・・・・さて。
どう切り抜けたものか。
今すぐ目の前の天才を黙らせ、家へ帰らなければならない。
「努力してもどうせ俺には無理だろう・・・ですか」
「ええ」
「確かに・・・確かにそうかもしれませんね」
「なら・・・」
「だからと言って、僕がもし仮に本気で努力してみたとして、上手くいく保証があるなんて限りませんよね?」
「それは・・・」
氷川さんは言葉に詰まる。そりゃそうだ。努力してみろと人に言っておいて、何もかも上手くいかなかった場合、無責任なことを言ってしまったことになる。
人に講釈垂れるということは、それだけ自分が責任の一端をおっかぶることなのだ。
「貴方は努力が実を結ぶと信じているようだ。何故なら貴方はうまくいっているから。妹には追いつけなかったとしても、成長はする。でもね氷川さん、僕は貴方が思ってるよりずっと無能なんですよ」
自虐、自虐、自虐。こうもネガティブなことばかり言われては相手も嫌気がさすだろう。
俺はこうやって少しずつ、洞窟の入り口に岩を並べ、積み重ねていった。
でも。
それでもこの人は、尚光を差し伸べる。
「なら・・・なら、上手く行かなかったとしても、私が支えましょう」
「・・・・・はい?」
どこまで、この人は、俺の心に入り込もうとしてくるのか。
こんな空っぽな人間に。
こんな何もない人間に。
何故なのか、全く分からない。
最後に湧いてきたのは、あの日ライブハウスで聞いた言葉。
俺のことを、
「・・・・なんでだよ・・・」
なんでなんでなんで。放っておいてくれればいいのに。
そうすれば、もう全部投げ出せたのに。
「もうすぐだったのに・・・全部諦めがついたのに・・・
なんで優しくするんだよ!俺はストーカーだぞ!それにアンタ俺のコト嫌ってんだよな!?あの日俺は確かに聞いた!あの歌姫様から気持ち悪いヤツが居たってな!そこで思ったんだよ!俺はやっぱり恋愛なんてできないんだってな!そりゃあそうだ!接触する前にすでに拒絶されてンだからな!書類審査で落とされてるようなもんだ!だから・・・だから俺は・・・
全てを吐き出す。相手も何言ってるかなんて分かんないだろう。でも、溢れる疑問と、どうしても差し込んでくるこの眩しくて目を瞑ってしまう、迷いのない光を、くだらないプライドで追い払いだくて。必死に叫ぶ。
「貴方が何を言っているかは良く分からないわ。でも貴方に上手く行かなかったことがあったという事は分かりました」
醜い叫びを聞いて尚、氷川さんは続ける。
「確かに無駄な行いだったのかもしれません。でも、挑戦することは辞めなかった。違いますか?」
「挑戦・・・・」
「ええ。挑戦する心がある人間は立派です。貴方はどれだけ周りから蹴落とされても、その度にのし上がろうとした。たとえそれが無駄な行いだったとしても、挑戦した志は、とても尊いものです」
「でも・・・・それでも俺は・・・ダメなんだよ・・・」
「貴方が挑戦しようとする限り、私がサポートしましょう」
「無理と言ったら無理なんだよ!無能だって言ってんだろ!」
「いい加減にしなさい!」
怯む。
「貴方さっきから何もできないだとか、無能だとか、自分に向かって何様のつもり?この世界に努力が実らない人なんて何千何万居ると思っているの?確かに貴方から見れば私は天才かもしれないわ。でも・・・
それが貴方の全てを否定することには絶対ならないわ!否定する輩はこの私が否定してあげましょう!だから・・・もう一度挑戦しなさい!私が側に居てあげますから!」
崩壊した。
入口に積み上げていた岩石はすべて。
洞窟内部、細部まで見渡せる。影などどこにもない。
「でも・・・挑戦って言ったって・・何するんですか・・・」
「文化祭よ」
「・・・え?」
「貴方がまだやるべき仕事、残っているでしょう」
「でも・・・もう戻れませんよ」
「私と一緒に頭でも下げましょう」
「・・・・・」
「納得したようね。行くわよ」
本当にこの人は。
俺がどこまで落ちようとも、俺の手を引っ張ってくれる人なのか。
俺は泣いていた。
今までに、そんな人いなかったから。
俺の側にいる、なんて言ってくれる人が、いなかったから。
「泣かないの。泣くのは成功してからよ」
「でも・・・・なんかうれしくて・・・」
「・・・やっと本音が聞けましたね」
不思議と心が軽い。虚勢を張っていた頃よりも。今なら素直に話せそうだ。
「それと、貴方がライブハウスで聞いた言葉、あれは間違いよ」
「・・・・へ?」
涙が止まった。
「あの日私たち誰かとお近づきになろうとして楽屋にまで乗り込もうとした男がいたのよ。スタッフが止めてくれましたが、あれは正直気持ち悪かったですね」
「・・・・・ウソだろ・・・」
「というか、何故貴方がその男の話を知ってるのですか?お客さんの居る前ではそんな話していないのですが・・」
「あ・・・いやそれはその・・・・小耳にはさみまして」
女子トイレで聞いたとか言えるわけねぇ。
「・・・・聞き耳でも立てていたのですか?流石ストーカーですね。貴方」
「そ、その、ごめんなさい・・・・」
「はぁ・・・・さっきまであんなにはきはき喋っていたのに、どうしてしまったのかしら」
「す、すいません・・・・」
「・・・・行きましょうか」
今日の事を俺は忘れないだろう。
こんな俺に微笑みかけてくれた太陽に。
感謝。
挿絵どうっすかね?ぜひ感想ください。
好評だったらこれからもやる