【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ司波達也暗殺計画の文弥を見て書きたくなった。最初の方は原作沿いですが、だんだん話が分岐していくと思います。





入学編
1


ㅤ十師族に選出される資格を持つ二十八家の1つである四葉家には、他の二十七家には存在しない制度である「分家制度」が存在する。

ㅤ四葉家現当主である四葉真夜の姉、四葉深夜の為だけに作られたこのシステムは割と曖昧だ。

ㅤ苗字の違いは仕事の役割分担でしかない。血の濃さに違いがあっても、本家当主以外はおしなべて平等。分家といっても、完全に四葉から独立した地位を確立している訳ではないのである。

 

 

ㅤ僕、武倉理澄(むぐらりずむ)は、八つある四葉の分家のうち「武倉(むぐら)」という家に生まれた。それだけなら、普通の魔法師に過ぎなかった筈だ。勿論、四葉における「普通」ではあるのだが。

ㅤそんな僕だが、他人と違うところがあるとすれば、前世の記憶を持っているという点だろう。

ㅤ僕は前世で「魔法科高校の劣等生」という本の愛読者だった。厨二心をくすぐってやまない魔法設定は、当時中学生だった僕には「なっ、なんかよくわかんねーけど、カッコいいぜ!」といった気持ちにさせられた。

ㅤしかし、歳を重ねるにつれ、ラノベはめっきり読まなくなってしまった。しかし、大学生くらいになっても偶に読み返すくらいには気に入っていたように思う――。

 

ㅤ――そこまでは覚えているのだが、そこからどういうプロセスで転生に至ったのかは何も思い出せない。

ㅤ気が付けば、原作に存在しないキャラクター、「武倉理澄」としてこの世界に存在していたのだ。前世でどのようにして死んでいったのか、そもそも何歳まで生きていたのか、何も分からない。僕は不安を覚えながらも、とにかく無我夢中で生きるしかなかった。

ㅤ転生者とはいえ、魔法の才能については最強主とは言い難い。とはいえ、四葉家次期当主候補に名を連ねられるレベルなので、決してチートで無いことはないのだが。なろう系故に、強さの基準が基準なので難しいところだ。

ㅤ得意魔法は、加速・加重系の重力操作。干渉力には自信があるものの、戦略級魔法は使える程の力は無い。

ㅤあの「お兄様」と戦ったならば、「分解」1つですぐに勝負はついてしまうだろう。普通であれば。

ㅤだが、ものすごく低確率とはいえ、僕にはお兄様こと司波達也に勝つことが出来る方法がある。もしかすると、これは僕固有の魔法というよりは、転生特典なのかもしれない。

 

ㅤ系統外・精神干渉魔法「ワルキューレ」。

ㅤ精神そのものに死を与える魔法。司波深雪の「コキュートス」同様、彼を止めることができる力だ。

ㅤだからこそ、達也の本当の力を知っている者は、僕の「ワルキューレ」を最後の希望と捉えている節がある。事情をよく知らない人間は深雪を次期当主と捉えているが、逆に深く知る者は僕を次期当主に推すというおかしな事態になっている。

ㅤとても迷惑な話だ。理論上可能というだけで、負ける確率の方が高いというのに。

ㅤ幸いなことに、母であり武倉家当主である武倉藍霞(あすみ)は、達也と全面的に事を構えることは危険と考えている。敵対フラグはまだ回避される余地はあるだろう。

新発田(しばた)の家とかに生まれなくて本当に良かった。割かしマトモな感性を持っている勝成さんでも、親の滅茶苦茶な要求で苦労していたのだ。僕は絶対やっていけない。

 

ㅤ……まぁ、ぐだぐだとした状況説明は終わりにしよう。

ㅤ僕は明日、原作開始イベントである第一高校入学式を迎えることになる。

ㅤこの出来事が波乱の幕開けとなることは、まだ誰も知らない――そんな風に格好つけてみても、いいかもしれない。

 

 

 

 

 

「納得できません!」

 

ㅤどうやら本格的にイベントは始まったようだった。原作通り、深雪と達也が講堂の前で言い争っている。言い争っていると言っても、達也の方は妹を諌めているだけではあるが。

ㅤ2人から距離を取りながらも、そっと様子を窺う。すると、達也が深雪の頭を撫で始めた。兄妹とは思えない甘ったるい光景だ。

ㅤ深雪はリハーサルに参加する為に達也と別れ、講堂へと行った。そろそろ、登場するタイミングとしてはちょうど良いだろう。

 

「やぁ、達也。おはよう。入学式日和の良い天気だね」

「……さっきからコソコソ見ていただろう。どうして、最初から来なかった?」

 

精霊の眼(エレメンタルサイト)で気づいていたのだろう。流石は俺TUEEE系主人公のレジェンドだ。

 

「夫婦喧嘩は犬も食わないってね」

「俺と深雪は夫婦じゃなくて、兄妹だといつも言ってるだろう。……それにしても、理澄。どうして入試で手を抜いた?」

「……僕が手抜きしたって知ってたの」

「さっき深雪が言っていた。7位だったとな。もしお前が本気を出していれば、深雪が総代になる可能性は少し低くなっただろう」

 

