夏が明け、二人の恋物語は始まる
八月は終わり、九月になる。そう、秋になろうとしているんだ。時間ってこんなに早く過ぎるものだったっけ?
というのは置いておこう。夏休みの花火大会の時、僕の告白は未遂だった。けれど、つぐが泊まりたいと言い、寝る前に僕とつぐは告白した。互いに一目惚れだったのは驚いたけど、付き合うことが出来て本当によかった。
Afterglowの皆からもおめでとうと言われ、この噂は瞬く間に店や他のバンドにも伝わった。噂はひまりちゃんが口を滑らせたのが切っ掛けで、その後に今井先輩、香澄さん、丸山先輩、そして弦巻さんへと伝わった。
他の人からも祝福された。つぐも顔を赤くしてたし、僕も恥ずかしかった。まぁいい思い出になったんだ、それでよしとするか。
「いらっしゃいませー」
「おはよ、アオ君!」
「つぐ!来てくれたんだね」
「葵、あたしもいるんだけど……」
ごめん、と僕は蘭ちゃんに謝った。付き合い始めたのはいいけど、あまり惚けすぎないようにしよう。蘭ちゃんと巴ちゃんから砂糖を吐くこっちの身になってくれって言われたんだった。危うく置き去りにしそうになった。
今日は祝日、けれど客は珍しく少ない。ここまで少ないと嫌な予感がする、そう感じるのは僕だけかな?いや、父さんの手が微妙に震えてるから父さんも同じか。
「というか、瀬田先輩いたんですね」
「やぁ葵ごきげんよう、そしておめでとう」
「瀬田先輩、お祝いありがとうございます。ですが、何回も言われると僕もつぐも恥ずか死ぬので、控えて下さい」
僕は笑顔で瀬田先輩に自重するように言った。ていうか瀬田先輩、いつの間にいたんだ?あまり気にしない方がいいかもしれない。気にしたら負けだよね。
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アオ君のエプロン姿はカッコいいなぁ。私がアオ君と付き合い始めてからちょっと経つ。アオ君が視界に入ると、目で追ってしまう。私はそれほどまでにアオ君のことを好きになっていた。
「つぐみ……つぐみ!」
「な、何!?」
「葵のこと、見すぎだよ」
「だ、だって……。アオ君がカッコいいから、つい見ちゃうんだよ」
そう言うと、蘭ちゃんは引いてしまった。私っておかしいかな?まぁ一言言うと、アオ君がカッコいいのが悪い!
そんなことを思っていると、アオ君がやって来た。注文したメニューが出来たみたいだ。私と蘭ちゃんはコーヒーにしたけど、何でも今回はアオ君が淹れたらしい。アオ君が滋さんに認められてから初めてコーヒーを淹れたという、どんな感じなんだろう。
「葵、まだ見習いなんでしょ?」
「まだ見習いだよ。父さんに認められただけだけど、今回は僕が淹れるって父さんに言ったからね」
蘭ちゃんはそう聞くと、滋さんの方を見た。滋さんの淹れるコーヒーはとても絶品で、瀬田先輩も滋さんのコーヒーのためにお店に来ている。今ではカーネーションの常連になってる。
私はアオ君の淹れたコーヒーを飲んだ。喉に染みる。これは何だろう、ブラックじゃない……。何の豆を使ったのかな?
「アオ君、これって何の豆?」
「これはグアテマラを使ったんだ。味はどうかな?」
「いいね。葵、今ならバリスタになれるんじゃない?」
「ありがと蘭ちゃん。まだ早いよ、もう少し修行しないといけないから、僕はまだまだだよ」
アオ君はまだまだとは言ってるけど、私からしたらバリスタになってもいいと思う。アオ君ならバリスタになれる。私は何があっても彼を応援する。私はアオ君を信じてるから……。
「つぐ、味どうだった?」
「味?うん、美味しかったよ。凄くね」
「あ、ありがと……。つぐに言われると照れるな」
アオ君照れるのはいいけど、それを言われると私も照れちゃうよ。何でかはわからないけど……。
その後、私と蘭ちゃんは十一時までカーネーションでゆっくりすることにした。アオ君は休憩の時に私と話をしたりした。澪さんはどうやら深雪さんと買い物に行ってる、とアオ君は言った。
「じゃあつぐ、また明日ね、後で電話するから」
「後でね。アオ君、コーヒーありがとう!」
「……どういたしまして」
アオ君は目を逸らしながら言った。お店を出る時、一瞬だったけど、アオ君の顔が赤かった。アオ君って照れ屋さんかな?
