【完結】The 5th Survivor   作:河蛸

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エピローグ
ファイル:回収後の記録


【1998/11/15】

 例の街が消滅してから約一月。我が社は連日、嵐のような動乱に見舞われている。

 事が事だ。事件はあまりにも大きすぎた。流石のアンブレラでも揉み消しが容易な規模ではない。

 汚れ仕事を担うU.S.Sも一部隊丸ごと壊滅し、たった3名しか生還しなかったほどだ。まさか天下の大企業が人手不足とは夢にも思わなかったろう。

 

 U.S.Sといえば、死神と呼ばれる男が面白いものを持ち帰ってきた。少女の姿をしたB.O.Wだ。

 実物を眼にした時は大層驚いた。人間とまるで変わらない。このまま学校に通わせても、全く違和感のないほどよく出来た子供だった。

 

 報告によると知能も人間と大差ないらしい。識字能力、言語能力まで備わっているとか。

 収容されてから一向に喋る気配がないため、真実かどうか定かではないが、簡易検査のデータからして相当な潜在能力を秘めているのは間違いない。

 

 お上はこれを量産しろとのことだが、データ通りの製法ではサンプルが足りない。リサ・トレヴァーが既にこの世にいないからだ。

 手っ取り早くクローニングするのがいいだろう。早速体組織サンプルの回収にとりかかる。

 

 

 

【1998/11/18】

 あの小娘、なかなか厄介だ。なまじ知能が高いせいで扱いづらいことこの上ない。

 まず薬が効かない。象を昏倒させるほどの麻酔を吹き矢で打っても、ものの数分で覚醒する。連続投与しても耐性ができるのか、一切眠らなくなる。

 

 力づくでも駄目だった。U.B.C.Sを使って保定を試みたが、結果は言わずもがな。死者は出なかったがほぼ全員重症だ。

 

 アレは最新装備に身を固めた傭兵部隊を、あっというまに蹂躙した。

 特に電熱ブレードは脅威的過ぎる。耐熱耐刃加工を施した自信作の盾も真っ二つだ。得られたデータと言えば、装備の耐久テストくらいか。

 

 おかしい。明らかにおかしい。アレは力技で兵士を捻じ伏せていなかった。状況を把握し、冷静に分析を重ね、戦略を練って効率的に打倒していた。

 一体NESTでどんなトレーニングを受けていたんだ? よほど実戦経験が豊富でもなければ、あの人数をものの数分で制圧するなど不可能だ。

 

 忌々しい奴め。人材も道具もタダじゃないんだぞ。

 

 

 

 

【1998/11/20】

 報告によればエネルギーの消耗が激しいとのことで、水も食事も与えず弱体化を図ってみた。

 それが悪い結果を招いてしまったのは言うまでもない。

 

 脱走したのだ。今まで大人しく部屋の隅で縮こまっていたのに、食事が来ないと勘付くやいなや、通気口を破壊して社内の食堂まで忍び込んだ。

 備蓄をあらかた強奪されたらしい。しかしそのまま逃げるでもなく、また同じ部屋に戻ってきていた。

 

 なんなんだこいつは。意味が分からない。

 何時でも脱走できるなら何故そうしない? 何か目的があるように見えるが……。

 

 

 

 

【1998/11/21】

 今まで黙りこくっていた『LISA-001』が突然コンタクトを取ってきた。

 なんでも、ゴーストというコードネームの男を世話係にしてほしいとのこと。

 

 ゴースト――J.マルチネスは軟禁状態にある。間接的だが、バイオハザードを引き起こした発端だからだ。

 アンブレラに致命的なダメージを与えたということから、表向きには死亡扱いにされている。今も処分検討の真っ最中である。

 

 幸か不幸か、『LISA-001』と接していたという点だけで首の皮を繋いでいるようなものだ。もし『LISA-001』からサンプルが取れていたら、直ぐにでもエサかモルモットに加工されていたことだろう。

 

 『LISA-001』はゴーストに危害を加えないことを約束させる代わりに、体組織サンプルを提供すると言ってきた。生物兵器が、一丁前に我々へ交渉を申し出たのだ。

 

 やられたと言わざるを得ない。あの小娘が今まで沈黙を貫いていたのは、交渉にこぎつける条件を整えるためだったのだ。

 奴に檻など何の意味も無い。薬も毒も、武力も効かない。現代科学のあらゆる拘束が通用しない――そう知らしめるための演出だった。

 

 アレは暗に示したのだ。「その気になればこんなところすぐにでも脱出できるし、お前たちを皆殺しにも出来る」のだと。

 それを証明して、脅迫材料を準備した。

 

 我々にノーという選択肢はない。断れば最後、アレは確実にこの研究所を壊滅まで追い込むだろう。

 忌々しい。まったくもって腹が立つ。

 

 ……だが、優位性が我々にあることに変わりはない。

 しょせん、子供の浅知恵だ。

 

 

【1998/11/23】

 マルチネスに首輪型の爆弾を装着させ、『LISA-001』の付き人にした。

 我々の指示に従わなければマルチネスを処分するという条件を呑み込ませたのだ。いくら頭が回ろうが、感情が人並みなら人質を持つ我々に逆らえることはない。

 

 案の定、『LISA-001』は驚くほど従順になった。

 サンプルを快く提供してくれている。おまけに拷問に等しい耐久テストにも反抗しない。

 

 爪や皮を剥ぐ。水に沈める。低酸素下に置く。過剰な薬物投与を施す――そんな筆舌に尽くしがたい苦痛すら甘んじて受け入れている。

 生意気にも決して弱音を吐かないが、それもいつまで持つか。 

 

 B.O.Wはやすやすと死ねない。しかしダメージを与えすぎると暴走する可能性がある。あくまで「痛み」に重点を置いた実験を繰り返している。そうしろという注文があったのだ。

 目的は、拷問による洗脳を兼ねた訓練にあるのだろう。

 お上はアレを暗殺者として使役するつもりだ。万が一敵に捕らわれた場合、情報を吐かれては不味いことになる。それを防ぐためのトレーニングか。

 

 なんにせよ、マルチネスは使える。暫くキープしておくのが無難だろうな。

 

 

 

【1998/11/26】

 やられた。マルチネスを奪われた。

 あの娘、どんな手品を使った。どうして爆弾を解除できた。

 無暗に弄れば即座に爆発する代物だ、工学知識の無い子供に外せるわけがない。

 

 ええい、警備班は何をしていた!

 

 

 

【1998/11/27】

 『LISA-001』の能力は我々の想定を遥かに超えていた。

 あの娘は毎日の拷問と洗脳に耐えながら、監視カメラや動体センサーの配置を全て記憶していたのだ。

 それだけではない。爆弾を作った工学者まで特定されてしまっていた。

 

 奴は誰にも悟られぬまま部屋を抜け出し、工学者に詰め寄って、爆弾の解除方法を吐かせたのだ。なんてやつだ。

 視力を潰すだけでは足りなかった。全身の皮膚を剥ぐでもしないと、奴の感覚器は周囲構造を立体的に把握できてしまう。

 

 

 データを全て破壊された。サンプルも火の海に消えた。備品も幾らか奪われる始末だ。

 マルチネスも一緒に消えている。不審な動きをすれば即座に爆破される環境でどうやって伝えていたのかは分からないが、奴も『LISA-001』に情報を流していたらしい。

 

 機動部隊が追っているが、無駄だろう。賭けても良い。

 我々の手に負えるものではない。我々では止められない。

 

 こんなの、B.O.Wなんて枠組みにあってたまるか。

 アレはあまりに賢過ぎた。もはや新種の人類じゃないか!

 

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