恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

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それは不意打ちでもある


お似合いの仮装、反則級のプレゼント

 つぐに良いって言ってもらえる仮装にする、僕は一昨日そう言った。姉さんや深雪さんに見てもらい、何度も何度も試着をした。その結果、ハロウィンで着る仮装が決まったのは当日になった。

 

「これで大丈夫?つぐに笑われたりしないよね?」

「大丈夫だと思うよ。つぐみちゃんが葵を笑うことはないよ」

「葵、つぐみちゃんを信じて。つぐみちゃんなら、似合ってるよって言うわ」

 

 姉さんと深雪さんが微笑みながら言った。ここまで言われたらつぐを信じるしかない。でも、本当にこの仮装で大丈夫なのか。正直不安しかない。

 

 僕が着ている衣装は吸血鬼の仮装だ。姉さんや深雪さん、母さんはシスターで統一、父さんは執事だ。吸血鬼やシスター、ここまではいいけど、一人だけ執事って凄い。父さん曰く、この方が仕事に身が入るという。

 

「葵、間違ってつぐみちゃんの血、吸わないようにね」

「吸わないよ!つぐを襲う勇気ないからね!?」

「ないって……あんた、ホントヘタレね」

 

 反論できない。つぐを襲うなんて、僕には出来ない。襲ったら、嫌がられるかもしれないし、二人きりになった時、気まずくなって雰囲気台無しになるかもだし……。

 

 襲う云々は置いておこう。今は、ハロウィンが大事だ。つぐの仮装がどんなものなのかは分からないけど、仕事をしながら楽しみに待とう。

 

 開店前、僕達は父さんに呼ばれた。打ち合わせをしようと言われたのだ。いつも通りで、焦らず、そして笑顔で接するように、と父さんは言った。接客は僕と深雪さん、お菓子は姉さんと母さん、そしてカウンター対応は父さんだ。

 

 それぞれ、決められた仕事をこなす。とにかく、ハロウィンはトリックオアトリートときたら、お菓子を出すのが鉄則だ。知ってる人、ガールズバンドの人から言われても、ちゃんとお菓子は出さないと駄目だ。

 

「よし……頑張ろう!」

「葵、つぐみちゃんが来ても、驚かないようにね。良いところ、見せてやりなよ」

「ありがと姉さん。つぐの恋人として、頑張らなきゃだよね」

「あんたの反応が楽しみだよ」

 

 姉さんは張り切りながら言った。つぐがどんな仮装で来たとしても、驚いちゃ駄目だ。そうなったら、手が止まりそうだ。見たいけれど、仕事に集中しよう。もし、つぐから似合ってるか聞かれたら、どう言おうかな。そこはちゃんと考えた方がいいな。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 赤ずきんの仮装をしながら、私は接客に勤しんだ。羽沢珈琲店はハロウィンでも、変わらず客は多く来た。普段は落ち着いているけれど、今回は少し多い。蘭ちゃんからは、カーネーションの方は結構客が来ていると連絡が来た。

 

 アオ君も仕事を手伝いたい。アオ君からは今回は大丈夫、と言われた。アオ君、大丈夫かな?あの時みたいに無理してないよね?今日は大事な日なのに、彼のことを考えると不安に感じてしまう。

 

「ありがとうございましたー。ふぅ……これで落ち着いた……」

 

 時間を見ると、午後の2時を回っていた。仕事をしていると、時間はあっという間だ。私はお母さんとお父さんから、お店は大丈夫だから、アオ君の所に行ってきなさいと言われた。

 

 私は支度をして荷物を持ち、家を出た。仮装はそのままに、私は早足でカーネーションに向かった。アオ君、どんな反応するかな。似合ってるって、可愛いって言ってくれるかな?

