【完結】The 5th Survivor   作:河蛸

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プロローグ
無銘の日記


【1991/12/28】

 バーキン博士が珍しく浮かれていた。何かあったのか尋ねてみると、博士立案の新プランがスペンサー総帥から承認されたらしい。その名も『G-ウィルス計画』。Tに変わる新世代ウィルスの開発計画だとか。

 

 聞いた話によれば、アークレイの研究所で極秘裏に取り扱われていた被検体、リサ・トレヴァーから採取された新型ウィルスが元手となった計画だという。

 

 リサ・トレヴァーが見せた、寄生生物ネメシスすら吸収するほどの驚異的な生命力と変異性の秘密を探っていたところ、遺伝子に類稀な変化をもたらすウィルスが見つかったのが事の発端だ。なかなか面白そうな代物である。

 

 アレクシア・アシュフォードの台頭で精神的に参っていた博士も、Gの開発を認められて完全に本調子に戻っている。

 ずっとその調子でいてもらいたい。高飛車なのは鼻につくが、ヒスの相手はもっと御免だ。

 

 ……しかし、Gか。

 計画書の予測実績が本当に実現可能なら、密かに考案していたアレの開発の一助になるかもしれないな。

 

 

 

【1995/8/3】

 被検体リサ・トレヴァーが処分されたという報告を得た。三日間かけての処分だったそうだ。

 既存のB.O.Wとは一線を画す生命力、と評価する他に無いだろう。死なないことに特化しただけの哀れな娘とは、まさしく不死身の出来損ないか。

 

 ……いや、私にとって出来損ないとは言い難い。

 彼女の持つあらゆる試作ウィルスや寄生生物すら「リサ・トレヴァー」という一個の生物として統合せしめた特異性は、バーキン博士と同じく、私にとって重要なアイデアの源泉となってくれたのだから。

 

 アークレイの良き友人に頼んで、リサ・トレヴァーの生殖細胞を採取してもらって本当によかった。私財をはたいてまで癒着した甲斐があったというものである。

 

 これで秘密の計画を順調に進めることが出来る。

 

 

 

【1996/4/10】

 被検体リサ・トレヴァーの生殖細胞を安定化させることに成功。サンプルは順応性、変異性はそのまま、通常の生物と同等レベルの生殖機能を取り戻した。

 

 半ば癌化に等しい細胞の異常増殖と生殖機能の劣化がネックだったが、峠は越えた。あとは協力者が例のサンプルを届けてさえくれれば……。

 

 

 

【1996/6/24】

 協力者がついにサンプルを提供してくれた。ここ2ヶ月ほど研究が行き詰っていたのでありがたい。なにせ、このサンプル無しには完成し得ないものなのだから。

 

 頼んでいた代物は、セルゲイ・ウラジミール大佐の精細胞だ。T型B.O.Wの究極系、タイラントのベースとなっている彼である。

 

 彼は一千万人に一人の確率で存在するt-ウィルスの完全適応者だと知られている。

 それゆえ、彼のクローンは通常の生物兵器を遥かに凌駕した知性、耐久性、戦闘能力を兼ね備えるタイラントシリーズに最も適した素材だった。

 

 私は彼の特異体質に着目していた。Tベース兵器の欠点である知力低下を起こさず、体組織の腐敗や劣化も招かない、人間に限りなく近いまま兵器としての能力を獲得できる可能性に。

 

 さぁ、早速研究にとりかかろう。私の目的到達まであと一歩、ここが踏ん張りどころだ。

 

 

 

【1997/7/25】

 やった、成功した! 遂にセルゲイの細胞核を、リサ・トレヴァーの生殖細胞内で再構築胚として定着させることができたのだ!

 

 リサの細胞が強すぎてセルゲイ細胞が食われてしまっていたのが難点だったが、なんてことはない。あらかじめセルゲイ細胞をtで強化しておけば済む話だったのだ。

 こんな初歩的な発想を得るまで何ヶ月もかかるとは、これが私とバーキン博士の違いかと痛感させられる。

 

 しかし、しかし、私は成し遂げた。机上の空論だった計画の山をひとつ、確実に踏破したのだ。

 

 あとはこの胚を培養していくだけだ。理想は生きた女性の子宮内に定着させて生育することだが、これは私だけが知っている極秘プラン。情報の漏洩は命とりである。他人を仮親にするなんて真似は許されない。

 

