【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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スティープルチェース編
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ㅤ九校戦の競技が発表された日から、数日経った放課後のことだった。僕は達也に呼び出されて、生徒会室に訪れていた。部屋には達也と深雪、水波しかいない。上手く言いくるめて、他の人達は帰したのだろう。

ㅤ達也は僕が部屋に入るとすぐ、用件を話し始めた。

 

「九校戦の件なんだが……」

「新競技のこと? スティープルチェース・クロスカントリーだよね?」

「その競技、どこか異質な気がしないか? 最終日まで選手の士気を落とさないという理由以外にも、何か企みがある気がする」

「するね。どうも、亜夜子ちゃんが調べてるみたいだよ」

 

ㅤ亜夜子、と聞いた途端に深雪の身体が少し揺らいだ。ライバル感情を抱いているからだろう。

 

「亜夜子も調べているのか……。いや、実は昨日、差出人不明のメールが届いてな」

「差出人不明って……。そんなこと出来るの?」

「このメールだ。ちょっと見てくれ」

 

ㅤ達也に端末を押し付けられる。文面を読むと、「九島家は新兵器のデータ収集に九校戦を使おうとしている」といった内容が書かれていた。亜夜子の調べた通りだ。

 

「急な捻じ込みの理由はこれか……」

「俺は週末に師匠と旧第九研に赴いてみようと思う。理澄はどうする?」

「良くも悪くも九島への脅しになっちゃいそうだな……。事態がどう転ぶか分からないし、今回は遠慮するよ」

 

ㅤ九島烈が今更四葉くらいでビビるとも思えないが、慎重に動いた方が良い。

 

「それなら、頼まれて欲しいことがあるんだが」

「内容によるね」

「国防軍に情報を流してくれないか」

「自前のルートがあるでしょ。それじゃダメなの?」

「上層部から直接、一〇一旅団に話が回るようにして欲しいんだ」

 

ㅤ僕は今回の策略がどういったストーリーを辿るかを知っている。だからこそ、自分から渦中に飛び込むのはやめて欲しかった。

 

「僕はおすすめしないね。やめておいた方が良いと思うよ」

「何故、そんなことを言うのかしら?」

 

ㅤ深雪が僕に鋭く問いかける。

 

「任務にしてしまえば、動きやすいのは確かだ。でも、他人の事まで責任を背負い込む必要は無いだろ。深雪だけを守れるように動けばいいんだから」

 

ㅤこのまま放っておけば、達也は介入してしまうだろう。ちょっと調べるくらいならいいが、変に暴れられたら全て台無しだ。

 

「それでは、貴方はお兄様に非情な選択をさせるというの?」

「非情って言われても……。悪いのは九島なのに、達也を巻き込む方が可哀想だよ」

「深雪。俺は大丈夫だ。俺はお前だけが居ればいいし、お前だけを守れればいい。それ以外の選択肢は無くったっていいんだ」

「お兄様……!」

 

ㅤ僕の前で固く抱きしめ合う二人。白けた顔にならないように、顔面の筋肉を引き締めねばならなかった。ふと見ると、水波も瞬きで目を瞑る時間が異様に長い。あまり直視したくないのだろう。

 

「水波ちゃん。困ったことがあったら、いつでも言っていいからね」

「いえ……。良くして頂いていますから……」

 

ㅤ僕は思わず、彼女にそう小声で言ってしまった。きっと、大変な思いをしている筈だ。二人だけの世界に入ってしまった達也と深雪から、気を紛らわす為に少し話すことにする。

 

「九校戦、何の競技に出るの?」

「クラウド・ボール新人戦です。あまり目立つのは良くないと分かってはいるのですが……」

「大丈夫。優勝しても、全部エンジニアの仕業になるから」

「そうでしょうか……?」

 

ㅤ去年、達也が担当した選手は他の学校の選手には誰も負けていない。負けてしまったら、逆に深雪の機嫌が悪くなってしまう。水波が安心してこれからを過ごすには、優勝した方が絶対に良い。

 

「そうだ、理澄。お前のエンジニアは五十里先輩が続投ということになったが、それで良かったか?」

 

