あべこべ?! ソードアート・オンライン 俺の受難な日々 作:あるく天然記念物
なんか、お気に入りの数がえげつない。
二話目でお気に入りが十倍になるとは。いやはや、こいつは驚きだ。
そんなわけで三話です
「さ せ ま せ ん よ───こぉおんのぉおおお──変態武具屋店主がぁぁぁああッ!!!!!」
「へっ? ────ごふぅぅぅぅうぅううっ??!!」
電光石火。
目の前で起こった出来事を表す場合、これ以上にあう言葉はない。
俺の自業自得で招き、女ってこの世界だと狼やぁ! と実感しつつリズベットにキスをされてしまう、まさにその瞬間。
一筋の黒い光がリズベットを吹き飛ばし、激しい音を立てながら彼女をカウンターに叩きつけた。
「大丈夫ですかお兄様!? 変態に何かされませんでしたか!?」
「…………えっ? あっ、あぁ大丈夫」
あまりの出来事に頭がぼんやりとしていたが、数秒時間が過ぎればあらかた整理がつく。
改めて俺を助けた黒い光を見るとそれは──キリトであった。というか俺に対してお兄様なんて言うのはキリトしかいないから当然と言えば当然か。
助けてもらえたことには感謝しかないが、それ以上にコイツに対して疑問が出てくるから率直に訪ねてみた。
「なぁキリト、なんでここにいるんだ? というか、なんでここにい俺がいるって分かったんだ?」
「そんなの、お兄様の行動は逐一把握してるからに決まってるじゃないですか。定例会が終わって確認してみれば、お兄様が変態武具店に入るの見て、何かあったら大変だと思って助けに来たんです!」
至極当然といった感じに言われてしまった。
どうやら主人公は、ストーカーという存在にまで堕ちてしまったようだ。
「いたた……誰よ、いいところをじゃましたヤツは……」
あっ、リズベットが復活した。
少し身体をよろめかせながら立ち上がるリズベット。
圏内での攻撃は不可視の壁に阻まれてHPは絶対に減少しないが、衝撃は普通に流してしまう。そのため圏内で攻撃を受けたプレイヤーは精神的にはダメージを負ってしまうため、今のリズベットのようになってしまう。
「あっ、リズベット、大丈──」
「まだ生きていましたか!! この変態がぁっ!!!!」
「夫──って、キリト君?!」
精神的に大丈夫かとリズベットに訪ねようとしたら、まるで止めをさしに行く勢いで片手剣を片手にキリトがリズベットに飛びかかった。
「死んでわびろぉおおお!!」
「くっ! やっぱりあんたの仕業だったのね、キリト!!」
しかしリズベット、予め想定していたかのように素早くメイスを実体化させ、キリトの片手剣を防いだ。
激しいライトエフェクトが店内を照らし、爆音に近い音が響く。
というかキリト君? 君、リアルで殺しに行ってるよねぇ?!
「とうとう本性見せましたね? お兄様がみんなに対して優しくしているのを勘違いしただけでなく、あまつさえその尊い唇を奪おうと!!」
「失礼ね! 私はオルフェ自身がお礼に“何でも”してくれるって言ってもらったからオルフェ自身を貰おうとしただけよ! つまり、私は正当なの! 一層攻略の時、たまたま助けてもらっただけで、ストーカーよろしくつきまとうあんたには一生分からないでしょうけどね!!」
「な、なんですと?! と言うかお兄様、そんな爆弾発言をこんな変態の前で言ったんですか?!」
「あぁ、その──はい」
「なんて危ないまねを?!」
ついうかっり。いや、テンションがおかしかったんです。本当に何であんなことを──って、後悔してる場合じゃねぇよ。
「とと、とりあえず二人とも落ち着け! さっきの出来事は……そう、事故! 事故だったんだよ!! というかそう言うことにして!! はいっ! 喧嘩はお終い!!」
おまえが言うな!
