【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ劇場版! これが終わったら、一度追憶編に入る予定にはしてる。




星を呼ぶ少女編
1


ㅤ2096年、2月下旬。USNAの小型艦艇が太平洋の真ん中で漂流しているのが発見された。

ㅤこの件は、実は四葉がやったものではない。今までコソコソと暗躍していた七草が僕の介入で焦り、強行したことだった。偶然の産物ではあるが、四葉に嫌疑が掛からなくなったので助かった。

ㅤそして、USNA軍からしてみれば、リーナは行方不明な上に脱走兵扱いである。

ㅤしかし、今回の一件でスターズが日本国内で動くのが限界であったこと。デバイスを持たないリーナは「ヘヴィ・メタル・バースト」を使えないこと。まだ16才の未成年で、そこまでの機密を持ち得なかったこと。

ㅤこれらの点から、一度リーナのことは放置する方向で話は進んだ。USNA国内では反魔法団体の活動も活発であり、そちらの対策に傾注する必要もあった。あとは多分、彼女を蹴落としたい一派が何かしらの主張をしたのだろう。政治というのは厄介なものである。四葉が政治から距離を置く理由もここにあるのかもしれなかった。

ㅤだから、今のUSNAは新しいシリウスの選定と、戦略級魔法に適性のある人材を探すことに躍起になっている。

 

 

ㅤ一方、四葉に迎え入れられたリーナは、とりあえず巳焼島で生活を送ることになった。ブリオネイクこそ作らせている最中だが、脱走しようとする戦闘魔法師を倒すくらいは彼女なら造作でもない。案外、新しい生活を楽しんでいるようだった。

ㅤ偶には島に顔を出していたが、僕は学校があるのでいつも行く訳にはいかない。だから、春休みには休暇の殆どをそこで過ごすことに決めていた。

ㅤ巳焼島の研究施設に赴くと、そこには研究員達と談笑するリーナの姿があった。彼女は僕を見て、こちらへと駆け寄ってきた。

 

「リズム、久しぶりね」

「久しぶり。気分はどう?」

「思ったより最高。何より食事が美味しいわ」

 

ㅤ何もない島なので、モチベーションを保つ為に食事だけは高いクオリティを維持している。それは彼女のお眼鏡にも適ったようだ。

 

「それは良かった。でも、いつも同じ所にいたら飽きてもくるでしょ。少し出掛けようか」

「いいわよ。でも、何処へ行くの?」

「旅行。深雪やほのか達にもう一度、会いたくない?」

 

ㅤ僕の言葉に、リーナは目を丸くした。

 

「えっ!? いいの?」

「いいよ。バカンスくらいしたって、誰も怒らない。四葉は身内に優しいんだから」

 

ㅤ御当主様は、連れてきた張本人である僕にリーナの扱いを一任している。だから、別に問題は無い。それに待遇に不満を持たれても困るので、時には息抜きをさせた方が良かった。

ㅤそもそも、「パレード」の術式を提供してくれたので、無碍には扱えないという理由もあった。ただ、「パレード」は難度が非常に高い。今のところ、四葉の魔法師でも実戦レベルで使える者は居なかった。しばらく、あの術式は研究材料として使われるだけになるだろう。

 

「やった! バカンスなんて、もしかしたら初めてかも」

「早く用意しておいで。待ってるから」

 

ㅤ嬉しそうに駆け出したリーナが見えなくなると、僕は研究員達の方へ振り向いた。

 

「どう? リーナが来て何か変わった?」

「放出系の新魔法を開発中ですね。ブリオネイクの開発と同時進行で、新しいアプローチでのFAE理論の再現を考えようという話になりまして」

「それは良い。データを纏めておいてくれる? 御当主様にも報告しておくから。内容によれば、もう少し予算も増やしてあげられるかも」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 

ㅤ彼らが喜ぶのも無理はなかった。四葉の研究テーマは精神そのものの解明。その為、四系統魔法の研究は精神干渉魔法の研究よりは、多少予算が下りにくいのだ。けれども、これは軍事兵器となり得る魔法の開発なので、きちんと金を掛けるべき案件だろう。

 

「でも、簡単には聞いておこうか。一体どういうアプローチなの?」

「物理法則を離れる1ミリ秒以下のタイムラグで事象を改変する際、解決に結界ではなくタキオンを使おうというアイデアです」

 

ㅤ数人居る研究員のうち、一人が代表してそう答えた。

 

