【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ二人は竹刀の剣先を向け合ったまま、言い争っている。内容はと言えば、剣道部員に暴力を振るったとか、振るっていないとかそのようなことだ。男子生徒にしてみれば――原作通り、剣術部の桐原武明だ――ふざけ半分のようで、壬生先輩の抗議も聞き入れるつもりは無さそうだ。

ㅤ口論を眺めながら、楽しそうな口ぶりでエリカが呟く。

 

「面白くなってきたわね。さっきの茶番より、ずっと面白そうな対戦だわ、こりゃ」

「あの二人を知っているのか?」

 

ㅤ達也とエリカが当事者達の噂をするのを尻目に、僕は胸ポケットに入れていたビデオレコーダーのスイッチを入れる。これからの成り行きを考えれば妥当だし、せっかくなので使わないと勿体ない。

 

「そろそろ始まりそうね」

 

ㅤエリカの予想通り、彼らは言葉での争いで終わらず、実力行使に出た。

ㅤ魔法を使わず、剣のみの戦い。これはやはり、壬生先輩に分がある。桐原先輩も剣技が下手な訳ではないのだが、顔を狙うのは極力避けてるようで、動きが制限されている。これでは、勝つのは難しいだろう。

ㅤすぐに勝負はついた。壬生先輩が勝利を宣言する。

 

「……真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」

 

ㅤしかし、彼は負けを認めようとはしなかった。笑い声を上げて、こう言い放つ。

 

「真剣なら? 俺の身体は、斬れてないぜ? 壬生、お前、真剣勝負が望みか? だったら……お望み通り、『真剣』で相手をしてやるよ!」

 

ㅤそう言うやいなや、桐原先輩は右手で自分の左手首を押さえる。手首に巻いているCADを操作したのだ。

ㅤけれども、魔法は発動しなかった。

 

「なっ……!」

 

ㅤ答えは簡単。僕が領域干渉をしているからである。

ㅤ魔法の作用する領域こそ、僕は四葉内では狭い部類に入るが、一定範囲での干渉力でなら深雪をも上回る。「高周波ブレード」のような刀身だけに干渉力が集中する魔法でも止められるのだ。

 

「CADを外して床に置いてください。デモンストレーション目的ではない魔法使用は違反ですよ」

 

ㅤ桐原先輩の前に進み出て勧告する。本人は納得できないのか、怖い顔で睨みつけてくる。

 

「おい! それなら壬生も同罪だろ! 何で桐原だけなんだよ!」

 

ㅤ僕の介入により一瞬静かになったギャラリー達も我に返ったのか、外から野次を飛ばしてきた。外野が好き勝手言いやがって、と少し思ったが、返事は返してやることにした。

 

「そうですね。魔法を使ってないとはいえ、挑発に乗って喧嘩を買っていますし。壬生先輩、貴女にも後で事情を聞かせてください」

 

ㅤそう言い終えてから、本部に連絡を入れる。じきに応援も来るだろう。そして、踵を返そうとしている背中に声を投げかける。

 

「お前も風紀委員だろ。勝手に帰るなよ」

 

 

 

 

 

 

ㅤ部活連本部。そこで僕は事件の顛末を話していた。達也はと言えば、便乗して違反行為に走る生徒がいないか確認していたので見逃した、という滅茶苦茶な言い訳で帰っていった。要は面倒なので、僕に押し付けたのである。こんな言い分を信じる渡辺先輩も渡辺先輩だ。

ㅤ生徒会長に風紀委員長、それに部活連会頭。今目の前にいるのは、錚々たる顔ぶれだ。しかし、僕が怒られている訳ではないので、淡々と報告をする。

 

「それで、桐原はどうと?」

「最初こそ反抗されましたが、最終的には非を認めておられました」

「ふむ……いいだろう。訴追は、摘発した者の判断に委ねられているのだからな。聞いての通りだ、十文字。風紀委員会としては、今回の事件を懲罰委員会に訴追するつもりはない」

「寛大な決定に感謝する。高周波ブレードなどという殺傷性の高い魔法をあんな場で使おうとしたのだ。怪我人が出ずとも、本来ならば停学処分もやむを得ないところ。それは本人も分かっているだろう。今回のことを教訓とするよう、よく言い聞かせておく」

「頼んだぞ」

 

ㅤ話が流れるように進む。組織間の擦り合わせというより、形式的なもののようだ。大体の問題はこうして内々で処理しているのだろう。

ㅤ退室の許可を得たので、僕は帰ることにした。

ㅤしかし、そのまま家には帰らない。学校を出てから、付かず離れずの距離で居る護衛を呼び寄せる。

 