 特にバーキン博士に漏れるのはまずい。嫉妬深く、上昇志向の強い彼にバレたら計画を潰されるかもしれない。それだけは御免だ。ここまで来るのにどれだけの時間を費やしたと思ってる。

 

 だが恐らく、これを培養装置で生育しただけでは私の望む結果にはならない。やはり生きた子宮が必要だ。

 

 

 

 ……ああ。なんだ。

 あるじゃないか。ここに。

 

 

 

【1997/11/10】

 摘出した私の内性器を培養装置で管理し、胚を定着させてから4ヶ月近く経過した。

 胚の生育は良好。通常の人間と同等か、あるいは少し早い程度の発生スピードである。このまま順調に育ってくれれば問題ない。あとは時間との戦いだ。

 

 しかしながら、こうして自分の子宮を眺めつつ研究を続けるというのは何だか妙な気分だ。我ながら狂気の沙汰だと唾棄せずにはいられない。

 けれど、これでいい。アンブレラなんて悪魔に魂を売った私に、真っ当な人生なんて歩めるはずがないのだから。

 

 願わくば、この子が無事成長してくれますように。

 

 

【1998/6/2】

 定着から10ヶ月と少し。NESTへの移動などと山場はあったが、彼女はようやく誕生の時を迎えた。

 誕生した実験体は、生殖細胞提供者から取って『LISA-001』と呼称することにした。

 

 『LISA-001』の身長は47㎝と人間の新生児に比べても平均的だったが、体重はなんと6500gと非常に重かった。超巨大児とされる基準値より2kg近く重いのだ。おそらく通常の新生児とは比べ物にならない骨密度、筋線維の総量、密度を誇っているに違いない。

 

 培養装置から取り出した際、産声一つ挙げずに肺呼吸機能を獲得したのも驚いた。さらには瞼を開き、明らかに視覚を使って周囲の情報を獲得し始めたのだ。

 胎児の段階までは人間とほぼ変わらなかったのに、外気へ晒されてから目まぐるしい速度で成長を遂げている。これはリサ・トレヴァーの形質なのだろうか?

 

 見た目は人と変わらずともやはり生物兵器。驚かされることは多いものである。

 

 

 

【1998/7/2】

『LISA-001』は生後1ヶ月程度にも関わらず、3歳児ほどに成長を遂げていた。

 身体のみならず知能の発達も著しい。肉体年齢に応じた識字能力を獲得しており、絵本の読解や、子供用パズルの解決まで達成している。B.O.Wの中でも頭一つ抜けた知性だ。このままいけばネメシスT型に匹敵するかもしれない。

 

 しかし識字能力や言語への理解能力はあっても、どういうわけか『LISA-001』自身が言葉を使うことが無いのが不思議である。喃語の兆候すら一度も確認出来ていない。

 検査をしても発声器官に異常はない。正常に機能しているはずなのだが、さて、どういうことなのだろう。

 

 

 

【1998/8/10】

 予測通り、t-ウィルスやGサンプルの投与実験は成功した。リサ・トレヴァーの吸収能力とセルゲイ・ウラジミールの特異性の融合が、知性の低下もないままに、従来の生物兵器以上の身体機能と適応性の獲得をもたらしたのである。

 

 肉体年齢はさらに飛躍的成長を遂げ、8歳程度となった。相変わらず身長は平均的だが体重は重い。その分パワーは言うことなしだが。

 しかし、言葉を介する兆候はない。意思疎通はもっぱら筆談やジェスチャーに限られている。ただの一度も、彼女は声を発したことがない。

 

 ……生物兵器を相手にするのに、あってはならない感情だ。ほんの少しでも声を聴いてみたいなんて思うのは。

 

 

【1998/8/13】

 実験体『LISA-001』の戦闘実験を行った。

 『LISA-001』が完成し、これまでのような隠密行動に励む必要もなくなったので、秘密裏ではあるが協力者を募れるようになったのはありがたい。バーキンにさえバレなければ問題ないのだ。

 

 さておき、計測された『LISA-001』の戦闘能力は抜群なまでに良好だ。RED QEENを欺くためにちっぽけな設備しか使えなかったが、これほどの能力値を叩き出せたのなら文句はない。

 

 ただ兵器として必要な攻撃性が低いのは問題か。例え物であっても破壊に躊躇している節がある。

 この点は後々、教育プログラムで改善していく必要がありそうだ。

 

 

 

【1998/8/17】

 アンブレラ上層部とのコンタクトを行った。予想通り、目覚ましい成果を挙げた上での報告は、私の独断専攻の処罰を阻む一助となった。

 

