10月は下旬を迎えた。ハロウィンは来週にある。この時期は雨と台風がやってくる。冬でもないのに、季節外れの寒さが訪れる。雨宿りや身体を暖める等、それらを目的に客は増えていく。内としては、売り上げが増えるからいいけど、お客さんが風邪を引かないか心配になる。
「凄い雨だ。ホントこの時期は雨が多いですね」
「そうですね。こんなに雨が降っていては帰りが大変ですね」
「紗夜、雨で何か作詞は出来ないかしら?」
今日はRoseliaの皆が来ていた。湊先輩と紗夜先輩が話し合い、今井先輩と白金先輩、あこちゃんも曲の作詞のことで考えていた。真剣な表情をしている、普段とは違う表情をしていた。
「皆さん、コーヒーですよ」
「ありがとうございます羽沢さん」
今日はRoseliaの人達が来ていた。湊先輩と紗夜先輩が話し合い、今井先輩と白金先輩、あこちゃんも曲のことで考えていた。皆、真剣だ。いつもとは違う表情で臨んでいる。
「皆さん、コーヒーが入りましたので、暖まって下さい」
「ありがとうございます羽沢さん」
つぐが紗夜先輩達にコーヒーを差し出した。つぐは今日も手伝いに来てくれた。羽沢珈琲店が忙しい時は来れないけど、来れる時は手伝いに来ると彼女は言った。この手伝いは深雪さんのシフトを埋めるためだけに手伝ってもらっている。
僕はつぐに手伝いは頼んでいない。これは彼女の意思だ。つぐが力になりたいと言って来てくれている。これは期間限定、深雪さんが復帰したらつぐの手伝いは終わりだ。この時期でもいいから、僕もつぐを支えないと。
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アオ君の手伝いを始めたのは紅葉狩りから二日後だった。深雪さんが来れない日は私が行く、羽沢珈琲店が忙しい時は自分の方を優先する。アオ君とはそう話し合い、約束をした。
今日は雨のせいか、お客さんは少なかった。来ているのは紗夜さん……Roseliaの人達だけだ。作詞のことで話し合っている、邪魔にならないように気を付けよう。
「つぐ、寒くない?」
「私は大丈夫、アオ君は?」
「僕は少し寒いかな。秋って暖かい季節なのに、雨が多いのがちょっとね……」
この時期は秋雨だ。このまま雨が長く降ると、アオ君がまた風邪を引きそうだ。私は心配になり、アオ君の顔に視線を向けた。辛そうな表情はしていない、いつも通り明るい表情だ。
とりあえず、様子を見よう。アオ君が体調を崩さないように見ていよう。私はそう思いながら、他のお客さんの注文を聞いた。
注文を聞き、カウンターに向かう。向かう合間に私はアオ君に視線を向けた。彼は両手を合わせて息を吐いていた。少し寒いって言ってたけど、大丈夫かな?あんなことをしていたら無理をしているのはバレバレだよ。
「羽沢君、そんなに葵が心配かい?」
「滋さん……。はい、アオ君が心配です」
「葵は風邪を引いて以来、羽沢君に辛い想いをさせないようにしているんだ。しかし、あれでは分かりやすい」
「アオ君のこと、分かるんですね」
「もちろん分かるよ。師匠でもあるし、親でもあるんだ。親が子のことを分かっていないと駄目だろ?」
滋さんは微笑みながら言った。アオ君のことを語っていた時の滋さんは穏やかな目をしていた。滋さんは凄い。私よりもアオ君のことを分かっている。
もっとアオ君のことを知ろう、会って半年しか経っていないんだ。私は半年で彼のことを知ったような顔をしていた。滋さんにここまで言われたら、まだまだだな私はって思い知らされたも同然だ。
私は深呼吸をした。アオ君のことは心配だ。でも、彼は私に心配させないように頑張っているんだ。そんな姿を見せられたら、私も頑張らないといけない。切り替えよう、それで仕事が終わったらアオ君と話をしよう。そう思いながら、私は仕事に戻った。
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仕事を終え、僕はつぐを家まで送った。つぐから寒くないだったり、本当に大丈夫だったりと何度も聞かれた。あの時のつぐ、何があったんだろう。僕はまたつぐに辛い想いをさせたのかな?それとも……仕事中に何か酷いことを言ったのかな?
「酷いこと、言ってないよね?何もないよね?」
こんなことを思っていたら、つぐにまた迷惑を掛けちゃう。そんなことをした覚えはないのに、深く考えちゃうとそう思ってしまう。ネガティブになっていると、また聞かれちゃうな。
考え込んでいると、スマホから振動が聞こえた。画面を確認すると、つぐからだった。怒られるのか、僕は唾を飲み込み、電話に出た。
「もしもし……」
「よかった繋がった。アオ君、起きてる?」
「うん、起きてるよ。何かな……」
駄目だ、不安になる。彼女に何もしてないのに、何でこんなことを思うんだ。過呼吸が起きそうだ。僕はつぐに聞こえないように、深呼吸をした。聞こえないようにするって、やり辛いな。
「アオ君、無理してないよね?」
「してないよ。つぐ、どうしたの?何かおかしいよ」
「さっき滋さんが言ってたよ。私に心配掛けないようにしてたって」
「父さんが!?何で言っちゃうんかなぁ」
「やっぱり!アオ君、また無理してる!」
僕はつぐに必死に謝った。何度も謝っていると、彼女は許してくれた。僕はつぐに風邪を引いて以来、心配を掛けないようにしようと理由を言った。
「アオ君、私ね心配したんだよ。大丈夫かな、無理をしてないかなって仕事に集中できないくらいに心配だったんだよ」
「本当にごめん。まさかバレるなんて思ってなかったから……」
「ねえアオ君。辛かったら私に言っていいんだよ?辛かったら休んでもいいし、その時は私が……私が……」
「つぐ?」
ーーい、癒してあげるから!
そう言った途端、電話が切れた。癒してあげるって、そんなことを言われたら更に好きになってしまう。本当につぐは、優しい人だ。多分、今頃恥ずかしがっているんだろうな。
「ありがとう、つぐ」
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「ああもう私のバカ!何であんなこと言っちゃうの私!」
癒してあげる、私は彼にそう言った。本当に恥ずかしかった。心配だよって言っておいてこれだ。私は顔を真っ赤にしながらクッションに顔を埋め、悶えた。
これじゃあどっちが無理をしているか分かんないよ。私も人のこと言えないな。こんな悶えてる姿、アオ君に見せられない。もし見られたら、何て言われるんだろう。
「こんなこと考えるなんておかしいよ。はぁ、今日は寝よう」
私は布団に入ることにした。そういえば、来週ってハロウィンだよね?ハロウィンってなると、仮装とか用意しないといけないよね?
今はいいや。それは今度考えよう。今は、この恥ずかしさを抑えたい。抑えないと、またおかしくなる。アオ君のことを考えるのはやめよう。私は彼のことを考えないように目を瞑った。
ーー結局、私は眠れなかった。原因は私の爆弾発言だった。
それは癒しどころか自爆である