恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

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デート後半です
今回でデート回終了になります
深まるとありますが、付き合ったりはしません


掛け替えのない思い出とさらに深まる二人の関係

 もうお昼の時間だ。どこでお昼にしようかな?私は葵君にどこでお昼にするかを聞くことにした。

 

「葵君、どっかでお昼にしない?」

「あれ、もうそんな時間なんだ。早いね」

「そうだね。私はどこでもいいよ」

 

 どこでもいいよ、とつぐみちゃんは言った。どうしよう、どこにしよう......。喫茶店は何度も行ってるから、たまには違うところにしようかな。

 

「じゃあつぐみちゃん、行きながら決めない?」

「行きながら?」

「そう。行きながらその場で選ぶってのはどうかなって」

「じゃあ、それにしようかな。あ、そうだ葵君」

 

 どうしたんだろう?つぐみちゃんなにか言いたそうだ。表情から察して重要なことみたいだ。なにを話すんだ?

 

「なに?」

「私のことなんだけど......。"つぐ"って呼んでくれる?」

「そんな、呼び捨てでは呼べないよ」

「駄目......かな?」

 

 つぐみちゃんは涙目になり、上目遣いで僕を見つめた。身長差があるせいか、可愛く見えてしまう。ホントにズルいよ、つぐみちゃん。

 

「じゃ、じゃあ呼ぶよ?」

「うん、いいよ」

 

 緊張してる。まあ、僕も緊張してるんだけどね。つぐみちゃんのことを呼び捨て、しかも渾名で呼ぶ、相当ハードルが高いことを要求されたんだ。緊張するに決まってる。

 

 僕はつぐみちゃんのことを呼び捨て、かつ渾名で呼んだ。

 

「つ、つぐ......」

「葵君......」

 

 駄目だ、耳が赤くなってくる。これは慣れるしかないな。またつぐみちゃんって呼んだら泣きそうになるかもしれないから、ここは頑張ろう!

 

「いいよ、葵君。合格!」

「いいの?今ので?」

「今のはしょうがないよ。私が無理なこと頼んじゃったんだから。ごめんね」

「い、いいよ!つぐみちゃんは悪くないって!......あ」

 

 ヤバい!ちゃん付けで呼んじゃった!だ、大丈夫かな?いや、大丈夫じゃないに決まってる!

 

「つぐだよ」

「ご、ごめん!つぐ!」

 

 多分、僕はつぐに色々させられそうだな。まあ、頑張ろう。それしかないや。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私やっちゃった!とうとうやっちゃったよ!

 

 葵君に渾名で呼ぶように言ったけど、こんなに恥ずかしいことだなんて思わなかった!葵君には無理をさせちゃったかな?

 

「ね、ねえ葵君」

「どうしたのつぐ?」

「ご、ごめん!なんでもない!」

「?」

 

 話しかけられない!恥ずかしくて顔を合わせられないよ!やらかしたなあ、私。

 

 私の心臓はドキドキしていた。葵君につぐって呼ばれるのが嬉しいこと、つぐって無理に呼ばせちゃったという罪悪感に私は押し潰されそうだった。はあ、なんでこんなことしちゃったのかな?

 

「つぐ、あそこにしない?」

「ど、どこにしたの?」

「えっと、パスタ系のところかな。つぐは大丈夫?」

「だ、大丈夫!問題ナッシングだよ!」

 

 何を言ってるの!?問題大有りだよ!私の心はナッシングじゃないよ!ああもう、私のバカァ!

 

 それから私と葵君はお昼を済ませて色々な話をした。話をしていた間に葵君からとんでもないことを言われてしまった。

 

「つぐはさ、誰か好きな人っているの?」

「え!?」

「ごめんねつぐ。ちょっと気になっただけだからさ。無理に言わなくてもいいよ」

 

 葵君が好きだよ、なんて言えないよ!というか葵君は私のことどう思ってるんだろう?そんなことを言われても私だって気になっちゃうよ!

 

「じゃあ聞くけど、葵君は好きな人いるの?」

「え、僕?」

「そうだよ。葵君だけ聞くのはズルいよ。私だって気になってるんだからね!」

 

 葵君は顔を赤らめて目を逸らした。私とんでもないこと聞いたなあ。葵君って誰が好きなんだろう。気になって聞いたけど、どうなんだろう?

