でているだけでも幸せだったんだけど原作通り行ったら杏寿郎が死んじゃうんだから未来を変えるべく私は最終選別へと向かった。

 

  そこで私は厄除の面を付けた人を見かけたのでテンションが上がってつい話しかけちゃったんだよね。私の顔は控えめに言ってもかわいかったので拒絶されることはないと思っていたのにこいつには思いっきり裏切られた。

 

 

 

「何で知ってるんですか、てかあなたみたいなお騒がせ成人式みたいな人とは出来るだけ関わりたくないですごめんなさい」

 

 

 

  なんかやけに現代っぽい言葉遣いだなと思ってたらお騒がせ成人式とか完全にこの人も転生者だよね。

 

  仲間が出来たみたいで嬉しくなってパートナーのお誘いをしたのににべもなく断られてしまった。

 

  でも私は諦めないよ、私はキミが気に入ったんだからね!

 

  まぁ巨乳だとか貧乳だとかうるさいけども。てか私は美乳だし! 闘う上でのこの洗練された機能美に咽び泣け!

 

  それはともかく玄信は鬼滅の刃のことを知らないみたい。

 

  カナエさんと話しててもけろっとしてたし。でも特段教えることもないでしょ。変に教えちゃって私のハッピーエンド革命に横槍が入っても困るしね。

 

  玄信は私に及ばないまでも新入隊員としては破格の強さなので一緒に行動して私に協力してもらおうと思う。

 

  決してこいつと一緒にいれば富岡さんとか錆兎とか炭治郎に合法的に会えてかつ愛でられるかもしれないとかそんな邪な理由ではない。

 

  あくまで死んでしまうキャラの救済のためだということをここに明記しておく。

 


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