「迷宮の怪物」(現在スランプ・凍結中)   作:鉤森

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ランキング入りしてて凄く驚きました(驚愕)


評価も閲覧数もお気に入りも増え、お礼の言葉が浮かばず狂いそうです。
本当に皆様、ありがとうございます。まだこれからも、今暫しのお付き合いをよろしくお願いします。



———狂気は伝染する———


神の疑問。手遅れな目覚め

 

「んー……、…なんやろな…なんか違和感あるんやけどなぁ…?」

 

のどかな昼下がり。まるで己が時間のピークに高揚し、高笑いを上げているように輝く太陽からの陽光降り注ぐ青空の下。聳え立つ巨大な城を思わす石造りの館に、のどかとは言い難い、どこか曖昧で懐疑的な一つの声が上がる。声の主は一人の女性だ。一見してその容姿は中性的な人間(ヒューム)のソレに見えるが、その実で彼女の種族は地上に本来在るあらゆる種族にも該当しない。

そう、彼女はれっきとした超越存在(デウスデア)。地上に降臨した数多の神々、その内の一柱である。

 

 

「むぅ、今日も可愛い。…いや可愛いのはいつもやねんケド…ん、んん?ワカラン。はて、ウチは何がこうも引っかかってるんや?」

 

 

数多の神とファミリアが存在する中、しかれど迷宮都市(オラリオ)で一定の時期を過ごした者であるならば、その建物…「黄昏の館」と呼ばれしその場所が、いずこのファミリアの拠点であるかを知らぬものはいない。大きく掲げられた旗印には、特徴的な「道化師(トリックスター)」の紋章(シンボル)。指し示すそのファミリアの名は、最大派閥改め「二大派閥」が一角である「ロキ・ファミリア」。

———ならばそのファミリアにおはします神の名は今更問うまでもない。そしてその答えは、女神の背後から近づく二人より紡がれることとなる。

 

 

「…さっきからウンウン唸ってどうしたんだい、ロキ。こう言っちゃ何だけどハッキリ言って不審だよ?」

 

 

「ン?あ、フィンやーん。…あれ、さっきママと一緒に昼飯行こ言うてへんかった?」

 

 

「誰がママだ誰が。もうとっくに済ませている、あれからどれだけ時間が経ったと思っているんだ?」

 

 

呆れたように投げかけられる二種の美声。聞きなれた二つの声に応じる女神・ロキの声は、弾むように楽し気だ。

 

最初に声を投げかけた、少年の如き小さな体躯の男性こそは「ロキ・ファミリア」が誇りし輝ける団長。小人族(パルゥム)において最高峰の知名度と迷宮都市屈指の人気を有する、「勇者(ブレイバー)」フィン・ディムナ。

その隣に立つのは、神々さえも息を呑むような美貌を持つ、深緑の髪を流したエルフの姫。「九魔姫(ナイン・ヘル)」の名を神々より賜りし最強の魔法使い、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

両名とも「ロキ・ファミリア」を代表する冒険者の幹部として迷宮都市でもその名を広く知られており、ファミリア内においても特に強い発言力をもった二名である。そんな両名からの言葉に、石化したように固まるロキ。

 

 

「…え、うっそマジで?もうそんなに?」

 

 

「自覚もなかったか。」

 

 

「まったく、いったい何を見て…中庭の、アレはアイズか?」

 

 

日の傾きと、気付けば尋常ならざる空腹感を訴えかける腹の虫。二人の発言が紛れもない事実であり、疑いようもなく飯時を逃したという事態に、思わずロキの表情にひきつった笑みが浮かぶ。

これは深刻だと思案するフィンの傍らで、リヴェリアはため息交じりに先程までロキの視線が向いていた方向を見やり…そこに陽気に包まれて眠る、一人の少女の姿に眼を丸くする。

 

 

「せや。可愛いやろ?今日で三日目やけどキチンと謹慎(・・)も守ってるし、お腹いっぱいでオネムなんて!やっぱエエわぁアイズたん…!!」

 

 

「横の袋はアイズのお気に入りの「ジャガ丸くん」の店の…まさかロキ、謹慎中のアイズに買い与えたのか?それで今まで見惚れていたと…?」

 

