走る。走る。
脳裏を埋める地図に従い、エレベーターへ向かって全速力で駆けていく。
追手が来る気配は無い。至近距離からの爆破は流石の暴君も堪えたらしい。この千載一遇の隙を逃さぬよう、あらん限りの体力を動員して疾駆した。
(……ん?)
無事にエレベーターまで辿り着いたハンクは、付近に転がっていたはずの
一抹の違和が疑問を生み、ほんの少しだけ立ち止まらせた。
(……絨毯状の血痕がカーペットのように続いている。遺体を持ち去った何者かがいるのか?)
リッカーが蘇生して立ち去ったと思しき足跡ではない。誰かが死体をずるずると引き摺っていったかのような、薄く乾いた痕跡が広がっていた。
空腹の感染者が新鮮な遺骸を貪ることはある。しかし彼らに巣へ餌を持ち帰るなどという、獣のような習性は無い。
感染者の仕業ではないことは間違いないのだ。しかしまだ見ぬ生存者の行動とも考え難い。
それはつまり、ハンクの知らない未知の存在が、NESTを徘徊している事実を示唆していて――――
(いいや。今は死体の行方を考察している場合ではない)
ハンクは思考を払うように、視界から惨状を排除した。
肉体を再生させたタイラントが今にも追いついてくるかもしれないのだ。無駄な一挙一動が、折角稼いだ逃亡の機会を潰してしまう。
肘を器用に使い、ハンクはエレベーターのボタンを操作していく。次の目的地を目指すべく中層へと上がっていった。
登りゆくゴンドラの中、一息と脱力。
(……想像より重いな。成人と大差ない)
迅速に逃亡するため咄嗟に抱え上げたものの、幼い容貌からは想像もつかない重量に驚かざるを得なかった。
従軍者として鍛錬を積んでいなければ、まともに運ぶことすら困難だっただろう。
まるで体内に鉄の塊でも仕込んでいるかのようだとハンクは感じた。発電能力を有している時点で当然なのだが、骨密度や筋肉の組成が人間とは違うのかもしれない。
「おい。声は聞こえるか?」
「…………おなか、すいた」
未だぐったりとしている少女の容態を確認すれば、虚ろな瞳で虚空をぼんやり捉えつつ、ぽつりと空腹を訴えてきた。
既に打撲は回復している。しかし、どうやら肉体とは異なる致命的なダメージを負っているらしい。
ただし、この場における『致命的』とは、少女ではなくハンクに対して働くのだが。
(不味いな、エネルギー不足が深刻化している。早く手を打たなくては)
デンキウナギは発電の際、アデノシン三リン酸――即ち生物にとってのエネルギー源を大量に消費するという。
このメカニズムが少女にも通用するならば、先の大放電で著しいエネルギーを費やしてしまったに違いない。
おまけに治癒にもエネルギーを使っている。ただでさえ栄養不足だった少女の体は、相当な飢餓に見舞われていることだろう。
「気をしっかり保て。お前が案内しなければ目的の部屋が分からん」
「ん、う」
朧気に返す少女。その瞳は琥珀色に染まり、瞳孔が蛇のように縦長く変異しつつあった。
既視感を抱く。ハンクたちαチームを襲ったウィリアム・バーキンの肩で蠢く、巨大な黄金の瞳を。
エレベーターが到着した瞬間、ハンクは再び走り出した。
コトは想像以上に不味い方向へ進んでいると判断する。このままでは感染者の群れより先に護衛対象の食糧にされかねない。一刻も早く栄養剤を手に入れねば命を落とすと石火の如く理解した。
しかし彼の行く手を阻むように、複数の感染者が通路を占拠してしまっている。
異様な出で立ちの感染者だった。みな衣類を纏っておらず、全身の皮を引き剥がされたかのような風貌なのだ。
大部分の皮膚が腐り落ち、中には組織の欠落から骨が露出している個体までいる。しかし筋肉の発達が著しい。特に大腿は目まぐるしく、腐敗もほとんど進行していなかった。
それは語外に、彼らの機動力が通常のソレを遥かに上回るという証左となる。
(明らかに通常の感染者ではない。二次感染で発生したものではなく、実験によって人為的に生み出されたものだろう)
