ロリコン☆ドラグーン 作:王蛇専用ガードベント
ーーーーーリブルア大陸で最も巨大な領土圏を誇るメトロクロ王国の首都、レオラン。
その中心部にある警備局の一室で、取り調べが行われていた。
「またお前か……クラン」
そう、警備局の職員である男はぽりぽりと頭を掻きながら、慣れたことのように目の前の少女に向けて呆れたように言い放った。
「これで何回目だ?38回目か?」
「……49回目です」
少女は左目にかかっている黒髪を払ってから、真剣な表情で男を見つめる。
その顔は女性にしては凛々しい顔立ちで、なおかつ花のような可憐さと美しさも兼ね備えていた。その顔立ちであれば、あまねく男達のみならず、一部の女性すら虜に出来るだろう。
クラン・
年齢は今年で16。性格、容姿、頭脳、身体能力全てにおいて優秀な能力を持つ神童とも呼ぶべき逸材である。
……だが、当然とも言うべきか、この世に完全な人間がいないようにクランにもたった一つ、欠点があった。
「今回も、幼女絡みか?」
「……ハイ」
その言葉に「だろうなぁ」と男は溜息をつく。
「えーっと。今回お前はレオラン市内にある幼稚園の近くで、園児が丁度帰宅する午後2〜3時頃に徘徊している所を不審に思った警邏に捕まった訳だが……何か言うことはないか?」
「幼女可愛かったです」
「お前拘留な」
彼女はーーーーーとんでもないロリコンであった。
今日までに警察にお世話になった回数は数知れず。投獄された事はないものの、厳重注意や罰金刑は何度も経験している札付きである。
更に言えば捕まっていないもの、犯罪スレスレのものも含めれば人が一生の内に食べるパンの数と同等になるだろう。
そしてその全てが幼女に関連した案件。相手を殺したり怪我させたりしたことは決してない。……というか折角恵まれた才能をそんなことになぜ使ってしまったのか
そしてクランには幼女に対して「決して触らない」という規律を自らに課しており、それ故に「不審者」止まりで済んでいるのだ。
「ちょっ⁉︎待ってよエリン叔父さん‼︎私はただ見てただけ、幼女には指一つ触れてはいないから‼︎」
職員……いや、叔父のエリンに拘留を言い渡されたクランは顔を青ざめさせながら必死に弁明する。
「エリン叔父さんだって知ってるでしょ、私が今までに幼女に触れたことすらないってことは‼︎」
「ああ。それぐらい分かってるさクラン。……だけどな」
そこで一旦言葉を区切り、長らく座っていた椅子から立ち上がって、エリンはクランの顔を改めて見つめる。
「俺は過去のことはどうでもいいんだ。終わっちまったことはどうにもならないからよ。けどな、未来のことは変えられるから重要だ。
クラン、正直に言う。いつかお前が幼女に手を出すんじゃないのかって俺はハラハラしてるんだよ」
彼は知っている。クランが今までにどんな幼女絡みの事件を引き起こしてきたのかを。だからこそ、クランが今自らに課している楔を解き放ったらどうなるのかを真に恐れ、そして彼女を心配しているのだ。
「大丈夫だよ。私は決して、絶対に幼女には手を出さない」
そんなエリンの心配を悟り、クランは自信ありげに笑って宣言する。エリンの想像しているようなことは決してしないと。
「大体捕まったら幼女を見られないしね。私の命は幼女で成り立ってると言っても過言じゃないから。
「はい
「ちょっ、私はまだ何も……アバーッ⁉︎」
思わず本音を漏らしたクランに、今回もエリンの卍固めが炸裂するのであった。
ΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦ
長々とエリンの説教を食らい、クランが解放されたのは夜も更けようという頃であった。
「いてて……エリン叔父さんったら酷いなぁ。私は決して手を出さないって言ってるのにコブラツイスト決めてくるなんて」
極められた身体中の関節を動かして問題ないかどうかを確認しながらクランはまだ肌寒い街の中をとぼとぼ歩いていく。
警備局からクランが住んでいる家までは少し離れており、普通に歩いてゆくと30分程の時間がかかる。
「っうう、寒〜……っ‼︎もうすぐ春なのに寒い〜……っ」
