恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

34 / 52
感想は聞かないと満足出来ない


バリスタ見習いは恋人を褒めて褒めまくる

 Afterglowのライブから3日経った。僕は接客をしながらあの時のことを思い出す。ライブの時のつぐは笑顔だった。出会った時と同じか、またはそれ以上の笑顔だったか、比べ物にならないくらいに輝いていた。つぐの笑顔を思い出していると、モチベーションが上がってくる。

 

 僕とつぐが出会ってからもう5ヵ月か。時間ってこんなに早かったかな、こんなこと考えてもしょうがないか。今日はつぐが来るんだ。暗いままになってたらつぐに心配を掛けちゃう。

 

「いらっしゃいませ」

「おはようアオ君!」

「おはようございます葵さん」

「おっはよー葵君!」

 

 つぐと紗夜先輩と日菜先輩が来店した。そういえば紗夜先輩、つぐと一緒に来ること多いな。日菜先輩はまだわかるけど、つぐと一緒ってなると何かあったのかもしれない。

 

 僕は三人に笑顔でいらっしゃいませ、と言った。すると、つぐは笑顔で返した。何だろう、心がくすぐったいな。気のせいでは無さそうだ。

 

「ほら二人共、イチャついてない!葵も止まってないで接客しなさい」

「ごめん姉さん!さ、三名様こちらの席になります!」

「ふふっ、楽しそうで何よりね。澪さん、こんにちは。コーヒーでお願いします」

「こんにちは紗夜。コーヒーね、少し待っててね」

 

 紗夜先輩に続き、日菜先輩とつぐもコーヒーを頼んだ。姉さんは三人の注文を聞き、父さんに注文されたメニューを伝えに行った。僕はつぐに落ち着いたら戻るね、と言った。つぐは待ってるね、と言った。

 

 

――つぐ、少しだけ待っててね。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 アオ君の仕事が落ち着くのはそんなに掛からなかった。掛かったのは15分くらいだった。紗夜先輩と日菜先輩は澪さんと話をしていた。私は待っている間、ずっとアオ君を目で追っていた。

 

 アオ君の姿を追う度に心臓がドキドキする。彼と付き合い始めてまだそんなに経ってない。経ってないけど、それでもドキドキしてしまう。理由はわからない。

 

「羽沢さん、嬉しそうですね」

「へ!?な、何のことですか!?」

「さっきから葵君のことジロジロ見てるのバレバレだよ?」

「何のことですか!?アオ君のことなんて見てませんよ!?」

 

 私は必死に誤魔化した。でも、日菜先輩にはほぼバレていた。紗夜先輩は私を見守るように見つめた。顔に出てる時点でバレてるも同然だよね……。

 

 私はアオ君を見つめていたこと、もとい目で追っていたことを認めた。待っている間、アオ君が気になっていたんだからやったことだ。多分アオ君にはバレてない筈だ。私は二人に見つめていたことを言わないで下さい、と釘を刺した。

 

 紗夜先輩も日菜先輩も笑っていた。二人して笑顔が似ているのがなんかズルい。さすが双子だなぁ。そう思っていると、アオ君がこちらに向かってきた。あ、もう時間か。

 

「お待たせつぐ。ごめんね待たせちゃって」

「いいよアオ君。全然大丈夫だから」

「ならよかった。僕もつぐに話したいことがあったからさ……」

 

 私とアオ君の間に甘いような感じの何かが漂ってきた。何だろうこの甘い感じ、暖かいような、心地いいような、嬉しいような、わからないけど、いいや。今はアオ君と話そう。

 

 紗夜先輩と日菜先輩は席を外すと言い、滋さんのいるカウンターの方の席に座った。澪さんも落ち着いたらしく、二人と話をするね、と言った。あれ、よく考えたら私とアオ君、二人きりだよね?

 

 私は緊張しつつ、アオ君と話をすることにした。ああもう、噛みそう、噛みそうだよ!

 

「あの!」

 

 

――私とアオ君、二人の言葉が重なった。あれ、デジャヴかな?