というセリフをどこから受けてもおかしくない事をぬかしつつ、俺は二人の仲裁をする。
圏内だから殺人事件は起きないとは思うが、放っておいたら完全決着の《デュエル》に発展しかねない。……そもそもの発端は俺だし。
「…………分かりました。お兄様がそう言うなら、そう言うことにしましょう。よかったですね、変態。命拾いしましたよ?」
「…………そうね、私もストーカーとはいえオルフェの友人を手に掛けたくなかったし」
「またまたそんなことを~(いつかぶちのめす!)」
「そんなこと無いわよ~(やってみろよ、ストーカー君?)」
何やら言葉の裏にものすごいトゲを感じてしまうが、どうにか二人は矛を収めてくれた。自分が招いた事ではあるが、この二人の俺に対する反応がオーバー過ぎて偶についていけねぇよ。
しかしながら、とりあえず貞操は無事に守れたようです。
ただ、ちょっぴり残念だと思ってしまう俺は、やはり少しだげクズなんだなと改めて自覚した。
…………
………
…
雪山って、どうしてこんなにも寒く、辛いのだろうか。
ザクザクと、足を一歩踏み出す度に雪によって足首まで埋め、再び踏み出しては埋める。
この作業が果てしないほどに永遠と続いてゆく。
そして追い討ちをかけるかのごとく吹き荒れる吹雪。寒さが尋常ではない。
日本でも毎年何人かは雪山で命を落とすらしいが、こんなに厳しい環境下での登山なら納得だ。もしゲームじゃなかったら俺の人生なんて二、三回くらいリセットしてると思う。
まあ、横を歩く二人には関係のない話かも知れんが。
「ほらオルフェ、そんな格好じゃ寒いでしょ? わ、私の上着を──」
「お兄様、これ、上着です。お兄様の為に夜なべして作り上げました。ですので、変態の上着なんか受け取らないでください。汚れてしまいます」
「………(ブチッ。ストーカーお手製の上着なんて何が仕込んであるのかわからないものより、私のを使った方がマシよ?」
「…………(ブチッ。何ですか、やるんですか?」
「そっちこそ。私は別に構わないわよ?」
「上等です。変態なんて、殺処分がお似合いです」
わーわー、ギャーギャー。
こんな雪山においてもキリトとリズベットは元気に喧嘩(デュエル)です。よくもまぁこんな悪環境の中ガンガン動けるものだと感心してしまう。
普通に考えたら二人を止めるべきであろうが、今の俺にはどうでもよかった。
別に寒さで思考回路が死んでしまったわけでも、苦行で心が疲れ果ててしまったわけではない。
その理由は俺の腕の中に───。
「オルフェさん、お二人を止めなくてもいいのですか?」
コテっと首を傾げてこちらを見上げる小柄なツインテールの女の子。
天使。
そうとしか表現のできないプレイヤー。その名は──シリカちゃん!!
小柄であり、可愛らしい容姿。ホント天使。それでいて俺に対して狼にならずにトテトテと後を追いかけてくる愛くるしさ。マジで天使。ご飯を食べるときには口いっぱいに物を頬張る小動物感。もうヤバいくらいに天使。
とにかく、そんな天使のシリカちゃんが俺の腕の中──俺がシリカちゃんを肩ごしに手を伸ばして抱きしめる形──に居るのだ。俺の憔悴しきった心は癒やされ、キリトとリズベットに対して慌てふためく事はない。とどのつまり、もの凄く癒されてます。リアルでシリカちゃんからはマイナスイオンでも発生してると思う。
「別にいいだろ。そのうち我に返って追いついてくるさ。それよりもシリカちゃん、寒くない? 寒いんだったらお兄さんにもっとくっついてもいいんだよ?」
「────ッ!!!!???? こここ、この状況でもててて、天国なゃのょに、ももも、もっとくっついても?!?! そそそ、それは───プシュー……」
処理しきれなかったか。
シリカちゃんは顔を慌てふためいたリズベット以上に赤くさせ、ガクッとよろめいてしまう。
もちろん紳士の俺はシリカちゃんを強く支える。
「大丈夫? ほら、しっかり」
「は、はふぅ。ありがとうございますオルフェさん。そのぉ……本当にもっとくっついてもいいんですか?」
再び俺を見上げてくるシリカちゃん。あぁもう、可愛すぎで悶え死にそうです。
「いいよ、シリカちゃんなら大歓迎さ。ほら、おいで」
「で、では、失礼して──」
ピトッと互いの体温がより親密になり、俺の腕をぎゅうっと握りしめるシリカちゃん。
あぁ、理想郷はこんなにも近くにあったのか。
『キュー』
「おっ、ピナさんも一緒にくっつくか──って、服の中に入ってくるのっ、や、やだピナさんくすぐったいって──あっ、そこは本当にくすぐったいってー!」
