恋は喫茶店から始まる   作:ネム狼

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今回はバンドリ要素が無いかもしれません
敬老の日ということで書いた回なので、つまらないかもです


バリスタの過去と後悔、祖父に感謝を

 9月中旬、父さんと母さんは出掛ける所があると言った。そのため、カーネーションは臨時休業という形で休みとなった。僕は何処に出掛けるかを父さんに聞くことにした。

 

「葵、私と真衣さんは墓参りに行くんだ」

「墓参り?誰の墓参りなの?」

「私の父と母だ。葵や澪からすれば祖父と祖母、と言ったところか」

 

 父さんは真剣な表情で言った。営業の時とは違う表情だった。しかもその日は祝日、敬老の日だった。お爺ちゃんは僕や姉さんが産まれる時にはいなかった。正確には亡くなったが正しい。

 

 休みの日はどうしようか……。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩と喫茶店巡りの約束がある、僕は何も予定は無い。そうなると、羽沢珈琲店……つぐの所に行こうかな。

 

 次の日、僕は羽沢珈琲店に行くことにした。父さんと母さんは朝の5時に出掛けた。目的地が遠いということで早めに出掛けたのか。

 

「アオ君、今日はどうするの?」

「今日は1日ここに居るかな。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩、3人で喫茶店巡りでいないし、父さんと母さんは出掛ける所があるって言っていないから、一人で留守番するのもアレだから……」

「それで私の所に来たってことなんだよね?」

 

 そういうところかな、僕は息を吐きながら言った。一人でいるよりはつぐと一緒にいた方がマシだ。だから、今日は羽沢珈琲店にいよう。その方が寂しい想いをしないで済む。

 

「出掛ける所があるって言ったけど、何処に出掛けたの?」

「墓参りだって。僕と姉さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんかな」

 

 お爺ちゃんってどんな人なんだろう……。父さんと母さんが話すって言ったけど、凄く気になる。よく考えたら父さんと母さんの過去も話すってことだよね?姉さん、親の恋愛話は苦手だけど……大丈夫かな……?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 葵と澪には1日休んでもらうことにした。祖父、楠源次。私の父であり、私とは違って凄く真面目な人。私と真衣さんが結婚した6か月後に病で亡くなってしまった。それも今日、敬老の日に亡くなった。

 

 母の楠佑美は父が亡くなったショックにより、寝込んでしまった。行きたい所があると言って川に身を投げようともした。あの世に……父の元に逝こうとした。私と真衣さんで世話をしていたが、数日後に自殺をし、亡くなった。包丁を自分の胸に刺して自殺をしたのだ。

 

「滋さん、大丈夫?辛そうな顔ですけど……」

「私は大丈夫だよ。辛そうにはしていないし、おかしい所はないよ」

「隠せていませんよ。滋さん、ポーカーフェイスをしてもお見通しですよ」

 

 隠せなかったか。真衣さんの前で隠し事は通じない、この人は私のことをちゃんと分かっている。私が彼女にプロポーズする前からお見通しと言われている、もう何度目だろうか、数え切れない回数で言われたな。

 

 私と真衣さんが向かっている目的地は田舎だ。私の出身は田舎で、都会に引っ越したのは父が喫茶店を開くと同時だった。

 

「真衣さん、私は……」

「滋さん、昔のことですよ?後悔しても過去には戻れないんですから、前を進みましょう」

「そうだね」

 

 父が亡くなったあの日、私は後悔している事がある。その後悔は今でも引き摺っている。澪や葵が産まれるよりも前、カーネーションを開店するよりも前、父を看取るあの日、言えなかった言葉がある。

 

 車を運転すること2時間弱、真衣さんと交代しながら目的地へと車を走らせた。真衣さんと昔の話をしたり、新作はどうしようかと話し合ったりしながら時間を潰した。家に着いたら葵と澪に話そう。2人が知らない私達の過去を……。

 

 道中の花屋で花を買い、父と母の墓に向かった。もう何年ぶりだろう、店の事で忙しかったせいか、10年くらい行ってなかったかもしれない。三回忌にも行ってなかったな。行ってなかったというより、行けなかったのだ。

 

「くっ……」

「滋さん!?」

「大丈夫、立ち眩みをしただけだ。真衣さん、私は大丈夫だから……」

 

 息を整え、父と母の墓まで歩を進めた。挨拶をし、花は真衣さんに持ってもらい、私は墓の掃除を始めた。打ち水で墓を清め、花をお供えする。そして線香をあげ、真衣さんと合掌をした。

 

「源次さん、佑美さん、お久しぶりです」

 

 真衣さんは挨拶をした。しかし、私は出来なかった。病院に急いで行ったあの時、父は亡くなっていた。立ち会えなかった後悔、最後に感謝を言えなかった後悔、様々な想いが私を支配した。

 

「滋さん、ここで言わないと……」

「真衣さん、私は……」

「しっかりして下さい。何のために来たんですか?」

 

 真衣さんは真剣な表情で言った。そうだ、ここで言わないと駄目だ。じゃないとまた辛い思いをしてしまう。私は深呼吸をし、息を整えた。

 

