恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

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それは準備という名の前哨戦


仮装の準備、前夜祭の目標

 秋雨は止み、喫茶店や商店街はハロウィン一色となった。そう、あと2日でハロウィンを迎えるんだ。この時期になれば仮装をして来店することが多くなる。主に親子連れのお客さんが多い。

 

 トリックオアトリートと言われたらお菓子を差し出す、それが当たり前だ。お菓子が無かったら、どんな悪戯が起こるか、あまり思い出したくない。

 

「仮装、どうしようかな……」

「仮装は狼でいいんじゃない?」

 

 仮装のことで悩んでいると、姉さんが他人事のように言った。今は客はそんなに来ていない。そのため、シャルロッテは珍しく落ち着いている。こんなに落ち着くのは久々だ。

 

 仮装は狼でいいのか、他にもあるんじゃないのか、僕は顎を両手に当てながら考えた。つぐは何て言うんだろう、カッコイイって言うか、それとも普通に似合ってるよって言うか……不安しかない。

 

「葵、何で落ち込んでるの?」

「……つぐに仮装見せたら、何て言うかで不安なんだ」

「え?そんなことで?葵、あんたがそんなんじゃ、つぐみちゃんが落ち込んじゃうわよ?」

「落ち込むって……」

 

 こんな姿を見せたら、つぐにまた心配を掛けてしまう。そんな訳にはいかない。そんなことになったら、仮装どころじゃない。

 

 ここで落ち込んでどうする。僕がこんなでどうする。つぐと付き合って初めてのハロウィンなんだ。初めてのハロウィンを最悪な形で迎えたら駄目だ。いい思い出にならないし、つぐにも申し訳ない。

 

 僕に出来ることは、ハロウィンに向けて準備をすることだ。仮装は僕がつぐに良いって言ってもらえるような仮装を選ぼう。

 

「落ち込んでちゃ駄目だよね……」

「葵、何かあれば私を頼ってもいいんだよ?」

「ありがと姉さん。でも、今回はいいかな。今回は僕で何とかしないと駄目だから」

「そっか。じゃあさ、ハロウィンのこと聞かせてよ。つぐみちゃんとあんたの話、聞きたいからさ」

「姉さんはホントに恋愛好きだね」

「もちろん、恋愛は私にとって必要な物だから」

 

 つぐとの土産話なら全然いいか。そうなれば、つぐをエスコートしないと駄目だ。それに、僕とつぐは付き合ってから色々やっていないことがあるんだ。キスだってしていない。だから、今回のハロウィンでつぐとの距離を縮めよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私はあることに悩んでいた。悩みといっても、大したものじゃない。大したものではないけど、ある行事においてはとても重要なことだ。

 

「これでいいかな……」

「似合ってるよつぐみ。自信持ちなよ」

「これ私に似合うかなぁ……」

 

 ハロウィンに備え、私は蘭ちゃんとひまりちゃんと買い物をしていた。モカちゃんはバイト、巴ちゃんは商店街のハロウィンの準備の手伝いで忙しくため、買い物には行けなかった。

 

 買い物をしているまではいいけど、ひまりちゃんが仮装のことで話をし始めた。二人の仮装ではなく、私の仮装をどうするかで話は進み、結果、私は二人の着せ替え人形にされている。

 

「つぐ、これなら葵君を堕とせるよ!」

「ひまりちゃん、これ露出多くない?」

「ハロウィンに猫の仮装は湊先輩で充分だよ」

「えぇ駄目?似合うと思うんだけどなぁ」

 

 猫の仮装なんてされたら友希那先輩に何かされそうで怖い。そうなったらリサ先輩が真っ先に止めるだろうけど……。

 

 蘭ちゃんとひまりちゃんは色んな衣装を持ってきた。ナースだったり、シスターだったり、ウェディングドレスだったりを着せられた。待って、ウェディングドレスは早いんじゃないかな?

 

「これならどうかな?蘭どう?」

「いいんじゃない?つぐみにピッタリだと思う」

 

 ひまりちゃんが選んだ衣装は赤ずきんだった。私は鏡に映っている姿を見て思った。自分でも似合っていると思ってしまう。それも怖いくらいに。

 

「つぐ、どう?」

「うん、これにする。ありがとう蘭ちゃん、ひまりちゃん」

「つぐみ、葵を喜ばせられるといいね」

「ファイトだよつぐ!」

 

 ひまりちゃんが眩しい笑顔で言った。ここまでされたら期待に応えるしかない。アオ君を喜ばせたい、私のハロウィンの目標は決まった。あとは、当日を待つだけだ。

 

 あと、お菓子も作らないといけない。アオ君もお菓子を作るのかな?もしそうだったら、アオ君のためにお菓子を作ろう。

 

 

ーーアオ君、喜んでくれるといいな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ハロウィン前日の夜、僕はつぐと電話でハロウィンはどうするかを話し合った。仮装は互いにお楽しみと言い合ったり、ハロウィンの後はどうしようか等、予定を立てたりもした。予定といっても、時間は僅かしかないけど……。

 

「それでつぐ、明日は何時にこっちに来る?」

「明日はお昼の3時くらいにしようかな。朝はお店で忙しいから」

「それは僕も同じ。ハロウィンになるとお菓子とか用意しないといけないからね」

 

 お菓子は渡せるようにしないといけない。その為、明日は僕や父さんだけでなく、姉さんと母さんも忙しくなる。深雪さんも明日は大丈夫と言ってたから、大丈夫だ。

 

 でも、何が起こるか分からない。なるべくアクシデントが起こらないように気を付けよう。

 

「時間は……11時か。早いな」

「そうだね。時間ってあっという間だね」

「じゃあつぐ、大変だと思うけど、頑張ってね」

「うん。ねえアオ君」

「つぐ?どうしたの?」

 

 

ーーつぐの声が若干暗いように聞こえた。僕、何もしてないよね?何か迷惑とか掛けてないよね?

 

 

「私のこと名前で……呼び捨てで呼んで。おやすみって言ってくれる?」

「へ?急にどうしたの?」

「どうもしないけど、お願い」

 

 呼び捨てでって珍しい。前はちゃん付けで名前で呼んでたけど、今はあだ名呼ぶことが多い。今から呼び捨てで呼ぶって勇気がいる。早く呼ばないと、寝れないよね。

 

「じゃあ呼ぶね」

「うん」

 

 僕は彼女に想いを込めてその名前を呼んだ。

 

 

ーーつぐみ、おやすみ。

 

 

「これでいい?」

「う、うん!ありがと葵君!じゃあおやすみ!」

 

 つぐはそう言って通話を切った。恥ずかしい、まさかつぐに久しぶりに名前で呼ばれるなんて思わなかった。不意打ちなんてずるいだろ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 どうしよう、眠れなくなっちゃった。アオ君につぐみって名前で呼ばれた。それも初めて呼び捨てで呼ばれた。

 

 あの時、私は彼を久しぶりに葵君って呼んだ。呼ばれたから呼び返そう、なんて無意識にやってしまった。アオ君、どんな顔してるかな……。

 

「アオ君の仮装、楽しみ。どんな仮装なんだろ」

 

 明日が楽しみだ。早く明日にならないかな。会うのはお昼だ。それまで頑張ろう。アオ君と会うのは私にとってご褒美のような物なんだ。仮装と、お菓子は忘れないようにしよう。

 

 

ーー待っててねアオ君。私、アオ君を喜ばせるから!それで、似合ってるよって言わせるから!

 

 

 

 




準備は整った。後は行動あるのみだ
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