「そのストーカー、そこで本読みながら紅茶飲んでる奴ですよ!」
謎の男が叫んだ。勿論、この発言を彼女らが無視するはずもなく。
「やっぱり近くにいたのか。アンタ、ストーカーなんてどういう了見だ?」
宇田川が俺を睨みつける。やっぱちびりそうなくらい怖ぇ・・・
冗談を言っている暇ではない。今の俺は先日の羽丘での出来事が可愛いことに思えるくらい絶体絶命なのである。奴に先手を打たれた。ストーカーだと晒され、それに言い返すことは醜い言い訳と捉えられかねない。彼女達の言う「ストーカー」が俺のことではないと安心しきっていたことが間違いだった。すかさず奴を断罪しておくべきだったのだ。
ーそれも俺の性格だと出来ていたかどうかは別として。
問題はもう一つある。
「ねぇつぐみ、あの人常連さんだよね?あの人の言うこと、あんまり無下にはできないんじゃない?」
美竹がそう羽沢さんに告げる。そう、奴はストーカーとは言えこの店の常連として通っているのだ。奴の発言の信憑性が益々上がってしまうのだ。
「僕はこの耳で聞いた!彼が僕に対して恨み事を吐いた事を!僕はこの目で見た!君たちの様子をじっくりと観察している彼の姿を!」
謎の男が追撃をかける。ていうか全部テメェが俺にやったことだろうが。自覚なしに言ってんのか?コイツ。
「アンタ、黙ってないで何か言ったら?」
宇田川に続き美竹も俺のことを睨む。一番怖い二人に睨まれちゃった・・・怖いよぉ・・
「今だったらパン10個奢りで許してしんぜよう~」
なんかよくわからん脅しまで混じってきた。てか割と安く済むもんだな。
「今後二度とやらないと誓っていただけるなら、警察には報告しません。本当のことを話してくれませんか?」
さらに口撃をかましたのは、大天使羽沢さんだった。相当おかんむりだ。
店内での口論(俺が一方的に罵られてるだけ)はヒートアップしていき、ついには店にいた全客が俺を揃って非難し始めた。
「最低な男だな!」
「二度とこの店に来るんじゃねぇ!」
様々な罵倒が身に降りかかる。そしてそんな俺に、最後に飛んできた言葉は。
「お前みたいな陰キャっぽい奴が女性とお近づきになろうなんて、烏滸がましいんだよッッッ!!」
謎の男の勝ち誇った顔から放たれた、俺の心に最も突き刺さる言葉だった。
奴は「これで羽沢さんは俺のことを意識してくれるだろう・・ストーカーから守ってくれた男としてな・・・クックックッ・・・」みたいなことを考えているのが表情から見てとれた。
・・・・その顔、今すぐ苦痛に歪めてやるよ。
俺が陰キャで女性と付き合うなんてとんでもないこと?そんなもん俺が一番痛いほど良く分かってんだよ。だからせめてお前みたいなゴミを裁くためにこちとら恋愛から身を引いたんだ。
大きく深呼吸をする。反撃に出る前に、羽沢珈琲店のマスターに謝辞を並べておこう。
美味しい紅茶をありがとうございました。あと、巻き込んじゃうのでごめなんなさい☆
「早く何か言いなよ!!!」
美竹のその言葉を皮切りに、俺は口を開いた。
「あぁ・・・俺はストーカーだよ・・・」
周りがやっと白状したか・・みたいな雰囲気に包まれる。違う。これで終わりじゃない。
「ただし、貴方のストーカーだ!」
俺は謎の男を指さした。
周りが「は?何言ってんだコイツ」みたいな雰囲気に変わる。そうだ。でもこれで終わりじゃない。
「この前この商店街で一目見た時から気になってました!でも中々声をかけることができなくて・・・そんな時、貴方がこの喫茶店に入っていくのを見たんだ!そこで貴方がここの常連と知って・・・俺もう我慢できなかったんだ!なのに・・・・
羽沢珈琲店のマスターが好きってなんだよォォォォォォォ!!!!」
俺は力の限り叫ぶ。ちょうど店の騒ぎを聞きつけて奥から出てきたマスターも顔をしかめている!
「マスターは既婚者だろォォォォォォォ!?俺と付き合えよォォォォォォ!」
周りが静かになった。もう超静かだ。静音を宣伝文句にしているプリウスのエンジン音さえもはっきりと聞こえるだろう。
この作戦は、謎の男がマスターに好意を抱いていると嘯くことでマスターに警戒心を与えさせるというものだ。自分が男に好意を寄せられているなんて知れば「店内で騒いだから」とかそんな適当な理由をつけて出禁にでもするだろう。勿論俺もそうなるだろうが、俺一人では地獄へは行かん・・・!てめえも道連れにしてやる・・・
そして更には、超絶劣勢だった俺の立場を逆転させることが可能なのであった。明日からこの商店街を歩くことは出来なくなるに違いないが。
「お、おい待てよ・・・そんなの嘘だッ!ストーカーの言うことを真に受けるな!」
「た、確かに・・・結構真剣な感じに見えたけどウソかも・・・」
美竹がまた絆されそうになってる!アンタチョロいぜ!
とは言ったものの、俺は完全に身の潔白を証明できていないこともまた事実だ。
だが、恐らくそれももうじき無くなるだろう。
「じゃあ、いくつか質問していいですか?」
そう言ったのは、Afterglowのリーダーである上原だ。その目は、リーダーとして、Afterglowを守ために、事実を見極めようとする闘志に充ち溢れていた。
「先ほどそちらの方が言っていた、恨み事や私たちの観察というのは、本当なんですか?」
俺はすかさず先手を取り返事をする。
「ええ。恨み事、というのは何故私に振り向いてくれないのか、というものですね。
観察・・・これはやはりマスターの身近にいる人、つまり羽沢さん、あなたを観察するためだ。」
「なんで私なんですか?」
「それは貴方がマスターの娘だからですよ。恋敵であるマスターの身辺調査を行うのは当然でしょう?」
なんか全然理屈通ってない気がするけどいいか!それっぽく伝わってるだろ!
「最後にモカちゃんから、モカクエいいかな~?」
「お?おう、どうぞ!」
それラジオのコーナー・・・
それまで柔和な印象であった青葉の目が、鋭いものへと変わる。
「・・・・ホントに、あたし達の邪魔、しませんよね?」
青葉の目は真っ直ぐ俺を見つめる。この質問に怖気づいてはいけない。少しでも狼狽えれば全てが無駄になる。そう感じさせる目だった。
だが。
俺はその質問に対しては確信を持って答えることができる。
「ええ。俺は邪魔なんてしませんよ。羽沢さんの観察も止めにします」
何故なら俺は、百合カップルを全力で応援すると決めているから。
俺含めて、何人たりとも邪魔はさせない。
「・・・とりあえず、店でこんな騒ぎもう起こされたくないから、君たち二人は出禁にするよ」
最後に、マスターからの通達を受けた。欲を言うならば、また紅茶を飲んでみたかったものだ。
ゴリゴリラ