【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ師族会議編スタート。まだ何とかランキングに残っていて、嬉しかったです。


師族会議編
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ㅤ新学期になってすぐ、僕はクラスメイトに詰め寄られる羽目になった。勿論、深雪と達也のことだ。四葉の一族である僕は、当然彼らの素性について知っていたのだから。

ㅤとはいえ、僕の派閥の人間は一応四葉に慣れている。気の毒なのは司波派の面子だろう。四葉から逃れたと思ったら、深雪の方も四葉だった訳だ。もはや、ホラーである。怖くて仕方ないに違いない。

 

「当主になるんじゃなかったんだな。九島に行くっていうのも意外だ。四葉姓だったのに」

「僕よりも深雪の方が、御当主様と血が近いんだよ。深雪は深夜様の娘だからね」

 

ㅤクラスメイトの追求から逃れる為に、僕は射撃部の部室で森崎と昼食を食べていた。彼をパシリにしてサンドイッチを買わせてくる代わりに、事情を少しばかり話してあげることにしたのだ。

 

「司波さんの母親は、『忘却の川の支配者(レテ・ミストレス)』だったのか!?」

「うん、そうなんだよ。逆に、僕は遠縁。まぁ、血の濃さは次期当主の決定に、そこまで影響する訳じゃないんだけど。現に、僕は筆頭候補だった」

「家の派閥争いが、校内にまでも波紋を広げていたということか……。それにしても、お前が負けるとは。殆ど負け無しだったのに」

「殴り合いで勝つのと、政治力で勝つのは違うということだね。――森崎は親友だから、もう一個教えてあげる。今回の次期当主決定の、キーパーソンは達也だ」

 

ㅤ僕の言葉に、森崎は苦虫を噛み潰したような顔をした。その話には、触れないようにしていたのだろう。

 

「アイツ……。本当は現当主の息子だったんだよな……」

「僕も知らなかったんだけどね。一応深雪の兄だったけど、一族扱いされてなかったし。御当主様は、彼の為に深雪を当主に立てた訳だ。流石に達也を当主には出来ないから、結婚という形で似たような立場に置いたんだろう」

 

ㅤ嘘と真実を混ぜて、彼に伝える。僕は原作知識を踏まえているし、全ての事情を知っている。しかし、普通ならこれくらいの認識しか出来ない筈だ。

 

「へぇ……。お前ん家も大変なんだな」

「けど、九島に行ってしまったら、とりあえず関係ないから。こればかりは、ラッキーだったかもね」

「俺は百家傍流で良かったのかもな……。地位にはそれ相応の責任が付いて回る、ということが良く分かる」

「別に、ボディガード業も大変だとは思うけど……」

 

ㅤ食事を終えて戻ってきても、教室にはまだ結構な人数が残っていた。彼らは僕の顔を見て、口を開こうとする。それを手で制し、「森崎から聞きな」と僕は言った。

ㅤクラスメイトに揉みくちゃにされる森崎に親指を立て、僕は教室を去った。もう、今日は早退しようと思ったからだ。記者にマイクを向けられた時に、「事務所を通してくれ」と言う芸能人の気持ちが分かった気がする。

 

ㅤだが、校門を出て車に向かおうとしたところで、異変が起きた。何らかの術の気配がしたのだ。つまり、古式魔法によるものということ。領域干渉を広げると、ひらりと紙が落ちてきた。恐らく、式神の媒体だ。拾うのが怖かったので、とりあえず燃やしておく。

 

「校門で見張っていたのか……」

 

ㅤ十中八九、伝統派の仕業。きっと襲撃も増えてくる筈だ。これからのことを考え、思わずため息を零した。

 

「さっき、そこで式神を見つけたよ。気持ち悪いから、処分したけど」

「おや、向こうの動きも早かったですね」

 

ㅤ車に乗り込み、先程のことを話す。北斗は運転をしながらも、言葉を返してくる。

 

「しばらくは襲撃をあしらう感じになるかな。二月になったら、こっちも動こう。幹比古に声を掛けるのは、その後で良い」

「随分と悠長ですね」

「作戦というのはね、普通は長期戦なんだよ。この前がバタバタし過ぎていただけで。叔父様もギリギリに話を持ってきたものだから……」

 

