【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ七草邸や北山邸程ではないが、新居はそれなりに大きい。警備上の面もあるが、十師族としての体面を重視したのもあるかもしれない。

ㅤ本家から執事やメイド、護衛がこの家に送り込まれたので、菜子は彼らを総括する役割を担うことになった。普通の魔法が碌に使えない彼女は、本家にいた頃に同僚達から馬鹿にされていたらしい。それでも、これからは大逆転。ある意味「さすおに」的シンデレラストーリーと言えるだろう。

 

ㅤガーディアンは北斗が務めることになった。僕の魔法特性上、人前で「ワルキューレ」を使ってしまった場合、如何にバレずに死体を処理するかが一番の問題になってくる。そうなると、認識阻害の魔法に適性のある彼が適任だった。勿論、逃走にも使えるという利点もある。

ㅤしかし、彼は一高に籍を置いていない為に高校へは通えない。校内で何か起こると、介入できなくなってしまう。とはいえ、そんな事態になっていれば深雪も危ないので、達也が何かしら行動を起こす。敵も僕なんかに構っている暇が無くなってしまう筈だ。それに、学校で襲うリスクは大き過ぎる。狙うなら、登下校中の方が良いだろう。敵にとっても。

 

 

 

ㅤ四葉であるということは、やはり人々に恐怖を思い起こさせるものらしい。僕がB組の教室に入ると、始業前の賑やかな雰囲気が一変した。端末のある自分の席に座れば、周辺にいた生徒がさりげなく距離を取る。普段は「おはよう」と声を掛けてくるクラスメイトも、今日は何も言おうとはしなかった。

ㅤ完全にハブられているのだが、決して向こうが悪い訳では無い。復讐の為に一国を滅ぼしたとか、悪名が轟く四葉一族に関わりたいと思う人間は居ないに決まっている。他の十師族に対しては関係を持ちたい者も多いだろうが、「接触禁忌(アンタッチャブル)」はやっぱり怖い筈だ。

ㅤだから、僕は黙ってIDカードを端末に差し込むと、授業の予習を始めた。カードは今朝、苗字の変更されたものを再発行してもらったのだ。

ㅤ実技の授業中、教師は流石に挙動不審な者はいなかった。それでも、僕にはあまり話しかけてこない。計測器の用意くらいはしてくれたが、特にアドバイスなども無し。

ㅤそれは、僕が真面目に魔法を発動したのもあるだろう。263ms(ミリ秒)だった発動速度が211msにまでいきなり速くなったのだ。今まで手を抜いていたに違いない生徒へ、真摯に助言をしたくなる教師もいない。

 

ㅤ昼休みは食堂で食べる予定にしていたが、十文字先輩から急に呼び出しを食らった。食事は持ってきても構わないと言うので、購買でサンドイッチと瓶ジュースを買い、指定の場所へと向かう。

ㅤ十文字先輩が所属しているクラブであるクロスフィールド部の部室。ここは部活連の非公式な会合に使われることもある。そんなところに何故呼ばれたのか。その理由は、僕が十師族であったこと以外に考えられない。

 

 

 

 

 

 

ㅤ理澄を呼び出した張本人である克人は、クロスフィールド部の部室で一人の女子生徒と共に彼を待っていた。彼女は一高の元生徒会長であり、七草家の長女である、七草真由美だった。

 

「驚いたわね。まさか十師族、しかも四葉が入学していたなんて。入学式の時にも会っているけど、全然そんな感じがしなかったもの」

「実力を隠していたんだろう。秘密主義の四葉家らしい」

「なのに、どうして急に出てきたのかしら?」

「それこそ、本人に訊くしかないだろう。学生の今こそ、接触する最大のチャンスなのだからな」

 

ㅤ克人がそう言った時、ちょうど部室のドアが開いた。

 

「いらっしゃい。武倉くん……じゃなかった、四葉くん」

「七草先輩もいらっしゃったのですか?」

「ええ。十文字くん一人じゃ、貴方も不安でしょう? 見た目が怖いものねぇ……」

 

ㅤ克人の容姿をダシにして、場の雰囲気を和ませる真由美。実際、彼女は緩衝材の役割として、ここに来たつもりでもあった。

ㅤ部室の備え付けのテーブルにつき、3人は食事を始める。真由美は手作りの弁当だったが、克人は購買で弁当を購入していた。

 

「四葉くんは、九校戦でもかなり大活躍だったわよね。まさか、その時には十師族だったとは思わなかったけど」

「すみません。素性を悟られないようにと、当主から言い含められていたもので。それでも、十文字先輩は何となく気づいていると思っていたのですが」

 

