恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

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葵、ようやくライブに行く模様


秋の宴にてバリスタは天使に魅了される

 つぐからある一枚の紙を貰った。長方形でいかにもバンドですよ、と訴えかけるような雰囲気を醸し出した紙、もといチケットだ。というかつぐ、今仕事中なんだけど……。

 

「アオ君、明日来れそう?」

「予定は空けておくよ。何度も来れなくてごめんねつぐ」

「いいよ、私はずっと待ってたから」

 

 つぐは微笑みながら言った。つぐを待たせたんだ、明日が楽しみだ。やっとつぐのもう一つの姿が見られるんだ。僕は目を細め、口元を緩ませた。

 

 数秒して目を開けると、父さんがコーヒーを入れすぎてマグカップが溢れたり、姉さんが僕を見てニヤッとしていたり、母さんがあらあら、と見守るかのような顔をしていたり、深雪さんが僕とつぐに対してグッドラックと言ってくるという地獄絵図が展開していた。

 

 恥ずかしい、僕とつぐは気まずくなり、互いに距離を置くことにした。つぐからはまた明日ね、と言われた。早く仕事に戻らないとだ。まず父さん落ち着かせなきゃ!

 

「父さん、コーヒー淹れすぎだよ!」

「すまない、葵と羽沢君の雰囲気が良かったあまりに余所見してた」

「それ僕が悪いことになってない!?」

 

 なんかあんまりだ。悪いのは父さんなのに僕とつぐが風評被害を受けている。他の人達もほっこりしてるし、紗夜先輩と日菜先輩も見てるし、余計気まずいよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 練習が捗る。私は明日のライブに備えて練習をしていた。アオ君に私の姿を見せられる、それだけなのに凄く気分がいい。何だろう、まるで羽ばたいているような、身体が軽いような感じがする。

 

「つぐ、張り切ってますなー」

「何かつぐからオーラ感じるよ」

「アハハ、これはアタシ達も負けてられないな!」

「つぐみ、ツグりすぎだよ……」

 

 何か皆から引かれてるような……。そして蘭ちゃんがギャグを言ったような気がする。今の私は何でもやれそうだ。でも、無理はしないようにしよう。皆も負けてられないのか、ギターやベース、ドラムの勢いが増してきていた。

 

 これって愛の力かな?自分で言うのも何だけど、私は恋する乙女だ。アオ君にキスしてもらえればもっと気合いが入るけど、キスは恥ずかしいから今のままで充分かな。

 

 そして一曲弾き終えた。その後の私は少し固まってしまった。巴ちゃんに声を掛けられ、私は正気を取り戻した。あ、あれ?今私どうなってたんだろ?

 

「つぐみ、凄く楽しそうだったよ」

「葵君を想う愛、パワー感じたよ!」

 

 蘭ちゃんとひまりちゃんが言った。確かにアオ君ラブだけど、やり過ぎたかな?さっきの私、楽しそうだったかな?あまり覚えてないや。

 

「ていうことがあったんだ」

「そ、そうなんだ。つぐって凄いね……」

 

 練習を終え、夜アオ君と電話をして今日の練習のことを話した。アオ君からも凄いって言われるのは嬉しいな。私はまたニヤッとした。いや、ニヤニヤどころかニヘラァっとしてしまった。私、どんどんおかしくなってるような気がする。

 

 もしアオ君がここにいたら撫でられてたかもしれない。ちょっと話変えようかな。アレがどうなったかも聞いてないし、私とアオ君にとって大切な物だからね。名前は確かスーヴニルだったかな。最初はスイートスーヴニルだったけど、長いからスーヴニルにしたんだ。

 

「そういえばスーヴニルってどうなったの?」

「スーヴニルは評判良いからメニューに載せたよ。おかげで売り上げは伸びたかな。つぐのおかげだよ。ありがと」

「そんな私のおかげなんて、あれはアオ君と一緒に作ったんだし、これはあれじゃないかな?私とアオ君で上手くやれたからこそ出来たことだよ……」

「そうかな?まぁ、つぐのおかげってことに変わりないよ。ホントにありがとね」

 

