【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤダブルセブンを使っちゃったから、章タイトルで困ってる。とりあえずは「入学編Ⅱ」
ㅤ我が魔王も、ジオウの強化フォームがジオウⅡだったから、多分許されるやつ。あれ、新元号を使う予定だったのになかなかバレが来なかったからって噂あるけど、本当なのかな……?

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入学編Ⅱ
1


ㅤ春休みも終わり、新学期が始まった。

ㅤそれに伴い、リーナは巳焼島に帰ってしまった。けれども、数週間後にはブリオネイクを持って戻ってくるらしい。相当、研究者達を急かしたのだろう。彼らの苦悩が偲ばれる。

 

ㅤ僕はといえば、風紀委員会から部活連に移籍していた。十文字先輩が僕の枠を作って、卒業していったのだ。「十文字」が抜けた後の秩序維持の為に、「四葉」を使おうという魂胆らしい。現部活連会頭の服部先輩は、僕のことを快く受け入れてくれたので良かった。

ㅤ適当に人を引き抜いていいと言われていたので、森崎を一緒に連れていくことにした。風紀委員は、僕と達也が抜けた穴に幹比古と雫が入る筈だからだ。原作では辞めるに辞められず、苦労をしていたに違いない。彼は射撃部だし、部活連ではのびのび活動できるだろう。

 

ㅤ今年の総代は原作通り、七宝琢磨だった。彼は僕の言葉に乗せられて、少し前に芸能界デビューをしていた。しかし、受験勉強はちゃんとしていたようだ。まぁ、馬鹿にされたら嫌だからかもしれない。結構、努力家なのではないか。

ㅤそして、生徒会の誘いを蹴った彼は部活連に入った。調子に乗ってそうなので鍛え直したい、と服部会頭が言い出したので、勧誘したのだ。

ㅤ確かに琢磨は、魔法科高校で早くもスター扱いだ。師補十八家な上に、新入生総代。その上、芸能活動をしてもいるのだから。

ㅤ早いうちに鼻をへし折っておかないと、碌な大人にならないだろう。なので、彼の提案には幹部は皆賛成した。

 

ㅤだが、今年度で一番特筆すべきことはクラス替えだ。何でも、僕と同じクラスの生徒達の親からクレームが来たらしく、大幅なクラス改編が行われた。「四葉」が怖くて嫌だということである。今年からは魔工科も出来たので、口実を作りやすかったのかもしれない。

ㅤB組のメンバーは殆ど入れ替わり、森崎を始めとして一科と二科の区別をハッキリさせたがるタイプの人間ばかりが集まった。そういうタイプであれば、僕のことについて文句は言わないだろうと、職員室は判断したようだ。

ㅤ達也を持ち上げて深雪の機嫌を取る派閥に対して、なし崩しに僕は選民思想を持つ者達の派閥を率いることになってしまった訳である。端的に僕の派閥は「四葉派」と呼ばれていた。深雪達の方も安易に「司波派」だ。

ㅤ半年後の生徒会選挙では、僕と深雪が死闘を繰り広げるというのが専らの噂だ。お家騒動みたいだな、と少し思ってしまった。実際、間違ってもいない。

ㅤ一番可哀想なのは、運悪くB組に編入してしまった幹比古。彼は「司波達也が送り込んだスパイ」という、あらぬ疑いを掛けられていた。

 

 

「達也くんがミキを送りこんだ、だなんて。バカバカし過ぎ。一体、何処の誰が言い出したのかしら」

 

ㅤいち早く噂を耳にしたエリカが、昼食時にその話題を持ち出した。かなり怒っているようで、鋭い眦がいつも以上に吊り上がってる。

 

「でも、達也さんがそう言われるのは分かるかも。出来ないことは無さそう」

「雫! ……そんなことないですよね、達也さん!?」

「やっていないよ。それに、理澄は今も同じテーブルに居るんだぞ。どうしてそんなことを考える奴が現れるんだ?」

「リーダーが敵の中枢に乗り込んでる、と思っているみたい。僕は深雪の弱点を堂々と探っているんだって」

 