 

「会うだけなのに、緊張する。アオ君、待っててね」

 

 お店は混んでるかもしれない。蘭ちゃんが結構来てるってなると、アオ君は今忙しいんだ。話せるかどうかは分からないけど……話せたら……ちょっとでもいいから、話がしたいな。

 

 私は途中まで早足で歩いた。彼に会いたいという想いが強くなったのか、私は走ることにした。ここで足を挫いたりしたら台無しになる。走るのはいいけど、怪我はしないようにしよう。

 

「着いた。ふぅ……はぁ……よし!行こう!」

 

 扉を開け、お店に入る。中は蘭ちゃんの言う通り、混んでいた。私が手伝っている時より人は多かった。深雪さんはメニューの注文を聞き、アオ君は接客をしている。澪さんや真衣さん、滋さんもいつも以上に忙しかった。皆、笑顔で仕事に勤しんでいる。

 

「お、お邪魔します!」

「いらっしゃいませ……つぐ!?」

「こ、こんにちはアオ君……」

 

 私は片手を少し上げ、彼に挨拶をした。アオ君は衝撃の表情をしていた。彼の仮装は、吸血鬼だ。アオ君にしては意外だ。言葉にするまでもない、凄く似合ってる。

 

 蘭ちゃんのいる席に案内され、私は椅子に座った。蘭ちゃんだけでなく、モカちゃんとひまりちゃん、巴ちゃんもお店に来ていた。

 

 私、どんな顔をしてるんだろ。赤くなってるかな、ニヤケてるかな。顔が熱くなって、どんな表情をしているか分からなくなってきた。

 

つぐ、今はごめんね。後で、話するから待ってもらえる?

分かった。待ってるね

ありがと。後、仮装似合ってるよ

 

 耳元で似合ってると囁かれた。反則だ、直接言ったのはまだいいけど、囁くのは反則だ。彼に囁かれたせいか、顔が更に熱くなった。アオ君、後で仕返ししないといけないね。

 

「つぐーアツアツですなー」

「つぐ、葵君になんて言われたの?」

「えっと……その……似合ってるって……

「ごめん、聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」

 

 どうしよう、これ言った方がいいかな?皆、早く言いなよみたいな感じになってるし、言わなきゃ駄目だよね。……。私は意を決し、囁かれたことを言った。

 

「葵、大胆だね」

「あーくん、やるねぇ」

「葵君……ヤバいね……」

「つぐよかったな!」

 

 言ってくれたのは嬉しいけど、皆がいる中で言うのは恥ずかしいよ。ああもう、余計顔が熱くなってきた。私は皆に見られないように、両手で顔を覆った。

 

 

ーーアオ君、後でお話しようね?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 つぐが来てから、1時間が経過した。いつもより客は多かったけど、ようやく落ち着いた。今日のために作ったお菓子は完売し、売り上げも良好だ。

 

「ありがとうございました!……やっと終わったぁ!」

「皆、お疲れ様」

 

 ようやく終わった。長いようで短い、あっという間な時間だった。店に残っているのは、つぐだけだ。Afterglowの皆はさっきまでいたのに、どうしたんだろう……。

 

「アオ君、お疲れ様」

「ありがとつぐ、待たせちゃってごめんね」

「いいよ別に。仮装してるアオ君が見れたから、許してあげる」

「許すって……そういえば、Afterglowの皆はどうしたの?」

「皆はいたら邪魔だから、お楽しみにねって言って帰っちゃったよ」

 

 帰ったってそんな……。二人きりになれたのは嬉しいけど、そこまで気を遣われるとお礼を言わなきゃいけないな。

 

 さて、これからどうするか。約束の時間になったのはいいけど、この後の予定を立ててないから、どうするか何も決まってない。つぐと話合って決めるか。

 

「ねえアオ君」

「何?」

「これから……アオ君の家に上がっていいかな?」

「いいけど、どうしたの?」

「えっと……その……アオ君に渡したい物があるんだ」

 

 突然のことで焦り、僕は姉さん達に視線を投げた。姉さんと深雪さんはニヤリとしながら、地獄に逝ってこいと語り掛け、父さんと母さんは親指を立てて頑張れとエールを送られた。

 

 

ーーここまで来たらやるしかないか。

 

 

「……うん、分かった。じゃあ行こうか」

「ありがとうアオ君」

 

 

ーーお礼を言いたいのは僕の方だよ……。

 

 

 




前哨戦は終わった、本当の地獄はこれからだ

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