【完結】お兄様スレイヤー   作:どぐう

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ㅤ番外編第一弾


番外編
アンタッチャブルは止まれない


ㅤ魔法科高校を卒業した僕は、自動的とでもいうべきなスムーズさで魔法大学へと進学した。クラスメイトの殆どは同じ進学先だったのもあり、特に何かが変わるということもない。キャンパスライフはそれなりに楽しく、僕は九校戦で因縁のあった一条や吉祥寺とも親交を深めた。彼らは意外と感じの良い男で、話もかなり面白い。特に吉祥寺とは得意系統が似通っているのもあり、意気投合できた。彼と共に研究室で「加重系プラスコード」を使った実験をし、徹夜で計器と睨みあったことは一生の思い出になるだろう。

 

ㅤそんな生活の裏で僕は、結構危ない橋も渡ってもいた。人脈を広げるだけでは、四葉には到底勝てない。どうしても、金策が必要だった。それで、僕は政治の世界に足を踏み入れた。当時の僕は次期当主の婚約者、という中途半端な立ち位置。ぎりぎり、政治参画が許される立場だったからだ。官僚達と組み、日々金脈作りに勤しんだ。露見すれば、全てが台無し。幼少期の四葉での暮らしとは、また別の緊張感があった。

ㅤしかし、四葉本家はあまりにも政治と距離を置いてる為に、逆に政治にはとんと疎い。僕の行動は、本家には意味が分からなかっただろう。黒羽辺りは気づいていただろうが、僕の行動には口を出さなかった。

ㅤ一度だけ、僕の元に黒羽の黒服が現れて、あるデータを渡してきたことがある。それは、「毒蜂」の起動式であった。この魔法は痛みを増幅させて、対象を最終的にショック死させるもの。しかも、発動プロセスが明確で、精神干渉系魔法への適性があれば誰でも発動出来る。つまり、武倉の魔法師にも使えるということだ。これは、黒羽の叔父様なりの僕へのエールだったのかもしれない。

 

ㅤそれが本当だと分かったのは、数年後のこと。一世一代を賭けた僕のクーデターは、スポンサーの後押しもあったが、全ての四葉分家が支持をしたこともあって成功した。恐らく、魔法史上におけるセンセーショナルな出来事の一つになった筈だ。僕は十師族を二度も破壊したのである。

ㅤアンタッチャブルの再来。世間は「四葉」に対して、またしても畏れた。僕は昔から四葉の血族と公表されており、それなりに認知度が高い。その為、あの「夜の女王」を追い出し、その椅子に座った僕に恐怖を抱くのもおかしくなかった。

ㅤしかし、そんな僕は繁華街にある大衆の焼き鳥屋で、旧友との再会を果たしていた。

 

「久しぶり、森崎」

「久しぶりだな。……良かったのか? こんな所で」

「こんな場所だからこそ、バレないんだよ」

 

ㅤ生中二つ、とお冷やを置きにきた店員に注文する。割り箸を割って、突き出しを摘む。ビールが来たので、とりあえず乾杯をした。

 

「……驚いたぞ。急にお前が当主になっているんだから」

「僕は転んでもただでは起きないんだよ」

 

ㅤその言葉に、彼は苦笑する。

 

「その結果が、実家乗っ取りか……」

「本家は実家じゃないよ。僕は傍系の家生まれなんだ」

「その辺りの事情は分からないが。……九島の当主も変わったけど、確か三年のモノリスで戦った奴だよな?」

「そうだよ。光宣は僕の友達だから、リーナの後釜を任せられた。アイツは顔の割に、喰えない男なんだよ。僕ほどじゃないけど」

「自分で言うことか……? ところで、奥さんは元気にしてるのか?」

「とても元気だよ。それに、もう少ししたら二人目が生まれるんだ。上の子に妹が出来るって訳だ。頼むから、達也と深雪みたいにはならないで欲しいなぁ……」

「あれは特殊な例だろ。それにしても……。老獪な策略家が家庭を語るっていうのも、不思議なもんだな」

 

ㅤ失礼なことを言う奴である。この世界に生きる人間は、皆人の子なのだ。家族についての一つや二つ、語るだろう。

ㅤ家族といえば、文弥と亜夜子も僕が四葉に返り咲いたことを喜んでくれた。クーデターの成功は、黒羽と新発田の働きが一番大きかったのだ。勿論、二人も動いてくれていた筈である。