 

 この時、私は願った。どうか、好きな人がいませんように、と。ああ、私はなんて罪な女なんだ。なんて私は......。

 

 

――醜い女なんだろうか。

 

 

「つぐ、つぐー」

「は、はい!?」

「どうしたの?大丈夫?」

 

 葵君に心配を掛けてしまった。危ない、今考えていることがバレてたら気まずいことになってた。結局、私は葵君の好きな人を知ることはできなかった。葵君も同じだった。お互いに秘密だと言ったからだ。

 

 今はいいや。今はこの時間を大切にしないと。せっかくのデートなんだから......。私と葵君が二人きりでいられる時間なんだから、こんなこと考えちゃいけないよね。しっかりしなきゃ!

 

 

▼▼▼▼

 

 

「つぐ、次はどこ行く?」

 

 よし、慣れてきた。つぐって呼ぶの最初は戸惑ったけど、こんな早く慣れるなんて思わなかったな。

 

 それにしても、さっきのつぐは様子が変だった。心配だけど、気を遣わない方がいいのかな?駄目だ、どうすればいいかわからない。今は気を紛らわせるしかないな。

 

「私はどこでもいいよ。葵君はどこか行きたいところある?」

「僕は行きたいところは一個だけあるかな。コーヒー豆とかが売ってたから見ていこうと思うんだけど、つぐは大丈夫?」

「全然大丈夫だよ。葵君とならどこへでもついて行くよ」

 

 この子はなんていい子なんだろう。僕は何度も思う。この子を......つぐのことを好きになってよかったと。つぐは僕のことをどう思ってるんだろう?好きな人は秘密って言われたから知ることはできないけど、いつか告白をしたいなと僕は思った。

 

 僕とつぐはコーヒー豆専門のコーナーに入り、コーヒー豆を見てはつぐと一緒に話し合った。お互い喫茶店で手伝いをしているからこそできることだ。どうやらつぐはブラックコーヒーが苦手みたいだ。今度コーヒーを入れる時は気を付けようかな。僕はつぐの意外な一面を知ることができた。

 

 こうやって好きな人を知ることができるのは嬉しいことだ。知っていく度に好きになっていく。それはとても心地よく、心が幸福に満たされる、そんな感じがして僕には眩しくて、手に収まりきらないくらいの物だった。

 

 時間はあっという間に過ぎ、僕とつぐは電車に揺られながら今日のことについて話し合い、七夕の時はどうしようかとかも話し合った。そして電車を降り、駅を出た。

 

 そして帰り道、公園の前に着いた。

 

「ちょっと公園に寄っていかない?」

「いいよ。寄っていこう」

 

 僕とつぐは公園に入り、ベンチに座った。どうやらこの公園はつぐが子供の頃に蘭ちゃん達と遊んだ公園らしい。思い出のある公園に着くなんて、なにかの偶然かもしれないな。

 

 僕はつぐの横顔を見た。その横顔は夕日を背景にしたら輝くかもしれない、そんな感じがして綺麗に見えた。

 

「ねえ、つぐ」

「なに?」

「つぐに渡したいものがあるんだけど、いいかな?」

「渡したいもの?」

 

 つぐは首を傾げて言った。渡したいものとは、さっき探していた向日葵の髪飾りだ。僕はカバンから包みを出してつぐに差し出した。

 

「これを受け取ってほしいんだ」

「私に?いいの、受け取って?」

「いいよ。僕はつぐに受け取ってほしいから」

 

 つぐは呆然としていた。そりゃそうだ、急に渡されたら誰でもこんな反応するに決まってる。つぐは今どういう気持ちなんだろう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は頭の中が真っ白になった。

 

 急に葵君に包みを渡されたからだ。受け取った包みは軽い。何が入ってるんだろう。私は気になって葵君に聞いた。

 

「今開けていい?」

「いいよ」

 

 葵君は微笑んで言った。包みを開けて取り出して見た時、入っていたのは向日葵の髪飾りだった。なんで髪飾りなんだろう?それに、どうして向日葵なの?