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今日は蘭ちゃんに弄られたな。まぁつぐに会えたからいいか。それにしても瀬田先輩、いつからいたんだろ。影が薄いせいかいたことにさえ気づかなかったよ。
さて、つぐに電話しようかな。つぐ、今どうしてるかな。付き合ってからの僕はつぐのことを考えることが多くなった。恋人だから仕方ないか。恋愛も大事だけど、バリスタのことも大事だ。両立出来るようにしないと!
僕はつぐに電話をすることにした。出てくれるといいんだけど……。
「もしもし?」
「もしもし?あぁ、つぐ。今電話大丈夫?」
「いいよ。私も暇だったからさ、それに……アオ君の声が聞きたかったから……」
そんなことを言うなんて、つぐってたまに予想外なことを言うなぁ。まぁ、僕もつぐの声聞きたかったから人の事は言えないか。
つぐと話す内容は新メニューについての相談だ。僕は新メニューでケーキを作ることがある。大抵は母さんと姉さんが作ることが多いけど、今回は僕が作ると母さん達に言ったんだ。
「つぐ、それは僕も同じだよ」
「そ、そうなんだ!それで、話あるんだよね?」
「うん。実は新メニューのことで相談があってね……」
僕はつぐに事の内容を話した。僕の提案は秋に流行るような物、例えば栗を使ったタルトがいいかなと考えていたが、つぐに聞いてみたところ、つぐからはモンブランにしてみない?と言われた。
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私はアオ君から話を聞いた。アオ君は前にフルーツケーキを作ってたかな?あの時は凄く美味しかったし、あの味は今でも好きだ。そこで私はモンブランを作ってみないかと提案をした。
「モンブラン?どうしてまた……」
「シンプルに思い付いただけかな。実はね、私もアオ君とその新メニュー一緒に作ってみたいんだ。何だろ、初めての共同作業かな。あはは……」
「つ、つぐ!?何を言ってるの!?共同作業って、それは卑怯だよ!」
――あ、あれ?私何を言ったの?共同……作業……?
私は自分の言った言葉を思い出し、顔が赤くなっていくのを感じた。何を言ってるの私!アオ君と付き合ってちょっとしか経ってないのに、まるでケーキ入刀?みたいなことを言って、これアオ君笑ってるよね?
でも、アオ君は笑っていなかった。あれ、何で黙ってるの?何か言ってよ!
「ア、アオ君?」
「ごめんごめん。ちょっと固まってただけだよ?つぐの言ったことにはびっくりしたけど、動揺してないからね!?」
「説得力ないよ!」
こうして付き合ってから初めての通話は不完全燃焼のまま終わった。私はアオ君と新メニュー を作りたい、これは本気だ。アオ君も納得してくれたし、一緒に作ってみたいって言ってくれたんだ。一緒にやる以上、私も本気で頑張らないといけない。
その新メニューを作るのは明後日とアオ君は言った。最初は試作で出して、好評ならメニューに入れる。カーネーションはそういうスタイルだった。そうなると、責任重大だ。わからないことがあったら澪さんや真衣さんに聞こう。
「アオ君と一緒に何かをするのは初めてなんだ。だから、足を引っ張らないようにしよう」
大丈夫、私なら出来る。ネガティブになったらアオ君が悲しむ。そうなったらおしまいだ。アオ君に凄いって言われたい、頼りになるって言われたい。
――アオ君の彼女なんだから、いいところ見せなきゃ!
次は葵とつぐみ、初めての共同作業となります