百合野守という男から謎の宣言を頂いてから暫くして、第2回定例会議が始まろうとしていた。あれ以来百合野とは一言も交わしてはいないが、多分今日喋ることになるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、例の会議室の前である。...あまり気分が乗らないな。正直帰りたい。ただ本当に帰ってしまうと恐らく先生に報告が行くので俺の成績が下がる一方である。意を決してドアを開ける。この前氷川さんが開けた時よりも、扉は重く感じた。
「失礼します...」
「こんにちは。君はもうすこし早く来ることを心がけた方が良いよ」
...居やがったか。まぁ居なかったら居なかったで問題なんだが。...居ても居なくてもウザいとかもう俺の中ではゴキブリみたいな存在だな。礼儀だし挨拶は返しておこう。
「こんにちは・・・」
すると、ここで気がついた。コイツの存在感がゴキブリ並なので忘れていたが、氷川さんが居ない。いや、居ないと超困るんだが。コイツと二人っきりとか嫌だし、何より今日会議がもし無いとして氷川さんが来ないのならばコイツと俺が用も無いのに女子校に勝手に入り込んでいることになっちゃうじゃん。百合野は澄ました顔してるが。・・・いやなんでコイツこんな余裕なんだ?
俺が人知れず心配しているとドアの開く音がした。入ってきたのは氷川さんと、それから2人の女子であった。
あぁ、Poppin' Partyのメンバーだな。しかし、何故彼女らがここにいるのだろうか。実行委員やると言うより文化祭のステージ企画とかに参加して演奏とかしちゃうイメージがあるのだが。同じストーカー活動してるらしい百合野もこの疑問に至ったらしく、不思議そうな顔をしていた。
「どうも!Poppin' Partyのボーカル、戸山香澄です!」
うむ。元気いっぱいである。高校生にして枯れてる俺からするとより一層元気である。というか先日から良く自己紹介されるが、俺が一方的に相手のことを知ってるのでなんか申し訳ない気持ちになる。あ?百合野?誰だソイツ。
話は戻り、先ほど浮かびあった疑問に関して、百合野が口を開く。
「何故、彼女たちがここへ?」
「彼女たちPoppin' Partyには・・・と言っても今は二人しかいませんが、この三校合同文化祭のアナウンスを羽丘北でしてもらうつもりです」
氷川さんが答える。なるほど、彼女たちは実行委員とかではなく単にプロモーションの役割を果たすだけということか。確かにそれならば名乗りをあげそうなものだし納得・・・
「したがって今日は、彼女たちも交えてプロモーション当日のスケジュールについて話し合おうと思います」
至極それっぽい会議が始まるのであった。
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「やっぱり私、ライブがしたいです!」
「だから、器具とか運ぶのどうすんだよ!私たちだけで運ぶなんて正直無理だぞ!?」
「え~!?有咲はライブしたくないの~!?」
「だーかーらー!そういう話をしてんじゃねぇ!」
「話が進まないわね・・・」
それっぽい会議は早速夫婦漫才の場と化していた。戸山が提案するそこそこぶっ飛んだ案を市ヶ谷が現実的な視点から審議してぶった切るというようなことが何回も先ほどから繰り返されている。
「liveだったら大丈夫じゃないかな?器具を運ぶなんて、それこそそのための男子だと思いますね」
百合野がかっこつける。なんかこう、すげえ気に入られようみたいな姿勢が鼻につくな。それとも俺とは違って仕事できますアピールですか?どちらにしろうぜぇ。
「ですが、ここから羽丘北までは距離がないことはないので、例え男性でも大変であることに変わりはないと思うのですが・・・」
「安心してください。僕は羽丘北での人脈も広いですから。先生方に車を出してほしいと頼めば動いてくれると思います」
「それなら!ライブ出来るんですね!」
「マジか・・・ウチの香澄が無理言ってすいません!!」
あっという間に問題を解決してしまった。なんかこっち見て「すごいだろう?」みたいな顔をしていやがる。分かったからこっち見んな。
「ありがとうございます百合野さん。ではそちらに関してはお願いします。・・・先ほど羽丘北は遠いという話が出ましたが、お二人はどのようにここまで来られているんですか?」
氷川さんが謝辞を述べた後、また他愛もない話題を振る。ホントにイメージと違って世間話好きなんだな。なんでそんなこと聞くのかという感じはするが。
「僕は自転車ですね」
「俺も自転車っす」
「では自宅から学校もそのようにしてるのですか?」
・・・オイオイ、ホントに俺たちの通学事情なんて知ってどうすんだよ・・・何?私も自転車なんですぅーとか共通点が欲しいのか?いやないな。
「いえ、自宅から学校までは近いので歩きで通ってます。なのでいつも一旦家へ帰り自転車を取ってから花女へ来てますね」
「俺は登校も自転車です。自転車無いとやってられないっすね」
いろいろとな。
「そうですか」
端的に返事をする氷川さん。マジで何が聞きたかったんだ・・・・
「それでは、今日の会議はこの辺りでお終いにしましょう。戸山さん。市ヶ谷さん。プロモーション、よろしく頼んだわね。それから負犬野さんと百合野さんは段取り、任せましたよ」
「はい、任せてください」
「・・・アイアイサー」
マジでなんだったんだろうな。
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「紗夜先輩、怪しい人、見つかりそうですか?」
戸山さんがそう口を開く。先ほどまでここにいた羽丘北の男子生徒はもう帰った。今は何が行われているかと言うと、ストーカー探しである。日菜の情報からすると、例のストーカーは羽丘北の生徒ということから、あの二人の男子生徒から色々と聞き出し、それらしき人間の候補を絞っているのだ。
「負犬野さん・・・さきほどの二人組のうだつの上がらない方の男性ね。あの人が言うには羽丘北生徒のほとんどは部活をしていて部活をしていない生徒は珍しいそうなんです。日菜がストーカーに遭遇した時刻はまだそれほど遅くないことからストーカーは部活をしていない。それから自転車で逃走したということから自転車通学している人間が怪しいですね」
「なるほど・・・となると、さっきの負犬野って人、かなり怪しくないですか?部活してるかどうか知りませんけど」
流石は市ヶ谷さん、鋭い考察だ。彼は自転車通学の上に、部には所属していない。昨日この耳で聞いた。
「ええ。怪しいわね。彼に昨日部活をやっているか聞いたところ、していないと答えていた」
「ええ~!?じゃああの人がストーカーってことですか!?」
「まだ分からないわ戸山さん。そう決めつけるには早い」
「何か作戦はあるんですか?」
「ええ、もう一つだけ、核心に迫る質問と作戦があるわね」
「流石紗夜先輩!これで安心だよ~ありしゃ~!」
「ちょまっ、抱きつくなって!まぁ、安心なのは分かるけど!」
ふふっ、微笑ましいわね。この平穏を守るためにも。
ストーカーは、必ず捕まえてみせる。