ㅤ物凄く僕のことを好意的に見てくれている、という点では、派閥というのも悪いものではないのかもしれない。

 

「じゃあ、深雪も向こうに乗り込んでさ。威嚇ついでに凍らせてきたら?」

「いやね、エリカ。私はそんなことしないわよ。何の得にもならないじゃない。お兄様が傷つけられているならまだしも」

 

ㅤ達也そのものがターゲットになることはこの先、まず無いだろう。クラスメイト達が犠牲になる未来は、一応回避されたようだ。

 

「だがよ、それよりも幹比古、お前が心配だぜ。苛められたりしてるんじゃねぇか?」

「確かにそうです! 吉田くん、大丈夫なんですか?」

「それがね、完全に逆で……。とてもチヤホヤされるんだ……。なんか怖くてさ……」

 

ㅤそれを聞き、僕を除く皆が不思議そうな顔をした。

 

「あぁ、それ。僕が丸め込んだんだ。今必要なのは二科生からの支持基盤だから、実力のある奴は褒め称えておくべきだって」

「君のせいか! 何なんだよ!」

 

ㅤ幹比古は、逆に恐怖を感じていたらしい。とはいえ、迫害されるよりはずっといい筈だ。彼には忍耐の時なのだろうが、頑張って欲しいものである。

 

 

 

 

 

 

ㅤ新歓期間も無事に過ぎ、穏やかに日常は流れてゆく。

ㅤ僕の家にリーナがやってきたので、家具を一緒に買いに行ったりもした。御当主様は平日の昼間に動ける四葉の魔法師として、彼女を使っているようだ。リーナはブリオネイクを振り回しつつ、仕事をこなしていた。楽しそうで何よりである。

 

ㅤしかし、学校内では問題が起こっていた。琢磨のことである。彼は七草への執着が無くなった訳ではない。恒星炉実験が行われていなくても、琢磨と香澄の衝突は起こるべくして起こったのだ。

ㅤやはりと言うべきか、話し合いは平行線を辿った。しかも、話がかなり飛躍してしまったのだ。

ㅤ七草と七宝の二家が雌雄を決すというよりは、四葉派と司波派の戦いという、よく分からないものになっている。姉が所謂司波派だったと言う理由で、そちら側に組み込まれてしまった香澄は大迷惑だろう。泉美は深雪の派閥に入れて喜んでいたが。

ㅤ結局、模擬戦によって決着を付けることになった。立会人は、部活連から僕と森崎。風紀委員会からは幹比古と雫。生徒会は深雪とほのか。審判は達也である。

 

「人数では僕達が圧倒的に不利だよね……。別にいいけどさ」

「確かに司波は卑怯だな。中立の奴も出せよ。風紀委員の方にはいるだろ」

「教職員推薦の奴? アイツも困るでしょ。ここに来てもアウェーじゃん」

 

ㅤ僕達の会話を小耳に挟んだ深雪が、こちらを睨みつける。目を逸らすのも変なので、手を振っておいた。そもそも僕は達也やエリカ達と仲が良いのであって、深雪とは折り合いがそんなに良くない。このことも、派閥の存在に説得力を持たせているのだ。

ㅤ模擬戦の結果はやっぱり引き分け。達也が「術式解散」を発動して、試合を止めたのだ。

ㅤだが、琢磨は納得がいかないようで、達也に詰め寄っていた。深雪が苛つき始めているのが、何となく分かる。演習室の温度が少しずつ低下しているからだ。このままでは、収拾が付かない。僕はため息をつき、前へと踏み出した。

 

「琢磨、僕と模擬戦をしよう。それなら良いんだろう?」

「ですが、それじゃ……!」

「僕に勝てたら、お前を次の選挙に出馬させるよ。達也のジャッジが気に入らなかったんだったら、森崎に審判をして貰う。それで文句は無い筈だ」

「……分かりました」

 

ㅤ不承不承という風ではあったが、彼は頷いた。

 

「達也、演習室取れる?」

「可能だが、別日の方がいいんじゃないか? ミリオン・エッジはCADを必要としない代わりに、媒体に魔法式を留めておかないといけない。事前準備が要る筈だ」

「そっか。じゃあ、明後日でいいよ。今日はもうお開きにしよう」

 