「タキオン?」

 

ㅤ何度か聞いたことのあるワードだが、詳しいことは知らなかった。空想科学の産物だと思っていたけれども、違うのだろうか。

 

「正確には、超光速で動く存在を仮想的に作成するというべきでしょうか。その意味では結界と近いですね。それによって、投射した魔法式を負の時間方向にずらすのです」

「現代魔法では時間遡行は不可能とされていた気がするけど……」

「確かに不可能です。けれども、それは質量体の問題で、想子情報体だけならば可能かもしれません。どの時間にも形を変えず存在している訳ですから」

 

ㅤ時間遡行こそ不可能だが、イデアを介し過去の情報を読み取れる人間は存在している。彼の言い分は説得力のあるものだった。

 

「やり方次第では、擬似的に辻褄を合わせられる可能性が出てくるということか」

「はい。変数の一部に虚数を定義した仮想空間では、光速を超える物質も含まれるかもしれません。その中では、特殊相対性理論が崩壊しています。つまり、計算上は時間が逆行し、魔法式は過去に飛べるという訳です。……まだ仮説段階でしかありませんが」

 

ㅤ僕はこの仮説の全ては理解できない。けれど、感銘を受けたのは間違いなかった。これは魔法の転換点なのかもしれないのだ。

ㅤもし、この方法が確立すれば、発動速度は評価基準として使えなくなるだろう。フラッシュ・キャストよりも速く発動出来るどころか、「人間の認識限界」の壁を越えるものなのだから。

 

「……すごいじゃないか!! 何が何でも、予算を持ってこさせるよ! 武倉からも予算を幾らか出そう」

「えぇ!? よろしいんですか、理澄様! まだ実現するかも分からないんですよ!?」

「結果はすぐ出なくてもいい。それは絶対に研究すべきテーマだ」

 

ㅤブリオネイクが作れそうな人間を四葉内から集めたつもりが、とんだ儲け物である。

ㅤ何よりも速く魔法式を構築出来る方法を我々だけで独占出来れば、最悪十師族間で抗争が起きたとしても、イニシアチブを握ることができるだろう。魔法師の数では負ける七草に対しても、ほぼ心配は無くなる。僕は新しい魔法の可能性にワクワクしていた。

ㅤちょうどその時、旅行の荷物を持ってリーナが戻ってきた。元々、今までの会話は彼女を待つ間の暇つぶしだ。偶然にも、それが有用であっただけである。

 

「リーナ、早かったね。じゃあ、行こうか」

「えぇ。……ところで場所は?」

「媒島。北山家がプライベートビーチを持っているらしい」

「北山?」

「そっか、リーナは会ったことないもんね。北山雫、君と交換留学した子だよ」

 

ㅤ研究所を出て、近くの港まで歩く。待たせていた船に乗り込み、媒島を目指す。彼女達にはリーナが来ることを言っていないので、良いサプライズになると思う。

 

 

 

 

 

 

ㅤ媒島に到着すると、僕達以外のメンバーは全員揃っていた。彼らは自家用ジェットに乗ってきたらしい。僕と共にリーナが現れたことで、彼らはかなり驚いていた。

ㅤ今は歓迎会を兼ねて、皆で軽食を食べながら話をしている。まだ昼を少し過ぎたぐらいだが、細かいことを言う人間はいなかった。

 

「やっぱり数字付き(ナンバーズ)って凄いのね……。リーナを連れて来れるなんて」

 

ㅤほのかがしみじみと呟く。

ㅤリーナが四葉の身内となったとは言っていないので、僕がUSNAから連れてきたと思っているのだ。本当のことを知っているのは、この中だと達也と深雪だけである。

ㅤリーナにも彼らが四葉の直系、それどころか僕よりも御当主様と血が近いことは伝えてある。彼女は全く気付いていなかったらしく、ショックを受けていた。

 

「だけど、千葉でもそんな真似はムリ。やっぱり十師族、それも四葉だからね」

「やっぱり魔法名家は伊達じゃない」

 

ㅤエリカの言葉に雫も同意する。

 

「でも、一回来たことあったから上手くいっただけだよ。流石に面識の無い人は無理だろうね」

「いや、それは誘拐だよ」

 

ㅤ幹比古の何気ないツッコミに皆が笑う。

 