 アハハ、私は苦笑いしながら時計を見た。もう寝る時間だ。そろそろ寝なきゃ、私はアオ君にバイバイ、と別れてスマホを切った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 カーネーションの仕事を早めに切り上げ、僕はcircleへと向かった。まだ午前だけど、混む前に行かないといけない。Afterglowは人気があるから行列が出来る可能性がある。早めに行けば前で見れるかもしれない。

 

「着いた……。凄いな、結構並んでたのか」

 

 まぁ早めに来たのは正解だ。僕は行列の中に入り、受付まで待った。待つこと約30分、途中で香澄さんと会った。ポピパの皆もいる、皆も見に来たんだな。

 

 香澄さん達と話をして時間を潰すことにした。おたえさんからはさん付けはやめていいよ、と言われた。彼女曰く、おばあちゃんみたいな呼び方だねと言われた。多分気にしてたんだろうな。僕は改めてちゃん付けで呼ぶことにした。

 

「おたえちゃん、何かごめんね」

「私は気にしてないよ。葵が呼びやすいようにしたらいいからさ」

「おたえ、半泣きしてたんじゃないの?」

「してないよ沙綾、私が半泣きするわけないでしょ」

 

 おたえちゃんが半泣きって想像出来ないな。circleで受付を終えた後、香澄ちゃんから両手を握られ、キラキラドキドキしようね、と言われた。香澄ちゃん、これからドキドキするんよ。僕はつぐがキラキラしてるところは楽しみだから。

 

 ようやく会場に入れた。立ち続けるのは辛いけどつぐのためだ。何分か経ち、辺りが急に暗くなった。これから始まるのか?ステージの方を向くと照明が点いた。蘭ちゃんが歌い始める。周りは熱気に包まれた。これがライブか……僕は雰囲気に着いていくのに必死だよ。

 

「つぐ……君は何て綺麗なんだ……眩しいよ、その笑顔」

 

 今のつぐは輝いていた。香澄ちゃんの言う通りだ。ライブをやってる時のつぐはどんな気持ち何だろう、どうして僕はもっと早く観に行かなかったのか、後悔の気持ちが出てきているけれど、今は楽しめばいいんだ。

 

 

――つぐ、今の君は最高にカッコいいよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 笑顔に、楽しく、私は全力でライブを楽しむ。このライブは私にとって大事なライブだ。アオ君が見てくれている、それは私を更に高揚させる力となる。

 

 今の私はどんな顔をしているんだろう。笑っているっていうのはわかる、きっと笑顔なんだろう。それでアオ君に楽しそうだって伝わってるならいい。巴ちゃんもひまりちゃんも、モカちゃんも蘭ちゃんも……皆楽しんでる。

 

 

――アオ君、見ててね。

 

 

 弾こう、とにかく弾くんだ!これまでの練習は今日のためにある!さぁ、愛のパワーを発揮しよう!私は更に想いを込める。この想い、アオ君に届いて!

 

 曲が終わり、歓声に包まれる。汗が滴る、短いようであっという間な時間だった。弾いている間、一つ一つの音に私は想いを……魂を込めた。これが私何だってアオ君に見てもらいたい為に込めたんだ。

 

 会場に目を遣ると、アオ君の姿が見えた。茶髪で背が高いから分かりやすい。アオ君から見て私はどんな姿をしているんだろう。私から見たアオ君は穏やかに私を見てくれている。今度感想聞こうかな。

 

 ライブは……時間は更に進んだ。この瞬間を、このライブを記憶に刻むんだ。アオ君にとっては初めて弾いている時の私を見たんだ。だから、私はアオ君に好きになってもらいたい。もっと私を見てもらいたい。

 

 

――私の恋物語は始まったばかり……。アオ君と付き合ってからの恋物語を描くんだ!

 

 

 

 

 




少年はこの少女の姿に何を思うか
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