ㅤ理澄の言葉に、真由美が頬を膨らませる。言外に「鈍そう」と言われていると思ったのだ。

 

「いや……。全く分からなかった」

 

ㅤどちらかと言うと、克人は達也を警戒していた。二科生であるのに、筆記試験ではほぼ満点を叩き出し、九校戦のエンジニアとして新技術を次々に発表。どう考えても、歪な存在なのだから。

ㅤそれに比べて理澄は、普通に「優秀」のカテゴリに入るだけ。一科生の能力としては特におかしいところは何も無かった。

 

「しかし、これからは四葉、お前も十師族としての務めを果たさなくてはならない。今まで人前に出てこなかったのだから、不慣れな部分もあるだろう。その時は、俺や七草がサポートする」

「困ったら、気軽に相談してね。来年には、生徒会か部活連のどちらかに入って貰うことになるだろうし」

「風紀委員のままでは駄目なのでしょうか?」

「今後は魔法師社会を率いていく立場になる。学生のうちに、上の立場に立つ経験を積むべきだ」

 

ㅤ十師族の地位に誇りを持つと同時に、人一倍責任を感じているのが克人だ。それは若さ故の青臭さでもあるだろう。

 

「まぁ、それは追い追い考えるとして。ところで、どうして急に四葉家の血縁者だと発表されたの? 何か理由があると思ったんだけど」

「理由は教えられていないんです。何か家に必要なことがあったからだとは思うんですが……」

「そっか。それじゃあ仕方ないわね。……そろそろ、昼休みも終わるし、お開きにしましょうか」

 

ㅤ端末を開き、真由美が言う。確かに、5時限目がスタートする時間だった。

ㅤ理澄が退室した後も真由美と克人はまだ部屋に残って、話をしていた。彼についての疑念はまだ晴れていなかったのだ。

 

「そういえば授業は大丈夫か、七草?」

「これを見越して、生徒会の公務ということにしてあるわ。気になるんでしょう? 四葉くんのこと」

「あぁ。さっき奴は理由を知らないと言ってはいたが……。まさか、知らないなんてあり得ない筈だ。企みが読めんな」

「ウチは狸親父のせいで痛い目に遭ってるからね……。その上、四葉まで動いたら流石にマズいわ」

 

ㅤ七草家はカル・ネットで報道されたスキャンダルによって、かなりの痛手を食らっていた。幸い火消しは間に合ったものの、情報通には知られているレベルのものになってしまっている。

 

「悪い。それについては、流石に俺も七草家を擁護出来ん」

「分かってる。十文字くんが抗議してくれたおかげで、父も手を引いた訳だもの。それにしても、どうする? 直接訊いても教えてくれないんだし」

「とりあえずは、様子見しか無いか……。固有魔法だけでも知れたら良いんだが」

「ちょっと! 人の魔法を詮索するのは駄目よ!」

 

ㅤ真由美が慌てたように叫ぶ。プライバシーの観点以前に、軍事力となり得る魔法は機密にされる場合が多い。他人の魔法を探るのは犯罪に近い行為であった。

 

「そうは言うが、気になるのは確かだろう? 四葉に関しては殆ど情報が無い。流星群(ミーティアライン)のような魔法か、精神干渉魔法か……。分からなければ、後れを取ってしまう」

「まぁ……。確かにね……って、あれ?」

 

ㅤ何か違和感を感じた真由美は、知覚系魔法「マルチスコープ」を発動する。そして、あるものを見つけ出し、手に取った。

 

「これ……! 盗聴器よ!」

「……侮れない相手だな。こちらも心してかかるしかない」

 

ㅤ克人と真由美は互いに顔を見合わせ、理澄に対する警戒を強めた。

 

 

 

 

 

 

ㅤ僕は退室する前に、こっそり椅子の裏に盗聴器を仕掛けていた。最後にはバレてしまったが、これは許容範囲だ。

ㅤ四葉の名は大亜連合を退けられても、国内では近過ぎる脅威となって危険視されやすい。僕は、特に十師族相手には油断出来ないと分かっていた。

ㅤけれども、僕の魔法に探りを入れてくるつもりだったとは思わなかった。ワルキューレを多用しない為にも、武倉から常時護衛を出さないといけないだろう。

ㅤうんざりして溜め息をついたら、近くの席の生徒が怯えたように震えた。息をするにも一苦労だ。

 

ㅤ放課後は、運悪く風紀委員の当番だった。本部で森崎と一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。向こうが話しかけてこないなら、こちらにも用は無い。黙って巡回へと向かった。しかし、僕を見ると誰もが逃げたので、仕事にならなかった。

ㅤ肩を落として本部へと戻ると、達也が資料の作成をしていた。彼は入ってきた僕に気づいて、顔を上げた。

 