ㅤ本当なら、もう少し前から準備をしておくべきだろう。結婚式の準備でも、平均8、9ヶ月と聞く。通行の妨害以外にも、もっと他にやるべきことはあった筈だ。郵便システムに介入して、御当主様の手紙を抜き取るとか。

ㅤそもそも、事前の警告なんてものは不要だった。達也の警戒レベルを上げてどうするのだ、という話である。特に何もしないように見せかけ、彼らを31日に本家に行かせるべきだった。そして、もっと人が沢山いる場所で襲撃を行う。先に他の場所でも騒動を起こしておいて、魔法師の警察官は全員応援に行かせた状態にすることも必要だ。達也達の事情聴取には、非魔法師で魔法師嫌いの刑事を当てねばならない。その方が、長引かせることが出来るからだ。

 

「そういえば、26日でしたよね? 黒羽様がいらっしゃったのは」

「遅過ぎるよ。一ヶ月前から僕に話を回していたとしたら、勝率は10%くらいになったんじゃない。あれじゃあ、1%でもあったら良い方」

 

ㅤ原作なら0.00001%だった。SSR排出率を操作していると噂されているガチャでも、もう少しマシだろう。

ㅤ石橋を叩き過ぎなくらいに叩かないと、「お兄様」とは渡り合えない。そのことは、いつだって肝に銘じなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

ㅤ伝統派との小競り合いを続け、ようやく二月に入った。つまり、師族会議の季節。しかも、四年に一度の十師族選定会議だ。

ㅤそして、僕の仕事は九島真言の会議出席を妨害すること。その代わりに、老師に会議へ代理出席をさせる訳だ。慶春会の時と同じようなことをしているが、作戦立案にはかなり時間を掛けた。

 

「光宣、本当にこっちに来て良かったの? 自分の父親や兄と戦うことになるのに」

 

ㅤ九島真言の妨害に参加しているのは、僕と僕の部下。そして、光宣である。

ㅤリーナは老師の警護に回っているし、文弥と亜夜子は襲撃するかもしれない九島の使用人達を警戒している。彼もそのどちらかを担当すると思っていた。それなのに、僕に同行することを選んだのだ。

 

「いずれは、覚悟を決めなきゃ駄目なことだから。それに、僕は理澄と一緒に戦いたいんだ」

「そっか。ところで、光宣は源義朝って知ってる?」

「知らないなぁ……。それ誰?」

 

ㅤやはり、知らなかったようだ。魔法史学の教科書に載っている「源」姓の人間は、土蜘蛛を倒した源頼光くらい。普通科高校の教科書には記載があるかもしれないが、魔法科高校生は知らなくてもおかしくはなかった。

 

「平安時代末期の人物でね、光宣みたいに父親や兄と戦った人だよ」

「昔にも、僕と同じような人が居たんだ。それで、その人は勝ったの?」

「勿論。つまり、僕達も官軍ってこと。だから、きっと大丈夫だよ」

「ありがとう。……でも、そんな人を良く知ってたね? 理澄って歴史マニアなの?」

「割とね。流行りに乗れない性質なんだ」

 

ㅤ僕は前世紀カルチャーも好きだが、前世との歴史との差異を見つけるのも好きなのだ。魔法史学の教科書も読み物としては悪くない。テストの為の暗記は苦手で、全然出来ないのだが。

ㅤそう話しながらも、僕は加重系魔法で走ってくる車を軽く浮かせ、すぐに降ろす。九島真言の乗る車に、ジャブを仕掛けたのだ。

 

「来たね。僕も何かやるよ」

 

ㅤ光宣が選んだ魔法は、「青天霹靂(クラウドレス・サンダー)」。空気をプラズマ化させて、電子のシャワーを対象に浴びせるもの。しかし、その魔法は車全体を覆う障壁でシャットアウトされた。

 

「……手ぬるい攻撃だな。光宣」

 

ㅤそう言いつつ、車から出てきたのは光宣の兄である九島玄明。その後にもう一人の兄、九島蒼司も続く。

ㅤ九島真言はまだ車の中だ。会議の出席を控えてる中、戦線に立たせる訳にはいかなかったのかもしれない。

 

「手加減しましたからね。一発で倒すのは面白くないでしょう?」

「光宣、ふざけてるのか……!? 四葉の配下にまでなって、何がしたいんだ!」

「配下なんかじゃない! それに、理澄は僕の友達だっ!」

 