 アンブレラはそういう組織だ。成果さえ出せば多少の不正程度は見逃してくれる。それもGやtを超える生物兵器の製造に成功したとあっては、奴らも私を無下には出来ない。まさか組織の腐敗具合に助けられる日が来るとはね。

 

 これで私の密かな夢は達成されたも同然だ。ウィリアム・バーキンやアレクシア・アシュフォードのような天才たちの足元にも及ばない凡百が、既存の常識を覆す生物兵器を生み出すという野望を叶えたのだ。

 

 アンブレラの重役に抜擢される日も、そう遠くないだろう。

 

 

 

【1998/9/19】

 遂にバーキンがGの開発に成功したらしい。しかし今となってはそんなことはどうでもいい。私には『LISA-001』がある。

 

 彼女はたった3ヶ月で完成形へと至った。量産型タイラントを超える戦闘能力に、複雑な作戦を遂行可能な知性、そして完璧なまでの人間への擬態。大変素晴らしい出来栄えだ。

 

 だがやはり、攻撃性の低さは目に余るものがある。今日は紙を切って花を模したモノを、あろうことか私へプレゼントしてきた始末だ。

 これは生物兵器としてあるまじき欠点である。これさえ治れば、彼女は最強の兵器として君臨できるのに。

 

 ……そう。これは欠点のはずだ。はずなのだ。

 

 

【×××/9/23】

 最悪だ。最悪だ。最悪だ。

 なんということだ。NESTでバイオハザードが発生した。事故でt-ウィルスが漏れたのだ。管理システムは一体何をしていた。アレがどれほど危険なモノか分かっていたはずだろう。

 

 拡散初期のt-ウィルスの感染力は凄まじい。きっと私も感染している。抗ウィルス剤を投与してみたが、多分一時凌ぎだ。汚染レベルが高すぎる。

 

 せっかくここまで来たのに、ここまで辿り着いたのに、こんな。

 

 

【9/24】

 どうやらNESTで生き残っているのは私だけのようだ。他は多分、活性死者のランチにされた。きっと上のオフィスはバイキング会場になっていることだろう。

 

 幸い、私は『LISA-001』に守られてまだ生きている。彼女が暴走したプラント43や活性死者の変異体を退けてくれた。

 けれど、もう無理だ。後がない。症状が着実に進行している。抗ウィルス剤は進行を遅らせることしか出来ていない。

 

 腕や背中が痒い。どれだけ食べても食欲は満たされない。急速な新陳代謝の影響だ。

 終わりだ。私はもう助からない。けれど『LISA-001』だけは守らなくては。私の生涯を賭した最高傑作だけは、この子だけは、何としてでも守らなくては。

 

 

 

【××××】

 冷凍睡眠装置を使ってあの子を休眠させた。あの子に関するデータのバックアップも一緒に保存した。アンブレラに追加の回収部隊も要請した。

 あとはアンブレラに任せればいい。私の役目もこれで終わりだ。

 

 ……ああ、しかし。まさか最後に、あの子の声を聴くことが出来るなんて。

 嫌だと言った。傍にいると言った。

 顔をくしゃくしゃにして、彼女は生まれて初めて、言葉にしてそう言ったのだ。

 けれど私は、懇願する彼女を冷凍睡眠装置へ押し込んだ。

 

 私に残された時間はもう少ない。皮膚の腐敗が目に見えるまで進行している。

 とても痒い。強烈な空腹感が内側で暴れている。右目はもう掠れていてよく見えない。

 

 死ぬのはいい。これはアンブレラという悪魔に与してしまった報いなのだ。因果応報、これが相応しい最期なんだ。

 

 ただ、これで良かったのだろうかと思う。

 最高の生物兵器を作って、それをアンブレラのために残して、本当に良かったのだろうかと。

 ウィルスに頭をやられているのか、それとも心境の変化か、私自身にも分からないが、あの子がくれた花の切り紙が手放せずにいる。今も、ポケットの中に入っている。まるでリー研究員の言っていた東洋のオマモリみたいだ。

 

 ……ああ。このままあの子がアンブレラの手に渡ったら、あの子の未来は――(ここから文字が滲んでいて読めない)

 

 

 

 

【   】

 

 リさを逃がさないと。あのこ を ここから逃がさないと

 アんブレらが来るまえに はやく

 

 でも そうちの開けかた わからなく なた

 どうすれば どうすれば

 

 

 

【ごめ な さい】

 

 わたし が まちが て た

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