遊戯王GX~もしも十代にHERO使いの妹がいたら~   作:カイナ

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新入生最強決定戦

 オシリスレッド。デュエルアカデミアの大別してオベリスクブルー、ラーイエローと合わせた三つの中で序列最下位に位置する階級。

 その扱いの悪さは学生が住まう寮にも表れており、オベリスクブルーは城のような豪華絢爛な寮、ラーイエローはペンションのような素朴ながら居心地よさそうな寮、対してオシリスレッドは築何十年と経っているだろう、よく言えば味がある、悪く言えばボロボロの木造アパートのような寮になっている程だ。

 さらにオベリスクブルーは全学生共用のデュエルスペース以外に最新鋭のソリッドビジョンシステムが導入された専用のデュエルスペースを有しているのに対して、オシリスレッドはそのボロ寮の敷地内のグラウンドに白線で描かれたデュエルスペース止まり。当然ソリッドビジョンシステムなんて導入されていないことが、デュエルを学ぶ学園の中でのオシリスレッドの扱いの悪さを示している。

 

 さらにはそんなオシリスレッドに所属している生徒は学園内でも差別対象になっており、普段ならそこに所属する生徒以外は近づかないレッド寮に、青色を基調としたオベリスクブルー、この学園におけるエリートを意味する制服に身を包んだ女子が、例のお手製感溢れる白線デュエルスペースで赤色の制服を着た、つまりオシリスレッドの生徒とデュエルをしていた。

 

「いくぜモモ! フィールド魔法[摩天楼 -スカイスクレイパー-]発動! E・HEROがその攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターとバトルする場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000アップする! フレイム・ウィングマンで剛火を攻撃! スカイスクレイパー・シュートォ!!」

 

 平凡なグラウンドが月に照らされる高層ビルの立ち並ぶ摩天楼へと変化。その一際高いビルの屋上にそびえる避雷針で月を背に、オシリスレッドの生徒――遊城十代のマイフェイバリットヒーローと名高いフレイム・ウィングマンが立つ。

 そして十代の攻撃宣言と共にフレイム・ウィングマンが飛翔。炎を纏って急降下し、対戦相手――遊城百代の場にいるヒーローである剛火を粉砕した。

 

「フレイム・ウィングマンの効果発動! このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「きゃあああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そしてフレイム・ウィングマンの右腕と一体化している龍の頭を思わせる武装から火炎が噴き出し、百代を呑み込む。それで彼女のライフポイントが尽きた事を示すブザーが鳴り響き、デュエルが終了したことでデュエルディスク内蔵のソリッドビジョンシステムが終了してフレイム・ウィングマンや摩天楼が消滅していった。

 

「へへっ、俺の勝ちだなモモ。ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 十代が得意気に笑ってガッツポーズを取り、続けて決め台詞と決めポーズを決める。しかしその後笑みが苦笑に変わる。

 

「でも、やっぱモモも強くなってるな。何度か危ないところがあったぜ……」

 

「はい。ありがとうございます、お兄様!」

 

 微笑みながらの十代の賞賛を受け、まるで神からのお告げでも受けた聖女のような目で笑顔を浮かべる百代。その美麗さにデュエルを観戦していたオシリスレッドの生徒が見惚れた後、嫉妬の視線を十代に向けていた。

 

「くそう、まさか遊城にあんな美人な妹がいたなんて……」

「しかも遊城の近くにいたいからってレッド寮の寮長室に寝泊まりしてるんだろ!」

「お兄ちゃん大好きな可愛い妹とか二次元だけだろうが!」

「うちの妹なんてこの前帰ったら“兄ちゃんウザいから近寄るな。ってか帰ってこなくてよかったのに”って言ってきたんだぞ!」

 

 地団駄を踏んで十代を羨ましがるレッドの生徒達。ちなみに十代は気づいていないし百代も十代に見惚れていて気づいていない。

 しかしそんな中、一人だけため息をついている生徒がいた。

 

「いや、でもさ……ああいう妹欲しい?」

『…………』

 

 その生徒――丸藤翔の言葉に他の面々が黙り込む。

 目の前にいるのはなんか黒々としたオーラを発しているようにも見えるヤバい目をして「お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様」と止めなければこのまま際限なく繰り返していそうな百代と、そのヤバさに一切気づいていない様子で笑っている十代の姿。

 

「しかもこの前、ちょっと興味を持ったからって寮長室こっそり見に行ったでしょ? もう忘れた?」

『…………』

 

 先程何者かが言っていたように、百代は本来オベリスクブルー、正確に言えば女子は全員そこに割り当てられるオベリスクブルーの女子寮に所属している。しかし本人が「お兄様の近くにいたいから」と勝手にレッド寮に押しかけてきた上に、前年度に一身上の都合で退職した(ことになっている)元オシリスレッド寮長である大徳寺の後任が決まっていないため無人になっている寮長室に勝手に住み着いているのだ。

 無論学校側は認めておらず、最初は女子寮の寮長である鮎川や先輩であり友人の明日香が連れ戻しに来ていたのだが、百代が「フシャー!」とまるで猫のように威嚇してきて頑なに離れようとしなかったり、力ずくで連れ戻してもまたすぐ脱走してレッド寮に戻ってくるため諦めて黙認という形になっているのが現状である。

 そして普段女子との接点がなく、しかも美少女が勝手にとはいえ住み着いたことに興味を持ったレッド寮の男性陣の一部がこっそり寮長室を覗きに行ったのだが、その全員が顔を真っ青にして以後寮長室に近づかなくなっていた。

 それを思い出した彼らは遠い目を見せ、口を開く。

 

「……あの妹はいらねえわ」

「遊城ってすげえな……」

「俺、あの子と一緒にいたら病む自信がある……」

「鈍感はすげえって話だな、うん」

 