シリカちゃんのテイムモンスターであるフェザーリドラのピナさんは何を思ったのか俺の服の中に入り込み、もぞもぞと動き回ってくる。冗談抜きにくすぐったい。
『キュ~』
「はぁ……はぁ……」
あちこち舐めて満足したのか、俺の胸元からひょっこり顔を出してきた。
「……まったくピナさんは甘えん坊さんだな~って、シリカちゃん、鼻押さえてどうした?」
「…………い゛え゛、気にしないでください」
そうは言うが、顔が物凄く赤いシリカちゃん。もしかして霜焼けにでもなってしまったのだろうか。
「…………ねぇ、私たち、何してるんだろう」
「…………言わないでください。今真剣にお兄様のあの場所をちんちくりんから取り返す算段を考えているんですから。そしてあのトカゲはいい仕事をしてくれました」
「あんた、本ッ当にぶれないわねぇ。でもピナに関しては同意見よ」
後ろが急に静かになったと思えば、キリトとリスベットの喧嘩が収まっていた。二人ともシリカちゃん同様に鼻を押さえて。
二人とも霜焼けかと思ったが、二人に限ってそれはない。しかしながら真実を知れば俺の胃が更なるダメージを負うと感じたため、追求することを辞めた。
とぼとぼと二人は俺とシリカちゃんの後をついてきて、俺たち四人組の雪山登山は割と順調に進んでいった。
さて、どうして四人で雪山で登山をしていたのか。
それを説明するためには、時計の針を少し前に戻す必要がある。
リズベット武具店におけるキス未遂事件。
俺の必死の事故処理によって何とかあの場は収まった。
何事もなかったかのように解散宣言をし、強くなった相棒(バスターソード)を片手に試し斬りしに最前線である七十四層の迷宮区に行こうとした俺であったが、そこに待ったの声をかけたプレイヤーがいた。
リズベットだ。
俺は失念していた。原作ではそうではなかったのかも知れないが、この世界における女性、リズベットはただでは起き上がらない。
リズベットは俺に対し「何でもはやりすぎだったけど、お礼はもらえるのよね?」と、いい笑顔で話してきた。
さすがはリズベット、抜け目がない。
要求してきたのはとある鉱物の採掘クエストの同行。
なんでも今ある採掘クエストの中でも最も素晴らしい鉱物が手にはいるらしいが、そのクエストが受けられるのが五十五層なために一人だと安全マージンがとれないから一緒にきて欲しいと。
あれ? 五十五層での採掘クエストって、なんか覚えがあるな~、っと思った方は正解です。はい、本来ならキリト君が手伝い、後にダークリパルサーが生まれる、あのクエストです。
しかし、キリトとリズベットの様子を既に見たように、二人の中は悪い。根幹の原因は俺にあるのかも知れないが、それを抜きにしても壊滅的なまでに悪いのである。そのため、こっちのキリトは七十四層時点で二刀流のスキルこそ持ってはいるものの、未だにエリュシデータと対になる剣を持っていないのだ。
そこで俺は考えた。ここでリズベットのクエストに同行し、得た鉱物を使いキリトに片手剣を与えたら一石二鳥ではないか? と。
今後の攻略においてキリトの二刀流は必須だし、ここいらでダークリパルサーなり何なり手に入れておかなければ後々面倒に違いない。それにリズベットのお礼も同時にこなせる。まさに良いこと尽くし。
そんなわけで俺はリズベットの依頼を快く快諾。
だが、その俺に待ったをかけたプレイヤーがいた。
はい、キリトです。
キス未遂事件の事もあり、リズベットを敵視を超えた憎しみの視線で睨みつけることのできるキリトは俺とリズベットの二人だけでクエストに行くのに猛反対。
リズベットはリズベットでお礼だから二人で行きたいと主張するも──すっかり俺も忘れていたが──「ハラスメントコードを使われてもおかしくないことをしでかした事には変わりないです。というか死んでください」とキリトの反論によってあっさり論破。
結果、監視というなのキリトも一緒に行くこととなり、三人でクエストを受けることとなった。
そこまでは良かったのだが、その道中は常にリズベットとキリトが言い争いやらデュエルやらを行おうとして俺が仲裁する場面ばかり。
おかげさまで俺の精神はものすごくすり減らされまくった。
そんなときであった。俺が天使と再会したのは。
五十五層のクエストが受けられる場所になんとかたどり着いた──俺の精神は疲れ果てていた──俺たち。
さっそくそのクエストを発注しようとしたときであった。「オ、オルフェさーん」と、俺に遠慮しがちな声がかけられたのは。
その声に俺は条件反射で駆けだしていた。
最優先の音声確認。視界良好。脚力正常。全力全開、最初からフルパワーで行く!
