○月△日
起きるなり準備を急かされ嬢ちゃんに連れていかれたのはTHEこの時代の金持ちみたいな豪邸だった。デッカい家だなーと思いながら眺めていると門から嬢ちゃんとおんなじような髪の毛をした目がギョロっと大きい少年が出てきた。
嬢ちゃんはそれを見るや否や「ただいまー! 会いたかったよ杏寿郎ー!」と少年を胸に抱き寄せてすりすりしていた。
あんなに固そうな胸元に押し付けられて可哀想に。痛くないんだろうか。
そこから嬢ちゃんはひとしきり杏寿郎と呼ばれた少年を愛でた後仲良く屋敷の中に入っていった。
あれ、俺もしかしなくても置いていかれた?
しょうがない、さっき見かけた甘味屋でぜんざい食べて帰ろう。
くるりと踵を返すとおもむろに襟首を捕まれた。また嬢ちゃんかよ。ホントにお前はしつこいよなぁと思って顔を見るとそこにはさっきの少年をそのまま大きくしたようなおっさんがいた。
ど、どなたでしょうか……。言いながらも逃げ出そうとしているのだがピクリとも動かない。確かに感覚としては今まで出会った誰よりも強い。練り上げられた闘気を感じる。
そのおっさんはにっこりと笑って「千寿流の父です」というと俺を担ぎ上げるようにして持ち上げるとダッシュでさっきの家に走っていった。
そして大きい客間に嬢ちゃんと並んで正座させられた。
そして滔々と自分がいかに嬢ちゃんを可愛がっているか、その将来性、そして可愛さを語られた。
もしかしてなんか勘違いしてないこの人。俺が嬢ちゃんの恋人か何かだと思っているんじゃなかろうか。
いや、俺こいつに振り回されてるだけで好きでも何でもないんでね。何なら今すぐ帰るし。てか俺はホントに貧乳はノーサンキューなんで。
そんな断りを入れると煉獄パパは「ウチの千寿流は遊びだったのかー!」とブチ切れて俺を庭に投げ飛ばし、木刀での試合を挑んできた。せっかくの休みなのにそんなことしたくないわ。
丁重に断ったと言うのに煉獄パパは「その意気やよし!」とか言って普通に斬りかかってきた。おい、話聞けよ。てか開幕から普通に型使って斬りかかってくるのやめてください。木刀とは言え普通に死ねる。
流石煉獄家当主。技がキレッキレで俺が今まで戦ってきたともすれば鱗滝さんより強いと思える技の冴えだった。しかしそこは水の呼吸、柔軟性には定評がある。
切り返す事を考えず受けることだけを考えて立ち回っていると何とか致命的な一撃は食らわずにかわすことが出来た。
後はどう攻撃を当てるかだな。と少し頭を巡らせた瞬間「中々やるな、少し力を入れるぞ」とか言ったと思ったら斬られてた。げんしん は めのまえがまっくらになった!
目が覚めると俺は知らない部屋の天井を見ていた。体を起こすと嬢ちゃんが「目が覚めたんだ。案外早かったね」と近づいてきた。
思い出した。俺はこいつに連れてこられたせいであんな酷い目に会わされたんだった。
一体どんな説明をしたら俺を親の仇のように見るんだよ。聞いてみると杏寿郎くんがあの親父の前で「そういえばあれは恋人ではなかったのですか」と聞いてしまったらしい。それを聞くや否や飛んで行き門の前での出会いに戻ると。
何だそれどこの暴れちんちん電車だ。誰か止めろよ。え? あぁなると話聞かないって? お前にそっくりだね。遺伝なんだあれ。
そんな他愛もない話をしていると襖がすぱーんと開いて煉獄パパ登場。
娘を預けるにはお前はまだ弱い、だから娘を娶るに相応しい男になるまで俺が育ててやろうという謎理論を展開するあまりに目まぐるしい展開に俺の頭はついていけてなかった。
娘取られたくないんじゃなかったの? 結局俺の応援してるけどどういう心境の変化があったんですかね。
俺の疑問を他所にバカ親子は二人でやったね。とかこれからが楽しみだなとか言ってた。
はいはい、もういい加減このパターンも慣れましたよ。どうせ俺の意見ガン無視なやつでしょ。
まぁ目的に異議はあるが強い人に稽古をつけて貰えるのは結構ありがたいかもしれない。きゃー、こんな酷い目にあったっていうのに俺ってば前向きー!ストイックー!