「お父さん、お母さん、久しぶり。今まで墓参りに行けなくてごめんね」

「……それだけですか?」

「それだけって何がだい?」

「もう一つ言わなきゃいけない言葉があるでしょう?感謝の言葉ですよ」

「感謝か……。ありがとう、これからも見守っていて下さい」

 

 私は涙を堪えながら言った。真衣さんにここまで言わせてしまうなんて、情けない夫だ。これじゃあバリスタ失格だ。こんな姿は葵と澪には見せられない。子は親の背中を見て育つ、この姿を見せたら親として、バリスタとして失格だ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 羽沢珈琲店を出て、僕はつぐと別れた。父さんと母さんは夜に帰ってくるって連絡があった。姉さんから喫茶店巡りの話聞こうかな?今は夕方だし、父さん達が帰ってくるまで時間はある。とりあえず、夕飯済ませたら姉さんと話しようかな。

 

 その後、僕と姉さんは夕飯を済ませ、つぐの事や喫茶店巡りの事を話し合った。姉さんは紗夜先輩と日菜先輩との喫茶店巡りは楽しかったと言った。今度は深雪さんを誘って4人で行きたいと言ったようだ。

 

「ただいま葵、澪」

「おかえり父さん、母さん。1日お疲れ様」

「墓参り大丈夫だった?」

「ええ、大丈夫よ。心配は無用よ」

 

 母さんは微笑みながら言った。帰ってきたってことは、お爺ちゃんとお婆ちゃんのことを話すってことだよね……。僕と姉さんが産まれた時には亡くなってるとしか聞いてなかったけど、ようやく聞けるのか。どんな人なんだろう。

 

「二人共、遅くまで待たせて済まなかったね」

 

 父さんは僕と姉さんに頭を下げて謝った。謝らなくてもいいのに、謝られたらこっちこそ申し訳ない気持ちになる。

 

 そして父さんと母さんはお爺ちゃんとお婆ちゃんの事を話した。父さんが昔は田舎出身だったこと、お爺ちゃんは有名なバリスタだったこと、お婆ちゃんは和菓子屋の娘だったことを話した。

 

「私はね、父に憧れてバリスタになったんだ」

「そうなの!?」

「ああ、カーネーションを開店するって父に話したら、最初は反対されたんだ。お前には出来ないってね……」

「お婆ちゃんはどうだったの?」

「母は賛成だったよ。父……お父さんと違ってお母さんは滋ならやれるよって言われたさ」

 

 その時の父さんの表情は過去を振り替えりながら、優しい表情をしながら話していた。母さんは隣で見守っていた。源次さん……お爺ちゃんは父さんよりも厳しい人だった。無口で、頑固な人だった。

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんってどうやって結婚したの?」

「澪、大丈夫なの?貴女、親の恋愛話は苦手だったわよね?」

「知りたいの。お爺ちゃんとお婆ちゃんはどうやって知り合ったのか、誰からプロポーズしたのか、知っておきたいの」

「澪……。分かった。お母さんの和菓子屋で二人が出会って、二人はそこで一目惚れをしたんだ。それで、2か月で付き合って、1年後にお母さんからプロポーズをした。こんな所だ」

 

 あっさりしてる。しかも一目惚れって僕とつぐの事みたいに聞こえる。あの時、父さんと母さんの顔凄く優しい顔してたっけ……。

 

 父さんは後悔していた事が一つあった。母さんと結婚し、バリスタの修行をしていた時にお爺ちゃんが危篤状態に陥ったことを聞いた。父さんは急いで病院に向かった。電車で乗り換えをし、タクシーで病院まで向かい、走りながら病院に向かった。でも、着いた頃にはお爺ちゃんは亡くなった。

 

「あの時の事は今でも忘れられない。お父さんの側にいてあげられなかったことは今も後悔している。お母さんは寝込んでしまったんだ。自殺もしようとした。私と真衣さんで何度も止めたが、それも出来なかった」

「そうだったんだね……」

「ああ、それに……お父さんに言えなかったこともあるんだ。側にいてあげられなくてごめんなさいって言えなかったんだ」

 

 お爺ちゃんとお婆ちゃんが亡くなった後も父さんは何年も引き摺っていた。二人が亡くなった次の年にカーネーションは開店した。

 

 父さんから聞いた話はこれが全部だった。父さんは凄く辛そうにしていた。母さんがいないと駄目なくらいに辛そうだった。姉さんも話を聞いていた途中で泣いてしまった。聞かせてくれてありがとう、姉さんは父さんに言った。

 

 敬老の日、お爺ちゃんやお婆ちゃんに感謝を伝えたり、敬ったり色々ある。けど、お爺ちゃんは敬老の日に亡くなった。それは父さんにとって非情な現実だった。

 

 墓参りに行く時になったら僕も行こう。それで、ありがとうって言おう。バリスタをやってる時のお爺ちゃんはどんな想いでコーヒーを淹れていたんだろう。それを知っているのは父さんだけだ。

 

 

ーーいつも来てくれてありがとう、いつも淹れてくれてありがとう、そんな想いなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 




その想いは客人を暖めてくれるのかもしれない
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