ー朝か。
今日も今日とて男子高校生活動。正直聞き流すだけの授業をいくつも受け、そのためだけに家と学校を行き帰りする生活が始まったということだ。昨日あった授業の内容どころか何の教科であったかも覚えていない。ここ最近それがますます酷くなっているので手に負えない。
原因は何か?勿論例のハロハピの件であろう。あろうというかそうだ。あれ以来どこか何に対してもやる気が出なくなっていた。心の中でどこか、何をやっても上手くいくことなど俺には無いと、そう思い始めているのかもしれない。そんな恥ずかしいこと、言葉にすると情けなくなってくるので浮かんでは強引に振り払っているのだが。
そのせいか、最近は俺の百合カップル保護活動も疎かになりがちだ。最近ではストーカー・・・というと多少語弊があるかもしれないが、バンドウーマンの監察もあまりしないようになっていた。だがこのほうが良いのかもしれない。要らん誤解も受けずに済むし、俺が傷つく必要もない・・・・
・・・・いかんな、俺から”ソイツ”を取ったらいよいよ何も無くなってしまうじゃないか。やっと見つけた、俺にしかできないことだと言うのに。
ここ最近では辞めようかと思い悩みそれを何度も奮い立たせることに思考のほとんどを奪われていた。故に授業も前を見てはいるのだが何も頭に入ってこないのである。
ーその日の教科すら覚えてない高校性が、果たして文化祭の役員決めなどに集中していられようか。
「じゃ、ことしの文化祭実行委員は負犬野、お前に決定だ」
そんなことが、俺の知らぬ間に決定していた。
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その日の授業がすべて終了した後、俺は先生に職員室に呼び出されていた。
「いやー本当に助かったよ。誰も立候補者がいないから焦ってたんだよ」
そう言われても・・・正直なんで俺に決まったんだろう・・・どういう流れで俺になったのか全然知らねぇ・・・
「実はな、まだ発表されてないんだが、今年の羽丘北の文化祭は、羽丘と花女との三校合同で行うことになってるんだよ。でもこれ言うとクラスの盛った野郎どもがこぞって名乗りを上げるだろ?ソイツを実行委員にして何か他校の女子生徒と問題起こされたくもないからさぁ」
あぁ。だから秘密にしてたのね・・・いや、オイ待て。
三校合同、だと?
「だから一番問題起こしそうにないお前を先生直々に指名したらお前も頷いてくれたからさ!いや~よかったよかった!」
いや何も良くねぇよ!なんだ?つまり俺が陰キャで影薄くて女子生徒を口説き落とす度胸なんて無いだろうから指名したと!?いや最近はあんまりしてないとは言え現在進行形でストーカー活動やってんだけど!?てか多分それ頷いてたんじゃなくて考えに魘されてただけだと思うんだけど!?
こんなものを素直に飲み込んでたまるか。抵抗してやるぞ。
「あの、女子校と合同、ってことなら僕よりやる気のある人がやってくれると思うんですが、今からでもバラシてもう一度聞きなおしてみては?」
「だからさっきも言ったろ?問題起こされたくないんだよ」
「いや、俺なんか人とコミュニケーション取れなさ過ぎて逆に問題大有りだと思いますよ?そしたら羽丘北にはあんなコミュ障しかいないのかよ、ってな感じに風評被害受けることも十分あり得ますよ」
「あ?んなもん適当に相槌打ってりゃコミュニケーションなんか取れてるようなモンだから心配すんな」
「・・・・俺が相槌すらも打てない男だとしたらどうです?」
「・・・・お前、成績が惜しくないのか」
コイツ・・・教師の風上にも置けねぇ・・・・
「まぁそんだけ俺と会話できるんだったら心配するこたねぇだろ。今日からなんか花女のほうでミーティングあるから行ってきてくれ」
「は?え?今日から?いや急すぎますって!」
「おーそうだ。頑張れよ。あとこの学校からもう一人実行委員が行くから、困ったらソイツに全部任せとけ。なんたって自分から立候補するくらいやる気あるらしい奴だからな」