「どうされました? 理澄様」

「反魔法組織『ブランシュ』のアジトをすぐに探し出せ。あと、駅前に車を回すよう連絡しろ」

「えっ? その……。一体何事なんです?」

「いいから黙って早くやれ」

「はっ、はいっ!」

 

ㅤ直属の部下ではないので、反応が鈍いのは仕方ない。慌てて仕事に取り掛かる護衛を放置して、僕は駅へと向かった。

ㅤ第一高校前駅にはショッピングモール並みとは言わないまでも、かなり多くの店が併設している。勿論、飲食店もいくつか存在する。

ㅤ僕は喫茶店に入り、端末を広げて宿題をしながら待つ。しばらくすると、車が到着したというメッセージが届いた。あの護衛は仕事をきちんとこなしてくれたようだ。

 

ㅤ駅前に停められた黒いワゴン車。助手席のドアを開けて乗り込む。運転席には少し呆れ顔の部下が座っていた。

ㅤ彼は僕の直属部隊に所属していて、名瀬北斗という。精神干渉系魔法の適性が高く、認識阻害の魔法が得意だ。元々、僕のガーディアン有力候補として育成されており、高校入学までは一緒に過ごしていた。結局、ガーディアンになることは無かったものの、彼は一番信を置いている部下である。

 

「理澄様。ブランシュを叩き潰すおつもりですか?」

「悪い?」

「いえ、そうではなく。あまりにも急なのでどうされたのかと」

 

ㅤ現時点では、ブランシュは脅威でも何でもない。筋の通らない主義主張をして騒いでる変な団体止まりだ。僕だけが、彼らが第一高校を襲撃するテロリストとなることを知っている。彼の疑問も無理ないことだった。

 

「どうもアイツらが学校に食い込んできてるらしくてね。面倒ごとが起こる前に片付けてしまおうと思って」

「分かりました。現地に数名待機させてますし、すぐ向かいましょう」

「話が早くて助かるよ」

 

ㅤ一時間もかからないうちに、ブランシュのアジトである廃工場へ到着した。門の前に降り立つと、近くで気配を殺して待っていた部下達が現れる。

 

「北斗、お前だけ付いて来て。他は逃げられたりしないように周りを警戒しておいてくれ」

 

ㅤそう命令すると、再び彼らの気配が消える。感覚では捉えられないが、工場の周りに散らばっていっているはずだ。

 

「さて、行こうか」

 

ㅤCADを操作する。呼び出す起動式は「跳躍」。自分の慣性を小さくすることで数メートル上空へ飛び上がり、閉ざされた門扉の向こうへと降り立った。

ㅤ工場内は薄暗く、埃っぽい。アジトというのだから、もう少しくらい居住性を高めたほうが良いのではないか。そんなくだらないことを考えながら歩く。

 

「君は第一高校の生徒だね? 一科生みたいだけど、こんなところに何の用だい?」

 

ㅤ元は工場の生産ラインが引いてあったのであろう広い空間に、二十人程の人間が待ち構えていた。屈強な男達が多い中、一人だけヒョロリとした学者然とした男がいた。彼がブランシュのリーダー、司一だ。彼は芝居掛かった口調と共に、両手を大きく広げた。

 

「名声欲しさにヒーローごっこでもしにきたのかな? 魔法は万能じゃない。銃に撃たれたりでもしたら死んでしまうのだよ」

「ご親切にどうも。テロリストに撃たれて死ぬようなやわな鍛え方はしてないけどね」

 

ㅤ挑発として、手にしていた端末型CADをこれ見よがしに振ってやる。そうすると、彼の顔は面白いくらいに歪んだ。

 

「それなら身を以て教えてやろう! 死という高い授業料を払ってもらうがね!」

 

ㅤ司一が右手を上げて、構成員達へ合図をする。すると、彼らは武器を構えた。それなりには訓練されているようだ。

ㅤ魔法を使用するのと同時に、銃弾が一斉に僕に向けて撃ち込まれる。

ㅤしかし、一発も僕には当たらない。

ㅤ加速・移動・加重の複合術式「ディレクション・リバース」によって、銃弾が逆向きに戻っていったのだ。慣性を大きくして、スピードも速くしているので、元より威力を増して戻っていく。

ㅤ四葉の戦闘訓練で対魔法師用のハイパワーライフル相手に使っていた魔法だ。チャチな銃火器相手に負けることは無い。

ㅤ効果を確認せずに、もう一度CADに指を走らせる。銃を無力化したのでは無いからだ。

ㅤ単一の加重術式をブランシュの面々が立つ地面に向けて構築。正の向きに大きなGを急にかけられた彼らは、脳に血液が供給できなくなり、意識を失った。

 