それが視認できるだけで6体もいる。対するハンクの武器は雀の涙。
しかしこれ以上残弾を消耗するのは避けたかった。再びタイラントと遭遇した場合や、『LISA-001』を始末しなければならなくなった際に必要不可欠となるからだ。
現状、
かといって、重たい少女を抱えたまま感染者ひしめく通路を無傷で抜けるなど不可能だ。
「……」
少女を床に下ろし、ナイフを構える。
ただし、銃は抜かない。
ハンクは満足に幅もない通路の中、一撃貰えば絶命必至の感染者たちを相手に、たった一振りの刃物で戦う覚悟を決めた。
――無謀に等しい彼の行動は、しかし闇夜を切り裂く猛禽のように素早く的確なものだった。
最も手前にいた感染者の背後を取る。膝裏へ蹴りを叩き込んで体勢を崩すと、首を戸惑いもなく折り砕いた。
氷のように冷徹に、葬儀屋のように丁重に。ハンクは命を葬っていく。
(次)
物音を聞き取り、迫る死神を知覚し始める感染者たち。
だが遅い。ハンクは既に次の一手へ入っている。獲物の匂いを嗅いだばかりで鈍い感染者には、ハンクの魔手を捉えられない。
振り返った感染者の腕を捻り上げ、強引に引き寄せてバランスを奪う。よろめいた隙に下顎からナイフを一気に突き立て、一息に脳幹を刺し穿った。
すかさず引き抜き蹴り飛ばす。吹っ飛ばされた遺体は奥のゾンビを巻き込みながら転がっていく。
(次)
完全に覚醒し、獰猛さを取り戻した感染者が右方から唸り声と共に迫りくる。
捕らえ食らわんと伸ばされた感染者の腕をハンクは叩き落とし、その腕に沿うようにして回り込むと、側頭から頭蓋を串刺した。
「■■■ッ――!!」
「ッ」
別のゾンビが、刃を引き抜く一瞬の隙を突き、雄叫びを上げながらハンクの腕に掴みかかる。
感染者は動きこそ鈍重だが、その筋力は常人を遥かに上回る。捕まれば最後、大量のウィルスを纏わりつかせた歯牙が骨肉を引き裂き、感染者の輪へと招かれてしまうだろう。
絶対に捕まってはならない。だから円を描くように腕を振るう。怪物の力を受け流し、瞬発的に顎を殴り飛ばした。
見た目こそ死に体だが、感染者は厳密に言えば自我を失った生者だ。痛覚や恐怖が麻痺し、加速する代謝を補うべく空腹を満たそうとしているだけの
故に、正確無比な打撃は脳震盪を誘発する。鍛え抜かれた拳の砲弾は顎を通じて脳髄を揺るがし、感染者を昏倒させた。
そのまま頭を踏み砕き、確実な絶命をもたらすハンク。
残るは2体。うち1体はのしかかっている死体のせいで満足に起き上がれないらしい。
実質的な脅威は1体。ハンクは一切の躊躇なく立ち向かった。
群れを成せば恐ろしい感染者も、たった一人なら敵ではない。
わざと掴みかかりを誘発して左に避け、後頭部から刃を見舞うという形で、呆気なくも勝負の幕は降ろされた。
鋭利な金属に脳髄を掻き混ぜられ、崩れ落ちる感染者。ハンクは背を向け、最後の一人に渾身のストンプを見舞う。
粘着く血糊が、床と靴の間に糸を引いた。
(クリア)
臨戦態勢を解き、ナイフにこびり付いた血液を拭う。
ホルダーへ戻すと、ハンクは『LISA-001』の元まで戻って抱きかかえた。
血と死体で出来た海を歩く。情報が正しければ、この層の何処かに『LISA-001』が匿われていた部屋があるはずだ。
「『LISA-001』、お前が住んでいた部屋はどこだ」
「……あっち」
指を使い、ハンクの行くべき方向を示す少女。
従うままに進んでいく。すると、通路奥の個人研究室へ辿り着いた。
どうやらここが『LISA-001』の住んでいた部屋らしい。手動のドアを器用に開いて侵入し、わざと物音を立てて感染者の有無を確認すると、鍵をかけて少女をソファへゆっくりと置いた
(栄養剤を探さなくては)
部屋を見渡し、栄養剤が保管されていそうな場所を探す。