 レッド寮生徒が異口同音に結論を示す。十代と百代は気づかずに笑い合っていた。

 

「頼もう!!!」

 

 その静寂をぶち壊す叫び声がオシリスレッドの敷地内に響いた。

 

「ん、なんだ?」

 

 十代が首を傾げながら声の方を向く。そこには青い制服を着た、茶髪を刺々しく立てて下まつ毛の目立つ少年が同色の制服を着た取り巻きらしい少年たちを携えて偉そうに腕組みをしている姿があった。

 

「なんだ、あんたら? 何か用か?」

 

「き、貴様! 先輩のようだがオシリスレッド風情が! 礼を弁えろ!」

「こちらの方をどなたと心得る! 去年デュエルアカデミア中等部をトップの成績で卒業したエリート、五階堂宝山さんだぞ!」

 

 十代の呼びかけに茶髪少年の取り巻きらしい二人が言葉を並べ立てる。去年くらいに見たような光景に翔が「なんか去年万丈目君に会った時を思い出すっす」とぼやいていた。

 

「へー? なんか万丈目みてえだな。んで、何か用か?」

 

「貴様如き落ちこぼれに五階堂さんは用などない!」

「五階堂さんが用があるのは貴様だ、遊城百代!」

 

 十代も翔と同じことをぼやいた後用件を尋ね、取り巻きAが十代に用はないと切り捨て、取り巻きBが百代を指差す。百代は呼ばれるような心当たりがないのか「はて?」と首を傾げた。ちなみにさっきの取り巻きAの言葉が気にかかったのか既に若干目が冷たい。

 そして今まで話すのを取り巻きに任せていたように黙りこくっていた、五階堂なる少年が百代を一瞥した。

 

「遊城百代、さっきのデュエルだがオシリスレッドの落ちこぼれ程度に負けるなんて、僕の想像通りだな」

 

「想像?」

 

 五階堂の言葉に百代がさらに目を冷たくさせながら聞き返す。ちなみにレッド寮のメンバーが「おいおい、あいつ遊城を知らねえのか?」や「遊城は去年カイザーと引き分けたんだぞ。新入生じゃ勝てなくて当たり前だろうが」とぼそぼそ喋り合っていた。

 

「ああ。筆記に関しては認めてやらなくもないが、所詮はそれだけの頭でっかち。実技試験ではたまたま勝てただけのまぐれで入学主席を奪い取っただけだということだってな」

 

「おい、その言い方はなんだよ? モモは実力で勝ったんだよ!」

 

 五階堂の言葉に十代が聞き捨てならないのか言い返す。しかし五階堂はふんとまるでその言い分を馬鹿にしているように鼻を鳴らした。百代の目がまた冷たくなる。

 

「入学式の日に港でオシリスレッドの二年生とデュエルをして、ギリギリで勝ったようだがそれでも苦戦していたらしいじゃないか。それで試験用デッキを使っていたとはいえクロノス教諭に実力で勝ったなんて信じられないね」

 

「なんだと!?」

 

 五階堂の言葉に今度はそのデュエルをしたオシリスレッドの二年こと翔が声を荒げる。しかし五階堂は気にせずに十代を指差した。

 

「大体、オシリスレッドの落ちこぼれなんかをリスペクトしている時点で大した実力じゃないって言ってるようなものじゃないか!」

 

 ブチィッ!と何かが切れるような音が聞こえる。さらに百代の方からなんだか禍々しいオーラが発され始め、場が一瞬で沈黙に包まれた。そしてその禍々しいオーラを放つ張本人――百代が感情が何一つ籠っていないような冷たい目で五階堂を見、口を開く。

 

「お話は分かりました。ではデュエルで白黒つけるとしましょう」

 

「元からそのつもりさ。既にクロノス臨時校長に許可を取っている。明日、全校生徒の前で貴様を倒して誰が真の主席なのかを証明してみせる! エリートであるこの僕の力でね!」

 

 彼女の禍々しいオーラに気づいていないのか、五階堂はそう言い残すと取り巻き二人と共に「はーっはっはっは!」とありがちな笑い声を残してレッド寮を去っていく。

 

「お兄様、ご安心を……お兄様を侮辱した罪、地獄の底で後悔させてやる……」

 

「あ~、別に俺は侮辱されたとか思ってねえんだけど……まあいいや。頑張れよ、モモ! あ、ユベルも頑張れよな!」

 

 [ああ、任せておいてよ十代……ただではすまさないからさ]

 

 禍々しい&怒りのオーラを放つ百代に対して十代は暢気なもの。ユベルにも声援を送っており、ユベルも妖しい笑みを浮かべながらそう返していた。

 

 

 

 

 

「みなすぁん、ようこそいらっしゃいデアール!」

 

 翌日。式典やイベントなどの大事なデュエルで行われる特設デュエルアリーナに全校生徒が勢ぞろい。その中央のデュエルスペースで百代と五階堂が対峙していた。そして進行を務めるらしいナポレオン教頭がマイク右手に挨拶を行う。

 

「今回行われるのは新入生最強決定デュエルデアール! 今年度入学主席のマドモアゼル遊城と入学次席のムッシュ五階堂! この二人のデュエルで今年度トップ二名の実力を見ることで、新入生はそれを目標に、上級生はそれに負けないようよりいっそうの努力をしてもらいたいデアール!」

 

「遊城百代! たかが一度のまぐれ如きでこの僕のデュエルアカデミア高等部トップ入学という栄光を邪魔した事、後悔させてやる!」

 

「そんな事私にはどうでもいい……お兄様を侮辱した事、後悔してもらう」

 

