【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤオリーシュくんに置いていかれたお兄様は、多分ものすごく根に持っていると思う。




4

ㅤ実験場から「わたつみシリーズ」の少女達を理澄とリーナが連れて行くのを、達也は黙って見送った。ここに残っているのは、達也と盛永、そして、実験の統括者である兼丸孝夫のみだ。他の研究員はいない。達也が突入した際に、追い出してしまったからだ。

 

「積み上げてきた研究が、一夜にして崩れる気分はどうだ?」

 

ㅤ彼は呆然と立ち尽くす兼丸に尋ねた。

 

「……まだ終わってはいない。『わたつみシリーズ』を攫われただけだ。アイツらは再びここに帰ることになるだろう。何度やっても同じことだ!」

「……盛永さん。データのバックアップを取って貰えませんか。この記録カードに入れて頂ければ」

 

ㅤ自分で尋ねたのに、兼丸の言葉を無視する達也。答えを期待してのものというよりは、雰囲気に合わせた質問だったからだ。悪役を演じるのも悪くない、と彼が思っていたかは、定かではない。

ㅤ盛永がメインコンピュータを操作し始める。兼丸がそれを阻止しようとするが、達也によって特化型CADを突きつけられ、動きを止めた。

 

「……何をする気だ?」

「調整体魔法師を使い潰すような研究は存在してはならない。この世から研究そのものを消してやるさ」

「調整体は遺伝子操作による、人工的に生み出されたモルモットだ! 実験動物にして何が悪い!」

「生まれの経緯は別として、自我があるものは『人間』として扱うと決めておかねばならない。そうでないと、研究者は人の道を容易く踏み外してしまうのだから」

 

ㅤ人間の定義とは何か。

ㅤそれは達也ですら、悩み続ける命題だった。正直なところ、彼も調整体がナチュラルな人間だとは言い切れないと考えている。しかし、調整体が人間かどうか分からなくても、彼女は素晴らしい人だったと達也は思う。

ㅤ彼の亡き母、司波深夜のガーディアンであった桜井穂波は調整体魔法師「桜シリーズ」の第一世代だった。そして、主人では無かった筈の達也を庇って死んだ。彼は、今でもそのことを後悔し続けている。自分に力が無かった故に、生み出された結果だからだ。

ㅤけれども、彼女は自殺をしたかったのかもしれない。息を引き取る直前に彼女は、初めて自分の意思で決断出来たのだ、と達也に言った。深夜の道具としてでは無く、意思の持つものとしての死を選んだ。その事実を、否定することは出来ない。

ㅤだからこそ、調整体魔法師を「人間」だと達也は信じるしかなかった。彼女の死を汚さない為にも。

 

「研究とはそういうものだ! そうでないと、新たなものは生み出せまい! 魔法の黎明期、この研究よりも更に非人道的な実験が多数行われていた! 例えば、第四研のようにな!」

「ほう……。『第四研』か」

 

ㅤ達也は何だか笑ってしまいそうになった。人命を無視した実験を行う人物は、「第四研」という言葉を免罪符にしているのだ。それなのに、今この場で研究を否定している人物が第四研生まれだなんて、何という皮肉だろうか?

ㅤ彼は、兼丸の頭に突きつけたままだったCADの引き金を引いた。もう話すことは無いと判断したからだ。四肢に微小の穴を開けられ、その痛みで兼丸は意識を手放す。

 

「盛永さん、データは取れましたか」

「えぇ……。こちらに入れておきました」

 

ㅤ記録カードを受け取り、それを達也はポケットにしまう。そして、実験場の殆どを占める巨大なCAD「計都」に右手を向け、跡形も無く分解してしまった。

 

「戻りましょう。この場所にはもう用は無い」

 

ㅤ研究棟を出た後、達也は出てきた建物にも「分解」を行使する。「計都」は消し去ったので、必要の無いことではあった。でも、悪役を演じ切った方がいいのでは、と柄にも無く考えてしまったのである。

ㅤ理澄とリーナは既に帰ってしまったらしい。だから、達也には南盾島から出ている交通機関を使って帰るしか方法は無い。ここをどうやって脱出するかを考えつつ、盛永を連れて基地内を歩き回る。その時、達也は見覚えのある人物を見つけ、足を止めた。

 

「……十文字先輩」

「司波か。どうしてここに?」

「観光に来ていたのですが、巻き込まれまして」

「そんな格好をしているのにか?」

「これは借り物です」

 

ㅤ克人と出会った達也は、理澄が先に帰った理由を理解した。十文字が来る前に引き上げたかったのだろう、と。理澄は割とそういうことに頭が回る人間だと、達也は良く知っていた。

 

