「迷宮の怪物」(現在スランプ・凍結中)   作:鉤森

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本命小説が続かない。そして会わせたかった二人。続いちゃった。
素質はダントツだし



沢山のお気に入り、評価。本当にありがとうございます。
ところでこういったお礼って、名前とかも全部上げた方がいいのか、はたまた名前はそっとしておいた方がいいのか疑問な私です。





シュタインとヴァレンシュタイン(前編)

 

「強さ」が欲しい。

 

 

強くなりたい。そう考えることは不思議ではないし、実際誰でも一度は考えたことはあるだろう。

 

だが「強さ」とはなにか?

 

手垢で汚染されきったような問いかけだ。そしてそんなものに答えはない。何故か?求める人間の価値観と主観が異なるからだと、とりあえず仮定する。

 

 

単純に「強さ」を目的か、それとも手段かというだけで解答は変わる。更にあくまで手段であるならば、目的によって到達点、道筋は変化していく。

 

答えはない。決まった形がない。故にその存在するかもわからない終着点や道筋(しゅだん)は、自分で見つけなければならない。最終的な「強さ」の全体像は自分で研究と観察を続けなければならない。

他者にそれらを実証する手段を見つけることは、永遠に不可能だ。

 

 

 

さて、ではこのダンジョンを一人突き進むアイズ・ヴァレンシュタインという少女はどうだろうか。

 

 

 

ロキ・ファミリアが「剣姫」。Level5の冒険者。まだ13と幼いながらも才気あふるるこの少女もまた、絶対なる「強さ」を求める者だ。そしてその道の険しさよりも、そのもどかしさにこそ歯噛みしている。

より多くの強敵と矛を交わした。勝利と経験を積み上げ、最速記録を更新した。かつての頃よりも強くなっている自覚はある。

武器も揃いつつあり、頼れる家族の教えも、戦術の手本も事欠かない環境に身を置いている。恵まれた環境、十全の才覚、必要な努力。彼女の「強さ」も「道筋」も、多くの神や人間が認めるところだ。

 

———だが足りない。彼女は曖昧ながらも確信した事実として、未だ見えない理想への遠い道筋に、その歩みの遅さに歯噛みする。人が、神がなんと言おうとも遅すぎる。焦りと苛立ちは絶えることなく苛み、叱責する。

どうすれば強くなれる。どうすれば、何をしたらいい。もっと強く、もっと速く。私はそうしなけばならない(・・・・・・・・・・)。だって、そうじゃないと———。

 

 

苛立ちを募らせながら、その黒いわだかまりをぶつけるように一人モンスターにて剣を振るう。銀の閃きがが鮮やかな軌跡を描き、複数のモンスター「マーマン」の首が躍る様に宙を舞った。

鮮血の一滴さえも浴びることなく駆け抜ける。舞い上がった血飛沫と水飛沫の音が遥か後方で混ざり合う音を置き去りに、金の髪の尾を引かせて疾走する。その疾走は揺るがぬ一条の矢を思わせるが、だが同時に見る者の危機感を煽るような危うさ、明確な焦りが見て取れた。彼女の脚は水辺の多い地形であろうと止まることなく跳ね続け、より下へ、より地獄へと向かうことを望んでいた。

 

 

「……っ。」

 

 

彼女は現在、このダンジョンの「下層」においてたった一人である。既に日帰りできるだけの階層は超えてしまっているものの、今の彼女にソレを気にするだけの余裕はない。何故か。ソレは強くなっていくと同時に伸び悩んでいたステイタスの伸び具合が、ついに無視できない領域に至ったからだ。

Level5に至れる者は冒険者全体から見れば極々少数だ。まして彼女に限って言えばこの年齢でそのLevelに至ったのはつい先日の話、通常であれば焦りを見せる必要などない。

だがその手の常識は彼女、アイズには当てはまらない。

 

 

「足りない…。」

 

 

足りない。「強さ」が足りない。「速さ」が足りない。もっと、もっとと鎌首もたげて欲しがる彼女の「内」、こんな程度で満足できるはずがない。元より彼女の精神は、「内」より溢れ出る強欲に抗う術を持たない。この地に来たのも神の恩恵を得たのも、全ては彼女が「強さ」を欲したが由縁だ。故に彼女の渇きは、どれだけの暖かさを味わっても尚癒されることがない。これまでも、そして「このまま」ならばきっと、これからも。

加速する焦燥とは反比例して歯痒く遅くなっていく成長速度。故に彼女は半ば衝動的にダンジョンへ、それも単身での、力尽きるギリギリまで命を振り絞った修練の実行を敢行した。後でこっぴどく怒られたとしても、最早構う余裕などない。

———常識(セオリー)に乗っ取った鍛錬では、遠すぎる道だと判断できたのだから。

 

 

「…!!………。」

 

 

ここにきてようやく、アイズの足が止まった。荷重をかけて静止した足の重みと衝撃に小さな水たまりが足元で跳ね、小さく音を立てる。その金の眼差しの先には、この階層(フロア)の終わりが大きく口を開けている。

…言うまでもないが思い返したわけではなく、下層への入口、降下を警戒しての事である。彼女のやっていることは無茶で無謀な行いではあるが、彼女は自殺をしに来たわけではないのだ。駆け込んで不意を撃たれれば実力があっても死ぬ、それがダンジョンという場所である。

故に警戒し、慎重に「領域」へと足を踏み入れていった。疲労を無視し、握りしめた剣の柄から引き絞る様な音が響き渡り、無意識のうちにため込んでいた緊張感が更なる覚悟へと昇華していく。

 

 

 

 