ㅤ随分な過大評価である。確かに魔法力はその辺の十師族並にはあるはずだが、深雪に勝てたかというと微妙なところだ。

 

「御当主様にもそれとなく釘を刺されたし、お母様にも、優秀すぎるとか規格外だとか思われないようにしろ、って言われたしね。逆に言われてないわけ?」

「入学前に叔母上に会ってないからな」

「なるほど」

 

ㅤ確かに正論だ……。しかし、詭弁でもある。

ㅤ中庭を歩き回り、手ごろなベンチを見つけた僕達は腰を下ろした。

 

「それにしても……。どうしてそんなに早く? 式は2時間後だぞ。浮かれて早くやってくる性格でもないだろうに」

「家にいても暇だし」

 

ㅤ原作の展開を間近で見ようと思いました、なんて言えないので適当に誤魔化す。

ㅤどちらにせよ、家に居ても暇なのは本当だ。というのも、キャビネット通学できる距離で一人暮らしをしているからである。この時代、マニュピレータ付きのHAR(ハル)(Home・ Automation・Robot(ホームオートメーションロボット))があれば、家事が出来なくても殆ど困ることがない。

ㅤ一応護衛を付けてはいるが、使用人やガーディアンはいない。対外的には今でも僕は四葉家次期当主候補だが、いずれその座を返上する予定にしている。そのため、気ままに一人で生活できるのだ。

ㅤ下手に僕が当主となり「お兄様」を刺激するくらいなら、何もしないほうがマシだからである。達也のことを殺したがっている派閥によって、僕は祭り上げられている。そんな僕が四葉を率いれば、彼はとても警戒するだろう。最悪の場合、完全に達也は四葉の敵に回るかもしれない。そんなことになれば、世界が終わる。

 

 

ㅤ達也は言葉を返さず、黙って端末を取り出した。会話が面倒臭くなったか、急に本を読みたくなったか。多分、前者だろう。

ㅤ僕もそこまでお喋りに興じたい訳でもないので、彼を咎めはしなかった。そもそも、2時間も話す程のネタを持ち合わせていない。適当なところで話を切り上げてくれるほうが有り難かった。なので、僕も端末を立ち上げて動画を見ることにした。

ㅤ一科生と二科生が並んで座っていると、少しばかり……いや、かなり目立つだろう。だけど、移動するつもりは無かった。この後、達也は七草会長とエンカウントするからだ。それを見る為には、ここにいた方がいいのである。

 

ㅤ映像が流れている画面上に、軽い電子音と共に通知が現れた。式の始まる30分前に鳴るようにしておいたタイマーだ。もちろん、設定した理由はそれだけではない。

 

「新入生ですね? 開場の時間ですよ」

 

ㅤ僕と達也の目の前に、背の低い女性――第一高校生徒会長である、七草真由美が立っていた。やはり彼女は、達也の年季の入ったスクリーン型端末に目を向けた。僕もスクリーン型端末を愛用してはいるのだが、このイベントの為に端末を新しく変えている。

 

「感心ですね、スクリーン型ですか」

 

ㅤ僕にとっては知り尽くした流れだが、達也にとっては思いがけないものである。煮え切らないような、どこか言い訳じみた返事を返していた。

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくお願いしますね」

「俺、いえ、自分は、司波達也です」

「僕は、武倉理澄です」

 

ㅤ自分は蚊帳の外であるような気はしたが、自己紹介をしないのもおかしいので、達也に続いて名乗っておいた。七草会長は僕を見て、少しだけ愛想笑いを浮かべたが、すぐに達也へと向き直った。

 

「司波達也君。そうですか……、あなたがあの、司波君でしたか」

「……」

 

ㅤ達也は無表情のまま、黙り込んでいた。沈黙は金、とでも思っているのだろう。

 

「先生方の間では、貴方の噂で持ちきりでしたよ。……入学試験、7教科平均、百点満点中九十六点。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。合格者の平均が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。前代未聞の高得点だって」

「……ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」

「すごいじゃないですか。少なくとも、私には真似できませんよ? 私はこの学校で二年も学んでいますけど、同じ問題を出されても司波君のような点数はきっと、取れません。……貴方も、そう思いませんか?」

 

ㅤ急に彼女は、僕に話を振ってきた。達也とだけ話しているのも悪いと思って、気を遣ってくれたのかもしれない。

 

「武倉君、ですよね? 一科生の貴方が、こうして司波君と一緒にいるということは、彼の実力を認めているという事だと思ったんですけれど……」

 

ㅤそんなに気に留めていなかっただろうに、よくちゃんと名前を覚えているものだ。上に立つ人間なだけは、流石にある。

 

「才能で人を選ぶ趣味は、僕にはありませんが……。もし、そうだったとしても、達也は僕と肩を並べられるどころか、それ以上の実力のある人間だとは思います」

 