「そうか。それで、そちらは?」

「こちらは医師の盛永さんで、調整体のメディカルチェックを行っていたそうです」

 

ㅤ盛永は丁寧に頭を下げた。それは仰々しいと言えなくも無かったが、普通の魔法師にとって十師族は敬意を持つべき存在だった。

 

「貴女が盛永さんですか。魔法協会から話は聞いております。十文字家当主代理として、私が貴女の身柄を保証しましょう。しかし、調整体魔法師の皆さんはどちらに?」

「千葉家のご厚意で先に島を出発しました。ここに居続けるのは危険だと判断しまして」

「なるほど。千葉もここに居たという訳か」

 

ㅤ克人は達也の装備の出所がエリカからだと、勘違いしてくれたようだった。それは達也にとってプラスなので、そのまま黙っておく。

 

「家の船を待たせている。司波、お前も一緒に来ると良い。一般客用の交通機関では、なかなか帰るのが難しい筈だからな」

 

ㅤ達也はその言葉を聞いたことで、四葉と他の十師族の違いを認識できた。後輩とはいえ、他人の達也を自分の家の船に乗せる克人。逆に、友達にすら心を許してはいない理澄。

ㅤ四葉は身内だけを信用する。

ㅤ計算高く他人の信頼を上手く勝ち取る癖に、自分は毛ほども信頼しようとしない理澄は、やはり四葉の人間なのだ。

 

 

 

 

 

 

ㅤ九亜と他の姉妹達は魔法協会で再会出来たらしい。行き場が決まるまで、彼女達は北山家で世話になっていると聞いた。下手にどこかに預けられるよりは、雫の家にいた方が人間らしい生活をさせて貰えるだろう。結果的には、飛行機を乗り間違えたことは良かったのかもしれない。

ㅤ一度は巳焼島に戻ったものの、僕はもう少しリーナに春休みを満喫させてあげたかった。なので彼女は今、僕の家に滞在している。「パレード」を使えば、誰も正体は分からないからだ。しかし、買い物などに付いていく羽目に陥り、結構大変だった。それでも、リーナはとても楽しそうだったので、僕も嬉しかった。

 

 

ㅤ家のリビングで僕とリーナはティータイムをしていた。今は身内しかいないので、彼女は「パレード」を解除している。

ㅤ菜子が焼いたクッキーを食べながら、紅茶を飲む。彼女が用意してくれるものは、いつも美味しい。

ㅤリーナはアメリカ人なのでコーヒー派かもしれないと思ったが、何も言わないので紅茶も嫌いではないのだろう。彼女は、はっきりと物をいうタイプなので助かる。

 

「……そういえば、あの子たちはどうなったのかしら」

「九亜達のこと? 四葉が引き取ることになったらしいよ」

「そうなの? 何だか、意外ね」

「僕も七草が面倒をみると思っていたんだけどね……。そこまで戦闘向きの魔法師じゃなかったから、敬遠されたみたい」

 

ㅤそれもそれで、可哀想な話だ。もちろん、四葉内でも一般的な基準に沿わない魔法師は、残念ながらコミュニティ内では居場所を獲得できないこともある。しかし、仕事になれば話は別だ。特定のものだけだとしても、魔法が使えれば「四葉の魔法師」としては生きられる。それが幸せかどうかは分からないが。

 

「ステイツも戦闘用魔法が主流だったわ。どこも同じなのね」

「まだ戦争が終わってる訳じゃないからね。殺す為の魔法の方が必要なんだろう」

 

ㅤそれに、実戦に使うものの方が工程が少なく使いやすい。魔法力の低い魔法師の使い道は、いずれ減っていく筈だ。だから、平和な時代は来ないのかもしれない。魔法師を魔法師のままで維持したい、誰かの意思が介在――もしかしたら、スポンサー様の意向なのか。あり得る話だ。

 

「そう考えると、こっちは結構余裕あるの?」

「余裕がある訳じゃない。でも、画一的な技術ではなく、様々な分野に特化していきたいって考えはあるからね。――ところで、リーナ。一度、君を本家に連れて行きたいと思っているんだけど、どうかな?」

 

ㅤそう言うと、リーナは目を見開いた。

ㅤ実は、まだ彼女は本家には行ったことが無い。僕を介して、巳焼島に行くことになっただけなのだ。

 

「……リズム、ワタシのこと好きなの?」

「何でそうなるの!? いや、全然嫌いじゃないけどっ!」

「でっ、でも! 日本で男性の実家に挨拶に行くって……。そういうことじゃないの」

「本家は実家じゃない! 実家は別にあるの!」

 

ㅤ僕の実家は静岡にある武倉の屋敷だ。目立ってしまったせいで、最近は全く帰れていない。せっかくなので、春休み中に一回くらいは帰ろうと思った。

 