「理不尽だ・・・」
今日から学校と家を行き来する生活に、花女が加わった。というかしばらく前はそれが普通だったのにな。
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「花女か・・・今一番行きたくねぇな・・・」
俺は憂鬱な気分で花女への道を歩いていた。それもそのはず、花女には件のハロハピのメンバーが4人もいるのだ。ばったり会ってしまったらどう反応すれば良いのかわかんねぇ。
校門前に花女の実行委員が立っているって伝えられたが、正直誰か分かんねぇ。おいおい、女子校前に男がウロウロしてるとかこれ生徒指導出てくるじゃん。経験から学んだ。
全く分からずマジで不審者みたいな感じでキョロキョロしていたら声をかけられた。
「もしかして、羽丘北の実行委員の方ですか?」
凛、とした感じの人がそこには立っていた。俺はこの少女を知っている。天才氷川日菜の姉、氷川紗夜・・・だったはずだ。
「ええ、はい。そうです」
「こちらへ来てください。もう一人の実行委員はもういらっしゃってます」
「あ、そうなんですか。早いっすね」
やべぇ。なんか超ぶっきらぼうに返答してるけど大丈夫か、コレ。いや大丈夫か。別に俺なんかあと自己紹介したらもう喋ることないだろ。
「お名前は何と言うんです?」
お、ほら、飛んできたぞ。これが最後の会話になるな。・・・よし、どうせ最後だしちょっと笑いでも取ってやるか。
「あぁ、負犬野一生って言います。読み方変えると負け犬の一生って読めるんですよ。全くひでぇ名前ですよね。はっはっはっはっは!」
「私は氷川紗夜と言います。よろしくお願いします」
・・・・寒いな。もうすぐ夏が始まる季節だと言うのにこんな寒いとか地球は冷凍化に向かっているのではなかろうか。
「負犬さんは部活は何かされてるんですか?」
渾身の自己紹介をスルーされ若干傷ついていると、氷川紗夜が質問を投げてきた。さっきのが最後の会話だと思っていたのだが。でもまぁ滑ったしひょっとしたら相手も気遣ってくれているのかもしれない。
「いや、野を抜いたらホントに情けない名前になるから略しちゃ駄目ね。・・・部活はやってないですね。帰宅部ですよ」
さらっと一応名前も訂正しておいた。いやほらね?野があるのと無いのとでは大きな違いがあるからね?まぁ、会話に関しては今度こそ終了だろう。帰宅部なんて言ってしまえば会話なんて広げる術がないしな。俺が逆に部活やってるんですかと聞かない限りは断ち切るしかないのだ。・・・なんでこんな会話を終了させようとしてるんだ俺は。
「そうですか。ちなみに羽丘北では帰宅部というのは珍しいのですか?」
・・・おいおいグイグイ来るなこの人。そんなに人と会話したいのか?むしろ「他人と会話してる時間なんて無駄だわ」みたいな思考してそうなんだけど・・・
「そうっすね。俺みたいな人は珍しいですよ。皆部活動に熱心ですからね。熱い男と女ばかりだからきっと文化祭も盛り上がりますよ」
どうせなら羽丘北をアピっておいてそれを氷川を通して羽丘北の教師共に伝えてもらって俺の評価でも上げてもらおう。やべ、羽丘北の評価も上がって俺の評価も上がるとかこれが一石二鳥ってやつだな。天才だ俺は。
「・・・・そうだといいですね」
これは伝える気ねぇやつだな。てかなんでそんなこと聞くんだろう。興味ないなら最初から無理矢理話広げようとしなくていいのに・・・
こうして会話?を繰り広げている間にどうやらミーティングルームみたいなところに着いたようだ。
「こちらです。どうぞ」
氷川がドアを開ける。我が校からもう一人実行委員が来てるらしいが、果たしてどんな奴なんだろう・・・
「やぁ。初めまして」
・・・・まぁ知らないな。同じクラスならともかく、他のクラスの奴とか学年とか違うともう名前どころか顔まで分からん。適当にモブBとでも心のなかで読んでおくか。どうせ名前教えてもらってもすぐ忘れるだろうし。