 ナポレオン教頭の口頭説明に続き、五階堂がびしっと指を百代に向けて突きつけるように叫ぶと、百代は一日経って多少は落ち着いたか、怒りのオーラを控えめに出しながらそう返す。

 

「それでは、入学次席のムッシュ五階堂の先攻で、デュエル開始デアール!」

 

「「デュエル!!!」」

 

「僕の先攻、ドロー!」

 

 ナポレオン教頭の合図で二人がデュエルディスクを構えて声を重ねる。

 そして続けて五階堂がデッキからカードをドロー、手札をさっと確認する。

 

「僕は[切り込み隊長]を攻撃表示で召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札からレベル四以下のモンスター一体を特殊召喚する! [荒野の女戦士]を特殊召喚!」

 切り込み隊長 攻撃力:1200

 荒野の女戦士 攻撃力:1100

 

 五階堂の場に一気に二体のモンスターが並ぶ。しかしそれだけでは終わらないというように、五階堂は不敵な笑みを浮かべて二枚の手札を取った。

 

「僕はさらに手札から装備魔法[融合武器ムラサメブレード]と[稲妻の剣]を発動し、ムラサメブレードを切り込み隊長に、稲妻の剣を荒野の女戦士に装備! 二体の攻撃力を800ポイントアップ!」

 切り込み隊長 攻撃力:1200→2000

 荒野の女戦士 攻撃力:1100→1900

 

 五階堂の発動したカードの効果により、切り込み隊長の右腕が刀とそれから伸びた触手と融合、荒野の女戦士の握る剣に雷が宿る。さらに攻撃力も爆発的に上昇し、翔が「いきなり二体のモンスターに装備魔法っすか!?」と驚愕の声を上げた。

 

「僕はこれでターンエンド。さあ遊城百代、お前の化けの皮が剥がれる時だ!」

 

 ワンターン目から攻撃力2000近いモンスターを二体出したに等しい状況、五階堂は己の得意パターンなのか自信満々に微笑んでターンエンドを宣言した。

 

 

 切り込み隊長

 効果モンスター

 星3/地属性/戦士族

 攻1200/守 400

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

 荒野の女戦士

 効果モンスター

 星4/地属性/戦士族

 攻1100/守1200

(1):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから攻撃力1500以下の戦士族・地属性モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 融合武器ムラサメブレード

 装備魔法

 戦士族モンスターにのみ装備可能。

 装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 モンスターに装備されているこのカードは、カードの効果では破壊されない。

 

 稲妻の剣

 装備魔法

 戦士族モンスターにのみ装備可能。

 装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップし、フィールド上に表側表示で存在する全ての水属性モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 五階堂の挑発を百代は一切気にせずにカードをドロー。手札をさっと見るとフッと一つ笑みを浮かべた。

 

「フィールド魔法[サベージ・コロシアム]を発動。このフィールド魔法が存在する限り、フィールド上に存在するモンスターが攻撃を行った場合、そのモンスターのコントローラーはダメージステップ終了時に300ライフポイント回復する。さらにこのカードがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。そしてエンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターを全て破壊する」

 

「攻撃と同時にライフを回復するカードか。さあ、かかってこい!」

 

 百代の発動した魔法の効果を素早く理解した五階堂は、その特性上戦闘を狙ってくると踏んでかかってこいと挑発。

 

「私はモンスターをセット、カードを四枚セットしてターンを終了する」

 

 しかし百代は残る全ての手札をセットしてターンを終える。翔が「えぇっ!?」と声を上げ、隣の席の十代は何かを察したように「あ~」と頷き、その他の観客達はざわめき始める。ナポレオン教頭が慌てて「静かにするデアール!」と呼びかけていた。

 

 

 サベージ・コロシアム

 フィールド魔法

 フィールド上に存在するモンスターが攻撃を行った場合、そのモンスターのコントローラーはダメージステップ終了時に300ライフポイント回復する。

 このカードがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。

 エンドフェイズ時、ターンプレイヤーのフィールド上に表側攻撃表示で存在する攻撃宣言をしていないモンスターを全て破壊する。

 

 

「く、くく……はっははははは!」

 

 会場内がざわめく中、五階堂は可笑しそうに爆笑し始める。

 

「手札事故とは、やっぱりお前の主席はまぐれだったようだな。僕のターン、ドロー!」

 

 得意気に笑い、カードをドロー。ニヤリと微笑んだ。

 

「しょうがない、エリートとして一撃で片づけてやる。僕は手札を一枚捨てて装備魔法[閃光の双剣-トライス]を切り込み隊長に装備! このカードを装備したモンスターは攻撃力が500ポイント下がる代わりに二回攻撃が可能になる!」

 切り込み隊長 攻撃力:2000→1500

 

 切り込み隊長の左手に握る剣が細身の光輝く剣へと変わる。その次の瞬間、彼の場の二体のモンスターが光に包まれた。

 

「僕は切り込み隊長と荒野の女戦士を生贄に捧げ、[ギルフォード・ザ・レジェンド]を召喚!!」

 ギルフォード・ザ・レジェンド 攻撃力:2600

 

 二体の戦士を贄に大剣を担いだ巨漢の戦士が出現。大剣を杖のようにして地面に突き立て、それを両手で支えるポーズになる。しかしそのプレイングに翔が首を傾げた。

 

「せっかく装備魔法を装備したのに、なんで生贄に?」

 

「ふん、所詮はレッドだな。ギルフォード・ザ・レジェンドの効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる!」

 

 翔の怪訝な言葉を聞き取ったか、五階堂は高らかにそう宣言。同時にギルフォード・ザ・レジェンドも大剣を掲げた。

 