どこからか聞こえる「待てって!! おい、刹◯!!」という幻聴を聞き流しつつ対象に抱きついた。
シリカちゃーーーーーーん!! と。
「にょわぁーーー!?」といった謎の奇声を上げながら俺に抱きつかれた存在こそ、俺の癒やし、マイスィートエンジェルことシリカちゃんである。
俺はすり減った精神をシリカちゃんに抱きつくことで補給しつつ、どうして五十五層にいるのか訪ねた。
男の俺に抱きつかれたことで顔を真っ赤にし、言葉に詰まりながらシリカちゃんはNPCから採取クエストを頼まれたのだと教えてくれた。ついでにその採取フィールドも俺たちと同じ場所とのこと。
ここまで来たらこの先の展開を予測するのは容易い。
行く先が同じなら一緒に行かないかと、俺はシリカちゃんを誘った。
俺の誘いに「えっ!? いいんですか!」とシリカちゃんは純粋に目を輝かせ、純粋とはかけ離れたキリトとリズベットが「「そんなのダメです(よ)!!」」と抗議してきた。
しかしながら俺の中では既にシリカちゃんをお持ち帰りするのは決定事項であるため二人の意見を無視し、クエストに同行させることにした。
以上が事の顛末。いやはや、これも全てシリカちゃんが天使なのが悪いのだ。俺は悪くない。
ここでシリカちゃんと俺の出会いを熱く語りたいが、それをすれば三日はかかってしまう。簡単に言えば、原作キリト君と同じことをしたのだ。下心? ははっ! 天使のシリカちゃんを始めて見たとき(小説)からあったさ!! よくやったぞ、俺!!
雪山を歩き続けて早一時間。ようやく麓の村にたどり着いた。
立ち並ぶ民家はどことなく日本の昔ながらの家屋を連想させる。
個人的には少し探索してみたいが、リズベットから特にめぼしいアイテムが売っているショップは無いと教えられようなので止める。
リズベット案内の元クエストを発注しているNPCが住んでいる小屋に入ると、そこには一人のお爺さんがいた。
リズベット曰わく、このお爺さんがクエストを発注しているNPC、村の長だそうだ。
「こんな寂れた村によくきましたな~。もてなす物もあまりありませんが、ゆっくりしていってくだされ」
お爺さんの後に付いていくと、五人ほどならゆっくり足を伸ばせるほどの広さがある居間へと案内された。暖炉の炎がが赤々と燃えており、部屋中を暖かく照らしている。
麓に着くまで雪山を登り続けていたため、休憩がてらお爺さんの言葉に甘え休むことに。
「シリカちゃんって、暖かいんだね~」
「わふぅーーッ?!」
「…………(ギリギリ)」
俺がシリカちゃんを抱きしめながら暖炉でほっこりする中(物凄い歯ぎしりが聞こえたのは気のせいだと思いたい)、リズベットは休むことなくお爺さんに話しかけた。
「お爺さんって昔鍛冶職人だったんですか?」
「ほぉ、よぉく知っとるなぁ~嬢ちゃん。少しばかりこの錆びてしまった爺さんの話を聞いて貰えんか? 実はのぉ─────」
────一時間後。
「憧れというモノを、ワシは子ども心ながらに抱いた。それでのぉ────」
────二時間後。
「いざ父親の仕事を手伝うことになったが、それは大変なことであった。なにしろやることなすこと全てが難しい。ワシは思わず────」
────三時間後。
「一人店を構え、打った武具が売れたとき、ワシは思わず目から涙を流した。世間から認められたと感じたからじゃ。そして────」
────四時間後。
「ワシは更なる武具を打つため、伝説の竜を探すことになった。それはそれは途轍もない旅であった。先ずやったことは────」
────五時間後。
空が夕暮れに染まる頃、ようやくクエストマークがお爺さんに現れ、クエストを受託することに成功した。
クエスト内容はドラゴンが持つとされる鉱石の採取。報酬もその採ってきた鉱石。