隅の方で目が留まった。『LISA-001』の開発者が使っていただろう個人デスクの横に、小型冷蔵庫が配置されていたのだ。
開く。中には飲みかけの清涼飲料水と、銀色のパックが3つ保管されていた。
表面には『B.O.W専用栄養剤』と書かれてある。間違いない。普段『LISA-001』が摂食していたものだろう。
全て回収し、1つのキャップを捻り切る。緩い呼吸を繰り返しながら寝そべっている少女を起こし、口元へチューブを当てがった。
唇の奇妙な感触を不思議に思ったのか、まぐまぐとまごつく少女。やがていつもの栄養剤と認識したらしく、両手で抱えて飲み始める。
ジェル状の栄養剤は吸収が速いのだろう。一本分を空にする頃には、褪せていた肌色や異形化しつつあった瞳が元の形を取り戻していた。
「おいしい」
つい数秒前の衰弱ぶりが嘘のように上機嫌になる少女。護衛対象から捕食される危機は脱したようだ。
「ちょうだい」
一本だけでは不満なのか、手を伸ばして催促してくる。
ハンクはどれほどのペースで与えればいいか、パッケージ裏を見て確認した。
生物兵器の代謝を支えるべく、超高濃度に調整された栄養剤のようで、片手で持てるほど軽量かつコンパクトでありながら、一本で1日分のエネルギーを補給できるらしい。
おまけに飢餓抑制剤も混入されているようだ。たったこれだけで満腹になれるという。それでも欲しがるのは少女の代謝が栄養剤を上回っているのか、はたまた単なる食いしん坊か。
とにかく、要望のまま与えるという選択肢は霧散した。
「駄目だ」
「どうして?」
「これは緊急用の食料だ。迂闊に消費するわけにはいかん」
「うー……」
ある意味、この栄養剤はハンクにとっての命綱。無計画な消耗は強大な敵を増やす愚行でしかない。
幸運なことに少女の知能は高い。ハンクが無意味に制限を科しているのではないと理解したらしく、力づくで奪うこともせず大人しく催促を断念した。
「はんくはたべないの?」
ずっと飲まず食わずで動き続けるハンクを気に掛けたのか、心配の言葉を投げる少女。
無用の長物だ。ハンクはロックフォート島の過酷な訓練を耐え抜いた兵士である。2日程度の絶食で支障をきたすことはない。
仮に食料があったとして、迂闊にマスクも脱げない現状、食事など到底不可能だ。空気中にウィルスが残留していた場合、脱衣後の一呼吸であの世行きになってしまう。
「不要だ」
「おなかすかない?」
「ああ」
「ふしぎ」
好奇の目を向ける少女を無視し、ハンクは動く。
栄養剤の次は『LISA-001』の研究データだ。
電気は生きている。PCの起動は可能だろう。少女の母親用だったらしいコンピュータのスイッチを押し、機械が目覚めるのを静かに待った。
デスクトップが現れる。パスワードを懸念していたものの、何も仕掛けられていなかっようだ。幸運とばかりにハンクはマウスを動かしていく。
しかし奇妙なことに、デスクトップにはたった2つのフォルダしか残されていなかった。『LISA-001』の名前と、『このパソコンを開いたあなたへ』という、明らかに
研究者のパソコンにたったこれだけしかデータが存在しないのは明らかにおかしい。意図的に整理された後なのだろう。
恐らく少女の母親が、アンブレラの救援部隊でも訪れた時に備えてパスを外し、余計なデータを始末していたか。
後者のメッセージフォルダを無視し、ハンクは『LISA-001』のフォルダをクリックする。
やはりデータが入っていた。ハンクが求めていたものだ。
だがしかし、肝心のデータにパスワードが掛かっている。これではUSBに移送しても意味が無い。
(パスの入力画面に『メッセージを見て』と書かれている)
ヒントは例のフォルダに隠されてあるらしい。仕方がないと、ハンクは別のフォルダを開封した。
動画のデータが入っていた。サムネは暗黒で、時間はたった3分にも満たないショートビデオだ。
クリックと共に広がる再生画面。冷却ファンの音を連れて、タイムコードが動き出す。