こんな風に前向きに捉えてないとやってらんねぇよ。
△月◯日
煉獄式トレーニングが始まった。俺と嬢ちゃん、親父と嬢ちゃんの弟の杏寿郎くんと特訓するんだがこいつら俺のことサンドバッグか何かだと思ってねぇかな。俺は炎の呼吸の使い手ではないので基礎のおさらいのところは瞑想なり素振りなりで別メニューなのだがこと型の練習何かになると皆して俺にぶつけてくる。嬢ちゃんと杏寿郎くんはいいとしてバカ親父、お前はダメだ。何柱がさらっと打ち込んで来てるんだ。力の差を考えてくれ。
一応の抗議をしてみたんだがお前は受ける力に優れてるんだからそれを伸ばそうとの一点張りだ。
何でもいいけど嬢ちゃんが「受け力が高い……? 総受け……?」とか呟いてて怖かった。
△月◇日
任務、訓練、任務、訓練。鬼とおっさんと貧乳という癒しの欠片もない過酷な環境での息抜きと言えばもっぱら杏寿郎くんとその弟の千寿郎くんと遊ぶことだったりする。
まだ生まれたばかりで寝返りを打つくらいしかできないのだがそれでもかわいい。何で赤ちゃんってこんなにかわいいんだろうな。
抱っこしたり高い高いしてるとホントに癒される。そんな風にして遊んでいると杏寿郎くんがじーっとこっちを見ていることに気がついた。
もしかして杏寿郎くんもやってほしいんだろ、まだ12才だもんな。昔の世界じゃ鼻水垂らしながらサッカーでもしてる年頃だ。だと言うのに君はえらいねぇ。と有無を言わさず抱き上げて投げ飛ばすくらいの勢いで高い高いしてあげるときゃっきゃ言って喜んでた。
やっぱ何だかんだいってまだ子供だもんな。そういう遊びだってしたいさね。
ひとしきり遊んだ後軽く休もうと縁側でくつろいでいたところ瑠火さんがお茶を入れてくれた。
瑠火さんは目鼻立ちがしっかりしており、和服が似合う超が付くほどの美人で気も効くし優しいしでなんであの親父と結婚したのかは謎である。
そんな瑠火さんとお茶を飲みながら二人と遊んでくれてありがとね。いえいえ、居候の身ですから。大きいお兄ちゃんが出来たみたいで杏寿郎も嬉しいみたいで。俺も弟が出来たみたいで楽しいですよ。みたいな平和な会話を楽しんでいるといきなり嬢ちゃんが飛んで来て杏寿郎にやったやつ私にもやってよ! とか言ってきた。ちなみにその後ろではバカ親父が目をキラキラさせながら見ていた。
それと真反対の表情を瑠火さんはしていた。たぶん俺もそんな顔してた。
「いつも遊んでもらってるみたいでありがとうね……」
△月☆日
誠に不本意ながら継子になって煉獄家に居着くことになったのだが瑠火さんがお金を受け取ってくれなくて困っている。せめて食費くらいとお金を渡そうとしたらあなたのような子どもから受け取るほど困窮していません。と言われてしまった。
いや、受け取って貰えるとも思ってなかったんだけどさ。瑠火さんそういうとこしっかりしてるし。
まぁ受け取ってもらえないならしょうがない。単独任務の際にわりと遠くまで行くことがあるのでその時にお土産をたんまり買っていくことにした。
この間千寿郎くんにでんでん太鼓を買ってきてあげたらそれを持って振り回しながら奇妙な躍りをするのがかわいくてしょうがない。癒しすぎる。
あと普段の感謝を込めて瑠火さんにかんざしを買ったら珍しく嬉しそうに笑ってた。普段はクールビューティーって感じで静かに笑うけどぱあって感じに。不味い。嬉しかったからか語彙力が無くなってる。
そんなことをしてると杏寿郎くんが部屋の隅で拗ねてた。今度は杏寿郎くんにも買ってきてあげないといけないなぁ。
△月□日
最近力が付いてきたからかバカ親父の剣檄もいなせるようになってきて俺が柱になる日も近いかなーとかふざけて言ってみたら、なら手加減はいらんな。とかホント勘弁。俺の木刀がへし折れるくらいの力で打ち込んでくるなよ。流石に死にます。