ㅤ本人達の与り知らぬ所から始まった派閥争いは、僕が巻き込まれに行く形で収束した。元はと言えば、僕が琢磨を調子に乗らせまくったのもある。落とし前はつけなくてはならなかった。

 

 

 

 

 

 

ㅤ二日後、演習室には理澄と琢磨に審判の森崎、そして幾人かのギャラリーが集まっていた。ほのかや雫、エリカといった、いつものメンバーだ。深雪と達也の従姉妹ということになっている水波に、服部や桐原といった上級生の姿も見える。

 

「エリカ達も来たのか。それに先輩方も」

 

ㅤ不本意ながら、再び立会人を務めている達也がエリカに声を掛ける。身内ばかりだとおかしいからと引き受けさせられたはいいが、見物人が多過ぎて存在意義を為していないのだった。

 

「理澄くん、強いんでしょ? 見てみたいじゃない」

「こういう時でないと、四葉の戦いは見られないからな。戦い方が良ければ、今年のモノリスメンバーに推薦しようと考えてもいる」

「ぶっちゃけた話、四葉が目当てで見にきたんだ。七宝には悪いが」

「一応、模擬戦ですからね……?」

「固いこと言うなや、司波兄。模擬戦なんざ部外者からすりゃあ、ちょっとしたショーに過ぎねぇ。それはお前も分かってんじゃねえの?」

「それはそうですが」

 

ㅤ特に接点の無かった筈の桐原と達也がこうして気安く話しているのには訳がある。

ㅤ一年前、桐原は片想い相手の壬生紗耶香に告白をした。だが、予想もしなかった相手からのアプローチに混乱した紗耶香はあろうことか、以前連絡先を交換しただけの関係でしかない達也に相談したのである。そして、話を聞き付けたエリカに場を引っ掻き回された挙句、達也と桐原は模擬戦をすることになった。

ㅤ彼女曰く、「戦いを見て、格好良かった方と付き合えばいいじゃん」ということだった。深雪が聞けば怒りそうな発言だが、最終的に紗耶香は桐原を選んだ。彼は達也に負けてしまったのだが、きっと彼女の琴線の何処かには触れたのだ。

 

「幹比古もか?」

「折角だからね。戦い方とか、何か参考にさせて貰いたくて」

 

ㅤ幹比古の言葉に、他のメンバーも頷く。水波も部活を休んでまで来たのだから、気になったのだろう。深雪だけが、達也が居るから付いてきたのだ。彼女は、理澄も琢磨もどうだって良かった。

ㅤ森崎が審判らしく、注意事項などを読み上げる。それを見たエリカが、小さな声で「ホントに理澄くんと仲良いのね、アイツ」と呟いていた。達也も内心、それに同意していた。

 

「それでは、模擬戦を開始する。……3・2・1。始め!」

 

ㅤそう告げられた瞬間、理澄の姿が消える――その刹那、彼は琢磨の背後に回って蹴りを入れていた。

 

「自己加速術式……じゃないな」

「今のは擬似瞬間移動でしょう。得意だとは知りませんでしたが」

 

ㅤ理澄のそれは、亜夜子の魔法ほど完成度は高くない。それでも、琢磨の意表を突くには十分だった。

ㅤそう言っている間にも、彼はCADを操作している。すぐさま圧縮空気弾が作り出され、転がったままの琢磨に襲いかかった。咄嗟に彼は障壁を張って防御する。それなのに、琢磨の身体には痛みが走っていた。

 

「『エア・ブリット』と併用して、『幻衝(ファントム・ブロウ)』を使っているな。圧縮空気弾を防がれることは予測していた、ということか……」

「理澄は手を抜いているんでしょうね。彼の干渉力なら障壁を突き抜けられた筈ですから」

「そんなに干渉力が強いのか?」

「作用範囲は深雪よりもずっと狭いです。でも、その分干渉力は化け物じみていますからね」

 