「でも、理澄くんは大丈夫だったんですか? 学校でもお迎えが来るぐらいですから、こうして参加するのも難しいと思っていたんですけど」

「それもそうだよな。俺も何回か護衛の人見たことあるし」

 

ㅤ美月の疑問に、レオも言葉を重ねた。

ㅤ彼らがそう思うのも尤もだ。最初はガーディアンを連れては行きづらいと考え、参加するのを断る気でいた。だが、リーナだけ島に行かせる訳にもいかないし、僕も同行することにしたのだ。

 

「多分、大丈夫。一応CADは待機モードにしてるけど」

 

ㅤ僕やリーナが死ぬような事態は深雪も危険なので、達也は絶対に何か行動を起こす。だから、ガーディアン無しでも数日滞在するのには支障はない筈だ。

 

「へぇ……。私もCADは持ち歩いておこうかしら」

「何でオメーはそうも好戦的なんだよ」

「あら、何かあってからじゃ遅いのよ。達也くんはどう思う?」

「別に理澄も常に監視されている訳じゃないからな。大したことは起こらないと思うぞ」

「お兄様の言う通りよ。そうじゃないと、七草先輩や十文字先輩も頻繁に襲われていることになるんだから」

 

ㅤ勿論、彼らも襲撃に遭わないことは無いだろう。しかし、流石に日常生活も満足に送れない程では無い。それは、四葉である僕も同様だった。

 

「それもそっか……。じゃあさ、そろそろ海行かない? 泳ぎたい気分になってきたんだけど」

「いいね。最近は泳ぐこともなかったし。リーナも構わない?」

「もちろんよ! ちゃんと水着だって持ってきたんだから!」

 

ㅤいきなり旅行に誘ったのに、何故か彼女はきちんと水着を用意していたらしい。巳焼島には泳ぐ為のビーチは無いが、勘違いして購入していたのかもしれなかった。

ㅤ僕は泳ぐ気にはなれなかったので、バルコニーで休むことにした。達也と深雪も泳がないらしく、バルコニーに出てきた。

ㅤハウスキーパーの黒沢さんが淹れてくれたアイスティーを飲みつつ、下で遊んでいる様子を僕らは眺めていた。リーナが大きな水鉄砲を抱えて、レオやエリカと水の掛け合いをしているのが見える。

 

「何だか以前よりも、リーナは元気そうね」

「やっぱり、そう見える? 軍人であることはリーナには合わなかったんだろうね」

「そうね……」

 

ㅤ深雪はそう言いながらも複雑な顔をしている。軍人を辞めても四葉にいるのなら変わらない、と考えているのかもしれない。それは彼女の価値観であり、リーナはそう思わない筈だ。彼女は魔法師として、自分の望む生き方をしたいのだから。

 

「達也はどう? 前のリーナと結構立場が似てるでしょ。軍人として生きるってどんな気持ち?」

「俺は完全な指揮系統に組み込まれている訳じゃないからな。精々助っ人程度だ」

「お兄様は助っ人などではないです! 装備のアイデアも出していますし、部隊の中心人物ではありませんか!」

「中心人物って……。深雪、大袈裟だな……」

 

ㅤ当時中学一年生の僕に、沖縄戦を回避する政治的な能力は無かった。大亜連合の艦隊を退けるために「マテリアル・バースト」を使用した達也は、独立魔装大隊に所属することになった。

ㅤ黒羽が開いたパーティには参加していたから、前日までは僕も沖縄に居た。しかし、それを止める術はやはり無かったのだ。

 

「達也も中心人物には違いないと思うけど」

「あら、理澄君もそう思う?」

「思わない筈が無いでしょ。何を隠そう『14人目』なんだから」

「理澄。その話はやめよう」

 

ㅤ僕は肩をすくめる。近くに人はいなかったが、確かにこんなところでする話でもない。気まずい雰囲気が漂い始めたところで、ほのかと雫がバルコニーに戻ってきた。

 

「達也さん! 下でエリカ達がビーチバレーを始めるみたいですよ? こちらに来ませんか?」

「深雪、それに理澄さんもおいでよ」

 

ㅤせっかく招かれたのに、一緒に遊んだりしないのは人として問題がある。だから、僕達もビーチバレーに参加することにした。きな臭い話は、また今度でも良いのだ。折角の休みは、高校生らしく遊ぶべきだろう。

 




ㅤ晴れて四葉の一員になったリーナ。バカンスも島だけど、監獄のある島よりは全然マシだと思う。
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