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その夢を見る時は、いつも決まって同じ場面から始まる。
空では大きな三日月が見下ろし嗤う、妖しく不穏な夜空の下。その夢の中で「私」は、今とは少しだけ違う、どこか懐かしい街並みの中を歩いている。何度も見た景色。何度も歩んだ都市の暗い街道。
眺めながら向かう先は…いつも変わらず。決まった場所だ。
———…やめて。
周囲に眼を走らせればギルドの職員たちに幾ばくか、少数精鋭の冒険者たちが、仕える
だが、これは夢だ。過去に見た情景を基にしただけの彼は、覗き見るだけの「私」の気持ちを察してはくれない。
———いや、お願い…やめて…。
やがて、遠目にも見えてくる目的の場所。広大な敷地に築かれた、景観など微塵も配慮しない山岳砦を思わす拠点。夜風にはためく旗印の掲げたその
———ああ…止まって、私の足。わかるでしょう?そこには行きたくないの。見たくないの…。
徐々に近づく、大きく口を開いた巨大な門。黒く塗りつぶされたその先にある光景、その先に潜む存在を思い、「私」は懸命に拒絶する———が、夢の中の「私」の足は、「私」の拒絶を受け入れてはくれず、決して止まってはくれない。…わかっている、何度も見た光景なのだから。
警戒しながらも一行は門を潜り、灯りの乏しい、大きいだけの屋敷の中まで行進を進めていく。
———嫌…いや…イヤよ…。この先は、この先だけは…。
長い廊下をゆっくりと歩んでいく中、ふと涙が零れた気がした。夢の中の「私」ではない、きっと現実にいる「私」が流した涙であろう、冷たい水筋が頬を伝う感触が残る。それでも足は止まらず、瞼もこれ以上は閉じようがない。
そしてエントランスのような、暗く広い空間に出た時、
———あ…———ぁ———…ぁああ…っ。
「ソコ」にあったのは、正しく一つの「地獄」だった。
**************
「———ぁぁああああああぁああああああああッッ!!」
爽やかな朝の空気を引き裂くように、天上の美声をかなぐり捨てた叫びと共に眼を覚ます。
己が叫びで目が覚めたのか、はたまた悪夢からようやく逃げおおせただけなのか。ともかく周囲に地獄の残滓が僅かにもないコトを確認し…夢でしかない以上当たり前だが、それでも影も形もないことに深い安堵を覚えて息をつく。
東から昇る寝惚けたような柔い朝日に包まれて、苦悩するように彼女は自らの額を手で抑える。
「また…また、あの時の、夢…?」
思わず零れ出た自らの呟き、それだけで心底震えが止まらなくなるほどに深く刻まれた「恐怖」の記憶。
二十余年あまりの昔、かの地にて与えられた衝撃は、未だにこの女神を…この迷宮都市において最強と名高き「フレイヤ・ファミリア」が主神・フレイヤの心を手放してはいなかった。優しき
神とはいえ、意思を持ち、感情を宿す知性体である。特に彼女は「美」と「愛」を司る女神であり、その感受性の豊かさは敢えて述べるまでもない。思わずかき抱いた肩に震えが走る事を、誰が責められようか。
「今になって…なにか、なにが起きるというの…?いえ、まさか…。」
だがそんなフレイヤには今回、恐怖以上に不安と疑問が先走った。そこには拭えぬ恐怖の色が見え隠れしていたが、彼女の精神に未だ「狂い」は生じていない。常に瞳に宿る確かな意思の輝きまでを失ったわけではない。
そう、不可解だった。
それら全てをただの偶然と言えれば幸いだが…そう思えるほど、フレイヤという女神の中で、「
「上がってきた?…違う、だったら気付く。
思い出すのは、まだ人間だった筈の頃に視た「フランケン・シュタイン」という少年の魂。小さな肉体からあふれ出し、あの日、エントランスのような広い空間を正しく
なんにせよ無視などできようハズもない。故に、身だしなみを手早く整え、決意したような面持ちでフレイヤは寝室を後にした。
愛する子供たちに警戒を促すために。全信を預ける忠義の剣に、自らの不安と共に新たな使命を伝えるために。
そう、
この愛する
ロクでもない、
**************
『オイ、聞いたか?今度はウダイオスだってよ。』
『また?こないだアンフィス・バエナを
『まだ15にも満たない娘が…。』
『ヤベェよな。ありゃ姫っつーか鬼だぜ、鬼。』
『ハハ!上手い上手い!』
『鬼といやぁよ、こっちは聞いたか?』
『あぁ?また"魔女"の噂か?ありゃ眉唾モンだろ。』
『三日月の夜に現れる魔女が現れると人が死ぬ、か。確かに人死にが多いが、今更だよな。』
『二年ちょっと前くらいから聞いてるが、誰も姿見ちゃいないって話だしなぁ。』
『そうそう。それに最近は肝っ玉が小さいせいかよ、
『それがよ、どうもフレイヤ・ファミリアの連中が動いてるらしい。』
『あ?どういうこったよ。』
『探してるっつーか、やけに熱心にその噂を探ってるらしい。』
『マジか?誰か殺られたのか?』
『わからねぇ。でもそのせいか、ギルドの方も本格的に捜査を始めたらしいぜ。』
『掲示板にゃあなんもなかったがなぁ。』
『まだ噂ってこったろ。混乱させねえためのな。俺は…へへ、懇意にしちゃってるギルドの娘からコッソリな。』
『けっ、羨ましい。しかし…そうなると三日月の月夜は出歩けねえなあ…。』
『バーカ。
『そうだったそうだった!で、じゃあ帰るか?』
『まさか!このまま娼館へゴーに決まってらぁ!』
『ハハ…で、話は終わりか?』
『んにゃ、あと一個だ。そんなこんなで、実はギルドが"魔女"に呼び名をつけたらしい。神々といっしょにな。』
ヒュゥッ…。
『へぇ、なんて?』
スルリ。ス リュ リ。
『足取りも掴ませない、神出鬼没の魔女ってことでな。蛇に因んでシンプルに———
「
ザチュッ。 ゴロロン。
ジュル モキュモキュ。
ゴキュ ゴクン。 …プフゥ。
パシンッ。
「ごちそうさまでした。」
そろそろ原作主人公出しますかな
その前にシュタインか…。