あの時つぐは何を言おうとしてたんだろう。僕はつぐを泊めた日からつぐが言おうとしていたことが頭から離れなかった。
今日は花火大会だ。僕は勇気を出してつぐを誘った。アオ君と一緒に見たいとつぐは言ってくれたけど、その時の蘭ちゃん達はニヤリとしていた。僕がつぐのことを好きなのはバレているからニヤリとしたんだ。楽しんでいることが目に見えている。
僕はこの花火大会でつぐに告白しようと思っている。僕は相当焦っていた。つぐが僕のことを好きなのは知っている。けれど、このままでいいのかって最近思うようになった。
このまま付き合わないで終わるのか、想いを伝えずに時間は過ぎていくのか、そんなことはしたくない。僕はつぐに一目惚れしたんだ。その時から僕の初恋は始まったんだ。
「今日で関係を変えよう、もう嫌なんだ……。告白出来ないまま終わるなんて、僕はそんなの嫌だ」
今日の花火大会で僕とつぐの関係が変わる、それはまだわからないことだ。告白が出来たらつぐは何て言うのだろう。僕はその先が怖かった。
ふう、僕は息を吐いて高鳴る心臓を落ち着かせた。もし告白が出来なければ僕とつぐの関係は一方通行のままになる。だから勇気を出してつぐに想いを伝えよう。
▼▼▼▼
私は駅前でアオ君が来るのを待っていた。あの時私は……アオ君に好きって言おうとしていた。もしあそこで私とアオ君が付き合えていたら恋人になっていたのかもしれない。
でも告白出来なければまた機会を窺うしかない。私が先か、アオ君が先か、どっちが先に想いを伝えるのか、それはわからない。
今日の花火大会は私とアオ君の二人で行くことになっている。他の皆は用事があるとのことで行けなかった。きっと私とアオ君を二人きりにしようって考えているのかれない。私の予想だけど……。
今日は気合いを入れて浴衣を着ることにしたけど、アオ君何て言うかな?不安しかないけど、似合ってるって言ってくれることを祈ろう。
「つぐ……つぐ!」
「は、はい!……ってアオ君!?」
「遅くなってごめんね。浴衣どれにしようかで遅くなっちゃってね、連絡入れて無かったよね?」
「大丈夫、私も今来たところだから」
「そうなんだ。でも遅れてごめんね」
アオ君は片目を瞑り、手を合わせて謝った。本当は早くに来ちゃったけど、ここはアオ君に合わせよう。それにしてもアオ君、黒の浴衣にしたんだ。似合ってるし、カッコよく見える。
「そういえばアオ君、浴衣似合ってるね」
「あ、ありがと……。その、つぐも似合ってるよ」
私とアオ君は互いに着ている浴衣のことを褒め合い、二人して顔を赤くしてしまった。男の子に言われるなんて初めてだからどうしたらいいかわからないよ。
いつまでもここにいたら時間が無くなっちゃう。私はアオ君と電車に乗り、花火大会の会場へと向かった。電車に乗るのは五月の旅行以来だ。あの時のことを思い出す。あの時はアオ君の肩に頭を乗せて寝ちゃってたんだっけ?
思い出すと恥ずかしくなる。アオ君、どんな反応してたんだろ……。気になるけど聞かない方がいいかもしれない。聞いたらアオ君が悶えるかもしれない。
「やっと着いたね」
「そうだね、どのくらい歩いたかわからないや」
花火大会の会場にはいくつものの屋台があった。射的や金魚すくい、綿菓子、焼き蕎麦等の屋台で、花火大会というよりは夏祭りそのものだ。花火までは時間あるけど、どこから回ろうかな?
私はウズウズしていた。アオ君と初めての夏祭り、もとい花火大会。どこから回ろうか、どんな事が起こるのか、私は楽しみで仕方なかった。
「楽しそうだねつぐ、何かあったの?」
「ううん、何でもない!ど、どこから行こうか!?」
「あはは、落ち着いてつぐ。つぐの好きなようにしていいよ」
私は落ち着くために深呼吸をした。少しはしゃぎ過ぎたかもしれない。アオ君、嫌そうにしてるかな?なんかまずいことしたなぁ。
私とアオ君は最初に綿菓子の屋台に向かった。綿菓子を食べていた時に頬っぺたに綿がついたけど、アオ君にハンカチで拭いてもらった。その時のアオ君は微笑んで私を見つめた。恥ずかしい、そんな表情で見られたら余計に恥ずかしくなるよ。アオ君ってキザな所あるなぁ、ズルいよその顔は……。
▼▼▼▼
そろそろ花火が上がる時間になる。僕とつぐは屋台を回った後、二人で花火がよく見える場所に向かった。この場所ならよく見える。
周りは静かで、ここには僕とつぐしかいない。つまり二人きりだ。告白するにはうってつけの場所だ。今回を逃したらおしまいだ。
「座ろっかつぐ」
「うん……」
僕とつぐはベンチに座り花火が打ち上がるのを待つことにした。少し気まずい、僕は固まってしまった。どうしよう、一瞬のことなのに頭が真っ白になっちゃった!固まっただけなのに、どうしてこんなことになるんだ!?
つぐに好きだって伝えたい、けれどそれができない。僕にとっては人生初の告白だ。バリスタ一筋に生きてきた僕が恋愛を経験して告白するってなってるのに、どうして僕は告白できないのだろう。
しばらく固まっていると花火が打ち上がる音がした。つぐは驚きつつも綺麗な表情で花火を見ていた。僕はつぐの横顔に見惚れ、告白することさえも忘れていた。
「綺麗だねアオ君!」
「そうだね……」
僕はそれしか言えなかった。こんな自分を殴りたい。僕は情けないと、つぐに好きと言えなかったことを……告白することがこんなに難しいことなのかと痛感した。
あっという間に花火大会は終わった。僕とつぐは電車に乗り、自分達の家へと帰路を進めた。その時の僕達はずっと無言のままだった。
▼▼▼▼
私とアオ君はずっと静かなままだった。こんな雰囲気になったのはきっと私のせいかもしれない。アオ君のことを気にせず自分だけ花火が打ち上がる瞬間を楽しんでいた。
せっかくアオ君との距離を更に縮められると思っていたのに……初めての夏祭りを不意にする、そんなことをするなんて、私はなんて罪な女なんだろう。
私の中ではもう我慢出来なかった。アオ君ともっと一緒にいたい、アオ君と付き合いたい。そんな想いが私の心を支配した。いつまでもこんな一方通行な関係は嫌だ。気付いていた時にはアオ君の浴衣の袖を掴んでいた。
「……どうしたのつぐ?何かあった?」
「アオ君、今日泊まっていいかな?」
「え?どうしたの急に……どうしてそんなことを……」
そんなの決まってる、アオ君と一緒にいたいからだ。ここまで不意になるのならいっそのこと泊まろう。泊まってでもアオ君と一緒にいよう。
「一緒にいたいから、じゃ駄目かな?」
「つぐ……。そんな事言われたら断れないよ」
こうして私はアオ君の家に泊まることになった。これで二回目だ。アオ君と私は無言のまま喫茶カーネーションへと向かった。
澪さん達にも私が泊まることを伝えたようだ。どうやら連絡したみたいですぐに納得してくれた。ここまで強引にやるなんて、私何してるんだろう。けど、ここまでやらないと一緒にいられない。
そして私はあることを決めた。この日でアオ君に告白すると。あの時はタイミングが悪かったけれど、今ならやれるかもしれない。
私の中で覚悟は出来た、と自分でも気づかないくらいに私の心は昂っていた。それが何故かはわからない。
次で二人の関係は変わります