 

「その髪飾りはさっきのアクセサリーショップで探したものなんだ」

「葵君が探してた物ってこれ?」

「そうだよ。僕はつぐを見て何度か思ったんだ。つぐには向日葵が似合ってるんじゃないかって。それで探したんだ」

 

 ......ズルいよ。葵君。今そんなこと言われたら渡せなくなるじゃん。いや、今ここで渡そう。私だって探してたんだ。葵君に似合うものを。

 

「私も葵君に渡すものがあるんだ」

「つぐもなの?」

「うん。これ、受け取ってもらえると嬉しいな」

 

 私は葵君にある包みを渡した。私も同じだよ葵君。私もアクセサリーショップで探してたんだ。

 

 葵君は開けていいか、と聞いた。私はいいよ、と答え、葵君は包みを開けた。私が買ったものは葵君とは違う。

 

「これは、チョーカー?」

「迷って選んで、それにしたんだ。葵君なら似合うかもしれないって思ったんだけど......」

 

 その時、私は葵君に抱き締められた。え!?ち、ちょっと待って!なんで急にこうなるの!?

 

「ありがとう、つぐ」

「あ、葵君?」

 

 葵君、泣いてるの?なんで泣いてるんだろう?

 

「僕は嬉しいんだ。こんなことって今までなかったから」

「葵君......」

 

 葵君は抱き締めていた手を離した。私は名残惜しそうに感じた。それは一瞬であったけれど、私にとっては長く、時が止まったかのような感じだった。

 

「ねえつぐ。お互いにアクセサリー付け合わない?」

「え!?いいの?」

「僕は全然いいよ。今ならできるかもしれないから」

 

 葵君は涙を拭いて私にチョーカーを差し出した。私は差し出されたチョーカーを受け取り、葵君の首元に付けた。うん、似合ってる。選んでよかったなって私は思った。

 

「つぐ、じっとしててね」

「う、うん......!」

 

 私は目を瞑ってじっとした。葵君は私の髪を触り、髪飾りを付けた。くすぐったいけれど、とても気持ちがよかった。どっちなんだろう、私にはわからないくらいに気持ちがよかった。

 

「いいよ、目を開けても」

「いい?」

 

 いいよ、葵君に言われ、私は目を開けた。その時私に映った葵君の表情は微笑んでいて、少し泣きそうになっていた。葵君、泣きすぎだよ。

 

「つぐ、すごく似合ってるよ」

「ホント?」

「ホントだよ。もうそれしか言えないよ」

 

 そんなに似合うなんて、私はどんな姿をしているんだろう。そこまで言われるとどのくらい似合っているのか自分でも気になってしまう。

 

「ねえ、葵君。一緒に写真撮らない?」

 

 葵君は恥ずかしながらもいいよ、と答えた。こんな時にまで恥ずかしがるなんて、葵君は可愛いな。私の好きな人は可愛い一面もあるんだなと私は思った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 まさかつぐと一緒に写真を撮るなんて思わなかったな。一緒に撮るのは連休の時の旅行以来だ。今の僕とつぐはお互いに付け合ったアクセサリーを付けてる状態。そんな中で撮るというのはとてもハードルが高いものだ。

 

「じゃあ撮るよ?」

「い、いいよ」

 

 つぐは僕の腕に絡まり、頭を肩に乗せている。そして僕は自分の頭をつぐの頭に乗せている、そんな姿勢だった。これを頼んだのは、言うまでもない、つぐだった。ていうか僕達、付き合ってないよね!?

 

 パシャリ、と音がした。これはつぐのスマホで撮った写真だ。撮った写真は送信され、僕のスマホの中に収まった。

 

「葵君、固まりすぎだよ」

「つぐだって緊張して震えてたじゃん!」

「そうだね」

 

 つぐは笑っていた。僕も釣られて笑った。充実した一日にすることはできたかな?僕はつぐにいいところを見せられたかな?

 

 僕とつぐはまた明日、と言って商店街で別れた。来週は七夕だった。デートの次は七夕か。もう七月なんだな。僕とつぐが出会ってから三ヶ月、本当にあっという間だな。

 

 

 

――七夕の日はつぐにもっといいところを見せないと!

 

 

 




今回から葵はつぐみのことをつぐと呼びます
この回のあと、七夕回に入ります
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