ㅤそれを聞いて、七草会長は嬉しそうに微笑んで「仲が良いのね」と言った。

ㅤ確かに表面上だけ見れば、友好的な関係を築いているように見えなくもない。けれども、そうではないのだ。彼の本来の力を知る立場の者としては、彼を過小評価することは危険過ぎて絶対に出来ない。

ㅤ世界を滅ぼしてしまうかもしれない、悪魔のような魔法師。それが僕の横にいる男、司波達也の正体なのだから。

 

 

 

 

 

 

ㅤ講堂に入ったところで、達也とは別れた。座席が何となく前列は一科生、後列は二科生という風に分かれてしまっているからだ。初日からわざわざ暗黙のルールに逆らう気も無いし、後で深雪と一緒に合流するしか無いだろう。

 

ㅤ入学式は特に変わったことも起こらず、恙無く終了した。学校によっては入学式すらもオンラインで済ませるくらい、式典というのは形式的なものだ。相当なことがない限り、アクシデントというのは発生するはずがない。

ㅤそのまま、人の流れに任せて列に並び、IDカードを受け取る。クラスはB組だった。瑣末な手続きを終わらせ、この場所で一番見つけやすい人間であろう深雪を探しながら歩く。

ㅤもう既に彼女は、達也たちと帰ろうとしているところだった。僕も足早にそちらへ行き、声を掛ける。

ㅤ達也と深雪がこちらに気づき、振り向いた。

 

「あら、理澄君」

 

ㅤ深雪の言葉によって、前を歩いていた2人も僕に気づいたようだった。

 

「ねぇ、深雪。この人友達?」

 

ㅤショートカットの少女――千葉エリカがそう尋ねた。その横にいる眼鏡の少女、柴田美月も口にこそしていないが、気になってはいるようだった。

 

「友達というより……。昔からの知り合いっていう方が近いかな。小学生の頃とかは、割と頻繁に顔を合わせていた」

 

ㅤ深雪の代わりに達也がその疑問に答えた。

ㅤよく会っていた、と言っても、一緒に楽しく遊んでいた訳ではない。四葉本家で行われている戦闘訓練に参加していたのだ。

ㅤ親達の懸念を余所に、僕達の世代は達也を中心に奇妙な関係で結ばれている。

ㅤ彼のお陰で「四葉」としてのアイデンティティを得た黒羽の双子達。彼の存在によって、逆説的に存在価値が生まれている僕。何だか、皮肉な話である。

 

「一年B組の武倉理澄です。よろしく。気軽に理澄と呼んでくれて構わないよ」

「OK。私は千葉エリカ。エリカ、でいいよ」

「わっ、私は柴田美月です! よろしくお願いしますね」

 

ㅤ美月は少し緊張しているようだが、エリカはとても気安い対応だった。深雪にも物怖じせず受け答えをしていただけはあるな、と思う。

「でもさ、りずむ、って変わった名前よね。戦争があったからか、男の子の名前って割と武骨になってきてるじゃん。男女差別する訳じゃ無いけどね」

 

ㅤエリカの言う通り、2010〜20年代に流行した所謂「キラキラネーム」は戦争の勃発により、鳴りを潜めた。世界情勢に合わせてか、勇ましい名前を子供に名付けたがる親が増えたからだ。

ㅤただ、あまり好戦的な名前にするのは憚られた。あの時代には「戦争」という言葉すら、忌避する風潮が蔓延していたからだ。故に、古風で硬いイメージの名前の流行という結果へと落ち着いた。その方向性は現代まで続いている。

ㅤつまり、僕の名前はとても珍しいのだ。

 

「まぁね。自分でもそう思ってるところはあるよ」

「でも、いい名前ですよね。綺麗な響きです」

 

ㅤ美月がエリカの言葉を取りなすように言う。捉え方によってはケチを付けているように聞こえるかもしれない、と気付いてしまったのだろう。僕は全く気にしていなかったが。

 

「あのさ、美味しいケーキ屋さんがあるらしいのよ。良かったら、みんなで一緒に行かない?」

 

ㅤ微妙な空気になるのを避けてか、エリカは努めて明るくそう提案した。

 

「入学式の場所はチェックしていなかったのに、ケーキ屋は知っているのか……?」

「当然! 大事なことでしょ?」

「当然なのか……」

 

ㅤ達也のツッコミに、平然とした顔で返すエリカ。講堂の場所は校内で誰かに聞けば教えてくれるので、学校近くのケーキ屋だけ探しておく――ある意味、合理的思考とも言えなくは無い。

ㅤ僕はもとより外食をする予定だったので、一も二もなく頷いた。達也と深雪はどうだろうか。

 

「お兄様、どういたしましょうか?」

「いいんじゃないか。せっかく知り合いになったことだし。同性、同年代の友人はいくらいても多過ぎるということはないだろうから」

 

ㅤ達也の妹思いなこの発言によって、後の方針は決まった。僕達は揃って、校門へと足を向けた。そろそろ、お昼には丁度いい時間だ。

 




ㅤ話があまり進まなかった。本格的に魔法を使うのはもう少し後になるかなと。あんまりグダグタしていると長くなるので、必要なさそうなシーンはカットするつもりでいます。

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