坂崎玄信の憂鬱   作:小林 陽

7 / 8
面白すぎてネタバレを全部見てしまいました。本誌での展開熱すぎません?
でも富岡さんは何しても面白いのズルいとおもうんですよね。


弟妹弟子に会ってきた頃の日記

  ◇月×日

 

  親父も嬢ちゃんもいなかったので俺が杏寿郎くんに稽古をつけたんだが思ってたよりずっと強くなっててびっくりした。やっぱ血筋とかあるんだろうか。俺がこれくらいの時はまだ山でひたすら薪を割っていたというのに。

  そういや鱗滝さんのとこにも将来有望そうな子たちが3人も入ってきたらしい。

  男子二人の女子一人らしい。なんか青春だねぇ。俺の時はたった一人で鱗滝さんときゃっきゃうふふ(罠)したり素振りばっかりしていたというのに……うっ、頭が。これ以上は思い出すことを体が拒否している。

  久々に休み取って鱗滝さんの所に顔出してみようかなぁ。俺の弟弟子の顔くらいみておきたいし。さっそくお館様に手紙を送っておいた。

  早く返ってくるといいなぁ。いつだったか送った嬢ちゃんとのコンビ解散願いを無視してることを俺はまだ忘れてないぞ。

 

 

  ◇月○日

 

  意外にもあっさりと返事は来て休暇がもらえることとなった。何か玄信はいつも頑張ってくれてるから1日と言わずゆっくり休んできておくれ。とか優しすぎる言葉をもらって泣きそうになったのは秘密だ。

  ただひとつ不満があるとすればさらっと嬢ちゃんがついてくることになったことである。

  夕飯の席で里帰りすることを伝えたらあ、私も行くーとか普通に言ってきてビビった。特に親父からすごい殺気が飛んできてビビった。育ての親に挨拶ってか……?とかホントにやめてほしい。こいつが勝手に言ってるだけだから。ホントに関係ないんで日輪刀から手を放してほしい。

  あとカナエはあらあらとか言いながら楽しそうにしてないで助けてくれ。こいつ胸も言葉も足りてないんだ。

  余計なお世話だし! と噛みついてくる嬢ちゃんを瑠火さんが諌め俺は無事一発もらうだけで済んだ。よく考えれば全然無事じゃない。

  ちくしょう、明日バカみたいに早く起きて撒いてやるからな。

 

 

  ◇月▽日

 

  まだ太陽も昇りきらず薄暗い頃に出発しようと思ったのに嬢ちゃんが普通に追い付いて来やがった。

  私を置いていこうとした罰としてお館様に休暇の連絡よろしくねとか言われたが普段からわりと好き勝手任務に付いて行ったりしてるしいらねぇんじゃねぇかと思うけどな。

  まぁいいか、財布が増えたと思えば連れていってもいいだろう。

  そんなこんなで適当にうどん屋で朝飯を食べて土産をしこたま買い込んで狭霧山に向かうと朝イチの山下りの修行中らしく悲鳴が聞こえた。

  山頂まで登ると懐かしい小屋がポツンと建っていた。ガラッと開けると中で鱗滝さんが朝飯を食べていた。

  お久しぶりですと挨拶をするとよく帰ってきたなとかいいながら背中をバンバンされた。

  嬢ちゃんにも同じことしてたんだが面識あったっけ?

  聞けば俺が来る少し前まで修行をつけてもらっていたらしい。

  へー、そのわりには水の呼吸っぽい動き全然ないよな。炎らしいゴリ押し脳筋プレイしかしないじゃん。

  まぁ水と炎って相容れないからねー。とか言う嬢ちゃん。確かに。俺とお前も全然相容れないもんな。

  まぁそんなことはどうでもいいや。鱗滝さんに土産を渡して茶を飲みながら鬼殺隊に入ってからの話を色々としている内に弟子たちが帰ってきたようだ。

  嬢ちゃんは目を光らせてしゅばっといなくなってしまった。だから屋内で全集中の呼吸使って移動するなと何度言ったら分かるのか。

  俺もよっこらしょと立ち上がり外へ行くと嬢ちゃんが疲れきって肩で息をする子どもたちにも抱きついてやれ「富岡さーん、ちっちゃーい!」とか「錆兎ぉ、真菰ちゃーん……」とか気持ち悪いテンションで抱きついてた。