『――こんにちは、名前も知らない誰かさん。私は……いや、どうでもいいか。名前なんて意味が無い。アンブレラのいち研究員と捉えてくれるだけで大丈夫だ』
被写体の姿が、掠れた声と共に露わになる。
ショートボブの女だった。死人のように肌を蒼褪めさせた白衣の女性が、今にも息絶えそうな面持ちでカメラと向き合っているのだ。
『この動画は、画面の前の君へ託すためのメッセージです。願わくば君がアンブレラの人間じゃないか、忠誠の薄い人であることを祈ります。……そう、私は誰とも知らない君に、いいや、君だからこそ、やってもらいたいことがある』
「……まま?」
音声を聞きつけた『LISA-001』が急ぎ足でやってきて、ハンクの隣から覗き込んだ。
画面に映る、今は亡き母親の姿。反射的に手を伸ばしたが、それが本物ではないと気付いて、寂しそうに引っ込めた。
『私はもう長くない。NESTでバイオハザードが起こって……漏洩したウィルスに曝露してしまった。T-ウィルスに特効薬はない。抗ウイルス剤も、進行を遅らせることしか出来なかった』
震える手を駆使し、懐から取り出した注射器を腕へ突き刺す女性。謎の液体が注入され、呻き声と共に空の容器を手放した。
シリンジの表面には、「L-adapter.Type3」と印字されている
『単刀直入に言うよ。私の代わりに『LISA-001』を――あの子を救ってあげてほしい。ここから連れ出して、どこか遠くの世界で匿ってやってくれないか。お金なら私の口座を譲る。カードは引き出しの中だ。無駄に貯まってるから不足はないと思う。……それを使って、アンブレラの手の届かないところまで、逃げ、てっ、げほっ、えほっ、ごぶっ……!』
咳き込み、口元を抑える女性。
指の隙間からどす黒い汁が伝ってテーブルを汚す。喀血にしてはあまりに粘質なそれは、まるで重油を吐き出したかのよう。
ウィルスの影響は体液に留まらない。白濁していない左目が明らかな異常をきたしていた。
琥珀色に発光し、瞳孔が縦に裂けている。まるで『LISA-001』の眼球が移植されたかのように。
『ハァーッ、ハァーッ……はは。御覧の通り、もう死に体でね。あと一日持つかも分からない。だからどうか、どうか、私の代わりに、あの子を助けて欲しい。とても良い子なんだ。冷たかった私が、人としての善心を取り戻したくらい優しい子なんだ。きっと、迷惑はかけないから』
痛むのか、苦しそうに頭を抑えている。咳が破裂するたびにコールタールのような血餅が散った。
寿命を抉られているのが分かる。命という燃料を最大限まで燃やして、画面の中の彼女はウィルスに抗い、生きていた。
『あの子は、ぜひゅ、冷凍睡眠装置管理室の最奥で眠っている。まず装置を解除するんだ。パスコードは……パスコードは……ええと……えエ、と、ギ、づヴ、ぅぅぅッ……!!』
頭部が痙攣し始める。口元から白濁した泡が零れ、血管が黒く染まっていた。著しい眼振のせいで、もはや焦点すら定まっていない。
自我の揺らぎが画面越しでも伝わってくる。抗ウイルス剤と精神力だけで持ち堪えているのだろう。一日保つかどうかと言っていたが、彼女の命は風前の灯火だ。
咄嗟に注射器を打ち込む。先ほどと同じ薬剤らしい。
投与直後に血の気が戻り、頭の揺れや眼振が収まっていく。
『これが最後の一本……どこまで話したっけ。あぁ、そうそう。君がアンブレラ側の人間だった時のメッセージだね』
女性は懐から小さな手帳を取り出した。
古いが、よく使いこまれた擦れ具合を感じさせる手帳だ。
『君が見ているパソコンの中に、『LISA-001』のデータが全て入っている。
――言葉の意図が、まるで理解できなかった。
察するに、彼女はアンブレラへ『LISA-001』を渡したがっていない。拒絶がありありと伺えている。
にも拘らず、データを消去するどころか挑発して奪いに来いとまで宣った。あまりに非合理過ぎる言動である。