「墓地の融合武器ムラサメブレード、稲妻の剣、閃光の双剣-トライス、そして伝説の剣をギルフォード・ザ・レジェンドに装備! 攻撃力はムラサメブレードと稲妻の剣で800アップ、伝説の剣で300アップ、閃光の双剣-トライスで二回攻撃効果の代わりに500ダウン、しかし合計1400ポイントのアップだ!」

 ギルフォード・ザ・レジェンド 攻撃力:2600→4000

 

 ギルフォード・ザ・レジェンドの左腕がムラサメブレードと融合、右手には伝説の風格を漂わせる剣を握り、さらにその剣に雷が宿った二刀流の形に変化する。

 

「こ、攻撃力4000!? しかも二回攻撃可能!?」

 

「しかも、閃光の双剣-トライスは発動の際に手札を一枚捨てなければならない欠点がある。しかし彼はそのディスアドバンテージを装備魔法をコストにする事でギルフォード・ザ・レジェンドの効果に繋げて軽減してみせた」

 

「あ、三沢君。いたの?」

 

「いたよ!」

 

 いきなりの圧倒的な攻撃力と手数を両立させたモンスターの出現に翔が悲鳴を上げると、後ろの席に着いている三沢が彼のプレイングを解説。翔が振り向いて三沢の存在に気づくと彼もツッコミを返した。

 

「この二回攻撃で終わりだ! ギルフォード・ザ・レジェンドで守備モンスターを攻撃!」

 

 [はああぁぁぁっ!!]

 

 主の指示を受け、伝説の剣士が百代の場のモンスターに斬りかかる。剣と融合した左腕を掲げ、勢いよく振り下ろす。それは彼女の場のトマトのようなモンスターを容易く切り裂いた。

 

「破壊された[キラー・トマト]の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター一体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる!」

 

「チッ、しぶとい。だがサベージ・コロシアムの効果で僕のライフが回復する」LP4000→4300

 

 百代の場のカードの効果で五階堂のライフが回復。しかしそんな事気にしていない百代の頬が吊り上がった。

 

「さあ出でませ、我が相棒、我が魂の同胞。そして我がフェイバリットモンスター、[ユベル]!!!」

 [やっと出番か。待ちわびたよ、百代]

 ユベル 攻撃力:0

 

 彼女の場に現れたのは、彼女の仲間である精霊ユベルの姿。腕組みをして颯爽と彼女の場に現れたユベルは蠱惑的な笑みを浮かべて相手の場を見据える。

 しかし五階堂は小馬鹿にしたような笑みを崩していなかった。

 

「ふん、そんな攻撃力0の雑魚がフェイバリットだって? 所詮落ちこぼれの妹はブルーだろうと落ちこぼれだな。いや、女子というだけでオベリスクブルーにいるだけの落ちこぼれには変わりないか……トライスを装備したギルフォード・ザ・レジェンドは二回攻撃が出来る! これで終わりだ!!」

 

 五階堂が叫び、再びギルフォード・ザ・レジェンドが今度は右手の剣で攻撃しようと右手を振り上げる。

 

「この瞬間、トラップ発動[リビングデッドの呼び声]! 墓地のキラー・トマトを攻撃表示で特殊召喚!」

 キラー・トマト 攻撃力:1400

 

「ふん、今更何をしようが変わらない! ユベルを攻撃対象に、攻撃続行だ!!」

 

 百代の場に先程破壊されたトマト型のモンスターが出現。しかし五階堂は何も気にせずにユベルへと攻撃を続行した。

 

「あー……こりゃ、終わったな」

 

「ア、アニキ!? 諦めるなんてアニキらしくないっすよ!?」

 

 その光景を見た十代が呟くと、それをどう取ったのか翔が兄貴分へと訴えかける。

 

「んなこと言ってもさー……これ、モモとユベルの必勝パターンだし」

 

「……え?」

 

 十代の引きつった笑みでの呟きに翔が呆けた声を出す。その時、百代の場のカードがもう一枚翻った。

 

「トラップ発動[ナイトメア・デーモンズ]! 自分フィールドのモンスター一体を生贄に捧げる事で、相手フィールドに[ナイトメア・デーモン・トークン]三体を攻撃表示で特殊召喚する! ただし、ナイトメア・デーモン・トークンが破壊された時にそのコントローラーは一体につき800ポイントのダメージを受ける。私はキラー・トマトを生贄に捧げ、ナイトメア・デーモン・トークンを相手の場に三体特殊召喚!」

 

「は!? 仮にも攻撃力が高いモンスターを生贄に捧げただけじゃなく、僕の場に高攻撃力のトークンを特殊召喚!?……クク、血迷ったにも程があるだろう? まあいい……ギルフォード・ザ・レジェンド! 改めてユベルを斬り倒せ!!」

 ナイトメア・デーモン・トークン ×3 攻撃力:2000

 

 [はああぁぁぁっ!!]

 

 キラー・トマトが闇に包まれて消滅し、五階堂の場に三体の悪魔のトークンが出現。そのプレイングに五階堂は一瞬目を丸くした後、再び可笑しそうに笑って攻撃を宣言。ギルフォード・ザ・レジェンドの右手の剣が振り上げられる。

 

 [うわあああぁぁぁぁっ!!!]