  おい、ウチの弟子たちに何してくれてんだ。ポカーンとしてるだろ。

  嬢ちゃんを宍色の髪の子から引き剥がしてやるとやって土産のお菓子を配ったら大喜びしてた。分かるよ、ここ娯楽ないもんなぁ。

  3人がお菓子にがっついてるのを見て和んでいるといつの間にか背後にいた鱗滝さんに勝手なことを……と小言を言われた。

  まぁまぁ、1日くらいならいいじゃないですか。ちょっとくらい飴がなきゃやってられないですよ。

  そうそうと嬢ちゃんが同調したのもあってか鱗滝さんは今日だけだぞと言うと小屋から出ていった。全く、不器用な人なんだから。

  それはそうとあんまり急いで食うと詰まるぞ、ゆっくり食えゆっくり。3人の分のお茶を淹れると一瞬で飲み干しおった。どんだけ飢えてたんだよ。

  特に錆兎くんと義勇くんだっけ? まぁ成長期だししょうがないのか。

  真菰ちゃんは遠慮しないでどんどん食べるといいよ。女の子はいっぱい食べる方が愛嬌があっていいと思うんだ。

  ただし嬢ちゃん、お前は食いすぎだ。さっきからちょこちょこ手を出してるのを俺は見逃してないぞ。

  そんなこんなでお菓子はすぐになくなってしまった。それから少し3人と世間話をしていた。へー、義勇くんと錆兎くんは同い年なのか。年的に杏寿郎くんと同じなんだな。真菰ちゃんはしのぶちゃんと同い年くらい。

  3人とも天涯孤独で鱗滝さんに拾われたんだとか。何か親近感。まぁ俺にはじいさんがいたけども。

  とりあえず3人には選抜に受かったら俺のところへ来るといいよと言っておいた。こんないい子たちが死ぬのは見たくないしな。

  嬢ちゃんは居候の分際でとか言わないの。いや、俺だってそれなりの貯金あるからな? 瑠火さんが受け取ってくれないせいで土産代くらいしか使わないからすごい勢いで貯まるんだなこれが。

  とにかく大丈夫、3人くらい食わせていけるくらいの余裕はある。それにダメそうならお館様にでも瑠火さんにでも土下座してでも頼み込んでやるよ。

  何それ微妙にカッコ悪いとか嬢ちゃんが呟いたのが耳に痛い。うるせぇよ。俺じゃどうにもならんことならしゃーないだろ。

  そんなことを話していると鱗滝さんが帰って来て修行再開を告げる。

  せっかくだから稽古をつけてもらったらどうだとの一言で俺が稽古をつけることになった。

  一人づつ木刀で勝負したのだがみんな素直な太刀筋でよく勉強しているという印象だった。きっと鱗滝さんの言うことをしっかり守っているのだろう。

  特に錆兎くんの技の冴えはすごく3人の中じゃ一番強かった。常中でも覚えたら杏寿郎くんともいい勝負じゃないかな。

  義勇くんも悪くない。ただ俺にちゃんと心を開いてないからかすごく無口だった。あんまり口下手だと誤解されて嫌われちゃうぞ?まぁそれは冗談として。

  真菰ちゃんはホントに素直な太刀筋だったがやはり女の子だからか力はそれほど強くないが機動力は中々のものがある。入隊したらカナエとしのぶちゃんにでも紹介してやろうと思う。

  後は暇なときにでも常中の練習をするといいよ。たぶんこれが出来れば選抜は大丈夫だと思うし。

  そうだね。と嬢ちゃんが頷きながら割り込んできた。どうやら自分も体を動かしたくなったらしい。抵抗しても無駄なのでお手柔らかになと言い残して交代したが案の定ボコボコにしてしまった。

  加減というものを理解しろよ、これだから(おっぱい的にも)余裕の無いやつは。とため息を吐きながら言うとははーん、最近ちょっと手合わせしてなかったからって調子に乗りすぎじゃない?とか言いながら俺に木刀を放ってきた。

  ばっか、お前休暇だってのにやるわけねぇだろ。と言おうとした瞬間には斬りかかってくるんだから困る。

  相も変わらず嬢ちゃんは強く、受け流すだけで精一杯である。俺が必死に凌ぐ姿をいつの間にか起きていた弟子に見られてしまうハプニング付きだからホントに困る。若干引いてたぞあの子達。俺のいい兄貴分像を返せバカ娘。