「あっけなかったな」

「これなら私は居なくても良かったのでは?」

「馬鹿いえ。認識阻害の術式を掛けてたくせに。そうじゃなかったら、今頃大騒ぎになってるぞ」

 

ㅤ原作で達也があれだけ暴れても噂程度に済んでいたのは、十文字の力が大きい。

ㅤ僕も家に手を回せば黙らせられるが、せっかくこっそりしているのに「ウチがやったから」と名乗り出ては意味がない。だからこそ、北斗を一緒に連れて来たのだ。そうでなければ、一人でここに来ていた。

 

「コイツらは拘束して、本家に持って行かせて」

「かしこまりました」

 

ㅤ四葉本家では洗脳した使い捨ての魔法師集団を組織している。普段はそんなもの必要ないのだが、数が必要な時に備えて用意しているのだ。せっかくなので、彼らもその中に入れてやろう。そこまで強い魔法師ではないが、使えないことはないはずだ。

ㅤこんなことになるのも、舐めプなんかするからである。大方、銃に囲まれて僕が怖気付いたところで、洗脳する算段だったのだろう。もし、アンティナイトを最初から使おうとしていたら、「ワルキューレ」で皆殺しにするしかなかった。満足に魔法を使えなくなる状況で、加減してやる程に僕は甘くない。

 

 

 

 

 

 

ㅤ現場の後始末を終えて、僕はようやく家へと戻った。とても空腹だったが、食事を食べる前にやらなければならないことがあった。

ㅤ四葉への秘匿回線を開けて、動画電話を繋ぐ。ロードするまでの数秒間、無意識に唾を飲み込む。「あの人」と話す時はいつも怖い。

 

「久しぶりね、理澄さん」

「お久しぶりです。急にお時間を取らせて頂いてしまい、申し訳ありません」

 

ㅤただでさえ意識して伸ばしているはずの背筋が、更に伸びようとする。画面越しに向かい合っている相手を考えれば、それは無理ないことだった。

ㅤ四葉家当主、四葉真夜。

ㅤ見た目だけなら、黒いドレスに身を包んだ妙齢の美女だ。しかし、僕は彼女を前にして、少しも油断することはなかった。

 

ㅤ転生者というアドバンテージも、強力な精神干渉魔法を持っていることも、この世界で安心して生きていけるという確信には繋がらなかった。

ㅤ達也や深雪のことだって、本当は怖くない訳がないのだ。

ㅤ生きていた痕跡を何も残すことが出来ないで、この世から消滅させられてしまうかもしれない。

ㅤ精神を止められてしまうかもしれない。

ㅤけれども、彼らは理由もなく人を殺すことはしない。彼らが人を殺す時はいつだって、自分達の為だ。だから、信頼できる。

ㅤだが、この人は――四葉真夜は違う。

ㅤ正常な人間ではない。端的にいえば、狂っている。実際に会えばよく分かる。設定だけでは分からない、十二歳で時間が止まってしまった彼女の闇が。

ㅤ誰にも助けることができない。当たり前だ。「過去の事は忘れて前に進もう」だなんて言えるものか。そんなもの、何も知らない馬鹿しか言えない台詞だ。

ㅤ四葉一族は復讐に走るという選択で、彼女の心を救おうとした。しかし、それでも足りなかった。現に彼女は、今でも世界が灼き尽くされて焦土と化す幻想を夢見ている。

 

「ふふふ、畏まらなくていいのよ。分家の子供達はみんな私の子供のようなものなのだから」

「はい、ありがとうございます」

 

ㅤ礼の言葉と共に、軽く頭を下げる。リップサービスを額面通りに受け取れる程、僕と御当主様の距離は近くない。

 

「そういえば……。反魔法組織『ブランシュ』を壊滅させたそうだけど。私、そんな命令を出したかしら」

 

ㅤわざとらしく首を傾げて、御当主様は僕に言った。

ㅤ僕は貼り付けた笑みで動揺を隠し、帰りの車で何度も反復した言い訳を話す。いつまでも、怖い怖いと言っていられないからだ。

 

「今回の件は緊急性があると判断し、独断で行いました。事後報告になったことをお許しください」

「緊急? あんなお遊びみたいな集団にリソースを割く必要があったの?」

「彼らの手は第一高校へと伸びていて、いつ襲撃があってもおかしくありませんでした。そうなれば、達也は動くでしょう。既に彼の異常性に七草などは気付き始めています。その前に片付ける必要はあったかと」