 

 そして振り下ろされた伝説の稲妻の剣はユベルを間違いなく捉え、ユベルの悲鳴が響く。翔が「あー!」と叫び、十代が「あー……」と声を漏らす。

 

「僕の勝ちだ!」

 

 攻撃力4000のモンスターで攻撃力0のモンスターを攻撃。デュエルモンスターズの基本ルール上、これでワンショット・キルが成立。五階堂は己の勝利を疑わずにガッツポーズを取った。

 

 [……なーんてね]

 

 しかし百代の場で倒れていたユベルはなんでもなさそうに立ち上がる。しかも百代のライフポイントは無傷の4000を示していた。

 

「な、なんだと!? そんな馬鹿な……」

 

「ユベルは戦闘では破壊されない特殊なモンスター」

 

「だ、だけど、ダメージ計算は通用するはず!」

 

「それも通じない。ユベルの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。そして――」

 

 淡々と説明する百代は、そこまでいって端正な頬を口が裂けんばかりに吊り上げた。

 

「――フィールド上に表側攻撃表示で存在するユベルが相手モンスターに攻撃された場合、そのダメージ計算前に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

「な、なんだって!?」

 

 

「ギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力は4000……つまり4000のダメージ!?」

 

 百代の宣言に五階堂が驚き、翔がダメージ量を言い当てる。

 

 [さあ、痛みを分け合おう! ナイトメア・ペイン!!]

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」LP4300→300→600

 

 ユベルの効果により、五階堂のライフが一気に削られる。

 

「サベージ・コロシアムの効果で回復していてよかったですね?」

 

「ぐ、ぐぐ、くっそう! 僕はこれでターンエン――」

 

 百代の慇懃無礼な言葉が五階堂に突き刺さる。サベージ・コロシアムの効果で回復していなければ逆にワンショット・キルが成立しており、五階堂は悔しさに唸りながらターンの終了を宣言しようとする。

 しかしその時彼のデュエルディスクが警告を示すブザー音を鳴り響かせた。

 

「な、なんだ!?」

 

「サベージ・コロシアムの効果をお忘れなく」

 

「なんだって? サベージ・コロシアムの効果は攻撃後に攻撃モンスターのコントローラーのライフを300ポイント回復する。そして……あっ」

 

 ブザー音に驚く五階堂に、その警告の理由を知る百代が呼び掛け、五階堂はさっきのターン説明されたサベージ・コロシアムの効果を復唱。そこで思い出したように声を漏らした。同時に三沢も腕を組み、こくりと頷く。

 

「そう。サベージ・コロシアムがフィールド上に存在する限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなければならない。そして今五階堂君の場には三体のナイトメア・デーモン・トークンが存在する。あれらもまた彼の場に攻撃表示で存在するモンスター。故にサベージ・コロシアムの効果により、攻撃が強制される」

 

「しかも攻撃対象に出来るのはユベルだけ。ユベルの効果でダメージを跳ね返されたら……」

 

「一体につき2000、三体で6000……例え初期ライフでもワンショット・キルが成立するな」

 

「だから言っただろ? モモとユベルの必勝パターンだって」

 

 三沢が解説、翔がリアクション、十代がそう締める。

 

 [さあ、ナイトメア・デーモン・トークン! 僕に攻撃を仕掛けてこい!!]

 

 そのコンボ解説教室が終わるタイミングを見計らったようにユベルがそう叫んで額の目を輝かせると、ナイトメア・デーモン・トークンが操られたように攻撃を強制開始、ユベルに殴りかかる。

 

「ま、待て! 待つんだ!!」

 

 思わず五階堂が静止を呼びかけるが、もう攻撃は止まらない。ナイトメア・デーモン・トークンの拳がユベルの腹に突き刺さった。ユベルの顔が苦悶に歪んだ後、快感を得たようにとろけるような笑みを見せる。

 

「ユベルの効果により、ユベルは戦闘では破壊されず、私への戦闘ダメージも0になる。そしてナイトメア・デーモン・トークンの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 [ああ、いい痛みだね……お返しするよ。ナイトメア・ペイン!!]

 

「ま、待て、待ってくれ……うわあああぁぁぁぁっ!」

 

 もはや守ることすら出来ずにユベルのバーン効果が五階堂へと襲い掛かり、大爆発のソリッドビジョンが彼を包み込む。

 

「勝者、マドモアゼルゆう――」

「待ってください」

 

 だがこれで勝者は決定、とナポレオン教頭は勝者の名を宣言しようとする。しかしそれを百代自身が遮った。そしてソリッドビジョンで生み出された煙が晴れていく。

 

「……え?」LP6300

 

 そこにはライフがむしろ回復している五階堂の姿があった。しかしその当の五階堂本人ですら何が起きたのか分からないというように立ち尽くしており、自分の敗北どころか自分がまだ負けていない事すら把握できていないような様子で呆けていた。

 

「私はナイトメア・デーモン・トークンの攻撃宣言時、リバース・トラップを発動していた」

 

 百代がそう宣言。確かに彼女の場には一枚のカードが翻っていた。

 

「トラップカード[ヒロイック・ギフト]。このカードは相手のライフポイントが2000以下の場合に発動でき、相手のライフポイントを8000にして自分のデッキからカードを二枚ドローする」

 

 

「つまり、ナイトメア・デーモン・トークンが攻撃した時点で五階堂君のライフは8000になっていた。そこからユベルの効果でダメージを受け、サベージ・コロシアムの効果で回復。たしかにライフは6300になる計算だ」

 

「でもなんで? 放っておけば勝てたのに……」

 

 百代は五階堂に初期ライフの二倍ものライフを与える代わりにカードをドロー。三沢がライフ計算と解説を行い、翔が目前の勝利を捨てた事を不思議に思う。

 

「お兄様を侮辱した者が、そう簡単に楽になれると思うな……ユベル!」

 

 [ああ! さあ、残る二体のナイトメア・デーモン・トークンよ、攻撃してくるんだ!]