そして。

 

 

 

彼女は「運命」と出会う。

 

 

 

邪悪なる「運命」、彼女の未来を、価値観を、仲間達さえも黒く暗く塗りつぶす———

 

 

 

 

運命(きょうき)」に。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

「移動する階層主」の事は、彼女も知識として知っていた。

双子の頭に一つの身体を持つ竜「アンフィス・バエナ」。下層27層「迷宮の弧王」(モンスターレックス)

ギルドより認定されたLevelは5。しかし水場という環境、其処を主とする王に挑む場合、想定された実力は必ずしもその限りではない。紛れもない強敵であり、間違いのない絶望。

アイズは期待を抱いていた。その強敵に単身で挑む恐怖も緊張もあるが、それほどの存在であるならば必ず莫大な経験値が得られる。必ず自分は強くなれる。そう信じて疑っていなかった。

 

 

熱狂した極度の前傾姿勢。それでいて根は天然な、決意の乙女。確かな実力を宿した強者。

その危うさと若さ故に。想定もしていなかった展開に硬直し、受けた衝撃に腰を抜かすのも無理からぬことだった。

 

 

 

………——————!

 

 

 

27層に降り立ってすぐに、彼女の耳はこれまでの敵とは遥かに格の違う咆哮を耳にした。判断は一瞬、望んでいた強敵の存在の確認に脚は反射的に地を踏みしめ、緊張の硬直を張り詰めた弦として、一条の矢となり解き放たれる。

真っ直ぐ。真っ直ぐ。遮るモンスターは濡れれば切り裂かれる風に命を散らし、時に足場とされ沈められた。気にも留めずに、アイズは声の主に向かっていく。

 

 

 

「…い、た…、————!?」

 

 

遠目にも見える巨大な影。水中に潜むこともなく歩みを進める王の姿に、アイズの心臓は大きく跳ねる。肌にひりつく強敵の気配に血は巡り、距離はどんどん狭まっていくのを感じた。

まず狙うのは接敵から致命傷(クリティカル)。攻撃がきたならば、回避してやはり致命傷を狙う。そう簡単にはいかないだろう、だが殺す。倒す。私は死なない。そんな決意が想いとなって駆け巡る。

だがソレは、その竜の全身が詳細になってきた辺りで断ち切られる結果に終わった。

 

アイズは見た。巨大な「迷宮の弧王」、近く…傍らとも言っていい位置に、こちらに向かって歩く人影を見た(・・・・・・・・・・・・・・・)

一瞬の思考の空白。想定もしていなかった展開。だがこんなもので腰を抜かす彼女ではない。竜が傍らを通過する男に気付き、その大顎を振りかざした光景を見て、その速度を跳ね上げる。思考の空白を塗りつぶし、何よりのトラウマ(・・・・・・・・)を想起させられて、先程とは別種の緊張と焦りが胸を支配する。

「助けないと」———その一心で、前に、竜へと、アンフィス・バエナへと突き進み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫る大顎を男が、正面からの「掌打」が迎え撃ち。電の様な輝きが閃いたと同時にその巨体が弾け飛び、内から破砕したことで、今度こそその思考が止まった。

真の驚愕が、彼女の「強さ」を「内」から大きく打ち据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、あっ………!?」

 

 

 

 

思考が止まれば脚も止まり、水場の泥濘に脚を取られその場に転がる。痛みに呻き、焦って顔を上げれば…その頭上から、赤い温もりが降り注ぎ、白い衣装を鉄臭く染め上げていく。

ザアザアと降り注ぐ文字通りの血の雨。美しいダンジョンの風景が、彼女の髪と同じく汚れていく。だがその他一切が彼女の興味を引くことはない。

彼女の視線も興味も、全て一人の男が独占している。

 

 

 

「…ひひ。ヘラヘラ。ああ、久しぶりに上がってきたのに勿体無いコトした…でも清々しい。調子もどってきたぁ♪」

 

 

じぃ~こ、じぃ~こと頭の螺子を一廻し、二廻し。くわえ煙草が血の雨に消され、丸い眼鏡の向こうで爛々と相貌を輝かせる、長身の男。

アイズの記憶にはない怪人だ。あまりにも得体のしれない、その言葉を信じるならば「より下から単身昇ってきた男」。それが意味することは、明確な一つの解答のみだ。

そしてそれは、アイズにとって最も求めていたものだ。

 

 

「…で、君は?俺の記憶にはないね…とりあえず立てるかい?」

 

 

血の雨が止み、血塗れの男…ツギハギだらけの白衣の男がこちらを見下ろし、歩いてくる。腰が抜けた自分に手を伸ばす怪しい男に、一瞬手を取っていいのか迷いを覚えるが、すぐにその手を握る。

———このチャンスは逃せない。彼が、どんな人物であろうとも。

 

 

 

「ありがとうございます。…それと、」

 

 

 

「ん~?」

 

 

 

「私はアイズ、アイズ・ヴァレンシュタインです。もしよかったら…少し、あなたの話を聞かせてください。」

 

 

 

 

求める「強さ」がそこにあるのなら。アイズ・ヴァレンシュタインは躊躇わない。

そして、

 

 

 

「…へぇ。いいですよ、俺はそう…「博士」とでも呼んでくれ。」

 

 

 

全てが「探求心」に満ちたフランケン・シュタインは、中身の気になる(・・・・・・・)彼女の申し出を断らなかった。

 

 

 

二人の邂逅は、そんな数奇な出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 




書いててこの子ヒロインかなと思ったけど愛のないシュタインにヒロインは多分ない…のかな。

多分よからぬことが始まりそう

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