つぐとのファーストから2日が経過した。付き合ったのは8月なのに、気付いたら11月だ。季節は秋から冬に変わる、本当にあっという間だよ。
「まだ11月なのに寒い。天気は……曇りか」
朝の準備をしながら、僕は外を眺めた。冬に入れば客は少なくなる。寒いから外に出たくない、布団に籠ってやると言ってる人が出てくる。そうなっては店の売り上げが下がってしまう。そろそろ暖房付けないと駄目だな。こんなに寒いなら、つぐに寄り添って暖まっていたい。
暖まっていたいというのはいいけど、僕もつぐも互いに店の手伝いで忙しい。休憩時間とかで寄り添っている所を誰かに見られて仕事どころじゃなくなる。やるなら二人きりの方がいいか……。
「葵、手止まってるよ」
「ごめん姉さん、今戻るよ」
「羽沢君のことを考えるのはいいが、手を止めるのはどうかと思うぞ」
「何でここでつぐが出てくるの!?」
「つぐみちゃんどうしてるかなーって顔に出てたわよ?」
「……今日も営業あるから頑張ろうかー!」
父さんと母さんに揶揄われた。僕は考えていることがバレないように話を逸らした。営業前にやられるなんて最悪だ。後でつぐと会ったら気まずくなるな。もし会ったらどうしようか。いや、考えるのはやめよう。
ーー普通にしてれば大丈夫だよね……。
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「はぁ……」
「溜め息なんか吐いてどうしたの?」
「なんでこんなに寒いんだろうって思ってね」
「アオ君って寒がりなの?」
「寒がりじゃないけどなんて言うんだろ……。人肌が恋しい……みたいな?」
みたいな?って、そんな言い方をされたら分からない。アオ君は寒がりじゃないよと言った。人肌が恋しいみたいと言ったけど、どういう意味なんだろう。私は彼に何があったのかを聞くことにした。
アオ君は何でもないと答えた。何もないならいいけど、彼は目を逸らした。そこで目を逸らされたら余計気になるよ。
「本当に何もないの?」
「本当だよ!本当に何でもないよ!」
「答えないなら別れるよ?そうなってもいいの?」
「それは……嫌だ」
私が脅しをかけた瞬間、彼の表情が青ざめた。これは言い過ぎたかな。アオ君泣きそうになってるし、落ち込んじゃってる。私は焦りながら嘘だよと言い、彼を慰めた。
「ごめんねアオ君、言い過ぎちゃった」
「つぐ、そんなこと言われたら僕引きこもっちゃうよ、首吊っちゃうよ」
「それは……ご、ごめんなさい!」
虚無になりながら彼は言った。首吊るは洒落にならないからそれだけは止めてほしい。何だろ、こんなこと思うと悲しくなってきた。
アオ君が虚無から立ち直るのに20分掛かった。休憩時間が終わるのにちょうどいい時間だった。アオ君、このまま仕事に戻って平気かな?今度お詫びに何かしてあげようかな。
客席から彼を見守ったが、平静を保ちながら接客をしていた。表情は未だに青ざめてる。後で謝ろう、私はそう思いながらコーヒーを飲んだ。
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次の日、僕はつぐと会うために羽沢珈琲店に向かった。彼女から別れると言われたが、嘘だよと言われた。あれは嘘でも真に受けるし心臓に悪い。もし本当だったら僕はどうしたらいいんだ。まぁ、嘘だから大丈夫か。
あの後、つぐは僕にお詫びに言うことを聞くと言われた。さっき、僕が虚無になったのが原因か。いきなりそんなことを言われても何をしたらいいか、何を言えばいいのか……。
「つぐ、いいんだよ?僕は怒ってないし、もう立ち直ってるし」
「それじゃあ駄目なの。こうしないと自分が許せないの」
つぐにこんなことを言わせた僕にも原因がある。この前、つぐとくっついて暖まりたいなんて考えてなければこうはならなかった。あそこで言えばよかったな。
つぐが言ったお詫びってどんなもの何だろう。ここで聞いていいのか、聞かない方がいいか僕は迷った。つぐの方を向くと、彼女は頬を赤らめていた。これは聞かない方がいいな。
「分かった。つぐ、何でもないっていうのは嘘なんだ」
「やっぱり。それで、アオ君は何を考えてたのかな?」
「最近寒くなったじゃん?それでね、どうしたら暖かくなるかなって考えたんだ」
「確かに寒くなったよね。暖かくなる方法って何?」
彼女が僕の方を向いて質問をした。つぐに寄り添えば暖かくなる、これを本人に言うのか。恥ずかしいけど、言うしかない。ここで言わなかったら、本当に別れることになる。そうなったら、僕の人生はおしまいだ。
「暖かくなる方法はこれだよ」
「へ?」
僕は彼女の手を取り、両手で包んだ。二人きりだったら抱き締めたいけど、店の中でやったら二人共終わる。抱き締めてるところを蘭ちゃんか知り合いの人に見られたりすれば穴に入りたいくらいに恥を掻く。
「アオ君、これが暖かくなる方法?」
「……今はこんなところかな。本当は……ね、つぐに寄り添いたかったからなんだ。そうすれば、暖かくなるかなって思ったんだ」
「最初から言ってよ。言ってくれたら私はアオ君の願いを叶えられたんだよ?全く、心配して損した」
「ごめんねつぐ」
僕は彼女に涙目で謝った。別れそうになるくらいなことをしたんだ。これは僕がお詫びに何かしてあげるべきだ。これじゃあ僕はつぐの恋人失格だな。情けない、自分が許せないよ。
落ち込んでいると、彼女はある提案をした。互いにお詫びに何かしてあげようと言った。互いにか、つぐが納得するならそれでいいか。
「それで、何をするの?」
「えっとね、アオ君目瞑ってもらえる?」
「え?何かするの?」
「いいから早く瞑る!」
何をするんだ、これから何が起こるんだ?僕は不安に感じながら、彼女に言われて目を瞑った。悪いことにならなきゃいいけど……。
そう思っていると、唇に何かが重なった。これは何だ?暖かいし柔らかい、もしかして……つぐか!?
「……ふぅ。これでよし!」
「お詫びって……キスなの?」
「そうだよ!さぁアオ君も早く!」
「分かったから、目瞑ってくれる?」
僕は彼女に目を瞑るように言った。つぐ、何か楽しそうだな。ここでディープキスは駄目だから、普通のキスでいいか。雰囲気はアレだけど、手短に済ませるか。
彼女の両肩を掴み、唇を近づける。恥ずかしい。あの時は出来たのに、今回は場所のせいかやり辛い。雰囲気作りは大事だな。そう思いながら、唇を重ねた。短いようで長いような、どう表現したらいいか分からない間だった。
ーー一瞬で暖まるなんて、キスって凄いな。
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二人きりのキスの後、彼は店を出た。私は彼に重ねられた唇をなぞった。アオ君の唇の感触が残ってる。
「暖まったのは私の方だよ……。キスってこんなに凄い物なんだ……」
私は独り言のように呟いた。さっきのことを思い出すと、顔が熱くなる。あそこで深くやってたらどうなってたのかな。これはあまり考えない方がいいかな。
今日は眠れそうだ。でも、今日のことは私と彼の二人だけの秘密だ。そう思うと、共有してるみたいで嬉しくなる。
次の日、私とアオ君は校門前で会った。互いに挨拶をしたのはいいけど、顔が赤くなって気まずくなった。それはまた別の話だ。
互いに暖かくなったのならそれで解決だ