  あまりに疲れたので最後にはみんなで温泉に行った。嬢ちゃんが覗くなよ、少年たち!とウインクしてきたから風呂桶を投げつけたら3倍くらいで返ってきた。理不尽。

  いや、それでもあれだね。裸の付き合いってのは距離を縮めるね。

  義勇くんと錆兎くんにぶっちゃけ真菰ちゃんのこと好きでしょ?と聞いてみたところ錆兎くんが顔を真っ赤にして否定してきた。おk、把握。しっかりお兄さんが手を回してやるから任せとけってと言って風呂を出る。

  背後でちがっ、ちょっ、とか聞こえた気がするが知らん。やっぱ若さっていいなぁ。杏寿郎くんとか千寿郎くんと遊ぶのとは違う癒しをもらってしまった。

  俺のとこにも青春来ねぇかなぁ。カナエとも最近すれ違ってばっかだし。はぁ、もっと色々と実のある生活をしたい。

 

 

 

 

 

  錆兎の憧憬

 

  坂崎玄信。その人の話は少しだけ聞いていた。俺たちの前に鱗滝さんの弟子だった先輩。

  しかも選別で鬼を全て斬ってしまうという前代未聞の事態を引き起こした天才。

  そんな風に聞いていたからもっと厳つくて達人みたいな人だと思っていたのに随分と柔らかい人で驚いた。

  修行でヘトヘトになっていた俺たちを見るなり山のようなお菓子をくれてバクバクと食べているのを暖かい目で見ていたことがすごく印象的だった。ホントに優しい人なんだなぁと思った。

  食べたら修行再開で坂崎さんに稽古をつけてもらうことになった。

  鬼殺隊でも有数の若手だと言うことで本気で斬りかかったのにすべて受け流されてしまう。それこそ水でも斬ってるかのように。

  義勇も真菰もそうだった。俺たちの力じゃこの人の足元にも及ばない。これが選抜を突破した人の差か。少しだけ打ちのめされているといつの間にか相手が真っ赤な髪の千寿流さんになっていた。

  千寿流さんには3人でまとめてかかったのに文字通りの瞬殺だった。気付いたときには坂崎さんと千寿流さんが手合わせをしているところだった。

  圧倒された。息つく間もないほどに猛攻を繰り出す千寿流さんの動きもそう、何よりそれをすべて受け流してしまう坂崎さんの技さばきに。二人とも俺たちとやったときには全く本気じゃなかったのだ。あくまでも稽古をつけるための様子見での力。

  それがなんだか悔しくていつか坂崎さんの本気を引き出せるほどに強くなろうとそう誓った。

 

 

 

  稽古が終わると麓の温泉に行った。覗かないでね。とかわいらしく言った千寿流さんに「するわけないだろ、風呂はいる前からのぼせんな」と言いながら風呂桶を投げつけた坂崎さんの姿が印象的だった。すぐさま3倍返しくらいされてたけど。

  久々の風呂で体を癒していると不意に坂崎さんが言った。

 

「そんでさ、正直真菰ちゃんのこと好きでしょ?」

「ぶふっ! な、何を……?」

 

  俺が聞き返すと坂崎さんはにやぁっと笑って「なるほどなるほど」と一人でうなずく。

 

「ご、誤解ですよ!」

「大丈夫大丈夫、俺はわかってるよ。お兄さんに任せとけって。な、義勇くん」

「……はい」

「義勇まで?」

「いやー、いいねいいね、青春を楽しみたまえ若者よ」

 

  俺の肩をバンバンと叩いて坂崎さんは立ち上がり風呂から上がっていってしまった。

 

  あなたとそう変わらないでしょう……そう言おうとした俺の口からはただ意味のない吐息が漏れるだけだった。

 

「錆兎、そうだったのか」

「だから違うっての!」

 

  あーもう、あの人のせいで散々だ。というかそんなこと軽々言えないよ。今の俺じゃダメだ。それこそあの人たちくらい強くなって真菰のことを守ってやれるくらいにならないとダメだ。

  目指すべき背中は定まった。

 

  後は追い付くだけだ。

 

 





次回はカナヲちゃんが登場すると思います。
たくさんの人に評価を頂き本当にありがたい気持ちでいっぱいです。感想もいつも楽しみに読ませて頂いております。返す時間が中々取れませんがいつか返そうと思っているので引き続き感想、評価お待ちしております。
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