「……そうだったの。それならどうして?」

 

ㅤ彼女の顔は心なしか赤い。ずれた答えを返してしまったことが、恥ずかしかったのだろう。

 

「ブリオネイクが完成するまでは島にいなくちゃいけないけど、ずっとあそこに居るのは嫌でしょ? だから、好きな所で暮らせるよう許可を貰いに行きたいんだ」

「そこまで考えてくれてたの?」

「リーナを日本に留まらせたのは僕だよ? そりゃあ、生活に関しては責任を持たないと。どこか、住みたいなって考えてる場所とかある?」

「じゃあ、ここに住みたいわ」

「へぇ、そうなの……。って、えぇ!?」

 

ㅤ何も考えないで相槌をうってしまったが、衝撃発言だった。

 

「何処でもいいんでしょう?」

「まぁ、部屋は空いてるけど……」

 

ㅤリーナのしたいようにすればいいので、別に困りはしない。

 

「OKなのね! それなら、早く許可を貰いにいきましょう!」

「今から!?」

 

 

 

 

 

 

ㅤ旧長野県と旧山梨県の県境に四葉の村はある。人の姿は疎ら。それもその筈で、本当の本拠地はここの真下。そこには未だ密かに稼働している、魔法技能師開発第四研究所――通称、第四研があるからだ。

ㅤ僕達は離れではなく、本宅の方に案内された。そして、服を着替えさせられる。御当主様に普段着では会えないからだ。

 

「ドレスコードがあるのね……。ワタシ、こんなタイプのドレスは着たことが無いのだけど」

 

ㅤリーナが着ているドレスは、肩を大胆に露出したデザインのもの。色は赤色で、上だけ見れば大人っぽかった。しかし、丈が膝辺りの長さで、しかもパニエで大きく膨らませている。その為、全体的にはどこか幼く見えなくもない。デザイン的に、亜夜子の為に用意されていたドレスなのではないか。

 

「大丈夫、似合ってるよ。着る人間が良いんだから」

「そうかしら……。ステイツでは殆ど長袖だし、もっと丈も長いのよ。何だか、変な気分」

 

ㅤ時間が時間だったので、御当主様と夕食を共にすることになってしまった。その為、食事のできる小さなホールに案内された。

 

「お待たせしてしまって、ごめんなさいね。そろそろ、お食事をはじめましょうか」

 

ㅤ僕達が入ってきた入り口とは違う扉から、御当主様が現れた。それに合わせて、椅子から立ち上がる。後ろに控えていた使用人が椅子を引いてくれた。

 

「格式張ったものではないので、遠慮せず楽しんでくれて構いませんからね」

 

ㅤそう言われても、僕は緊張しか出来ない。リーナも少し顔がこわばっている。

ㅤ料理はフレンチだった。味はとても美味しい。本家の料理人はやっぱり腕が良いのだろう。

ㅤ食事の途中で、島以外に住んでも良いという許可を貰ったので、その後は気が楽になった。リーナも最後の方は慣れてきたようで、アメリカンジョークらしきものを飛ばしていた。僕はびっくりしたが、御当主様には意外に受けていた。最終的には、それなりに楽しい夕食を過ごせた気がする。こっちはヒヤヒヤして、非常に神経を使うものではあったが。

 

「今日は楽しかったわ。またいらしてね」

 

ㅤ御当主様からこんな言葉を引き出したのだから、リーナは結構すごいのかもしれない。口振りからして、お世辞では無さそうだった。

 

「来て良かったわね。ご飯も美味しかったし。来た時は、『HELL』って感じで心配だったけど。下が研究所だからなのね」

「見たらびっくりするよ。上の雰囲気とは全然違って。近未来的な感じ」

「行ってみたいわ。軍の研究所は古かったから」

「明日行こう。今日はもう遅いし」

 

ㅤ夜遅くになったので、今日は泊まっていくことにした。武倉の離れには僕の部屋があるし、空き部屋はいくつかあるのでリーナも泊まれる。

ㅤ本宅から離れまでの道を歩く。外はもう真っ暗だった。

 

「……ワタシね、リズムに出会えてよかったわ」

「どうしたの、いきなり」

「今何となく、そう思ったのよ」

「……実は、僕もそう思ってるんだ」

「お揃いね」

「似た者同士なのかも」

 

ㅤお互いの小指が触れる。手を繋ぐまで、そう時間は掛からなかった。

 





ㅤリーナはヒロイン。
ㅤ仮面ライダーだと、ヒロインが一号ライダー以外とくっついちゃったり、そもそも誰ともくっつかないとか良くある。なので、分かりやすくした。ヒロインだよ!(大声)
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