主人公が非常に情けない回です
「俺ならできる・・・・俺ならできる・・・」
先ほどの黒服の宣言により俺は超緊張していた。すなわち失敗すればそれは二度とハロハピに近づけないということであり、近づけないということは俺の活動もまた一つ減ることを表している。つい先週図らずしてAfterglowから厄介払いされた俺に、ハロハピからも不要とみなされてしまえば、俺の今までのストーカー活動もすべて台無しとなるのである。といってもまだ3バンドあるが。
それはともかくとして、珈琲店ではしくじりはしたが、今回こそ失敗する訳にはいかない。何より目の前で女性が襲われようとしているのだ。百合カップルを応援したいしたくない関係なしに助けられなければ人間として失格だ。
俺の近づいてくる足音に気がついたのか、弦巻、奥沢、ホームレスの3人がこちらに目を向ける。黒服さんからの宣告を受けてから時間も全然経ってないから無策ではあるが、ここはシンプルに力づくで引き剥がすのが最適だろう。
「何やってるんですか?やめましょうよ」
俺は弦巻の腕をつかむホームレスの手を強引に引き剥がそうとする。するのだが。
「なんだァ?坊主・・・こっちは色々あって約束を果たしてもらおうとしてるだけだァ・・おめぇさんには関係ねェんだよ・・・」
ものすごい眼光と力だった。なんでこんな力あるんだよ!俺が弱すぎるのか・・・
だが諦める訳にはいかない。こっちも色んなモンを背負っているから。
「いや、どう見ても嫌がってるでしょ。約束とか知りませんけど無理矢理何かしようとするのは人としてどうなんですかねぇ」
「あ?うるせぇな。ヒョロガキは黙ってろや。おめぇみてぇな野郎が俺に対して口応えすんじゃあねぇ」
こいつ・・・初対面だろ・・・もうちょい加減しようぜ・・・
人間カチンとくるとなかなか静まるのは難しいもので、俺も口撃に拍車がかかる。
「いや、逆にあんたみたいな職無しが偉そうなこと言わないでくださいよ」
「んだと?てめぇ今なんつった?」
ホームレスが弦巻の腕をほどき、俺の方へ体を向けた。偶然だが俺はこのチャンスを逃さなかった。何故なら、これで二人は解放されたことになるからだ。
「今だ!逃げろ!」
「え?あぁ、うん!」
奥沢は若干この状況についてこれなかったみたいだが、頭の回転が早いのか、すぐに俺の言ったことを実行した。弦巻の腕を引っ張り走り出したのだ。
「オイ・・逃がすわけねェだろが!」
ホームレスがそのあとを追いかけようとする。だがこの程度のことは俺にでも予想できることだ。すかさずホームレスの前に立ちふさがる。
「行かせると思いましたか?」
「チッ・・・折角の上玉だったのによォ・・・よくもやってくれたな、ガキィ・・」
ホームレスがなんか構える。え?ナニコレ?喧嘩が始まるのん?もう嫌なんだけど・・・そう思いきや、ホームレスはなんか近くにあったベル(どっかから拾ってきたっぽい)を鳴らし始めた。
「オイィ!集まれやァァ!」
集まる?そうか。忘れていたがここには2,3人ホームレスがいるんだった。クソ・・複数対一人なんて絶対勝てねぇじゃん・・・
そう思っていた。いや、まだ二人三人ならどれだけ良かったことか。ゾロゾロと周辺から集まってきたホームレスは、ざっと10人を超えていた。
「・・・ウソだろ」
俺は、生きて帰れるか。
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「はぁ・・はぁ・・ここまで来ればもう大丈夫・・・こころ、平気?」
「えぇ。私は平気よ!それよりもさっきの人、大丈夫かしら?」
「ホームレスなんて放っておこうよ・・・」
「いえ違うわ。途中で会話に入ってきた男性のことよ」
「え?まぁなんとかするでしょ・・・」
奥沢美咲は見ていた。あの男が弦巻こころとホームレスが会話していることを覗いている現場を。正直言ってあの男も信用ならないかもしれないのだ。何故もっと早く助けにいかなかったのか?ホームレス共々こころを襲うつもりではなかったのだろうか?男なんて所詮そんなものではないだろうか?
「私、やっぱり心配だわ。さっきの所に戻りましょう!美咲!」
・・・弦巻こころはそういう女性だった。世界中の人をハッピーに。笑顔に。誰かひとりでも零してはならない。例えそれが社会から零れている人間だとしても。
だが今回は易々と認める訳にはいかない。黒服さんが助けてくれるだとか言ってはいるが、危険であることに変わりはない。何より、こころにあんなに汚らわしい世界を見せたくはない。
「こころ・・・あのさぁ、さっきは襲われかけてたんだよ?あの男だってたまたま助けてくれたかも知れないけど、本当は何するかなんて分からないんだよ?」
「ええ。分かってるわ。そのくらい」
「はい?」
面食らった。正直何も分かってないと思うのだが・・・
「だってあたし達を助けてくれたあの男性、なんだかよく分からない目をしていたもの。本心からあたし達を助けたいと思っての行動とはとても思えなかったわ」
「じゃあ助ける義理なんてないよ・・」
「でも結果として彼はあたし達を助けたでしょ?少なくとも、それにお返しをするのは当然だと思うわ」
「む・・・」
こういう性格だから。私も、はぐみも、薫さんも、花音さんも、集まってきたのだろう。
「どうやら決まりのようね!」
はいはい。決まりましたよ。私はこれからもアンタに惹かれていくのがね。
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俺はあの後、誰かは分からんがホームレスの一人に後頭部を殴られ、気絶していた。その間によく分からん廃工場へ連れ込まれていたみたいだ。なんかこの前からずっと殴られっぱなしのような気がするのだが?
「ふぅ・・・オイ聞けェ!いいサンドバックが無料で手に入ったぞォ!!日ごろの鬱憤、ここで晴らしていこうや!!」
なんか不穏な単語が聞こえる。サンドバックて絶対俺のことやんけ!
俺は手を後ろに回し両手を縛られた状態で天井からぶら下げられていた。確かにサンドバックだった。しかも無料てなんだよ。俺はサンドバックより価値が無いのか。
「じゃ、まずワイから行かせてもらおうかねェ・・・」
例のホームレスがこちらへ向かってくる。はぁ・・どれくらい耐えれば解放されるだろうか。それとも人生ここで終えてしまうのだろうか。
これから来る衝撃に少しでも耐えようと、歯を食いしばったその時だった。
「ハロー、ハッピーワールド参上!」
「ふぇぇ・・・絶対こんなとこ危ないよぉ・・・」
「サンドバック・・・儚い・・・」
「あれ?はぐみコロッケの配達って聞いてたんだけど?」
「大丈夫、それで合ってるよ。はぐみ」
盛大なファンファーレとともに登場したのは、先ほど逃がしたはずの弦巻と奥沢。それから残りのハロハピのメンバーである松原花音、瀬田薫、北沢はぐみであった。
「おじさん達も助けてくれた貴方も、今から笑顔にしてあげるわ!」
ーなんで、俺が助けられる側になってんだろう・・・