ㅤ深雪を抱きしめたまま、達也が僕に問う。恥ずかしさとか、そういうものは無いのだろうか。僕はそこが非常に気になるが、その疑問は頭から追いやった。

 

「うん。タイムスケジュールを考えるとそうだろうね」

「モノリス本戦は空いているんだが、そこだけ俺が調整するのもおかしいからな。五十里先輩も上手いから、理澄なら問題無いだろう」

 

ㅤ今年は早撃ちとモノリスに出場することになっていた。早撃ちは女子と時間が被るし、モノリスは予選がミラージと被るのだ。別に僕は誰がやっても構わなかったので、達也への拘りは全く無い。強いて言えば、調整時間が速いことくらいだろうか。

 

「本人が言ってたけど、幹比古は担当するんでしょ? 大丈夫なの?」

「どうしても、と頼み込まれてな。何とかするさ」

 

ㅤ僕はモノリスで幹比古とチームメイトだった。もう一人は服部会頭だ。原作ではチーム入りしていた三七上先輩は、僕の入ったせいで出場出来なかった。何だか、申し訳ない気もする。この罪悪感を払拭する為には、優勝するしか無いだろう。

 

 

 

 

 

 

ㅤ裏で動いている人々の企みを余所に、九校戦は華々しくスタートした。懇親会が始まってすぐに沢木先輩に話しかけられ、僕はそこに居ることにした。先輩達は、部活や委員会などの後輩を殆ど呼び出していた。僕と森崎は去年風紀委員だから、という理由だ。「パーティーをチャラチャラした出会いの場にはさせん!」という先輩の硬派な意思が感じられる。

 

「去年は三高の一条にビビらなくも無かったが、今年は四葉が居るからな! 去年言ってくれたら良かったのに」

 

ㅤ沢木先輩が強引に僕と肩を組む。勢いがあって、結構痛かった。

 

「言っちゃったら意味ないでしょう。僕が怒られます」

「良いんだよ。だが、モノリスで一条を倒すのを期待してるぞ!」

「沢木先輩の仰る通りだぞ! 絶対、俺の仇取れよ! 一条を倒せ!」

 

ㅤ森崎も僕に言う。彼はスピード・シューティングには出場するので、吉祥寺には雪辱の機会がある。だが、モノリスは代表落ちしたので、一条とは戦えないのだった。

 

「任された。まぁ、僕だけじゃないし。服部先輩と幹比古も居るから。安心して戦える気がする」

「そうだね。服部先輩、よろしくお願いします」

「あぁ、絶対優勝するぞ。そうじゃなきゃ、歴代の先輩方に顔向け出来ん」

「勝つぞ! 優勝は俺たち一高のものだ!」

「誰にもやらねぇぞ!」

 

ㅤ男しか居ないからか、話が段々とヒートアップしていく。ソフトドリンクしか飲んでいないので、酔いはしない筈だ。それなのに、三年と二年の男子生徒の殆どは円陣を組み出し、訳の分からない雄叫びを上げまくる。所謂、シュプレヒコールというやつだ。テンションが上がった僕も参加していた。

ㅤ周りの女子や、他校の生徒はその様子にドン引いていたらしい。そのことを、後で達也から聞いた。彼だけは女子に囲まれていたのだ。

 

「四葉、ちょっといいか」

 

ㅤシュプレヒコールがようやく落ち着いてきた時、僕に話しかけてきたのは一条と吉祥寺だった。僕は一高生の輪から離れ、彼らに近づいていく。

 

「何、宣戦布告? それなら受けて立つよ」

「それもあります。去年、同じ『インビジブル・ブリット』を使ってきた選手。まさか、あの『四葉』だとは思いませんでした。今回は、負けません」

「いや、今回も僕が勝つさ。……あぁ、今年はモノリスにも出るよ。一条、君と戦うのが楽しみだ」

 

ㅤ悪役ムーブの返しをしておく。折角だから、彼らが持ってそうな「四葉」のパブリックイメージを大事にしたかったのだ。

 