日を改めて攻略しようかと俺は考えたが、この際だから一気に終わらせようとキリトがやる気を出して押してきたことや、リズベットが長話で精魂尽き果てていたので早く休ませた方がいいと思いそうすることに。
再び歩くことになった雪山の道中、キリトが「はぁ」と息を吐いた。
「なんでクエスト一つ受けるのに五時間も話を聞かないといけないのですか。お兄様の貴重な時間をどうしてくれるのですか?」
「うるさいわねぇ、私だってまさかこんなに時間がかかるって思って無かったのよ」
「はぁ、これだから行き当たりばったりの女は困るのです。人の迷惑も考えないのですから」
「迷惑だと思うならあんただけでも帰れば? あたしもあんたに迷惑をかけるのは心苦しいから。てか、普通なら明日攻略する予定だったのが、あんたが余計なこと言うから今日に変わったのよ? これだからせっかちな女は面倒なんだよね~」
「…………やるんですか?」
「…………そっちこそ?」
ワーワー! ぎゃーぎゃー!
お爺さんの長話を聞いた後に至っても、二人は元気です。
そうやって再度雪山を登ること数10分、ようやくクエスト場所である水晶で造られたツンドラ地帯にたどり着いた。
ここにクエスト対象の鉱石を持つとされるドラゴンがいる……はず。
「へぇ、なかなかに幻想的な場所だな」
「そうですね。できることならお兄様と二人きりで来てみたかったです」
「安心しろ。そんな未来は一生こないから」
「────ッ……」
「…………なんでこの世の終わりみたいな顔してるんだよお前は。てか、いねーなー」
キリトとたわいもない話をしつつ辺りを見渡すが、それらしいモンスターは見つからない。
俺の擦れに擦れきった知識と爺さんの話だとかなりの大きさだから直ぐに見つかると思っていた手前、四人パーティーだと出現しないのかと若干の不安を感じてしまう。そんな気持ちを持ちながら探索を続けると───
「……すごっ」
周りを水晶の柱で囲まれた直径十メートルはあろう大きな穴が見つかった。
その非現実的な存在に圧倒され、簡単な言葉しか出てこない。
「……これはかなりの深さですね、音が戻ってきません」
キリトは腰に装備している投擲用のピックを穴に落とすと、一瞬キラリと光ったと思えばそのまま音もなにも返ってこなかった。
「とりあえずシリカちゃん、落ちないようにお兄さんにくっついておきなさい」
「わふっ?! お、オルフェさん……ああ、ありがとうございます」
「…………(ギラギラ)」
「…………あー、キリト君、君も危ないから俺のそばに来なさい」
「はい!」
「…………あっ、あたしも落ちたら怖いな~。だからオルフェのそばに──」
「だが──リスベットはダメだ」
「なんでよっ!!」
「そこは察して───っ!?」
リスベットが密着することによる俺の理性へのダメージを考えた時であった。突如として雷鳴のごとき咆哮が辺りを轟いたのは。
「お兄様!」
「あぁ、シリカちゃんとリスベットは隠れててくれ。いくぞ、キリト!!」
手短にあった水晶柱に二人を誘導した後、武器を構えて咆哮が聞こえた方角を向いた。
無数のポリゴン体が集まりだし、やがてはゴツゴツとした塊が創られていき、最終的には一体のドラゴンが誕生した。
体中を水晶の鱗で覆い、俺たち4人を足しても余りある大きさの翼をはためかせ、空中で待機している。
間違いない。コイツが水晶を作り出す原作のクエストモンスターだ。
「お兄様、このドラゴンの攻撃パターンは爪撃とブレス、それから突撃の3パターンです」
「なんでクエストに乗り気でなかったお前が詳しく知ってるのかはこの際聞かないが、了解。んじゃ、サクッとやりますか。向こうさんも待ちきれないようだし」