「深雪さんの兄だからという訳ではないの?」

「そうでないのは、御当主様。貴女が一番ご存知の筈です」

 

ㅤ御当主様の目がすっと細められる。僕は慌てて取り繕うでも無く、黙ったままでいた。

 

「……まぁ、いいでしょう。手土産も貰ったことですし。ブランシュ自体には価値がありませんが、バックアップしている黒幕がいるでしょうしね」

 

ㅤ多分、本気で僕の行動を咎めるつもりは無かった筈だ。ブランシュを潰した件は、得も無いが損も無い。

 

「寛大な御処置、感謝致します」

「いいのよ。……ところで理澄さん。高校生になってから一人暮らしをしているけれど、困ったことは無い?」

「ご心配には及びません。HARのおかげで家事には困りませんから」

 

ㅤ急な話題転換に対して、脳内で警鐘が鳴る。何か分からないが、嫌な予感がする。

 

「そうは言っても、実家と違って細かいところは行き渡らないでしょうから、何かと不便でしょう。それで、貴方にお願いがあるの」

「お願い、ですか……?」

「ええ。貴方の下でメイドとして使って欲しい子がいるの。『桜シリーズ』なのだけど、少し魔法が特殊で。ガーディアン向きとは言えないのよ」

 

ㅤ調整体魔法師「桜シリーズ」は日本政府主導で開発された調整体である。ノウハウを政府から譲り受け、現在は四葉家が開発を続けている。強固な対物耐熱障壁を生成する能力を強化されているのが特徴だ。

ㅤしかし、遺伝子操作は毎回上手くいくとは限らない。当たり前だが、失敗作も生まれる。勿論、生まれてきた者に罪は無い。上手く使い方を考えるのは雇い主だ。僕につけることで、生きる術を与えられるなら拒むことは出来ない――何か別の企みがあったとしても。

 

「貴方のお母様も慣れない一人暮らしを心配していたのよ。メイドを付けたら少しは安心するんじゃないかしら」

 

ㅤ母の話を出すということは、根回し済みなのだろう。お願いと言う形を取っていても、これはもう決定事項だ。尚更、断れない。

ㅤ向こうも分かっているようで、画面に映る人物が急に替わる。御当主様御付きの執事である葉山さんだ。彼は四葉の使用人達を統括する執事長である。代表してメイドのこれからのことを頼むのは当然といえた。

 

 

 

ㅤ通信を終えて、僕はやっと一息ついた。

ㅤ今回僕がやったことは、原作ブレイクに他ならない。しかし、今生きる世界は原作の内容だけで成り立っているのではない。

ㅤ沖縄戦も起こったし、入学後のイベントも概ね見覚えのあるものだった。でも、それは一部分であり、描写されていない出来事の方が沢山起こる。

ㅤこれは密かな決意表明なのだ。「魔法科高校の劣等生」という物語から脱却する、という決意表明。僕は僕自身で物語を紡いでいかなければならない。「武倉理澄」を主人公とする、新しいストーリーを。

 

ㅤそろそろ食事にしようかと、調理機の置いているキッチンへと向かおうとした。その時、来客を知らせるチャイムが鳴った。こんな時間に一体誰なのか。住んでいる場所はマンションなので、妙な客人は入り口で弾かれるはずなのだが。

ㅤ訝しみながらも、モニターを確認する。どうも、女性のようだった。

 

「えっと、どちら様?」

「これから理澄様の下で、お世話になる予定のメイドです」

 

ㅤ随分とタイミングが良い。ずっとここで待機していたのだろうか。

ㅤ一応襲撃に警戒し、ベクトル反転の魔法式を演算領域に待機させてから、ドアを開ける。

ㅤそこには、黒い襟付きのワンピースを着た少女が立っていた。髪をツインテールにしており、幼い印象を受ける。中学生なのか高校生なのかは判断が付かない。

 

「桜宮菜子と申します。よろしくお願い致しますね。理澄様」

 

ㅤ彼女は本家で仕込まれたのであろう、丁寧な一礼をしてから、にっこりと笑った。




ㅤオリキャラを出してしまった。3話でこんなん出すのはぶっちゃけ大博打だった。
ㅤ四葉っぽい仕事をする時に、登場人物をボカして書くのは難しかったので……。黒羽だったら、黒川白羽っていう使用人キャラが原作に居るんですけどね。武倉は原作では名前しか出てこないから、捏造に捏造を重ねています。
ㅤ学校内の方では原作キャラとの絡みを書きたいです。
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