ただ大人げなく打ち込んでくるせいで単独任務で戦う鬼はそれほど苦戦しなくなっている。だってぜったい親父の方が強いし。手加減のなさで言えば鬼といい勝負だと思うんだ。
△月◎日
あー、巨乳が足りねー。嬢ちゃんは虚乳だし瑠火さんは着物だし、てかそもそもそういう対象でもない。圧倒的におっぱいがない。任務で会う人も男ばっかだしなぁ。どっかにおっぱい落ちてねぇかなー。
そんな益体もくそもないことをだらだらと考えていると嬢ちゃんがお茶を持ってきてくれた。
あんまり嬢ちゃんの胸を見てると余計に巨乳が欲しくなるだけなので目をそらしていると何を勘違いしたのかニヤニヤしながらついに私の魅力に気がついちゃいましたか~?みたいなことをほざきやがった。
バカ言え。お前みたいな崖っぷちに手を出すほど落ちぶれてないわ。だいたい俺は巨乳が好きなんだっての。
巨乳の何がいいか! 美乳の機能美に打ち震えろ!とか言って斬りかかってきた。全く、これだから微乳は余裕がなくて困るぜ。
そんな軽口を叩きながら斬りあいをしているといつの間にか日が沈み、俺たちの体力も限界に達していた。
せっかくの休みだっていうのに何してんだろうな。
バカだね私たち。
と稽古場に寝転がってTHE青春みたいにして笑ってたのだが今思い返せば何で笑ってるんだ。テンションって怖い。
てか随分長い間全力戦闘をしてたせいで体が痛い。明日の修行は楽だといいなぁ。
***
煉獄 槇寿郎の期待
娘が連れてきた男は深い海のような目をした男だった。いくら俺や娘がふざけても全て受け入れてしまうようなそういう目。およそ15の少年の纏う雰囲気ではないというのが最初の感想だった。
娘があまりにも誉めるものだから一体どれほどの力量があるのか気になったので手合わせしてみた。俺より弱いやつに娘はやらん。
感想としては強いと素直に思った。そこらの隊員よりはよほど強いだろう。特に受け流しの技術は目を見張るものはある。
気絶している間に話を聞けばすでに十二鬼月を一匹倒しているのだそうだ。千寿流と一緒なことも加えればさらに一匹。下弦の伍と陸といえ並の新人ができることではない。
こいつなら任せてもいいかもしれないな……。
そう考えて継子にすることにした。本人の呼吸としては水柱の方がいいんだろうがあいつは継子とか育てるタイプじゃないのでいいだろう。
しかし俺が本気で斬っても刀が折れながらもしっかりと受けてはいた。あれは流石に驚いたな。
それに人格もしっかりしている。ボロボロになるまでしごいてやっているはずなのに休憩中には千寿郎や杏寿郎と遊んでやったり瑠火の家事を手伝ったりしているらしい。この間なんかは瑠火に日頃の感謝を込めてかんざしを買ってきたそうだ。
珍しく嬉しそうに笑って報告してきた瑠火の姿に俺も嬉しくなったのと俺も今度新しい着物でも買ってやろうと決意するのであった。
そういえばつい先日訓練が休みの日だというのに玄信と千寿流が本気で斬りあっていて感心した。あの気迫は中々訓練で出せるものではない。驚くべきはそれを日が暮れるまでずっと続けていたということだ。連日の訓練により随分と体力が向上したようだ。
自分の弟子が目に見えて育っているのを見て俺は嬉しい気持ちで床についた。明日からの訓練はさらに厳しくしてやろうと思いながら。
煉獄パパはダメになる前は結構明るかったんじゃないかなって。
あの煉獄さんのパパですしね。異論は認める。
気づいたら評価バーに色がついてたりお気に入りが100を越えてたりとすごく嬉しかったです。
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