ㅤ空間に電流が走る。光宣の「スパーク」によるものだ。それは、見当違いの場所に発生したようにも見えた。だが、それは違った。「仮装行列(パレード)」の偽装を彼は見抜き、正しい場所に魔法を放ったのだ。

 

「精度が悪過ぎますよ、兄さん。それでは、何の為の『仮装行列(パレード)』なのかわかりませんね」

「クソッ……!」

「残念ながら、ここから先へは行かせません」

 

ㅤ光宣は無慈悲に宣言する。とりあえず、僕も横で頷いておいた。

 

「そうは行くかっ!」

 

ㅤ玄明が僕に向けて「ルナ・ストライク」を発動する。得意魔法なだけあって、うちの北斗並みの構築速度だ。けれども、僕の領域干渉によってそれは阻まれ、形になる前に崩れた。

ㅤその瞬間を見逃さず、光宣が「ルナ・ストライク」を玄明に行使。彼は精神に極度のダメージを負い、戦闘不能になってしまった。

 

「まさか兄さんが!?」

 

ㅤ蒼司が悲鳴を上げる。それでも、彼は平常心を失わずにCADを操作した。選んだ魔法は「被雷針」。移動魔法によって、僕に小さな針を幾つも飛ばしてきた。

 

「光宣に攻撃が当たらないと分かってるからって、僕だけ狙うのはカッコ悪くないの?」

 

ㅤその針を全てベクトル反転で返してやる。ついでに攻撃魔法を仕掛けてやろうとした時、後ろの車がいきなり発進した。息子達の分が悪くなったので、先に逃げ出したのだ。

ㅤ僕は、道に向けての「破城槌」と、車の前輪を停止させる魔法を行使した。加速エネルギーだけを残した車が、「破城槌」で生成された地面の穴に落下する。それでも勢いは止まらず、車体は反転。これでは、中にいる人間は大怪我は免れない筈だ。

 

「……っ!」

 

ㅤ蒼司が車を見て、声にならない声で叫んだ。

 

「大丈夫ですって。精々、魔法治療を併用して全治一ヶ月ってところでしょう。会議には出られないでしょうが、生きてはいますよ」

「理澄の言う通りだね。……だから、蒼司兄さんは倒さないことにするよ。玄明兄さんと父さんの為にも、早く助けを呼んだ方がいいからね。じゃあ、僕達は帰るね。――また、会おう」

 

ㅤ僕と光宣は蒼司に背を向けた。彼に背後から襲われても、倒せる自信があるからだ。でも、彼はそれどころではないようで、僕達に攻撃は加えなかった。

 

「久しぶりに兄さん達と戦った気がする。すごい昔に、一度だけあったんだよ」

「その時も光宣が勝ったんでしょ?」

「うん。それで、兄さん達は僕に関わるのをやめちゃった。プライドが傷つけられたんだろうね」

 

ㅤ光宣の魔法力は非常に高い。彼の兄では太刀打ち出来なかったのも分かる。彼が疎まれたのは、身体が弱かったという理由だけでは無かったのだ。家庭内で出る杭が打たれてしまう、というのも悲しい話だ。

 

「だけど、今はとても楽しいよ。リーナと戦ったりとか。いずれは、理澄とも戦ってみたいな。勿論、『仮装行列(パレード)』は使わせて貰うよ」

「えー!? そんなの光宣が無敵じゃん! 僕の魔法が当たらないよ」

「でも、使わなかったら圧倒的に僕が不利だよ。だから、絶対使うからね」

 

ㅤ彼はとても機嫌良さげな声で話し続ける。同年代の友達がいるということが、嬉しくてたまらないのだろう。

ㅤ僕は、広域干渉魔法の練習をしておこうと思った。いつでも戦えるように、「仮装行列(パレード)」対策をしておかないと。危機感を持たせてくれる相手が居ることは、こちらにとっても良いことだ。光宣がライバルになれば、きっと僕の実力も上がるだろうから。





ㅤ光宣と戦ったら、主人公は勝てるのか問題。パレードが厄介なんですよねぇ……。「ワルキューレ」を使えば勝確ですが、それは殺しちゃってるし。

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