 

「恋破れた一条にも、家庭はあるんだ。僕にもあるよ」

「そうかもな。お前や一条とか、学生時代の知り合いが十師族当主っていうのも、何だか感慨深いものがあるな……」

 

ㅤ僕が一条や吉祥寺と連むようになったので、森崎も必然的に彼らと仲良くなった。三人で一条の恋路を一応応援してみたりもした。まぁ、絶対に上手く行かないのは分かっていたが。グループ内で僕が唯一の彼女持ちだったので、マウントを取りまくったのももう昔の話だ。とはいえ、マンションに二人暮らししていた一条と吉祥寺だって悪いのだ。男二人なんて、あまりにも非生産的ではないか。これには見兼ねて、「僕はリーナと同棲してるぞ!」と言いたくもなる。ちなみに、森崎は実家暮らしだった。

 

「森崎はボディガード業を継いだんだっけ? 偶に噂を聞くよ」

「あぁ。責任も多いが、ボディガードは重要な仕事だ。こんな時代だからな、人は簡単に傷つく。それを少しでも食い止められたら、と思うんだ」

 

ㅤ森崎はビール片手に、熱い夢を語る。何だか、少し羨ましい。

 

「それは良いね。僕の方は……そうだね、直近の仕事は師族会議になるかな。ちょうど選定会議の時期だ。当主になって早々、降ろされたくは無いから頑張らないと」

「良くも悪くも、今まで四葉は一度も落ちた事の無い名門だろ。誰が心配するかよ」

「まぁね。他の家の心配でもしとこうかな」

 

ㅤその後も、思い出話に花を咲かせた。大学卒業以来会っていなかったが、僕達は昔通りの関係のままだった。もう少ししたら、彼も結婚をするという。友人代表のスピーチを引き受けようか、と尋ねると、参加者が怯えるから止めてくれと言われた。だから、スピーチは吉祥寺に頼むそうだ。「カーディナル・ジョージ」の彼なら人前に立つのも慣れているし、見事に仕事をやり切ってくれるだろう。

 

「――結婚式には呼ぶ。お前のテーブル近くは、元B組出身者で固めておくから」

「ありがとう。是非、参加させて貰うよ。楽しみにしてる」

 

ㅤ恋愛結婚らしいから、僕も心から祝えそうだ。一条の時はあからさまに政略結婚で、こちらの方が心配になった。今でこそ良い夫婦関係が出来ているが、当時は皆も気が気でなかったのだ。そのことを思い出し、僕はくつくつと笑った。

ㅤ今の時間は、もう原作には掠りもしない。あの「魔法科」時代は足早に過ぎていった。それでも、キャラクター達は――人間達は生きている。

 

 

 

 

 

 

ㅤ店を出ると、北斗が車を付けて待っていた。僕は助手席側のドアを開けて乗り込む。シートベルトを締めると同時に車は発進した。

 

「どうでした? 理澄様」

「楽しかったよ。もう少ししたら、彼らも撤収させといて」

「かしこまりました」

 

ㅤ先程の店の客は、全員僕の部下だった。実は、今日だけは貸し切りになっていたのだ。下手にウロウロして殺されたくないので、その辺りは手を打っている。

 

「じゃあ、次の場所に行こうか。アイツも奥さんのおかげで規則正しい生活を送ってるけど、流石にまだ起きてる筈だ」

 

ㅤ行き先はエネルギー開発をしている研究所だった。僕も個人的に幾つかの会社を通じて出資している。研究所から、近くに建っている寮へと向かう。インターホンを押すと、すぐに相手は出てきた。

 

「あら、理澄君。こんばんは」

「こんばんは、深雪。達也はいる?」

「えぇ。どうぞ、上がって下さい」

 

ㅤ昔、彼らが住んでいた家よりもずっと狭い部屋。それでも、二人はとても幸せそうだ。

 

「やぁ、達也。元気?」

「深雪が俺の健康に気を遣ってくれてるからな。体を壊すことは絶対に無いさ」

「お兄様も少しはご自分の健康を気にして頂けると、私も安心出来るんですけどね」

 

