そろそろ例の時間になってきたから、あかりと神崎にかき氷を買って、顔見知りの店主とお互いの情報を交換する。っつっても俺から一方的にヤバイ奴がいるって話だけだけど。
さっき二人が化粧直しに行ってた間に掛かってきた蘭豹の電話で、臨時の
昨日あいつに呼び出し食らった時に、祭りのことなんて言わなきゃ良かったぜ。
「赤の帽子にストライプ柄のTシャツ?見掛けてねぇなぁ」
「マジか、そいつ盗撮魔の疑いがあるから、見付けたら任意か何か言って引き留めて、俺に連絡くれないか?今度ラーメンか何か奢るからさ」
ブルーハワイを掛けながら言うと、町内会の付き合いで屋台を出していた獅堂さんが、挑発するように言った。
「お、言ったな?俺は人の五倍は食べるぞ?」
「あぁ、メガ盛りメニューある所知ってるからさ、好きなだけ食ってくれ」
麺一キロに、もやしとチャーシューにメンマが麺が見えなくなるまで積まれた、オバケメニュー出してるラーメン屋が台場にあったんだよな。一杯二千円だけど、時間内に完飲まで出来たら賞金が出るって話の、人外メニュー。
「よし、乗ったぜ。赤の帽子にストライプ柄のTシャツの男だな?」
「背丈は160㎝位、小柄でバッグを背負ってたって情報だ」
いやはや、そいつもバカだよな、蘭豹の浴衣と下着を盗撮するなんて、命知らずにも程がある。あの人、見た目はレベル高いから達が悪い。
「頼んだよ獅堂さん」
そう言って店から離れて、隅の方でかき氷を食べる二人に近付いて謝る。
「すまん二人とも、少し離れる。直ぐに済むから二人で祭りを回っててくれ」
「えぇ!!」
驚くあかりに、申し訳ない気持ちになると、神崎が冷静に聞いてくる。
「何かあったの?」
「ちょっとな、俺一人で十分だ」
そう言うと納得した神崎に、未だあって一月も経ってないのに、俺の言った事に何も疑問に思わないことに違和感を感じた。付き合いが浅いから気にしてないだけかね?
「合流前に連絡する、すぐに戻るから」
何故か神崎の方から不気味な視線を感じて、寒気がしてきて急いでその場を離れる。
「あ、先輩!?」
あかりが何か言ってるが無視だ。今は蘭豹の任務を終わらせないと、また休日返上してあいつの男馴れの練習相手にさせられかねん。
……………ちょっと照れると銃が暴発したりコンクリにヒビが入る蹴りが飛んでくる
「取り敢えず蘭豹と合流しないとな」
メールで合流したいと現在地を送ると、すぐにメールが返ってきた。
「早すぎて若干怖いな」
こりゃ相当頭にキてるな蘭豹のやつ、流れ弾がこっちに来ないようにと祈ってメールを開くと、神社近くの人気のない公園に来いとだけ、メールには書かれてて、同封されてた写真が、何故だか浴衣がはだけた蘭豹が顔真っ赤にして慌ててる写真。
…………………これ綴先生も要るのか?蘭豹にこんなこと出来るの綴先生と高天原先生位だし、高天原先生はこんなことする性格じゃねぇし、綴先生いるのか………行きたくねぇなぁ。
「遅いぞ遠山ぁ!!」
「私、学校外で生徒と会うの、マズイと思うんだけど?」
憂鬱な気持ちで公園に行くと、黒地に金糸で模様の入った浴衣を着崩してる蘭豹と、青地に花火の柄の浴衣を着た綴先生が居た。
綴先生、それ男物っぽいんだけど、何で?サイズがあってないのかだぼついてて、蘭豹とは別の意味で危険なんで即刻着替えて来て欲しい。
「すみません。で、報酬と情報を頂きたいですけど?」
「ほれ、それでええやろ?後情報は渡した奴で全部や。今は高天原がウチが付けた発信器をGPSで捕捉してる所や。相手は
投げ渡されたケースを開くと、武偵弾が一つ入ってたので、異論は無いので黙って頷くと、綴が蘭豹をジト目で睨んだ。
「あなたが浴衣で直ぐに来いって言うから、弟のパクって急いで来たんだけど?」
「あ~、ウチが悪かった悪かった」
面倒臭そうに謝る蘭豹に、いじけて拗ねる綴先生とか、何かもう逃げて良いっすか?
つか綴先生も何故そこで弟の浴衣を着るんだよ、自分のは無かったのか。
「この前こっちに来た妹にあげたのよ、大学の卒業祝いに」
「そ、そうなんですか………」
口に出してないのに考えてる事がバレた俺は、一歩引きながら答えた。
これは弟の浴衣を何で持ってたんだとか、考えない方が良いのか?