 

 百代とユベルの叫びで二体のトークンがユベルの魔眼によって操られ、ユベルに攻撃。

 

「[ナイトメア・ペイン!!!]」

 

「うわあああぁぁぁぁっ!!」LP6300→4300→4600→2600→2900

 

 そしてユベルの効果によって百代は無傷に終わり、大ダメージが五階堂に跳ね返される。

 

「これで全てのモンスターのバトルが終了する」

 

「く……僕はこれでターンエンドだ!…(…あのコンボは驚いたが、あのカードの効果はこっちから攻撃を仕掛けなければ発動しない……ここはデッキにある[流星の弓-シール]を引き当てるまで守備でしのぐ……)」

 

 8000まで回復したライフがあっという間に半分以下まで落ち込み、五階堂は悔しそうに唸ってターンエンドを宣言。しかしその頭の中ではユベルの弱点を推測、次の戦略を練り始めていた。

 

 

 キラー・トマト

 効果モンスター

 星4/闇属性/植物族

 攻1400/守1100

 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 ギルフォード・ザ・レジェンド

 効果モンスター

 星8/地属性/戦士族

 攻2600/守2000

 このカードは特殊召喚できない。

 このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる。

 

 ユベル

 効果モンスター

 星10/闇属性/悪魔族

 攻 0/守 0

 このカードは戦闘では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが相手モンスターに攻撃された場合、そのダメージ計算前に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 また、自分のエンドフェイズ時、このカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースするか、このカードを破壊する。

 この効果以外でこのカードが破壊された時、自分の手札・デッキ・墓地から「ユベル-Das Abscheulich Ritter」1体を特殊召喚できる。

 

 閃光の双剣-トライス

 装備魔法

 手札のカード1枚を墓地に送って装備する。

 装備モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

 装備モンスターはバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 伝説の剣

 装備魔法

 戦士族のみ装備可能。

 装備モンスター1体の攻撃力と守備力は300ポイントアップする。

 

 リビングデッドの呼び声

 永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

 そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

 このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

 そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 ナイトメア・デーモンズ

 通常罠

(1):自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。

 相手フィールドに「ナイトメア・デーモン・トークン」(悪魔族・闇・星6・攻/守2000)3体を攻撃表示で特殊召喚する。

「ナイトメア・デーモン・トークン」が破壊された時にそのコントローラーは1体につき800ダメージを受ける。

 

 ヒロイック・ギフト

 通常罠

 相手のライフポイントが2000以下の場合に発動できる。

 相手のライフポイントを8000にして自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「ヒロイック・ギフト」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 百代が勢いよくカードをドロー。そのカードを手札に入れ、また別の手札を一枚取る。

 

「魔法カード[マジック・プランター]を発動。私の場に表側表示で存在する永続罠、リビングデッドの呼び声を墓地に送り、デッキからカードを二枚ドローする」

 

 蘇生対象を破壊せず、ナイトメア・デーモンズの発動コストとして生贄にしたため意味もなく残っていた永続罠を墓地に送り、ドローを加速。ドローカードを見てニヤリと笑った。

 

「パーツは揃った……このターンで決めるよ、相棒(ユベル)

 

 [オッケー]

 

 相棒(ユベル)へと声をかけ、ユベルも了承。百代はデュエルディスクにカードを差し込む。

 

「魔法カード[アドバンスドロー]を発動! 自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター一体を生贄に捧げる事で、デッキからカードを二枚ドローする。私はレベル10のユベルを生贄に捧げ、カードを二枚ドロー!」

 

 [フフフ……]

 

 その言葉と共にユベルが闇に溶け、まるで闇の水たまりのようなものが出現。その闇が二枚のカードを吐き出して百代の手札に加わる。己の切り札を自分から消し去るプレイングに会場内がまたざわつき始めた。

 

「フン、自分を守ってくれる切り札を自分から排除するなんてな。だがこれでお前を守るものは消えた! 次のターン覚悟しろ!」

 

「次なんてない」

 

 五階堂も厄介な壁であるユベルが消えた事で得意満面になり、次のターンでの一斉攻撃を宣言。しかし百代は静かに返し、それと共に彼女の場に伏せられたカードが翻る。

 

「リバース・マジック、[デーモンとの駆け引き]発動。このカードはレベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができ、私の手札またはデッキから[バーサーク・デッド・ドラゴン]一体を特殊召喚する」

 

 ゴポリ、と闇の水たまりが音を立てて泡を噴き出す。ドロリ、と水たまりが粘着質になって百代の場に広がっていく。それは既に水たまりではなく闇の泉。

 

「さあ、相棒。今こそ生まれ変われ、狂いし竜の骸を呼び起こし、その魂に成り代われ!!」

 

 百代の口上と右腕を掲げるポーズに合わせて泉が爆発。

 

「出でよ、[バーサーク・デッド・ドラゴン]!!!」

 [ギョゴオオオォォォォッ!!!]

 バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力:3500

 

 泉の中から巨大なドラゴンが出現し、産声のように咆哮を上げる。しかしそれはまるでノイズが混じったような耳障りで気が狂いそうな雑音であり、周りの観客は思わず耳を塞いでいた。

 

 [フフフ、相変わらず妙な感じだねェ。でも、なンだか落ち着くような気もするよ]

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンの中から聞こえてくるユベルの声。バーサーク・デッド・ドラゴンと一体化したユベルの声もノイズや震えが混じっているように百代の耳には聞こえていた。

 

(こ、攻撃力3500だと……だがギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力の方が上回っている。ナイトメア・デーモン・トークンを攻撃されても、バーン含めてもダメージは2300、まだ耐えきれる。返しのターンにギルフォード・ザ・レジェンドで攻撃して戦闘破壊、残るトークンの連続攻撃で終わりだ!)