キリトがドラゴンの情報を言うやいなや、ドラゴンは大きく空気を吸い込むと、それを俺たちに向けて放ってきた。
ブレス攻撃だ。
俺たちは左右に分かれ、挟撃の形でドラゴンに向かう。
「はぁっ!」
一番槍となったのはキリトであった。
敏捷特化のキリトは原作同様の反則レベルの速さでドラゴンの元へたどり着くと、その速さを余すことなくジャンプ力へ変換した。
「せいっ!」
大きくジャンプしたキリトは右手に持つ片手剣、エリュシデータを構える。
エリュシデータの黒の刀身が赤く光ると、ドラゴンに向けて2連撃を撃ち込んだ。
片手剣ソードスキル、バーチカルアークだ。
高レベルに見合ったダメージを叩き出したようで、HPバーは緑から黄色へと変わり、ドラゴンは大きく身をよじる。
その隙をつくようにキリトは追撃をしようとしたとしたが、ドラゴンの方が少し早かった。
「くっ……」
ドラゴンは体勢を整える為に大きな翼を羽ばたかせ突風を巻き起こし、キリトは巻き込まれてしまう。
キリトの追撃を逃れたドラゴンは、突風によって無防備状態であるキリトに向けて鋭い牙を向けた。
数秒後にキリトはドラゴンの餌食となることは誰もが予想できてしまう状況なのだが、キリトに焦りはない。
なぜなら、今度はドラゴンの方が“遅かった”からだ。
「せいやぁッ!!」
バシュ!! という鋭い音と共に、大きく横へ反れるドラゴンの頭。
いや、それだけではない。頭だけではなく、その大きな巨体すらも吹き飛ぶような勢いで反れ、キリトから二十メートルほど離れた雪面へ落ちていったが、そのまま雪面に触れることなくポリゴン体へと姿を変え、バラバラに砕け散っていった。
この一連の出来事、実はとりわけ難しい理由は存在しない。
「よぉ、無事か?」
「お兄様、流石です!!」
ただ俺がドラゴンの元にたどり着き、得物であるバスターソードをドラゴンの頭に叩きつけただけだ。
剛剣ソードスキル、エリアルスマッシュ。
思い切り大剣を振り下ろす1連撃のソードスキルだが、ユニークスキル故にその威力は絶大。プレイヤーの筋力数値で最大50%の威力補正が入り、さらに巨大エネミーには特攻判定も入る。
今回はそのどちらも含まれ、さらにはキリトが事前にダメージを与えたこともあり、ドラゴンを一撃で倒すことを可能としたのだ。
「キリト、さすがに俺が助けに来るからって余裕に構えすぎてないか?」
無事にキリトと共に雪面に降りた俺は先ほどのことを注意するが、キリトは気にする様子はない。
「余裕に構えすぎてません。ただお兄様の戦う姿を間近で観たいがため、あえてそうしたのです」
「よけいに悪いわ!!」
あろうことか開き直ってきたキリトに対し、俺は頭を抱えてしまう。
そうでした、こやつはそういう奴でしたね。
「キリトのいつも通りさに俺は悲しみしかないよ──っと、ありゃ、泥ってないな」
指をスライドしてメニューを開き、持ち物を確認したが、お目当てのアイテムはドロップしていなかった。見落としが無いようにもう一度確認しても、結果は同じ。
「クエストアイテムですし、簡単には落ちないのでは?」
「あぁ、多分な」
ソードアート・オンラインに限らず、オンラインゲームのクエストアイテムのドロップ率は無料で遊べるスタンスから、基本的低い。
となればやることは一つ。
脳死周回。
ただ、ただ、欲しいアイテムや素材が出てくるまでひたすらにモンスターを狩る作業。
人はこれを苦行という。
「ひとまず100体は倒しましょうか、お兄様」
「だな。回転数こそが正義だ」
祭りの始まりだな。
そう思った矢先、俺たちの前にポリゴン体が集まり始めた。
「さっそくポップしましたね」
「だな。さーて、数こそが正義。ちゃっちゃと────」