 

「せやで!…あ、ちゃう!いや違わんけども、ずっと見とったのは違うんやで!ママ!」

 

 

「だからママと呼ぶな!」

 

 

デレデレと表情を弛緩させるロキに、リヴェリアの僅かに怒気が滲んだ追及が迫る。如何に神とはいえ、組織の長としてその行為はあまりにも他の団員への配慮に欠ける。罰則であるという示しがつかないとリヴェリアが怒りを覚えるのも、無理からぬ話だ。

そのただならぬ様子にうっかり同意しかけたロキは、慌てて先の発言を自らで否定する。しかしその弁明に一層怒りを滾らせるリヴェリア、すわそのまま説教になるかという所で、その物言いに違和感を覚えたフィンが待ったをかけた。

 

 

「ならばどんな理由なんだい、ロキ。アイズの謹慎中にジャガ丸くんを買い与えた事は、団長の身である僕としても看過しがたい。」

 

 

「うっ……。」

 

 

言葉に詰まるロキに、淡々と、畳みかけるようにフィンは続ける。

 

 

「だが見惚れていた訳ではないというなら、なんで空腹にも気付けずにアイズを見ていたんだ?なにがそうまで気になっているんだい?」

 

 

沈黙する神に、向き合い問いかけるのは勇者の呼び声高き美丈夫。訪れた静寂も相まってさながら神話やお伽噺を思わす場面と言えなくもないが、その沈黙は神聖さよりも重苦しさと「迷い」に満ちていた。

やがて観念したように、ロキの口がゆっくりと開かれる。

 

 

「…フィンは、あの日のアイズを覚えてへんか?」

 

 

「…忘れるわけがないだろう。」

 

 

その言葉によって脳裏に鮮明に浮かぶのは、過ぎ去ってまだ日も浅い騒動の記憶。思わずその声は固く、重いものへと変わっていく。

 

あの日———突如として飛び出していったアイズが丸一日ダンジョンから帰ってこなかったと思えば、翌日無傷(・・)で帰還した三日前の出来事。

言うまでもなく誰も彼もが心配した。ロキがパニックに陥りかけ、フィン自らの号令の下で捜索隊を編成した矢先の帰還だった。その帰還にファミリア全体が驚きつつも歓喜し、大いに泣き、抱き着き。ひっぱたき、怒鳴り、しかりつけた。やがて事情を聴き、そのあまりの無茶苦茶ぶりに卒倒しかけ、さらに説教は続いた。フィン自身、心配していただけに激しく怒鳴りつけてしまったのを覚えている。謹慎はその上での処置であり、アイズも納得して粛々と受け入れたので、ひとまず今回は一件落着として場を治めたのだ。

そう簡単に忘れるわけもない。そう告げると、ロキはさらに難しそうに表情を歪め、探るように言葉を続けた。

 

 

「なんか、違和感なかったか?アイズたん。」

 

 

「違和感?言われてみればたしかに、妙にアッサリと謹慎を受け入れてはいたが…。」

 

 

「…ウチもな、なんで引っかかってるか上手く言葉にでけへんねケドな?———なんか引っかかるんよ。」

 

 

 

当初の陽気さもどこへやら。そう告げたロキは正しく子を心配する親そのものといった様子で唐突にへたりこみ、糸目は開かれ眉尻を下げ、今まで内に溜め込んでいたであろう不安と困惑を吐き出す。

…いや、溜め込んだというよりは、吐き出してしまった事でより拍車がかかってしまったのかもしれない。話せば話す程に、彼女の心には黒々とした(・・・・・)不安が募っていく様子が見て取れた気がした。少なくとも先程までデレデレしていた様子が一切なくなり、まさしく豹変したような(・・・・・・・)ロキの鬼気迫る様子は、フィンとリヴェリアにはそのように映った。

尚も発露される不安と困惑の奔流に、知らず二人は沈黙を余儀なくされた。

 

 

「アイズたんは嘘もついてへん。あの日もすっごくすっごく反省して、謝ってくれたやん。頭ァ下げて、もうこんな無茶しないって、目が覚めたって、心配かけへんですって…だからウチも嬉しかったしな?信じてあげなアカン思うんよ。」

 

 

