いきなり過去回想に入ります。
柴崎楓の記憶は2歳半から始まる。
当時、彼女は父と母の3人暮らしで何不自由のない普通の生活を送っていた。
この頃、両親も少女にもたしかに幸福な日々があったと言えるだろう。
しかし、彼女の幸せは、それから3歳になるまで続くことはなかった。
彼女が記憶を刻み始めてから2ヶ月、父と母が他界する。
原因は、飲酒運転の一般車の追突である。一緒に乗っていた彼女は衝撃で気を失い、気がついた時には、両名他界して自分だけが入院しているという状況だった。
幼かった彼女は、もう両親に会うことが出来ないということだけは分かってしまい、ショックの余り感情が表に出づらくなってしまっていた。
しかし、不幸の連鎖は止まることはなかった。
数日後、施設に預けられるはずだった彼女は、施設に運ばれる矢先に闇に流されることになる。
施設職員の一人が、人身売買を行っていた為である。この人身売買は中々巧妙な手順を踏んでおり、狡猾に他の職員に気付かれること無く、何も知らない子供達を様々な場所へと売り捌いていたのである。
しかし、今回は少し様子が違う。
いつもは、ある程度吟味してから売り払う彼だが、如何せんクライアントから早くしろと期限迫られることもある。今回は、見事それが当てはまる。
期限に間に合わない故に、入る前の楓を横流ししてそのまま売り払う事にした、というわけだ。
心も体もボロボロでうんともすんとも言わない子供であったが、そのまま横流しされようとした時に、彼女に最大の転機が訪れる。
偶然にも、その現場を抑えに来た黒服の男達と、"木刀を構えた剣士"の様な男性がそのまま彼らに突貫するのである。現場に突入後、瞬く間に制圧する中で、その瞬間は訪れた。
「お前だけでも!」
凶弾が、楓に向かって放たれた。が、その弾丸は彼女に向かう最中、剣士のような男性が変わり身となり躍り出ることによって彼女は銃弾を受けずに済んだのである。
しかし、喜べることではない。
「ごっ、・・・はは、だい、じょうぶ、かい?」
血を吐きながら倒れてしまったその剣士に、彼女の心が大きく反応したのである。
このままでは、この人は死んでしまう。消えてしまう・・・両親のように。
嫌だ・・・
「止まってよ・・・!止まって!」
腹部から流れるそれを押さえつけながら少女は声を張り上げる。
「死ねぇぇええええ!」
さらに男が、取り押さえられながら弾丸を放つ。
このままでは、間に合わない。
「止まれぇーーーっ!」
声にならない声を上げながら、脳に強い衝撃を受けるような感覚と共に、それはそばに居た。
少女は、その時過去を思い出した。自身は、過去に生きていた人間であること。既に死んだはずであること・・・昔の自身の名前を、思い出したのである。
それの名前とともに
「クラフト・・・ワーク!」
迫り来る弾丸を弾き、そして彼女は驚きの行動に出る。
「クラフトワークッ!傷を固定しろぉ!止まれぇ・・・!」
彼女は、幹部に手を当て傷口を合わせるようにして、縫合するかのように固定したのである。
内臓まで達していて重大ではあったが、この固定がこの剣士の命を繋ぐ結果となる。この固定で止まったのは、その肉部分だけでなく、貫通した内臓に触れており、内部の出血を著しく抑えたのである。
その後、救護が来るまで持たせた後、少女は気を失い消え入るように倒れてしまった。
そして、このすぐ後、搬送途中の車の扉が"何故か"開き少女がそのまま飛び降りてしまったという。少女は、そのまま行方知れずとなってしまう。ただ、少女は終始申し訳なさそうにしていたことから、抱え込んでしまったと、思われる。
そして、彼女が飛び出した時、そこは陸橋の上、川の中に身を投げたらしい。探すにも重傷者がいるので、捜索はそのまま断念され搬送された。その後、必死の捜索も虚しく、少女は行方不明となった。
翌日の新聞の行方不明捜索欄に、真城 翔常(ましろ かづね)という少女の捜索欄が追加された。
私は、もう翔常とは名乗らない。そう呼んでいい人は、今はもう、私を守ってくれたあの人しかいない。
今のままじゃ弱過ぎる。今のままじゃ何もかも足りない。
あの剣士の人にも、迷惑をかけてしまうだけだ。
なら、強くなるしかない。私は1人でも・・・必ず、強くなる。
少女は、幼い体を、他人に見えない相棒に抱き上げられながら、闇夜に消えていった。