10月中旬、この時期は紅葉狩りシーズンだ。紅葉を見て楽しみ、景色を見たり、食事をしたり、話をしたり等、花見みたいなイベントだ。
「この風景を見ると、秋だって感じするね」
「秋と言ってもさ、もう10月でしょ?」
「言ってみたかっただけだよ」
姉さんに突っ込まれたけど、言われてみればそうか。ここまでくると、時間って早いんだなと実感する。僕は床の清掃をしながら思った。そういえば今日は深雪さんいないな、どうしたんだろ……。
僕は深雪さんがいないことが気になり、姉さんに聞いてみることにした。姉さんによると、深雪さんは今日は家の用事で休むとのことだった。凄く大事な事らしい、と姉さんは言った。
「深雪のお母さんがね、産休に入ったんだ」
「え!?産休に……。深雪さん、妹欲しいなって言ってたよね?」
「確かに言ってたね。まだ性別は分かってないからどうなるんだろ」
「決まったらおめでとうって言わないとだね」
「だね。さてと、今日も頑張ろっか!」
姉さん、気合入ってるな。深雪さんは来れる時は来るようだ。もしあの時みたいに忙しくなったらつぐに手伝いを頼むことになるかもしれない。
でも、つぐはカーネーションの店員じゃない。あの時はつぐがいたからよかった。忙しくなっても、僕達でやろう。つぐに頼ってばかりじゃ駄目だ。
開店してから2時間後、奥沢さんと松原先輩が来店した。僕は奥沢さんに深雪さんのことを伝えた。奥沢さんは最初は驚き、その後涙を流した。奥沢さんは深雪さんに妹のように可愛がられてたんだ。可愛がられてなかったらこうはならない。
僕とつぐが結婚して、子供が産まれたらどんな生活になるんだろう。楽しみだけど、結婚はまだ早い。つぐと結婚を考えるのは置いておこう。今は仕事に専念だ。
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アオ君、今どうしてるかなぁ。私はいつもカーネーションに来ている。でも、今日はどうしようか迷っていた。この前みたいに忙しいかもしれない。カーネーションは羽沢珈琲店と違って人が多い時がある。こっちとは比べ物にならない。
「やっぱり迷う。アオ君、大丈夫かな?」
心配だ、外から様子見て落ち着いてたらい入ろう。忙しかったらやめようかな。もし誰かに見られて、アオ君のファンですかとか言われたらどうしよう。
アオ君の彼女ですってはっきり言うのは恥ずかしいし、その時は何て言おうかな……。
「つぐ、さっきから唸ってるけど、どうしたの?」
「ああひまりちゃん。実はね、カーネーションに行こうか迷ってるんだ」
「葵君の所に?普通に行けばいいんじゃない?」
「そうなんだけど、アオ君この前忙しかったじゃん?」
私はこの前アオ君の仕事を手伝ったことを話した。あの時の店の雰囲気はピリピリしてた。滋さんは冷静だったし、真衣さんや澪さん、深雪さんも結構焦ってた。特にアオ君は顔色が悪いくらいだった。
もし私があの場にいなかったらどうなってたんだろう。私はアオ君の力になれたかな?いや、今はこんなこと考えてる場合じゃない。
「そうだったんだ……このことを知ってるのはつぐだけなの?」
「うん、他のバンドの人はいなかったから私だけかな」
「なるほど……。とりあえず行ってみようよ?行って、大丈夫なら入ればいいし、厳しかったらまた今度にすればいいし、様子見なきゃ分からないよ!」
「そうだね、ありがとうひまりちゃん!」
私はひまりちゃんに言われ、一緒にカーネーションに向かうことにした。歩いてる途中、ひまりちゃんから葵君とは何かやったの、と聞かれた。あの時やったのはおまじないを掛け合うくらいだった。私はひまりちゃんにおまじないを掛け合った事を言った。
「つぐ大胆ー!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!頬っぺたにキスって大胆過ぎるよ!葵君はつぐを抱き締めるって、いやぁいい事聞いちゃったなー!」
何だろ、話しただけなのに恥ずかしくなってきちゃった。言われてみれば大胆だ。抱き締められるのはまだいいけど、正直言うとキスの方がよかった。これはアオ君には言わないようにしよう。
その後、私とひまりちゃんはカーネーションに着いた。外から中の様子を見ると、そんなに混んではいなかった。落ち着いてる、いつもの雰囲気だ。ひまりちゃんから行こう行こう、と手を引っ張られ、そのまま店に来店した。
その日はアオ君と話をした。深雪さんのお母さんが産休に入ったことやこの前の手伝いの話もした。ひまりちゃんの言う通りだ。迷っているのならまず行ってみる。もし行ってなかったら後悔してたかもしれない。今日は来てよかった。
ーありがとう、ひまりちゃん。
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次の日、僕はつぐを紅葉狩りに誘った。せっかくの紅葉狩りのシーズンなんだ、ここで行かなきゃいつ行く。僕とつぐは手を繋ぎながら紅葉を眺めた。
「紅葉、綺麗だね」
「そうだね。つぐも綺麗だよ」
「へっ!?も、もうアオ君ったら……恥ずかしいよ」
つぐが綺麗なのは事実だ、僕はつぐの顔を見ながら思った。こういう雰囲気、何か良いな。つぐと一緒にいると落ち着く。こんな時間が長く続いたらいいのにな……。
「ねえアオ君」
「何?」
「今日は仕事大丈夫なの?」
「仕事の方は大丈夫、父さんからつぐを紅葉狩りに誘ってあげなさいって言われてね。つぐとの時間を大切にしてあげなさいって言われちゃったよ」
「そうなんだ。滋さんにはお礼言わなきゃだね」
本当にそうだ、父さんにはお礼を言わないといけない。本当は忙しいのかもしれない。でも、僕やつぐのためにここまでしてくれた。本当に良い父親だよ。
少し休憩するか。僕はつぐにベンチに座ろうと言った。つぐはブラックコーヒー駄目だったんだっけ?一応僕のオリジナルのブレンドコーヒーを持ってきたけど、大丈夫かな?僕は不安に思いながらつぐにコーヒーを入れた水筒を渡した。
「つぐ、これよかったら飲んで」
「ありがとう。中身は何なの?」
「中身は僕がブレンドしたコーヒーだよ。ブラック、駄目だったよね?」
「うん、ブラックは苦手でね。珈琲店の娘なのにおかしいよね」
「おかしくないよ。僕もブラックは前は飲めなかったんだ」
「そうなの!?」
つぐは驚きながら言った。そう、僕は中学の頃はブラックが飲めなかった。それまでは微糖のコーヒーしか飲めなかったんだ。中学2年辺りでブラックを飲み始め、それから2年経って飲めるようになった。
僕が話し終えると、つぐは笑い始めた。僕にとってはいい思い出だけど、今となっては笑い話だ。これじゃあつぐに釣られて笑っちゃうな。
「アオ君、どうしたの?」
「ごめん、僕もつぐに釣られて笑っちゃった」
やっぱり僕とつぐは似てるところがある。こんなことを言うのはアレだけど、何か運命的だ。
つぐはこの後仕事があると言い、羽沢珈琲店に戻った。僕も一緒に行くよ、とつぐに付いて行くことにした。もう少しつぐの側にいたいな。最近、羽沢珈琲店には行ってなかったから、こうやって行ける時には行かなきゃ。
なお、羽沢珈琲店を出た時、つぐのお母さんからつぐをよろしくねと言われた。何かプレッシャー感じるな……。
バリスタでも苦手なコーヒーはある