「俺とジョージが組めば無敵だ。お前一人に負けることは無い」

「僕以外のチームメンバーを甘く見ないことだね。『四葉』だけを意識していたら、足元を掬われるよ」

「そうですか。御忠告、感謝します。――ところで、貴方も気になりませんか? 新競技のこと」

 

ㅤ吉祥寺が先程より声を潜める。こんな時に大声で話す話でも無いからだろう。

 

「スティープルチェース・クロスカントリー。追加の理由付けはともかく、何処か異質な気がする。そもそも、フィールドの殆どが見学出来ないようになっているというのは妙だ。まるで、競技を見せる気が無いみたいじゃないか?」

「その言い方だと、何かが隠されている……ってこと?」

「そう取って貰って構わない。四葉、お前は何か知らないか?」

 

ㅤ十師族が何の違和感も抱いていないのは変だ。だから、情報を出しておくことにした。

 

「知ってるよ。国防軍が圧力を掛けたらしい。そして、圧力を掛けるよう軍に指示したのは『老師』だ」

「ろっ、老師!? 嘘だろ、そんな……」

「今日の開会式に老師は来ない。賭けてもいいよ」

「……将輝。このこと、剛毅さんに調べて貰えるようお願いしたら? 四葉君の話が本当なら問題だ。早く調査した方がいい」

 

ㅤ一条も証人になって貰えれば、九島の行動が正当なもので無いことを立証出来る。他の十師族の目の存在は四葉側にとっても重要だった。

 

「ジョージの言う通りかもしれんな……。四葉、情報提供に感謝する」

「必要なことだから。――じゃあ、次は試合で会おう」

「分かった。必ず、決勝に進んでこいよ」

「そっちこそね。吉祥寺も」

「えぇ、勿論です」

 

ㅤ最後は二人と固い握手をして別れた。きな臭い会話をしていた割には、青春感が溢れていたのではないか。

 

 

 

 

 

 

ㅤ残念なことに、一日目のスピード・シューティングは下馬評通りには進まなかった。

ㅤ吉祥寺と理澄は準決勝で衝突してしまったのだ。去年を鑑みて、大会委員会が分け方を変えたのかもしれない。

ㅤ準決勝で勝ったのは理澄。一年前からの伸び代がどちらにも有った為に、差が埋まらなかったのである。とはいえ、今回はどちらもパーフェクト。やはり、今回もスピードのみが勝敗を分けたのだ。

 

「四葉くん、それに森崎くん。決勝進出おめでとうございます!」

 

ㅤ理澄と森崎が一高のテントに戻ると、生徒会長であるあずさが嬉しそうに手を振っていた。珍しく、達也が関与していない競技での快挙。その為に彼女は浮かれており、「四葉」への恐怖感も薄れているようだ。

 

「ありがとうございます」

「それで、どうします? ウチだけなので、どちらも棄権という形でも構いませんが――」

「――戦わせて下さい。四葉と」

 

ㅤ森崎は、あずさの言葉を遮った。

ㅤそう言った後、彼は理澄の方に身体を向ける。

 

「前に言ったよな、俺はお前に勝つと。今がその時だ」

 

ㅤ理澄は一度目を見開いたが、すぐに不敵な笑みに変える。

 

「いいよ。全力で叩き潰してやるよ」

「大口叩けるのも、今のうちだぞ。数字付き(ナンバーズ)に膝を突かせる。それだけを考えて、俺は生きてきた」

 

ㅤ森崎は理澄のことを友人兼ライバルだとは思っている。しかし、彼が実力を隠していた過去を忘れていなかったし、そのことについてはまだ蟠りがあった。

 

「……楽しみ。実力の差を見せてあげるから」

 

ㅤ二人の間に火花が散っているように感じ、あずさはつい泣きそうになってしまう。やっぱり四葉は怖い、と彼女は思った。だが、他のスタッフは女子早撃ちなどに出払っていて、ここには自分しか残っていない。その責任感から、必死に己を奮い立たせる。

 

「えっと、二人とも出場ということで良いんですね……? 分かりました、それでは大会委員の方に報告してきますから!」

 

ㅤあずさは逃げるようにテントを去った。彼女にしては、かなり耐えた方だろう。

 

 

 

 