「理澄か。どうだ? 四葉の縁者とバレた気分は」

「最悪だ……。今日、こんな気軽に話してきたのは達也だけ。こんな日がまだまだ続くと思ったら……」

 

ㅤ応接用のソファに腰掛け、頭を抱える。こんな生活は針のむしろである。胃に穴でも開きそうだ。

 

「暫くすれば、騒ぎも落ち着くだろう。近付く人間は居ないままかもしれんが」

「そうじゃなくて、変に怯えられてるのが嫌なんだよ……」

「それはどうしようもないな」

「だよね。……資料作成、手伝うよ」

 

ㅤ単純な作業でも、何か現実逃避になりそうなものに打ち込みたかった。

 

「いや……。残念ながらもう終わった」

「えぇ……!? どうしよう、帰ろうかな」

「部活があるんじゃないのか?」

「この状況から考えて、僕が行くと練習どころじゃないでしょ」

「まぁ、そうだろうな」

 

ㅤ基礎トレーニングまでは一人だが、ラリー練習はペアでやらなければいけない。多分、誰も一緒にやってくれないだろう。

 

「仕方ない。今日は帰ろう。外で北斗をずっと待たせるのも忍びないし」

 

 

 

ㅤ校門の近くに一台の自走車が停まっていた。僕が乗ってきた車である。この車は武倉のものではなく、本家から支給されたもの。出所を調べられないようにする為らしい。

ㅤ僕は黙って車に乗り込み、後部座席に荷物を放り投げる。鞄には端末が入っていたが、これくらいの衝撃で壊れるものでもない。

 

「学校はどうでしたか、理澄様? 」

「……別に。普通かな」

 

ㅤ僕の答えに北斗は特に何も返さず、車を発進させる。こういう時、下手な慰めみたいなものを言わないでいてくれるのは嬉しかった。

ㅤ十分程車を走らせると、途端に同じ景色が窓の外に映り続ける。同じところを何度も回り続けているのだ。

 

「暗殺目的かな?」

「恐らくは。このまま離脱することも可能ですが、どうされますか?」

「ここで潰してしまおう。今、僕は機嫌が悪いんだ」

 

ㅤ車を停めて、魔法の使い手を探す。人避けの効果もあるのか、僕達以外には人は見当たらない。キャビネットが交通の主流とはいえ、誰も居ないことは無い筈なのだ。

ㅤ車外に出ると、いきなり情報強化の掛かった銃弾が飛んできた。咄嗟にベクトル反転を発動する。それに続き、北斗が敵のいる方向に魔法を発動した。

ㅤ精神干渉魔法「マンドレイク」。想子波によって恐怖の情動を発生させ、相手の精神を衰弱させる魔法だ。

ㅤ敵が呻き声を上げながら、僕達の前に姿を見せた。精神に不調をきたし、光学迷彩の魔法が外れてしまったのだ。

 

「ありがとう。後は任せて」

 

ㅤそう言って、僕はCADを操作する。その瞬間、敵は身体に穴が開き、そこから血を勢いよく吹き出した。

ㅤ使ったのは加重系魔法「グングニール」。指定した平面エリアの仮想的な重力分布を操作して、特定の幾つかのポイントに高重力を発生させるもの。

ㅤインデックスにも掲載されている魔法だが、あまり使う魔法師はいない。平面に作用する干渉力を必要とするのに、効果は狭い範囲に限定されるからだ。その上、工程の多い複雑な魔法式で、かなりのキャパシティが要求されるのだ。

 

「珍しいですね」

「十文字とかに目を付けられていて。それにしても……どうしようか?」

「これを辿っても雇い主は分からないでしょうね。とりあえず、脇に置いておきましょう」

「何でこんな面倒ごとに巻き込まれるんだ……」

 

ㅤ発散系で地面の血を落とす。血に含まれる水分を飛ばしたのだ。そして、移動魔法を使って死体を人目につかない場所に移動させる。

 

「じゃ、帰ろうか。菜子がチョコケーキ焼いてるって言ってたし。おやつにしよう」

「そうですね」

 

ㅤ高校生にもなって、学校のことで悩ませられるとは思わなかった。しかし、国際情勢に対応するには、これしかなかったのも分かっている。見かけ上は、平和なのが今。小さな社会と大きな社会。どちらを取るべきなのかは、誰にでも明白だ。

 





ㅤない話をあるように語るのが好きなタイプなので、原作に存在しない魔法を作るのも好き。ネーミングセンスがマジで無いから困る場合が多いんですが、原作のセンスも結構アレなんで意外とベストマッチしてくれる。
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