ウィルスのせいでまともな判断能力を失っているのかもしれないが、ハンクはこの女性から、どこか名状し難い不気味さを感じ取った。
それはまるで、暗闇に潜む大蜘蛛の瞳を覗いてしまったかのような。
『もし君がアンブレラの人間で、けれど優しい心根の持ち主なら……
ひらひら手帳を振って、ポケットの中へ仕舞い込む。
椅子へ深く座り直す。夥しい吐血と共に、消え入りそうな笑顔を浮かべて。
『ああ、リサ。こんな事を言う資格は無いけれど……あなたの幸せを願っている。何よりも』
映像は、血の涙が頬を伝うところで暗幕に包まれた。
「……」
暗闇に消えてしまった彼女を追うように、再び手を伸ばす少女。
画面へ細指が触れる。でもそれだけだ。隔てられた向こう側へ触れることは叶わない。
取り残された指紋が、無音の虚しさを帯びていた。
(……パスワードの在処はあの感染者か。ならば『LISA-001』を覚醒させた場所に向かえば手に入るだろう。しかし、T-103と鉢合わせするリスクをどう拭う)
必要な情報のみを抽出し、冷静に思考を展開していくハンク。任務を重んじる彼にとって、女性研究者の心情や願望などどうでも良いことだった。
(対人火器でタイラントを始末するのは不可能に近い。だが撃退のためには武器が要る。物資調達は無視できない。まずは周辺を探索して武器を確保し、下層へ向かうのが定石か)
指針を固め、ハンクは動く。
常に最短最速が華とは限らない。任務を遂行するためには、一時的な遠回りも必要だ。
◆
【ファイル:L-adapter】
著 ■■■・■■■■■■
T型B.O.W『LISA-001』の最たる特異性は、その吸収・適合能力にある。
ベースとなったリサ・トレヴァーは、数多の試作型ウィルスおよび寄生生物を投与され続けたにも関わらず、異なる複数のDNA情報を一個の生物として統合した生命体である。
彼女の生殖細胞をベースに、T-ウィルス完全適合者として知られるセルゲイ・ウラジミールの遺伝子を用いることで『LISA-001』は製造された。
両者の適合能力が相乗し合った結果、『LISA-001』は類稀な遺伝子合併吸収能力を獲得した。
即ちウィルスや細菌、寄生生物を問わず、あらゆる遺伝情報を自身のものへと組み替え、人間に限りなく近い状態のまま取り込んでしまう能力である。
これにより、従来の兵器に見られた知能低下や過剰変異といった問題点を克服している。G-ウィルスが際限のない進化をもたらす生物兵器なら、『LISA-001』はあらゆる生物を取り込み、個として完成していく兵器だろう。
L-adapterは、そんな『LISA-001』の特異性を一般人にも応用する目的で製造された、抗ウィルス血清である。
理論上、L-adapterを投与された人間はウィルス変異に対する適応性が付与される。要約するならば、誰もが知能や外見を維持したまま、始祖系統ウィルスのもたらす進化の恩恵を受け取ることが可能となるのだ。
《投与実験記録》
[実験1 試薬:Type1 実験対象:ラット]
結果:投与直後に変異を確認。処分。
[実験2 試薬:Type2 実験対象:ウサギ]
結果:投与直後は変異見られず。しかし投与から15分後に変異を確認。処分
[実験3 試薬:Type3 実験対象:サル]
結果:変異見られず。その後も安定。細胞核に変化あり。
[実験4 試薬:Type3 実験対象:人工培養した■■■・■■■■■■の体組織]
結果:外見的変化は見られず。細胞核に変化あり。
[実験5 試薬:Type3 実験対象:■■■・■■■■■■]
結果:抗ウィルス効果認められず。一部症状の進行抑制に寄与。細胞核に変化あり。
総括:L-adapterに目的の効果は認められず。実験は失敗とする。
【補足】
・要約すると、L-adapterは誰でもウェスカーになれるはずだった薬です