ㅤお茶を持ってきた深雪が達也の横に座り、彼にぴったりと身体をくっつけた。

 

「まいったな……」

 

ㅤ達也は困ったように笑い、深雪の頭を撫でた。

ㅤ深雪は家の中や身内の前では、今でも達也を「お兄様」と呼んでいた。その事実は、非常に倒錯した愛を意味している。でも、それで構わないと僕は思う。二人だけの世界で生きるしか、彼らに救われる術は無いからだ。

 

「それで、何の用だ?」

「七草が達也に接触を持とうとしている。深雪の身辺警護は僕に任せろ。黒羽から人を出す。亜夜子が適任だろう」

 

ㅤ達也と深雪はもう四葉の人間ではない。とはいえ、僕は彼らを守る義務があった。

 

「それにしても……。何故、七草家が?」

「あの男は、代替わりした四葉すらも荒らしたいようだね。どうも、達也を表舞台に戻したいらしい。昔にお前が国防軍に所属したことを掴んでいたみたいだね」

「お兄様は今でも十分表舞台で活躍していらっしゃるのに……! 研究をしているという事実は、蔑ろにされてるというの?」

 

ㅤ部屋の温度が少し下がった。まだ「誓約(オース)」の効果は続いており、時折彼女は魔法を暴走させる。

 

「達也が重力制御型熱核融合炉を実用化したら、この問題も落ち着く筈だ。魔法師を兵器から解放する、というプロジェクトの意義が分かれば、下手なことは言えない。仮にも十師族だからね」

「そうか……。最近、研究所を嗅ぎ回る人間が増えたと思っていた。発表を控えているからと考えていたが」

 

ㅤその時、玄関で控えていた筈の北斗が部屋に駆け込んで来た。何か非常事態があったのだ。

 

「どうしたの?」

「何者かの侵入です! 研究所内のデータを狙っていると推測されます!」

 

ㅤ本当なら真柴辺りを回したいが、ここには四葉から警備を直接持ってこれない。四葉の持ち物ではなく、国立の研究所だからだ。その為、この研究所の警備レベルは四葉の基準では低めなのである。

 

「僕が片付けてくるよ。今なら、僕狙いの人間が襲ったことで収束させられるからね」

 

ㅤ僕は挨拶もそこそこに、北斗と現場へ向かった。擬似瞬間移動で研究所の前まで飛び、廊下を駆け抜ける。

ㅤ侵入者は六人で、全員魔法師だ。だが、僕には全く問題が無かった。対象を認識した瞬間に、彼らは糸が切れたように崩れ落ちる。「ワルキューレ」が発動したからだ。すぐさま、僕は六体の死体を浮かせる。

 

「認識阻害は掛けてるか? 逃げるぞ!」

「了解しました!」

 

ㅤ死体を途中で処分し、僕達は四葉の村へと戻る。出入りはかなり面倒だが、場所としては一番安全だ。昔から僕も秘密基地みたいで好きだった。

 

「研究所の周りには人を送った方が良いな……。とりあえず、新発田を回そうか。後で、勝成さんに電話を繋いでくれ」

「はい。ところで、理澄様。達也様の功績をそのまま、彼に全て渡してしまってよろしいのでしょうか? いくら、深雪様が昔以上のリソースを割いて『誓約(オース)』を使っていらっしゃるとはいえ」

「あぁ……。そりゃあ、危険だよ。達也の素性は殆どの人間が知っている。いくら平和利用と言ったって、ややこしいことが起こるのは目に見えてる」

「それでしたら!」

「でも、人の功績を奪い取って知らん顔する訳にはいかないだろ。それをどう対処するかは、僕の仕事。そこからは、決して逃げちゃいけないんだ。これからの為にもね」

 

ㅤ達也と深雪を幸せな世界に居続けさせる必要がある。その為にも、魔法師社会を変えていかなくてはならない。

ㅤそれは、お兄様をお兄様であることを壊してしまった、僕への罰なのかもしれなかった。




ㅤ旧友との再会、がテーマ。最初は森崎との飲み会の後は師族会議に飛んで、七草弘一との政治工作の戦いを書くつもりだった。実際、途中まで書いてたけど「けもフレ2」の件を見て気持ち悪くなってやめた。
次はリーナと黒羽の双子のどちらか。全部で3つかな?

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