つか何故分かったんだよ考えてる事が、怖ぇ、綴先生マジ怖ぇ。
「綴に全然似とらんかったな!バカ真面目で驚いたわ!!」
その後も喋り続けてる二人を見てて、こりゃ盗撮魔の事を忘れてるんじゃないかと思った時、蘭豹の携帯に着信が入った。
「お、高天原か、進捗どうや?……………おう、そうか分かったわ。遠山、ホシのアジトが割れた。直ぐそこのアパートや、行くで」
「分かりました」
「二人とも頑張りなさいな」
綴先生に頭下げて蘭豹の後を追う。
築何十年も建ってそうな古びたアパートの一階端の部屋、そこが盗撮魔のアジトらしい。
大家さんに事情を説明してから、二人して扉の前に立つ。
「準備はええな?」
「大丈夫です、いつでも行けます」
「うし………おらっ!武偵や、観念せい盗撮魔!!」
俺の返事に頷いて蘭豹は扉を蹴破ると中に雪崩れ込んで叫ぶ、俺も後に続いて中に入ると、ワンルームの狭い部屋に所狭しと本棚と本が詰め込まれた部屋に、そいつは居た。
夜なのに明かりも付けない暗い室内で、着替えたのか着古したトレンチコートに丸メガネ、どこにも居るような冴えないおっさんみたいな顔したこいつが、盗撮魔らしい。
「着たか、思ったより遅いな。ようこそわが家へ、歓迎しよう盛大にな!!」
男はそう言うと手に持っていた球を地面に放った。
閃光手榴弾を警戒して、咄嗟に顔を手で保護するが何も起きない。
「なっ、止めんか変態!!」
先行してた蘭豹から悲鳴が上がって、そっちに銃を向けるが、あまりの光景に目を逸らす。
「早く何とかしろ、遠山ぁ!!」
「くひひ、良いねぇ良いねぇその顔、ナイスだよ~」
浴衣の帯を片手にデジカメで蘭豹を撮ってるおっさんと、地面にへたり込んで浴衣を抑える涙目の蘭豹とかいう、酷い光景に溜め息吐きたくなるのを抑える。
「俺を忘れてんじゃねぇぞおっさん」
そう言いながらおっさんに手を伸ばす。この状況で逃げないんだ、腕に覚えはあんだろうが動きがまるっきり素人にしか見えない。襟を掴んで肘間接を極めれば終わりだ。
「忘れてなんかいねぇよ坊主」
写真を撮ってるおっさんのコートの襟を掴もうと手を伸ばすが、するりと抜けて足を掛けられてたたらを踏む。あの素人みたいな動きからこれだと!?こいつ役者が天職か何か何じゃねぇの?
「うわ!?」
「え、ちょお前何でこっちに来るんやアホ!?」
思いっきり蘭豹に突っ込んでしまい、あ、これは殴り飛ばされるやつだと思って目を瞑って身構えてたが、何故か抱き止められた、蘭豹も慌てて俺を受け止めたのか、目を開けた時に見たのは、俺の下敷きになって浴衣が危ない域にまではだけた蘭豹の顔を赤くした姿だった。
「は、はよ退けや」
いつも暴力振るって未成年飲酒してるパチスロ大好きな中身中年のおっさんか何かだと思ってた奴が、
「す、すみませっ!?」
「あ、いやあぁぁぁ!!?」
転んだ時、裾の内側に足を入れてたみたいで慌てて起きようと足を動かすと、浴衣がはだけて………そ、その、何時もの見た目に反してフリル付きの黄色のカワイイ下着が見えて、つか上は何も着けてない!?あ、ヤバイヤバイヤバイぞ、ヒス血流がヤバイ!!
先生と教師、特に歳が近いのもあって背徳感が、こういう時はあえて相手のマイナスな部分を考えて、ヒス血流を抑えるんだ。
こいつはパチスロ大好き競馬大好きのオジさん趣味だぞ、口より先に手が出てバスを横転させる怪力女なのに!!
