そしてよく喋ります。
「こんな単純な儀式で構わないの?」
英霊という規格外の存在を呼ぶためのものだというのにも関わらず、切嗣が鉛を用いて描いたその魔方陣はあまりに構造が単純で、ちょっと驚きつつもアイリスフィールは尋ねる。
「カチャ拍子抜けかもしれないけどね、チリンガキン ァントの召喚には、それほど大がかりな降霊は必要ないんだ。」
熱心に魔方陣を検分しながら、私の問いに真摯に答える目出し帽を被る切嗣。そこにはいつも通りの労りと私への優しさが隠すことなく見て取れる...と思う。
準備は完了した。ボディアーマーで着膨れた切嗣は一つ頷いて立ち上がると、聖堂の奥の祭壇に聖遺物であるアヴァロンを置いた。アーサー王伝説に出てくるものだ。
大爺様が所望する英霊である、聖剣エクスカリバーの担い手であるアーサー・ペンドラゴンの聖遺物として、これ以上のものは存在しないだろう。
これで招かれる英霊は最良と名高きセイバーのサーヴァント、アーサー王。そのことを疑う余地はない。
「さあ、これで準備は完璧だ。」
素に鉛と鉄。礎に血と契約の大公。祖には我らが恩師ミハイル・カラシニコフ
吹き散らす風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度
ただ、満たされる刻を破却する
―――――Anfang
――――告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を憎む者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
「問おう、あなたが私のマスターか。」
セイバーはその翠の目を瞬かせながら
暗視装置付きヘルメットに目出し帽(バラクラバともいう)
ボディアーマー
スナイパーライフル
アサルトライフルとアンダーバレル式ショットガン
ハンドガン
グレネード
各種弾薬などで完全武装し素肌が全く見えない衛宮切嗣を見る。総重量20kgは超えるであろう。
そのあまりの重装備にセイバーは思わず質問してしまう。
「マスター、その格好は何なのですか」
切嗣は答える。
「何ってそりゃ武装さ。敵のマスターを殺すためのね。」
「そ、そうですか...。」
場を気まずい沈黙が包み込む。
耐え切れなくなったアイリスフィールは声をかける。
「こんなところにずっと立ってるのもなんだし中に入らないかしら」
「かたじけない、マダム。ところで名前はなんというのですか」
「アイリスフィールよ。アイリって呼んでちょうだい」
暖炉で温まった豪華な部屋に入ると切嗣は切り出す。
「さて、セイバー。君は何ができる?」
「そうですね、剣を振るうことであれば誰にも劣りを取らないでしょう。」
ステータスを鑑みると納得する返事だ。
その調子で互いに戦略を確認し合ううちにセイバーは段々と不機嫌になっていく。
「キリツグ、貴方の戦略は非常に合理的で一般人にも被害を出さない、いいものだとは思いますが私としては許容し難い。そのような戦略は卑怯ではないですか!騎士の誇りに反します。
正々堂々と戦うつもりはないのですか!?」
疲労感を薄っすらとにじませた切嗣はうんざりした顔で言った。
「セイバーにはわからないかもしれないが僕はね、普通の人間なんだ。英雄様とは違って超人的な能力もましては宝具なんて持ち合わせてない。限られた手札の中で試行錯誤するのがせいぜいさ。」
「ならば私を使えばよい。私はあなたのサーヴァントなのです。」
「セイバー、君たちは現代に不要だ。英雄様の輝きは僕達には眩しすぎる。」
硝煙の匂いが染み付いた現代的な装備で身を包む切嗣は清浄なる輝きを放つ鎧を着ているセイバーを糾弾する。
アイリスフィールはイリヤと遊んでおり彼を止める者はここにいない。
「セイバー。いや、アルトリア。君は戦場を武功を示す場所だと認識していないか。
騎士たちの決闘の場だと。戦場で勝利することが民のためになるのだと考えていないか?
ならばそれは大きな間違いだ。民にとって生活が変わらないのであれば、王がどうなろうと知ったことじゃあないんだ。当然、戦争も大きな犠牲が出なければいいと考える。勝利になんて大してこだわってない。
だから勝利はし続けたが多大な犠牲を強いた君を民衆は見捨てたんだ。くだらない騎士だか王の誇りに付き合わされるのはごめんだったということさ。
君の戦争以外の統治は間違ってなかった。それは歴史を知る僕が保証しよう。だが勝利に固執し、民衆を疲弊させ、それでも戦い続けた王は間違っている。それがわからないうちは僕の行動に口を挟まないでくれ。」
「あなたに、あなたに一体何がわかるというのですか!」
セイバーは反論をするが切嗣は一切聞き入れない。
歴史を知る者だけが言えることでセイバーにとっては聞き入れられないのだ。
いい加減鬱陶しくなってきた切嗣は溜息を付き口を開いた。
「時間をやるから書庫なりに行ってブリテンの歴史を調べてこい。」
「..........行ってきます。マスター。何かあったらよんで下さい。」
彼女は感情を押し殺し、返事をした。
セイバーが書庫にこもり続けること3日が過ぎた。ふと衛宮切嗣は思いだす。
セイバーはドイツ語を読めるのだろうか、と。
結論を言えば読めなかった。切嗣がマスターであるため文字は日本語しかわからないのだ。ドイツ語と英語は話せるが文字はわからないということが発覚した。
しかしセイバー、実は天才。2日でドイツ語を解読し1日でブリテンの歴史を学んだのだった。
セイバーの口調も何もかもわからない...。