ㅤ数十分のインターバルを経て、男子スピード・シューティングの決勝戦が開始された。

ㅤ一般客用の観客席には、リーナと菜子が並んで座っていた。リーナが九校戦に出場する理澄を観たがっていたので、菜子も世話係として着いて行くことが出来たのである。

 

「決勝が始まったわね。楽しみだわ」

「一高が一位と二位を独占したのに、理澄様は決勝戦に出られるんですね」

「じゃあ、リズムと戦うのは同じ学校の人ってこと?」

「そうなりますね。何か理由があったのでしょうか……」

 

ㅤその時、横から彼女達に話し掛ける人物がいた。

 

「ここ、よろしいかしら?」

「亜夜子様に、文弥様……!」

 

ㅤ菜子が慌てて席を立つ。それもそのはずで、現れたのは黒羽家の長女、黒羽亜夜子。その後ろには弟の文弥も居た。

 

「楽になさって。私達も理澄さんを応援しに来ただけですの。失礼しますわね」

「リーナさんもこんにちは。お久しぶりですね」

「フミヤ、アヤコ。久しぶりね」

 

ㅤ黒羽の双子達には、リーナも面識があった。非合法な仕事は黒羽が請け負う率が高い。その為、彼女も任務に混ざることが多かったのだ。

ㅤリーナの隣に二人は座る。菜子の隣に座らなかったのは、彼女が緊張してしまわないよう気を遣ったのだ。

 

「理澄さんの対戦相手は、森崎駿。百家傍流の家で、ボディガード業でそこそこ有名ね。同じクラスで、ご友人らしいわよ」

 

ㅤ何処から調べてきたのか、森崎のデータを話す亜夜子。

 

「へぇ……。普通の友達居るんだね」

「貴方ね、理澄さんに失礼よ」

「でも、フミヤの言うことも分かるわ。リズム、他人に無関心じゃない。来る者拒まず、去る者追わずっていうか」

 

ㅤ勝手なことを言われているとも知らず、シュートレンジで理澄が特化型CADを構えている。縦型のライトが、下から順に点いていく。全てが光った瞬間、クレーが飛び出して行った。そして、それは瞬時に割れる。

 

「早いなぁ。『インビシブル・ブリット』は理澄兄さんの得意魔法だから、当たり前か」

「去年に使い始めた筈なのに、使い熟してるわよね」

「覚えてるわ。ワタシ、あの魔法で拳銃壊されたのよ」

 

ㅤしかし、十個程壊したところで、異変が起きた。理澄がクレーを一つ、得点有効エリア外に逃してしまったのだ。

 

「リズムがクレーを視認し辛くするような場所に、自分のクレーを移動させてる……?」

「相手は単一加速でクレー同士を破壊する、単純な戦法。だから、少し余裕があるんだろうね。それでも、魔法の構築速度が今までの兄さんの対戦相手よりも速いからこその芸当だ」

 

ㅤ森崎の妨害を受けて、理澄は領域干渉を少し広げる。それによって、森崎のクレーは衝突しないまま、エリア外に出た。

 

「でも、あまり気を取られていたら自分のクレーを見落としてしまうわよね……。早く撃たなくちゃいけないんだから」

「もうパーフェクトじゃないし、自殺点を考慮に入れて勝負する気なんじゃないかな」

「今まで無失点だったことを考えたら、相手は奮闘している方ね……」

 

ㅤどちらも時折外してはいるが、着実にクレーを破壊している。そして、制限時間の五分が経過し、終了のブザーが鳴った。

 

「何とか、リズムが勝ったわね……」

「92対88……。結構落としてるね。やっぱり、『インビシブル・ブリット』は視認しなくちゃいけない点が、大きなデメリットなのか……」

「そうよね。去年みたいに知覚系魔法を持ってる選手が居ないから、何とかなっている部分もあると思うわ」

 

ㅤ下のフィールドでは、理澄と森崎の二人が何か話している。互いの健闘を称え合っているのかもしれなかった。

 




ㅤ一条とモノリス・コードをさせたいばかりに、無理にスティープルチェースだけを押し込んだ。結果的に、森崎と戦えて良かったのかもしれない。
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