でも面倒見が良いし?距離感が近くて相談しやすいし、意外と手料理とか旨くて、何か家庭的だし、うぅ何で抵抗もせずに顔真っ赤にして涙目で睨むのさ!?こんなんギャップでカワイさ倍率ドンで(ヒス血流的に)即落ちじゃんね。
「おぉ、よくやったぞ坊主、ナイスアングルだよこれはぁ!!」
今なった思考で考える。後であざ笑うおっさんが頭にくるが、あのおっさんは後で逮捕するとして、今は蘭豹の事を集中しないとね。
「直ぐに帯を取り返すから、ここで待ってて下さいね、先生」
そう言ってはだけた浴衣を引っ張って肌が見えないように隠すと、蘭豹は何かに気付いた様子でコクンと頷いた。あぁ、もう、ギャップで一々胸に来るなこの先生は、俺は未だあかりに返事をしてないから、こういうのはナシ何だよ。
「あ、何隠してんだ坊主、今良いところだっただろ!」
「ふざけた事言ってんじゃねぇぞおっさん、お前を都の迷惑防止条令違反で逮捕する」
俺がおっさんに銃を向けて片手で武偵手帳を見せると、おっさんの顔色が変わった。
「……ッチ、まぁ良いか、そろそろ潮時だからな」
「何言ってんだ、さっさと両手上げて膝を付け」
「いいや、やだね!」
ニヤリと笑ってメガネのつるの部分に手をやるおっさんに、威嚇射撃でもするかと狙いを付けた時、蘭豹が叫んだ。
「逃げろ遠山!」
おっさんのメガネがゴーグルみたいに変形して、レンズが黒くなる。
………最初の閃光手榴弾か!!
ここから手榴弾まではワンアクション必要で、しかも外に投げるのは窓は盗撮魔が邪魔、玄関は蘭豹がへたりこんでて無理。逃げるのも蘭豹がへたりこんでて連れ出すのは時間が足りない。
危機感と犯人を目の前にして無力化される可能性がある恐怖、何よりも使い物にならない
咄嗟に手に持ってた物を手放して、未だへたりこんで胸元を押さえてる蘭豹に覆い被さるために動く。ベレッタは先にマグを抜いて、衝撃を足に落として段階的にしたから暴発はない。ここで二人とも無力化されるのが一番ヤバイ、外に直ぐに応援を呼べる蘭豹を残すべきだ!!
「きゃ!」
いきなり来た俺に驚く蘭豹を無視して、その身体に覆い被さって、視界を遮ると同時に閃光手榴弾から保護する。あいつの動きから致死性のある兵器の可能性は低いが未だ普通の手榴弾の可能性もある、そうなったらただの浴衣の蘭豹がヤバイ!!
蘭豹に覆い被さって、自分の目と耳を保護した一瞬後、保護したのにも関わらずマブタを焼くような閃光に、暫く耳鳴りがするほどの爆音が俺達を襲う。
俺の思った通りの閃光手榴弾だったが、目と耳が馴れるまで時間が掛かり、気付いた時にはもうおっさんは居なかった。
俺の側に蘭豹の浴衣の帯をご丁寧に畳んでバカにするかの様に一枚のカードを置いていく余裕まであったらしい。
「クソが!!」
《完全敗北》その言葉が頭に過る、手も足も出なかった。
「頼むで高天原、反応あるって言ってくれや!」
すぐに電話で高天原先生にGPSの反応を追ってくれるように頼む蘭豹に帯を渡す。
暫くして電話が終わって、悔しそうに拳を握ってる蘭豹に声をかける。
「蘭豹先生、大口叩いといてこの様ですみません」
まさか超能力を使わせてすら貰えなかったとか………バスジャックだろうが立て籠りだろうが人質に掠り傷すら付けずに解決してきたのに、盗撮魔一人捕まえられない何てな、情けなくて仕方無い。
「バカ言うなや、ウチの方が足手まといやった。相手が
それでもこのチームで捕まえると、捕まえられると思ってたから、蘭豹は動いた訳で、信頼を裏切ったようで辛い。
「任務は失敗、盗撮魔は逃亡、一応警察には高天原が連絡したから、ウチはここで警察待ちや。遠山は連れが居たんやろ?一緒に居たんな」
一番悔しいはずの蘭豹に慰められて、やるせない思いが溜まっていく。
今回はチームが悪かった何て言い訳、プロとして失格な言葉なんだ。それをプロで、尚且つ教師として生徒を指導する立場の蘭豹に、慰めで言わせてる自分が腹立たしくて仕方無い。
「……ありがとうございます。先生もお気をつけて」
「辛気臭い顔すんなや、あのハゲ絶対捕まえるかんな!」
言葉が出なくて、一礼して逃げるようにアパートの前から早足で遠ざかる。
面倒見が良いから励まそうとしてくれてる蘭豹に、申し訳無さで胸が一杯だ、今は蘭豹に言われた通りにあかり達と合流しよう。その後は訓練メニューの見直しだ。
あのアパート付近は住宅が密集してて、投げる場所が限られてた。それでもあかりや佐々木、白雪なら
俺に超能力は無いが代わりにヒステリアモードがある、技が無ければ作れば良いんだ、今回のケースは対テロリストで起こり得るケース、作っておいて損は無いな。
ヒステリアモードが切れかかってる頭でそこまで考えると、あかりに今から合流する事をメールで送った。