百合の伝道師   作:ちんだまんぞう

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気づかぬピンチ

俺は第2回定例会議を終え自宅へ戻って来ていた。そこでふと今日あったことを思い出す。まぁ今日あったことと言えば百合野が糞ウゼェってことだけだな。あ、これは今日に限った話じゃないか。

 

 

...真剣に考えるか。さて、俺が今まで実行委員としてやってきたことは、大体氷川さんの質問に答えるということだけだ。...仕事しろとか思わないでくれ。仕事が無かっただけなんです。

 

 

まぁ何せこの質問と言うのが何処か引っかかる部分があるのだ。氷川さんも案外お喋りなんだなで済ましてきたが、正直聞くに足りない質問ばかりではないか?いや、考えすぎか...コミュ障を拗らせると人との会話一つ一つに何か意味を見出そうとしてしまうな。

 

 

ただまぁ何か大事な事を見失ってる気がするのだ。これからは少し彼女からの質問に気をつけよう。

 

 

_____________________________________________

 

 

「おねーちゃん、進捗はどう?」

 

 

「大体分かってきたわ。分かるのも時間の問題では無いかしら」

 

 

「流石おねーちゃんだね!」

 

 

「いえ、貴方の情報提供があったお陰よ。私1人ではここまで出来ないわ」

 

 

「へへっ。褒められちゃった...ちなみに、これから先はどーするの?」

 

 

「そうね。一つだけ方法があるの」

 

 

「方法?」

 

 

「ええ。まず私は率直に言って今実行委員として花女に来ている男性を疑っている」

 

 

「なんで?」

 

 

「まず、日菜がストーカーに遭遇したのは羽丘北では部活動が行われてる時間なの。つまりストーカーは部に所属していない可能性が高い。その点でその男は条件をまずクリアしているわ」

 

 

「でもそれだと他にもいる可能性はあるよね?」

 

 

「ええ。だからもう一つ質問をしてみたの。自転車登校をしているか否か、よ」

 

 

「確かに!自転車乗って逃げたってことは自転車登校の可能性は高いね!」

 

 

「ええ。でもこれでもまだ彼以外にも該当する生徒がいるはずよ」

 

 

「まぁそうだね」

 

 

「だから最後にもう一つ問いかけてみるの。ごく自然な会話の流れで、羽丘に来たことはあるか、という質問ね」

 

 

「う〜ん...でもそれは結構難しいんじゃない?ストーカーさんも質問の意図に気づくにしろ気づかないにしろ『女子校に男子1人で行きました!』なんて言えないと思うよ?」

 

 

「ええ。その通りよ。でもそれをやり遂げるために三校合同文化祭というものを利用すべきだと思うの」

 

 

「....なるほどね」

 

 

この化かし合い、果たして乗り切れるか。

 

____________________________________________

 

 

さて、前回の会議から一週間が経過していた。今回の会議の後、羽丘北でのポピパによるプロモーションが行われる予定である。

 

 

今日の氷川さんの動向、特に質問に関しては特に注意しなくてはならない。まぁ確証は無いのだが。

 

 

注意すべき事を頭に詰め込み、花女の例の会議室へと入る。

 

 

「こんちわっす」

 

 

「こんにちは。今日は早かったね。いい心がけだ」

 

 

「....そりゃどーも」

 

 

マジ余計なお世話。

 

俺が頭の中で百合野を罵倒していると、氷川さんがやって来た。

 

 

「こんにちは。皆さん来られたようなので、早速会議を始めようと思います」

 

 

「今日は何を話し合うんですか?」

 

 

百合野はいつもの様にやる気満々だ。

 

 

「そうですね....プロモーションの日程とスケジュールは大体決まっているので、最終確認とそれから今日は新しいことも話し合おうと思います」

 

 

氷川さんの宣言通り、最初にプロモーションについての最終確認が行われた。オイオイ改めて見ると俺の仕事結構多いな。無能を擬人化した存在であるこの俺にこんな仕事振るなんて失敗しても知らないからね⁉︎

 

 

理不尽な責任転嫁を脳内でおこなっていると...いや脳内で喋りすぎじゃねぇか俺。もうちょっと現実で会話しろ。話を戻して、脳内で喋っていると、氷川さんが口を開いた。

 

 

「このプロモーションが終われば、次は本格的に羽丘の生徒にも会議に参加してもらいます」

 

 

あぁ、そういえば今まで居なかったな。羽丘の生徒。

 

 

先ほど脳内ではなく現実で喋れと俺によるお達しがあった所為か、俺はこの発言に言葉を返そうと考えた。

 

 

「そういえば今まで羽丘の生徒居ませんでしたね。何か理由でもあるんですか?」

 

 

「まぁ、理由としては羽丘では三校合同でやる、ということは知らされてますので、プロモーション云々をする必要が無かったからです」

 

 

「あぁ、そういうことか」

 

 

ウチの先生も言っていたことだが、ウチの高校に合同文化祭の情報が提供されていないのは盛る男子生徒の存在が大きい。対照的に羽丘は女子校であるために情報提供がなされても問題は無いという結論に至ったのだろう。

 

 

「ということは本当であれば会議ももっと遅い時期から始まってた、という可能性もあるんですよね?」

 

 

ウチの男子生徒がもっとマシだったらプロモーションなんざしなくても普通に実行委員を決める段階で三校合同文化祭の存在は知らされていたはずだ。

 

 

「ということになりますね」

 

 

氷川さんが同意する。いやぁなんだか一週間分くらい喋った気分だ。なんだかんだ人と喋るのは楽しいもんだな。こんなもんで会話と呼べるかどうかも謎だが。

 

 

「羽丘の生徒も参加するとなると、私達も羽丘に向かう必要があるかもしれませんね....お二方は羽丘の場所は知っているのですか?」

 

 

「そうですね。僕は行ったこと....」

 

 

ある、と言いかけて気づく。コレは言ってしまったらマズイのでは、と。男子高生が羽丘に用があるなんて普通は有り得ない。危ないところだったぜ....

 

 

「行ったことないですね。てかまぁ普通行かないですよね。生徒でもないのに」

 

「....まぁ、そうですよね」

 

 

氷川さんは不機嫌なのか、落ち込んでいるのか、どちらにしろネガティブなニュアンスを含んだ顔をしていた。なんだろう、そうなに俺が羽丘に行ってた方が都合が良かったのだろうか。

 

 

「今日の会議はここまでにしましょう。会議前に伝えたかった事と言うのは羽丘のことについてですから」

 

 

「あ、ハイ」

 

 

なんか凄い微妙な雰囲気で終わったな....なんなら俺喋らない方が良かっただろうか....少し暗い気分になりながら、花女を出ていくのだった。

 

 

「....気づかれてはいないようですが、まぁ流石に口を割ることは無かったですね...」

 

 

氷川紗夜は、期待通りの答えが得られず不満足であった。だが彼女には最後の手段がある。

 

 

「まぁ、アレを実行するのはもう少し観察してからにしましょうか」

 

 

人知れず危機を回避した負犬だったが、ピンチは終わらない。

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