ㅤ形成不利と見たか、琢磨は早くも「ミリオン・エッジ」を出してきた。本の半分を飛ばしてきたのだから、余程倒せる自信があったのだ。しかし――

 

「――領域干渉!?」

 

ㅤ理澄の作用フィールドに入った瞬間、硬化していた紙片は元の紙に戻っていく。

 

「司波兄、お前の言った通りだな。七宝の切り札がまるで効いていない」

「様子見をすべきでしたね。とはいえ、彼はベクトル反転術式も得意ですから、群体制御系の魔法は効果が薄いんですが」

 

ㅤ足元に溜まった紙片を一気に発火点まで温度を上げて、理澄は燃やしてしまった。一見、無駄な工程だ。そんなことをせずに、琢磨へ攻撃魔法を仕掛けても良いのだから。

 

「あれ、燃やさなくても良かったんじゃねぇの?」

 

ㅤ実際、桐原が尤もな疑問を呈していた。

 

「いや……。それは違うぞ、桐原。四葉は『ドライ・ブリザード』を使う気なんだ!」

「鋭いですね、服部先輩。アイツは紙片を燃やす前に、収束魔法で酸素を集めていましたから」

「完全燃焼させて、大気中には少ない二酸化炭素を効率よく得る為か……」

 

ㅤドライアイス弾は琢磨の足元に着弾し、気化した二酸化炭素が周辺に霧を生む。

 

「コンビネーション魔法……」

 

ㅤ霧を見た幹比古が、思わずそう呟く。勿論、服部も頷いている。

ㅤ戦闘中の琢磨も同じことを考えていた。それくらい、服部の使用するコンビネーション魔法は魔法科高校生には有名なのだ。その為、琢磨は「ミリオン・エッジ」をもう一度放った後、次の攻撃に備えて「避雷針」を発動する。以前に理澄が「スパーク」を使っていた所を見たのも、その判断に正当性を与えた。

 

「そう簡単な話でも無いと思いますが」

 

ㅤ達也だけは、そう考えていなかった。理澄は、そんな単純な作戦を立てないと分かっていたからだ。

ㅤその言葉通り、琢磨の身体に無数の紙片が取り付く。

ㅤ加重系魔法「フェザー・ラッシュ」。擬似瞬間移動で羽や紙片などの柔らかいものを飛ばし、対象に衝突する瞬間に慣性軽減を解除する魔法だ。飛翔物は柔らかさを保ったまま鞭のようにしなり、相手にダメージを与える。

ㅤ予想に入れていなかった攻撃によって、琢磨の魔法制御が崩れた。

ㅤそこへ、理澄が「スパーク」を発動。ドライアイスの霧で湿った衣服を伝って、電流が流された琢磨はそのショックで床へと倒れ込んだ。

 

「勝者、四葉理澄」

 

ㅤ琢磨が戦闘不能になったのを確認し、森崎が淡々と結果を述べる。

ㅤエリカや幹比古達が理澄の側に集まってきていた。勝利を称えているのか。もしかしたら、何か聞きたいことがあったのかもしれない。

 

「四葉の奴、なんか意外だな。司波兄とはまた違う、性格の悪さっていうか……。もっと、高等魔法を使って圧倒するタイプだと思っていたぜ」

「確かにな。擬似瞬間移動も工程こそ多いが、魔法としての難度はそこまででもない。他に使った魔法も基本のものだった。手の内を隠しているのか?」

「それもあるんでしょうが……。そもそも、理澄は裏をかくような戦略が持ち味ですから。服部先輩とは方向性は違いますが、策士ではありますよ」

 

ㅤこれをきっかけとして、理澄は今年のモノリス代表に選ばれることになった。普通は魔法戦闘を行うクラブに入っていないと、選手選考の際に外されてしまうのだが、模擬戦をした為にリストに入れられてしまったのだ。これは、彼にも想定外のことであった。

 




ㅤ作者は派閥争い大好きマン。犬神家の一族とか好きです。
ㅤ魔法科もハリポタを参考にした部分があるらしいですね。これは、オリ主側がスリザリン枠かな……。まったく深雪はグリフィンドールには思えないんですけど。お辞儀枠???



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