つぐを仮装のまま家に上げ、部屋に案内する。つぐが僕の家に上がるのは何回目だろう、夏祭りの後が初めてだから、大体2、3回くらいか。つぐを家に上げても、緊張は収まらなかった。
部屋に入れ、彼女は纏っていた赤いローブを外した。つぐが赤ずきんの仮装で来るなんて思わなかった。似合っているし、可愛いからいいか。もし、僕が狼の仮装をしていたら襲っていたかもしれない。
僕につぐを襲うなんて出来ない。何かあったら、つぐの親御さんに殺されるかもしれない。姉さんから言われたヘタレって言葉を撤回させたい。ヘタレなのは、事実だから撤回なんて無理だけど……。
「お邪魔しまーす……」
「つぐ、大丈夫?身体震えてるけど、何かあった?」
「な、何もないよ!なんでもないから!」
彼女は焦りながら言った。本当に大丈夫なのか?家に上がってから、ソワソワしてるように見えるけど、気のせいかな?家に上げるのが少ないせいか、久しぶりに家に来たせいか、何が原因でこうなってるんだろう。
「ちょっとコーヒー淹れてくるね。ゆっくりしてていいよ」
「ありがとアオ君、待ってるね」
そう言い、僕は部屋を出た。これから二人きりになるけど、上手くいくかな?こんなことで緊張するなんて、情けないな。不安しかないよ。
つぐからトリックオアトリートって言われたらどうしようか。ハロウィン用に作ったお菓子はまだ残ってたっ筈だ。手作りのお菓子じゃないのは凄く申し訳ない。でも、ないよりはマシだ。念のため、用意しておくか。
そう考えながら、僕は2人分のコーヒーを淹れ、マグカップをトレーに乗せて部屋に戻った。つぐ、喜んでくれるかな?何か言われたらどうしよう、言われたら謝るしかないよね……。
▼▼▼▼
今日、私はアオ君の家に上がった。目的は2つある。一つは、アオ君にハロウィンの為に作ったクッキーをあげる。それで、アオ君を喜ばせたい。アオ君に美味しいって言ってほしい。
二つは、アオ君に私の初めてを……ファーストキスをあげる。私とアオ君は付き合って2ヶ月になるけど、未だにキスをしていない。ていうか、私キスできるかな?
「お待たせつぐ、遅くなってごめんね」
「そんなに待ってないよ。コーヒーありがと、アオ君」
彼は微笑みながら、コーヒーをテーブルに置いた。アオ君、忙しかったのに表情が明るい。疲れてないのかな?
「ねえアオ君、疲れたりしてない?」
「……若干疲れてるかな」
「今度は正直なんだ」
「隠してもつぐにバレるからね。隠すよりは正直に言うのがいいかなって」
「なんかごめんね。仕事の後に無理を言っちゃって」
「いいよ別に。つぐのためなら、僕は平気だから」
彼はそう言いながらコーヒーを一気に飲み、私を抱き締めた。それは嬉しいけど、無理をしてほしくない。私がアオ君にしてあげられるのは、癒してあげることだ。
私は彼の頭を撫で、背中を摩った。アオ君、大丈夫だよ。少しでもいいから、寝てもいいんだよ。私は、アオ君に倒れてほしくない。だから、ここで休ませてあげよう。
「つぐ、何を……」
「アオ君、私の膝に頭を乗せて」
「えっ!?それはさすがに……」
「いいから!早く乗せる!」
「はい!」
私は圧を掛けながら言った、ちょっとやり過ぎたかもしれないけど、こうでもしないと乗せてくれない。彼は横になり、私の膝に頭を乗せた。タイツを履いているせいか、太ももがチクチクする。髪が当たってるんだ。
「アオ君、眠くなってきた?」
「うん、横になったせいかな……眠くなってきた」
「よかった。アオ君、寝てもいいよ」
「ごめんねつぐ、少し休むね」
彼の頭を撫で、私は耳元で囁いた。アオ君には少しだけ寝てもらおう。少しでもいいから休んでほしい。今日は遅くなるかもしれない。もし、遅くなったらお母さんに連絡しよう。また、アオ君のところに泊まろうかな。
ーーあとアオ君、そこはごめんねじゃなくて、ありがとうだよ。
▼▼▼▼
つぐに膝枕をされてから2時間が経過した。僕はあの後、1時間半寝ていた。目を覚ました時には、つぐも寝ていた。釣られて寝ちゃったのかもしれない。
「ごめんねアオ君、私まで寝ちゃって」
「いいよそんな……。まぁ、僕としては良い物見れたからいいけど」
「良い物?もしかして……見たの?」
「うん。つぐの寝顔、見ちゃった」
「と、撮ってないよね!?」
「寝てたんだから撮れる訳ないでしょ?」
確かに、と彼女は言った。撮ってなくてもいつでも見れるんだから問題ない。もし、撮ったら怒られるし、口聞いてくれなくなるからそれはやめよう。そうなったら、身が持たない。
僕は身体を起こし、伸びをした。危ない、またつぐとぶつかりそうになった。つぐとぶつかったのは、5月の旅行の時だったか。あの頃が懐かしいな。
「ふぅ……よく寝た。つぐ、時間潰しちゃってごめんね」
「また謝る。私は平気だけど、そこはありがとうじゃない?」
「いやでも、寝ちゃったから謝んなきゃでしょ?」
「疲れてた人がそれ言うの?」
彼女は顔を近づけながら言った。圧が強い、つぐは普段可愛いのに、圧を掛けられると怖く感じる。やっぱり、ありがとうって言った方がいいのかな?言わないと、ループしちゃうよね……。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして!」