 

 五階堂も耳障りな咆哮をむしろ間近で聞いているのだが、観客のように耳を塞ぐことはなく、むしろ戦意を絶やさないように戦術の思考を行っていた。

 

「速攻魔法[蛮勇鱗粉(バーサーク・スケールス)]を発動。私の場のモンスター一体の攻撃力を1000ポイントアップさせる。ただしこのターン相手プレイヤーに直接攻撃できず、このターンのエンドフェイズ時、攻撃力は2000ポイントダウンする」

 バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力:3500→4500

 

「な……」

 

 不思議な鱗粉が百代の場を舞い、それを浴びたバーサーク・デッド・ドラゴンが興奮して攻撃力が上昇。五階堂も自らの計算が狂い、怯んだように表情を引きつかせる。

 

「バトル」

 

 そして百代はバトルの開始を宣言。

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでギルフォード・ザ・レジェンドを攻撃! バーサーカー・ヘル・ブレス!」

 

「なに!? ぐああぁぁぁっ!!」LP2900→2400

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンが頭をもたげ、口からブレスを放ってギルフォード・ザ・レジェンドを粉砕。五階堂にもダメージを与える。しかしわざわざ一番ダメージの低い相手を狙ったことに観客が怪訝な表情を見せていた。

 

「終わりだな」

 

 ただ一人、百代のデュエルを理解している十代を除いては。

 

「サベージ・コロシアムの効果で回復。そしてバーサーク・デッド・ドラゴンは相手フィールド上の全てのモンスターに一回ずつ攻撃出来る!」LP4000→4300

 

「な、なにぃ!?」

 

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでナイトメア・デーモン・トークンを攻撃すれば戦闘ダメージだけで2500、さらにナイトメア・デーモン・トークンの破壊時のバーン効果で800ダメージが追加される。実質一体破壊で3300のダメージという事になる」

 

「それが三体分……3300の三倍で9900って事っすか!?」

 

 百代の宣言に五階堂がのけぞり、三沢がライフを計算、翔が仰天のリアクションを取る。

 

「ま、待て! 待ってくれ!! やめろぉ!!!」

 

「やめろと言われましても、私もサベージ・コロシアムの効果でバーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃が強制されておりますので」

 

 五階堂が悲鳴を上げるが百代は構うことなく、むしろ慇懃無礼な態度でしれりと答える。バーサーク・デッド・ドラゴンもそれに応えるように一鳴きしてみせた。

 そして百代がギロリと五階堂を睨みつける。その目からは黒い光が漂い、さらに彼女を禍々しい怒りのオーラが包む。

 

「お兄様を――」

 [十代を――]

 

「[―—侮辱した罪、地獄の底で後悔しろォ!!!]」

 

「バーサーク・デッド・ドラゴンでナイトメア・デーモン・トークン三体を全体攻撃!! ゲブリュル・アイネス・フェアリュックト・ドラッヘ!!!」

 [ギャオオオオォォォォォッ!!!]

 

 百代の攻撃宣言と共にバーサーク・デッド・ドラゴンが咆哮。耳障りな咆哮に観客が耳を塞ぎ、その咆哮は物理的な威力を持つ衝撃波となって五階堂の場を蹂躙。彼の場の三体のナイトメア・デーモン・トークンが粉砕される。

 

「うわああああぁぁぁぁぁっ!!!」LP2400→-7500

 

 その合計ダメージは五階堂のライフを0にするどころか、ヒロイック・ギフトで与えられた初期ライフの倍でさえも瀕死に陥るほどのものだった。

 

 

 バーサーク・デッド・ドラゴン

 効果モンスター

 星8/闇属性/アンデット族

 攻3500/守 0

 このカードは「デーモンとの駆け引き」の効果でのみ特殊召喚が可能。

 相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃が可能。

 自分のターンのエンドフェイズ毎にこのカードの攻撃力は500ポイントダウンする。

 

 マジック・プランター

 通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。

 自分はデッキから2枚ドローする。

 

 アドバンスドロー

 通常魔法

 自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。

 デッキからカードを2枚ドローする。

 

 デーモンとの駆け引き

 速攻魔法

 レベル8以上の自分フィールド上のモンスターが墓地へ送られたターンに発動する事ができる。

 自分の手札またはデッキから「バーサーク・デッド・ドラゴン」1体を特殊召喚する。

 

 蛮勇鱗粉

 速攻魔法

 自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、

 このターン相手プレイヤーに直接攻撃できない。

 このターンのエンドフェイズ時、選択したモンスターの攻撃力は2000ポイントダウンする。

 

 

「勝者、マドモアゼル遊城!」

 

 今度こそデュエルが終了。ナポレオン教頭の宣言が響き、会場が歓声に包まれる。

 

「そんな、そんな馬鹿な……」

 

 五階堂は目の前の光景が信じられないという様子でガタガタと震えていた。

 相手はまぐれで入学主席を奪い取っただけ、デュエルアカデミアの中等部でトップを取った自分が負けるはずがない。そう思って五階堂は百代にデュエルを挑んだ。

 しかし現実は彼のライフが0を示し、対して相手のライフはサベージ・コロシアムの効果でさらに900ポイントライフが回復して合計5200。つまり一ポイントのダメージも受けていない事を無情にも示していた。

 

「相手はオシリスレッドの落ちこぼれに負けるような奴だ……それなのに、エリートである僕が負けるはずが……」

 

 顔を伏せ、下を見て必死で目の前の現実を否定しようとする五階堂。しかし中等部でトップを取った頭脳が現実を突きつける。自分は相手に一ポイントのダメージを与えてすらいない、そして同時に、自分は百代のカードの効果で何度かライフを回復し、そのおかげで敗北を免れてた。

 一つ、サベージ・コロシアム。あれは元々ユベルの効果を最大限に活かすために相手に攻撃を強制させるためのカード。多少ライフを回復させようと、それ以上のダメージを与えれば問題ないという脳筋染みた理屈で投入されたのだろうカードだ。