だが今日は少し勝手が違う。このまま真面目に歩いていけば風邪を引くこと間違いなしである。
なのでクランは近道を使うことを決心した。
その近道はクランが見つけた警邏である叔父エリンですら知らない裏ルート。
それは街にある迷路のような裏通りを通り街の水源であるジャッパ川沿いに抜ける形になっており、使えば普通に歩く半分の15分で家に帰ることができる。
ただクランがいつもこのルートを使わないのは裏通りは治安が悪く、犯罪に巻き込まれる可能性が高いからである。
「まあ、走って通れば問題ないんだけどね」
クランは一旦息を整えてから、裏ルートの入り口である行きつけのパン屋と民家の間の細い通路を走り始めた。
……ジャッパ川。それはメトロクロ王国一長い川であり、3つの街と2つの村にまたがってそこに住む人々に恵みの水を提供する必要不可欠な存在だ。
ことにレオランを通るジャッパ川は源流から一番近い為に、「レオランの水は世界一の旨さ」と言われる程に水が清い。
だが、海に近い下流においては汚物やゴミが処理の為に流されておりレオランとは真逆の評判となっている。
そんな矛盾を抱えた川の土手を、クランは喉の渇きを覚えながらとぼとぼと一人で歩いていた。
(……喉乾いたなぁ。長い距離走ったから、当然の話なんだけどさ。丁度ジャッパ川が近くにあるし、そこで水分補給でもしようかな)
乾きによって痛みが現れてきた喉と走って消費した体力を癒す為、彼女は草が茫々に生えているジャッパ川の側へと向きを変える。
川はいつものように穏やかに流れ、清い水は泳ぐ魚の姿すら鮮明に見える程である。
「……ふう……やっぱりこの川の水は美味しいなぁ」
クランはその清水で喉を潤し、暫しの休憩を挟む。
ふと、川面に映る自分と眼が合う。
片目を隠すような黒のショートボブ。ぱっちりと開いたサファイア色の瞳。桃色の滑らかでふくよかな唇。
一般的な男達が想像するであろう美人が、そこに存在した。
「なんで、私はロリに恵まれないんだろう……。顔も頭も恵まれたと思うけど、ロリにだけはどうしてこうも恵まれないのかな?
ロリに恵まれる為なら、喜んで何でも差し出す覚悟はあるんだけど」
他の人が聞けば「ウッソだろお前⁉︎」と卒倒されかねないことをさらりと口にするクラン。
だがクラン当人にとってはこれはまさしく死活問題であった。
彼女の人生は、ずっと幼女に恵まれなかった。
生まれてすぐに事故で両親を亡くし、山脈地帯に住む父方の元で長年暮らし、彼女の才能を伸ばす為13歳で母方の兄弟であるエリンの元に送られた。クランがロリコンであるのを自覚したのはその時だ。
同世代の子がいない父方の住む土地では知り得なかった幼女の素晴らしさを、あどけなさを、美しさをクランは幼稚園で遊ぶ幼女達を見て知ったのだ。
ただ、その時すでに遅くクランは幼女と触れ合える機会を失っていたのだった。
その悔しさは未だ彼女の心に鉄杭の如く深く、深く突き刺さっている。
それを思い出し、クランの胸が何か熱いもので塞がれる。
「はぁ……幼女と触れ合える機会、ないかなぁ……」
思わず、クランは心の底からの願望を吐き出した。
だが当然、何かが起こるわけがなく、クランはため息を吐く。
「……さて、そろそろ行くかな」
心に未だ残る寂しさを抱え、彼女は立ち上がってーーーーーー。
ふと、草むらの中に何か異様なものが転がっているのが目に留まった。
「……んん?」
暗い中クランは眼を凝らしてゆっくりとそれへと近づいていく。
「それ」はちょっとした大きさがあり、濡れた布で覆われていて、あちこちが破れている。その裂け目からは肌色の何かと灰銀色の毛が見えており……。
刹那、クランは真っ暗な闇の中でありながらその正体を悟った。悟ったと同時に、「それ」の元へと走り出していた。
どきんどきんと心臓が跳ね回っていたのは急に走り出したせいだけではないだろう。
クランは「それ」の元へとたどり着くと、僅かに震える息を吸って、小さく呟いた。
「……嘘、でしょ……⁉︎」
クランが草むらの中で見つけたのはーーーーー、
ボロボロになった服を纏った、ずぶ濡れの幼女であった。