笑顔が眩しい、この笑顔が見れるなら言って正解だな。外はもう夕方だし、つぐを家に上げてから何もやってない。つぐには申し訳ないことをしたな。
その後、彼女は家に連絡し、僕の家に泊まることを言った。待って、泊まるの?聞いてないんだけど……。
▼▼▼▼
突然泊まるなんて言うのは図々しいのは分かってる。今日を逃したら、いつ出来るか分からなくなる。だから、今日やらないと駄目だ。
夕飯を一緒にし、お風呂まで戴いた。アオ君には迷惑を掛けちゃったな。キスをするっていう雰囲気を作るためだけにここまでするなんてーー
ーー私はなんて自分勝手なんだ……。
「つぐ、どうかした?」
「何でもない、ごめんね服まで借りちゃって」
「いいよ。でも、泊まるのは突然でビックリしちゃったけど」
「それは……」
「僕も寝ちゃって時間潰しちゃったんだから、おあいこだよ」
アオ君にそんなことを言われたら反論できない。悪いのは私なのに、なんでアオ君はそんなことを言うんだろう。君は本当にズルい人だよ。
そろそろアレを渡そう。今日はハロウィンなんだから、お菓子を渡さないと何も始まらない。私はカバンから袋に入れたクッキーを出し、彼に差し出した。
「つぐ、これは……」
「今日ハロウィンでしょ?だから、お礼も兼ねてアオ君にあげたいんだ」
「つぐ……ありがとう」
「あと、トリックオアトリート!お菓子をあげないと……」
ーー悪戯しちゃうぞ。
私は彼に近づき、耳元で囁いた。恥ずかしい、まさかこんなことを言う日が来るなんて思わなかった。アオ君、どんな顔してるんだろ。気になるけど、赤くなってること言わない方がいいかな……。
「つぐ、今お菓子渡すから離れてもらっていい?」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど、渡せないじゃん?」
「分かった、貰ったらまたするね」
「またするんだ」
そう言いながら、彼は袋を私に差し出した。袋に入っていたのは、クッキーだった。私と同じだ。渡すお菓子が同じなのは偶然かな?
「渡す前につぐに言っておくね。このクッキーは、さっきの……ハロウィンのお菓子の残りなんだ」
「残り?手作りじゃないの?」
「うん、それは姉さんや母さんが作ったんだ。ごめんね、手作りじゃなくて」
彼は私に謝り、頭を下げた。あんなに忙しかったんだ。作る時間がなかったのかもしれない。手作りじゃないのは残念だけど、アオ君はよく頑張った。今にも泣きそうになってる。今、私がアオ君にしてあげられることは……アオ君を赦してあげることだ。
「アオ君、頭を上げて」
「つぐ、本当にごめんね」
「もういいよそんなことは。忙しかったんでしょ?」
「それは事実だけど……」
「また今度でもいいよ。それに、アオ君の手作りはいつでも貰えるんだし、私は平気だよ」
「つぐ……」
手作りじゃなくてもいい。別に貰えなくてもいいんだ。私は、君に色んなものを貰ってる。ハロウィンのお菓子なんて、来年を待てばいい。今年が駄目でも、また次があるんだ。
私は彼に近づき、唇を重ねた。雰囲気はアレだけど、忙しかったアオ君にご褒美をあげよう。これは、私なりのささやかな贈り物だ。
「ん……。つぐ、いきなり何するの!?」
「アオ君に私の
「は、初めて!?言い方、他にもあるでしょ!」
「あっちの方じゃないけど、唇の方ね」
「あっちってどういう意味!?」
アオ君、焦ってる。これで泣かなくなったかな。さっきの悪戯はこのキスだ。雰囲気作りが難しいなら、無理矢理作ればいい。やり方が強引だったけど、これでアオ君に私の初めてをあげれた。これでいい、これでいいんだ。
▼▼▼▼
つぐが突然キスをした時はビックリした。まさか、つぐの方からするなんて……。こういうのは、男の僕からやるべきなのに、彼女にさせてしまった。このままいくと、また謝っちゃう。今日の僕は、謝ってばっかりだ。
「つぐ、今度は僕からするね」
「いつでもいいよ」
目を瞑り、彼女に唇を近づける。緊張する。キスするだけなのに、こんなに緊張するのか。つぐと付き合ってからキスをするのはこれが初めてだ。
心臓が高鳴る。今から彼女にキスをするってことを考えると、どんな反応をするんだろうと考えてしまう。僕は少し目を開け、彼女の顔を見た。綺麗なまつ毛だ。
「アオ君、緊張してる?」
「してないよ!」
「本当に?じゃあなんで手が震えてるのかな?」
「こ、これは……」
見抜かれてる。こういう時のつぐは鋭くなるのか。指摘されたのは悔しいけど、つぐの新しい一面を知れた。そう思うと、緊張が止まった。よし、今度こそやれる。
「つぐ、気を取り直してもう一度やるね」
「うん。じゃあもう一度」
「つぐみ、これからもよろしくね」
「こちらこそ。葵君、好きだよ」
僕とつぐは互いに見つめ合いながら名前を呼び合った。目を瞑り、唇を重ねる。その口付けは濃厚ではないけど、緩く穏やかな口付けだった。僕とつぐは、本当の意味で結ばれたんだ。
今日のハロウィンは僕とつぐにとって、特別な日になった。この思い出は忘れないようにしよう。このキスは次への第一歩だ。明日で11月になる、明日が楽しみだ。
二人はようやく初めてを捧げ合った