続きの言葉を、俺は言うことが出来なかった。
目の前の風景が、あまりにも現実から遠かったから。
「…………キリト、つかぬ事を聞くが、俺は夢を見ているのか?」
「お兄様、俺も見てるようですから、お揃いですね」
「うん、そうだね。お揃いだね」
だって、こんな光景はあり得ないって。
なんで、なんでドラゴンが“視界いっぱい”にいるのだろうか。
十や二十なんか数ではない。針程度の隙間が見えるぐらいの密集率でドラゴンがいる。
俺の背中に、嫌な汗が伝ったような気がした。ゲームなのにおかしな感覚だ。
それと同時に、ドラゴンは上を見上げ、咆哮をあげた。
次の瞬間、俺とキリトは────
「あぁぁあああぁっ!!??」
「うぉおおおぉおおおぉっ??!!」
風となった。
数は正義と言ったさ。それを否定はしない。でもね、人のキャパシティーを越える数は求めてないよ!!
「うぉおおおおっ!! 駆けろ俺!! トロン◯の如く!!!!」
わき目もふらず、一心に走る。
どこに逃げるのか。
それは────リズベット達のいる方向に。
「ちょっ?! なんかいっぱい来てるんですけどぉ?!」
「えっ、えぇっ?!」
引き連れている大量のドラゴンを見て驚くリズベットとシリカちゃん。
仕方ないよね、人はとっさに人が多いところに逃げ込む習性があるからね!!
などとバカなことを考えている暇などない。
別になにも考えずに二人のところへ逃げたわけではない。
さすがの俺とキリトであっても、1体2体ならまだしも画面一杯のドラゴンと戦って安全な保障がないのだ。
そして二人が安全でないということは、リズベットとシリカちゃんなど安全どころか危険のレッドゾーンである。
二人のためにも、ここは逃げの一手しかないのだ。
べべっ、別に大量のドラゴンが怖いんじゃ無いんだからね!! などと一応いいわけをしてみた。
「ちょっ?!」
「ひゃぁ!?」
俺はリズベットたちと合流と同時に二人を小脇に抱え、再び走り出す。
シリカちゃんはともかく、意外にもリズベットが軽く、あぁリズベットも女の子なんだなぁって思ってしまうも、そんなこと考える暇など無いことをすぐに思い出し、気持ちを入れ替える。
「ちょっと、お兄様?! いくら焦ってるからと言ってそんなうらや──うら──羨ましいことしてるんですか?!」
「この状況だから言うかどうか迷ったが、やっぱり言うわ。お前とうとう言葉を隠すのを止めたな!!」
キリトとあーだこーだ言い合いながら逃走を続ける俺たち。
だが、言い合いしながら、というのがいけなかったのだろうか。
「オルフェさん、前!! 前!!」
「えっ?」
「はい?」
「ちょっと?! その先はー───」
ふと、足にかかる負担がなくなった。
女の子ではあるが、人二人を抱えていたにも関わらず、まるで重力から解放されたかのように足が軽いのだ。
あぁ、天使の羽を身につけた小学生はこんな気持ちなのだろう。などとバカなことが、頭によぎった。
完全に錯乱していた。
だって、現実を直視したくないのだ。
現在進行形で、俺とキリトの足場は─────無いのだから。
俺たちが走っていた先にあったもの。それは、このエリアで見つけた大きな穴だ。
リズベットの警告むなしく、風となっている俺たちは────急には止まれない。
そして当然ながら。
「あぁああああああああっ!?」
「おっ、お兄様ぁあああいぁっ?!」
「きゃぁああぁあああ?!」
「落ちちゃってますぅっ?!」
重力という、無慈悲で公平な力によって、俺たち四人は仲良く穴の中へと落ちて行く。
落下の最中、思うことはただひとつ。
ザクロは……ヤだな。
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