 しかし彼はユベルの効果を警戒せずにサベージ・コロシアムの有無に関係なく攻撃を仕掛けていた。つまり、もしもサベージ・コロシアムの効果による回復がなければ装備魔法で強化したギルフォード・ザ・レジェンドの攻撃力4000のバーンダメージを受けてあの時点で敗北していた。

 二つ、ヒロイック・ギフト。アレに関しては間違いなく、次のターンでの虐殺に繋げるための布石、彼をただ甚振るための罠に過ぎない。しかしそれで彼の敗北が阻止され、次のターンでの逆転を狙う希望を持てたのもまた事実。

 

 つまり、五階堂は実質百代のカードによるサポートがなければ三回敗北していたも同義。そしてそれなのに彼は百代に一ポイントのダメージを与えてすらいない。それほどまでの差が二人の間には存在していた。

 

「あ、あ、あああああ……」

 

 それを彼は理解してしまい、顔を上げる。百代がにっこりと微笑み、その横で異形の怪物――ユベルが同種の笑みを浮かべる幻覚を彼は幻視する。

 

「あ、ああ……」

 

 その笑みから思わず目を逸らす五階堂。しかしその先にも視線はある。

 五階堂が自分の華々しい勝利と真の主席の座を勝ち取る姿の目撃者とするべくして集めた全校生徒。

 

「み、見るな……」

 

 しかし実際に見せてしまったのは自分の完膚なきまでの敗北という醜態。視線から逃れるために必死で顔をあちらこちらに向けるが、360度逃げ場なく、全方向から降り注ぐその視線が彼に突き刺さる。

 ザリ、と五階堂は無意識に一歩下がる。ボキリ、と彼の中で何かが折れる。

 

「ぼ、僕を見るなああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 直後、五階堂は発狂したように叫んでデュエルアリーナを走り出ていくのであった。

 

 

 かくして、外部入学では主席合格という結果を残し、中等部トップの成績で高等部に編入した五階堂宝山を下したことにより名実ともに今年度新入生トップの座を確かなものとするという鮮烈なデュエルアカデミア高等部デビューを果たした遊城百代。

 

 これは後に「デュエルアカデミアの狂姫(きょうき)」と呼ばれる事になる少女の物語、その序章である。




 というわけで、「遊戯王GX~もしも十代にHERO使いの(ユベルに認められたヤンデレブラコン)妹がいたら~」。これにて終幕です。短い間でしたが応援ありがとうございました。

 ぶっちゃけまして、もうネタがありません!
 元々「オリジナルM・HERO作ったし書いてみよー」&「じゃあせっかくだし十代に妹がいたらって設定にして、せっかくだからユベルも持たせてヤンデレにしちゃえ!」というだけで書いてたんですから。そのオリジナルM・HEROもVS翔で出し切ったし、ユベルデッキによる虐殺もVS五階堂で書いた今、このお話を続ける理由がないと言いますか……ストーリーネタはホントにないし、これ以上無理に続けたところで絶対グダってエタる。そんなの作者も読者も誰も幸せにならない。
 というか本来は前編がVSクロノスでM・HERO、後編がVS五階堂でユベルを予定してまして、実はVS翔は思ったよりM・HERO出せなかったからM・HERO使用デュエルのカサ増しのために突っ込んだものですし。まあVS五階堂に持っていくための繋ぎというのもありますけど。

 さて、最終回を飾る相手は五階堂宝山君。アニメGXでは万丈目がスター発掘デュエルで戦った、中等部トップで装備ビート使いの男の子ですね。オリカがめっちゃあったけど、今回は使いそうにないしとオリカは全削除してOCGの戦士族装備カードに持ち替えさせました。
 んで、アニメでも最初は万丈目をリスペクトしてる様子だったけど、おジャマを使う万丈目に幻滅してからはレッドの落ちこぼれと見下す態度を取り始めたところから、その同じ落ちこぼれ(=遊城十代)をリスペクトしている百代にも、トップの座を奪われた事も含めて攻撃的に当たっているという設定です。
 だがしかし、百代を攻撃する流れで十代を侮辱するという百代にとって最大の地雷を盛大に踏み抜いたことで「テメーは俺を怒らせた」状態になった百代の前にサベージ・コロシアムで生かされ(ここは本来の動き通り)、ナイトメア・デーモン・トークンの自爆をヒロイック・ギフトで生かされ(十代を侮辱した相手を簡単に楽にさせないための特別プレイ)、最後はバーサーク・デッド・ドラゴンで蹂躙されて完敗。プライドと心をへし折られました。まあクロノス先生も丸くなったし、一年前の万丈目ほど酷い目には合わないでしょ、多分。
 この後へし折られたプライドを持ち直して十代にとっての万丈目的な百代のライバルポジションになるのか、それともへし折られたまま持ち直せず転落していくのか……それは僕にも分かりません。(意訳:どうせ今回で最終回だしと考えてない)

ちなみにバーサーク・デッド・ドラゴンの全体攻撃はユベルの第二形態第三形態がドイツ語である事から、「狂った龍の咆哮」になるようにドイツ語をネット検索して調べて繋げ合わせました。
自分はドイツ語はさっぱり分からないので、これで合ってるのかよく分かりませんが。間違ってても目を瞑っていて下されば嬉しいです。

 改めまして、本作はこれにて終幕。短い間でしたが応援ありがとうございました。ついでに遊戯王繋がりってことで新作を宣伝。
 もしも魔法少女リリカルなのはに興味があるならば、なのは×遊戯王という何番煎じか分からないクロス小説[魔法決闘リリカルなのはモンスターズ]をよろしくお願いします!

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