「僕は百合野 守っていうんだ。君の名前は?」
・・・なんかコイツの名前を、俺は忘れない気がした。何故だろうか。
「負犬野 一生だ。ま、よろしく」
流石にさっきみたいな自己紹介はやらなかった。
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「というわけで、今日は簡単に文化祭の予定だけお教えしました。また今度は羽丘の生徒にも来てもらってミーティングを行います。これから定期的にあると思うので大変だとは思いますが、頑張ってください」
今日は氷川から簡単な文化祭の日程の発表があるだけだった。なんでも夏休みが明けた後にあるらしい。まだ夏休み前なんだけどそんな早くから動き出すモンなのかよ・・・
会議を終え帰ろうかと思ったその時だった。
「一緒に帰らないかい?」
ー誰かと一緒に下校するのなんて、いつぶりだったろうか。
花女を出るまで特に会話は無く、なんでコイツ誘ってきたんだ?とか思ってたんだが、羽女の校門を出た後、奴は口を開いた。
「・・・君も、百合カップルを保護しに来たのかい?」
「・・・は?」
なんでコイツ知ってんだ?それよりも、君も、ってことは、コイツもそういう活動をしてる、ってことなのだろうか。
「だから、君もバンドウーマン監察のために実行委員何て重い任務をわざわざ引き受けてここまで来てるんだろう?なんたってウチの学校の男子は盛ってるからねぇ」
正直に言うべきなのか?俺もそうしてるから協力しようとでも言ってくれているのか?・・・・まぁ、正直どうでもいいか。頭を動かすのはもう疲れた。
「あぁそうだよ。だからアレか?俺はお前に協力すればいいのか?」
こう打ち明けてしまって、そんでもってコイツに今まで俺のやってきたこと全部一任してもらえばもう俺が心配する必要もないだろ。俺が傷つく必要もない。何をすることもなくバンドウーマンは保護されるのだ。勿論コイツがすべてをやり切れる人間かどうかなんて知らんが、何故か今の俺にはそんなこどうでもよくなっていた。むしろ安心していたのかもしれない。俺と同じようなことをしている奴がいて。それでうまいことコイツが立ち回ってくれれば俺の望みは果たされるし、失敗したらしたで俺と同じ奴がいると影で笑えるのだ。だから、俺はコイツにすべてを任せよう。
ーだが。コイツから返ってきた答えは、俺が期待していたものとは違ったのだ。
「そうか・・・君が。やはりそうだったか。こんな面倒な仕事を引き受けてまでこんな所に来るなんて、ボクのような人間しかいないと思ったが。こんなにも簡単に見つかるとは・・・」
いやまぁ、俺は三校合同でやるなんて知らなかったし何より勝手に決められたんだがね。まぁでもコイツはすっかりそうだと思い込んでるみたいだし否定するのも面倒だから適当に相槌打っとくか。
「聞いたよ。羽沢珈琲店の常連にね。君がしくじったことを」
ー何だと?コイツ、何を言ってやがる?
「おお勿論、常連と言うのは君が追い払ったストーカーのことじゃないよ。でも君、自分まで出禁喰らって、マスターにまで迷惑をかけたらしいじゃないか。正直、君はセンスがないよ。僕だったらもう少しスムーズに事を解決できるというのにね・・・」
「・・・・何が言いたいんだ?お前」
「君とは協力なんてしないよ。君には間近で僕の天才的な百合カップル保護を見てもらおう。それで、もう二度と君を彼女たちには近づけさせない。そう、百合カップルの保護者は僕一人でいい・・・・」
・・・なんだコイツは。高校生じゃなくて職業闇医者だろ。アナザー百合カップル保護者だろコイツ。
「じゃあね。せいぜい楽しみにしてるといいよ」
そう言うやいなや、奴は去って行った。
・・・・なんで俺の周りにはこうもウゼェ奴しか集まらないのか。
百合野はどうやって三校合同の文化祭の存在を知ったのか、その辺は次回で明かされると思います。多分です。