 

 

「つぐからどうぞ……」

「私は後ででいいよ。アオ君からどうぞ!」

「ありがと。話なんだけど、ライブの感想のことなんだ」

「感想?ライブの?」

「つぐにまだ言ってなかったからさ、つぐには電話じゃなくて直接伝えたいんだ」

 

 感想か……。アオ君から感想言われるのはなんか緊張する。私を褒めてほしい、私のことをもっと知ってほしい、心の奥底からそんな想いが溢れようとしていた。聞かせてアオ君、アオ君がライブで感じたことを聞かせて。私はアオ君の顔を見つめながら、心の中でアオ君に伝えるかのように言った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐに何て言おうかな。かっこよかったよ、それとも眩しかったとか?どうしよう、つぐ僕のこと見てるよ。そんな顔で見られたらどう言おうかわからなくなるじゃん!

 

 つぐは顎を両手に置きながら期待しているかのように見ていた。まるで餌を求めるリスみたいだ。可愛いけど、今は感想を言わないといけない。

 

「えっと……今から言うよ」

「いいよアオ君、どんな感想でも受け止めるよ」

「じゃあ言うね」

 

 深呼吸をし、緊張を解す。僕はつぐの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。さぁ言おう、つぐに僕の感じたことを!僕があのライブでつぐのことをどう思ったのか、どんな印象だったか!

 

「まず一言、綺麗だった」

「綺麗だった……?」

「うん綺麗だった。凄く楽しそうにしてたし、笑顔が眩しかったし、かっこよかった!何て言うか、可愛かったかな」

 

 僕はつぐにライブで感じたこと、つぐがどんな表情で弾いていたか、色々なことを言った。とにかくつぐを褒めちぎった。僕が言う度につぐの顔が赤くなる。周りを気にしないくらいに僕はつぐを褒めちぎった。

 

 自分の彼女を褒めるのは照れるな。でも何だろう、つぐの顔から湯気みたいな物が出てるような気がする。気のせいかな?

 

「アオ君、もう充分!充分だから!これ以上言われたら恥ずかしくなるから!」

「あ……。ごめん、言い過ぎた!」

「羽沢さん、顔真っ赤になってますね。葵さん、周りがほっこりしてるの気づいてませんか?」

 

 紗夜先輩に言われ、周りを見渡す。うわぁ、これはやり過ぎたな。つぐを褒めてる間に客増えてるし、しかも途中で瀬田先輩や香澄ちゃんや有咲ちゃんまで来てるし……。香澄ちゃん、そのキラキラドキドキした表情で僕を見ないでくれ……。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 頭がぐわんぐわんしてくる。アオ君に褒められまくったせいだ。やりすぎだよアオ君。あの後、アオ君は周りの人から拍手の波を浴びた。その結果、アオ君は自分の部屋に逃げてしまった。まぁあれは自業自得としか言い様がない。私を褒めまくった結果だ。

 

「でも、嬉しいな。アオ君、私のことちゃんと見てくれてるんだ」

 

 見てくれてるって思うとニヤケが止まらない。こんな顔、アオ君には見せられないな。彼に電話するのはやめよう。まだ悶えてるかもしれないし……アオ君、澪さんにからかわれてるんだろうな。

 

 私はこの思い出を忘れない。アオ君に言われたこと、綺麗だったっていう言葉を忘れない。今度は、私がアオ君を褒めちぎろう。

 

「綺麗だったか……。アオ君、ありがとう」

 

 私は自分の部屋で独り言のように彼にありがとう、と言った。明日彼になんて言おうかな?いつも通りおはようって言って、昨日はありがとうね!何て言おうかな。それを言ったら恥ずかしくなるけど、それでも言おう。アオ君に褒められたのは事実なんだから!

 

 次の日、おはようと言って昨日はありがとうと言ったらアオ君は私を抱き締め、もうやめてと言われた。恥ずかしくなるからやめてくれ、と悲痛な叫びのように言われた。

 

 

――あれ、これって追い討ちかな?

 

 

 

 




褒めすぎにはご注意を
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。