「でもなんか———なんかオカシイ、オカシイねん。オカシないにオカシイねん(・・・・・・・・・・・・)。なにがオカシイかもワカラン。でもな、なんもかんもオカシイ気がしてんねん。」

 

 

「ジャガ丸くんあげたら喜んでた様子も、食べて笑顔になっとるん様子も前とおんなじや。むしろ前より危うい感じもなくなった気がしてんねん。安心したいねん。これが成長なら喜びたいねん!」

 

 

「でも、できへん。なあフィン、リヴェリア。なんや、どないや?ウチ…どないしたらエエんや…?」

 

 

ひとしきり吐き出し、沈黙するロキ。そしてようやく我に返ったフィンは、その背を叩いて宥めるように、安心させるように声をかける。リヴェリアも方針を同じ方向でフォローに回ることにしたのか、既に怒りはなく、ロキを案ずるように寄り添う。

 

 

「ひとまず落ち着くことだ、ロキ。アイズが心配なのは僕たちも同じだ。…同じ家族(ファミリア)なんだから当然だ。」

 

 

「恐らくアイズも成長したのだろう。きっとアイズも階層主を見て、自らの危うさに気付けたんだ。だがその際に負ったであろう恐怖で不安定に…一次的に精神にブレのようなものが生じているのではないか?さ…ともかく中に戻って、食堂で食事をしよう。空腹のままでいては、余計に不安が募るというものだ。」

 

 

泣き出しそうなほどに小さくなった主神を慰めながら、三人は寄り添って館の中へ戻っていく。両側から取りそうカタチで中庭に背を向けて、三人はその場を後にした。

 

 

 

 

そう。

 

 

 

 

 

背後で、眠っていたハズのアイズが。

 

 

 

 

 

見開いた眼で(・・・・・・)その様子を見ていたことにも気づかずに(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

「———ソウルプロテクトがあっても、「波長」は少し漏れるんだ。あと、フィンには少し薄い。」

 

 

最初から観察した(・・・・・・・・)三人の様子から、分析できた結果を小さく呟く。その言葉はボンヤリとしていたが、どこか嬉し気にも思えた。

金の瞳がいなくなった三人から、自らの「ツギハギだらけの身体」へと移される。自ら以外には見えていない、自分が博士に「バラバラにされた」という明確な強さの証(・・・・)。恐らくこの瞳が内部までも見渡せたならば、きっと臓器の隅々まで走る「ツギハギ」が見れたことだろう。そうでないことを少しだけ残念に思いながら、「魂糸」による縫合の「癒着」と「浸透」を確かめるように両手を上に向けて開閉を繰り返す。

 

 

———三日月のような笑みが浮かぶ。ソレは確かに、シュタインのソレに近しい、歪んだ笑みだった。

 

 

「ン。上々、かな。」

 

 

自ら望んで受けた改造。隠蔽された魔法と、狂気。魂の変質。だが彼女自身が受け入れてしまっているため、拒否反応もなく浸透している。…いや、少し違うか。そういえば博士が言っていたと、アイズは思い出す。

 

 

そう。曰く『魔女と精霊・妖精は本質として近しい』…だったかな。

 

 

何だっていい。だって博士は欲しいモノを…「強さ」をくれた。そしてこの力は、もっと強くなる方法を教えてくれる(・・・・・・・・・・・・・・・・)。それだけわかれば、他は後で考えればいい。いつか博士に視て貰えば、いい。それだけだ。

———日はやがて沈むだろう。天で三日月が哄笑を上げた時が、動く時だ。

 

 

そう。

 

 

「ソウルプロテクト解除。」

 

 

この湧きだす「願い(きょうき)」と抱き。

 

 

「…『ベクトルサーチ』、開始。」

 

 

私を強くする「→」(シルベ)を辿り。獲物(・・)を見定め。

 

 

「…今日も、おいしく…。」

 

 

家族(ファミリア)から貰った強さで。斬り拓いてきた私の剣で。

 

 

 

 

「いただきます。」

 

 

 

 

 

私はあらゆる全てを取り逃がさないように。手にするために。

 

 

 

 

——————私は「強さ」を積み重ねる(狂気の海へと自ら沈む)

 

 

 

 





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