あんハピ♬︎ 〜ANswer to HAPPIness〜 作:綾月楓
この小説は『まんがタイムきららフォワード』にて連載されていた、琴慈先生作の漫画『あんハピ♪』の二次創作小説になります。原作漫画、アニメ、ドラマCDから多少の設定をお借りしていますが、それらの作品とこの物語はまったくもって関係がありません。
原作ファンの方はあ、これかぁとなるかもしれませんが、もしもこの小説で初めてあんハピを知った方がいるのならば、原作とはキャラクター設定が少なからず違うものになるのでそこら辺はご了承下さい。
以下参考資料
『あんハピ♪』原作コミック(一部)、アニメ(特に8話)、ドラマCD設定、アニメ公式エイプリルフールネタ
「やっぱり、今日はなんだか不幸よ、あたし……!」
全速力で走りながら、
彼女が今日から通う事になった
そんな彼女の懸念は、入学当日に担任からの一言によって、現実となった。
「あなた方七組には、クラス全員
自分の耳を疑った。……なに、このクラスにいる人が全員不幸?
人から言われるほど、あたしは不幸じゃない――思わず立ち上がって言った。
しかし担任は、学園前に調査を行っている。本当にあなたには心当たりがないと言えますか、と少しばかり不気味な笑顔でこちらを見つめてそう返した。
――心当たり、無いわけないじゃない。
確かに彼女、雲雀丘瑠璃は
けれどもそれは、とてもクラスメートの前で入学初日から言えるような内容ではない。この『不幸』のせいでかなり痛い目をみていた彼女は、今度こそはこの事を隠し通し、普通の学校生活を送ろうと意気込んでいたわけなのだから。そんな事を言われてしまえば、なす術がない。
正直馬鹿馬鹿しいけれど、ここは大人しく座っておいた方が賢明か。そう思った彼女は渋々だがこの状況を受け入れる事にした。
ヒバリには、自分の不幸の度合いはよく分からない。というか、自分では言われるほど不幸だとは本当に思っていない。……傍から見ればその限りではないが。しかし、本当にこのクラスに所謂ツイてない、そういう人が集まっているのであれば、今日知り合った
「ねぇねぇ、ヒバリちゃん。このクラス、確か40人だったよね……?」
机に入っていた紙に書かれた数が少ないほどラッキーとしましょう、と担任が話を進め、ヒバリが開いた紙に書かれていたのは『28』だった。微妙だと思っていたら、はなこが見せてくれた紙には紛れも無く『49』の数字が記されていたわけである。ヒバリは訝しげにその紙を眺めた。
「いや、ありえないでしょ、こんな数……」
死に苦とは。ただでさえ最下位確定なのに、余計に縁起が悪い。実際、はなこは今朝の登校時にも、犬を助けようとして自分が川に落ちたり、挙句の果てには助けた犬に手を噛まれて逃げられてしまっていた。同情を通り越して困惑と言った具合である。もっとも、それでもはなこは笑顔で私はすっごく
「そ、それは……はなこさん、数字の0の部分のインクが擦れて、9になっているのではないですか……?」
おっとりと穏やかな声でそう言ったのは同じくクラスメートの
ぼたんもまた、身体面での不幸を抱えているらしく、握手で骨にヒビが入ったと言っていた。虚弱体質というものだろうか。それにしても、極端である――このクラスは一体、何なのだろう?
「そうそう、もう一つ。簡単な宿題を出しましょう」
担任はどこからか出した小さなかごを持ち、生徒達の机に一つずつ卵を置いていく。賞味期限は切れているのだそうだ。
「この卵を明日の
内容が高校生に出す宿題だとは思えない。卵を一つ割らないぐらい簡単じゃないかしら。しかし念には念を入れ、用心して丁重に扱おうと決めた。家に緩衝材の代わりになりそうなものはあっただろうか。とりあえず慎重にバッグの中に入れる。
この後は授業もなく、そのまま解散だという。とにかくこの異様な教室から離れて、自分の気持ちを落ち着かせたい、そう思っていたヒバリには嬉しい知らせだった。
学校の前の分かれ道で、用事があると二人には告げ、ヒバリは小走りで家とは逆の方向へと向かう。嘘はついていない。ただ、どうしても一人で来なければ行けない場所だった。地面を抉る、ガガガ、という金属の高い音が聞こえたら、目的地はすぐそこだ。周りを注意深く見回し、学生がいないことを確認する。彼女が物陰から見つめる先には、何の変哲もない工事現場があった。
「……あら?」
とある理由から、ヒバリは度々工事現場に足を運ぶ。そんな彼女だからこそ、今日は何か様子がおかしい事に気がついた。彼女の求めるものは確かにそこにあったのだが、問題は場の雰囲気である。その場にいる全員に生気がないのだ。不審に思った彼女は、金属音の合間に聞こえる作業員たちの声に耳を済ませた。
「やっぱり、今日は朝から機械の調子が悪いな」
「なんだ、お前もか? こっちもしょっちゅう止まるんだ」
ガッと鈍い音を立て、それきりドリルは沈黙してしまった。その場には数名作業員がいたが、その誰もが謎の不調に悩まされている。
こんなことって、あるのかしら……?
いや、なかった。今まで自分は工事現場を幾度となく見てきた。その回数に関しては、天之御船学園のどの生徒より多いと断言出来る自信が彼女にはある。
だから、この工事現場ははっきり言って異常なのだ。
嫌な予感がする、そう彼女の中の勘が告げている。まるで、ここから早く立ち去らないと、何か不幸に見舞われる。本能的にそれを察した彼女は、踵を返して家に戻ろうとした。しかし、
「ぎゃあぁぁっ!?」
彼女のすぐ背後で作業員の悲鳴が聞こえた。あぁ、嫌な予感が当たってしまった。
少し躊躇いながらゆっくりと振り向くと、兎の様な形をした、異形の生物が男達を見下ろしている光景が目に入った。
「な……何なのよ、これ……!」
その光景を処理しようと唖然としていたヒバリだが、怪物が一歩をこちらに踏み出したところで正気に戻った。とにかく、この場から離れないといけない。
何歩か後退りすると、身体を翻して家の方向へと走り出した。
「やっぱり、今日はなんだか不幸よ、あたし……! はなこを助けていたら入学初日から遅刻をしかけるし、しかも変なクラスに入っちゃうし。その上、よく分からないけど変な化け物に出くわすなんて……!」
夢なら覚めて欲しいと思い、頬を思いっきり抓ったが、無慈悲なことに痛みは神経を通してきっちりと頭に届いた。今日は本当に、ツイていない。
怪物の一歩は兎らしからぬゆったりとしたものであったが、歩幅はそれをカバーするほどの大きさだった。ヒバリはずば抜けて運動が出来るというわけではない。彼女が疲れてしまったら差が一方的に詰まるのは時間の問題だった。
後ろを振り向くと、結構な近さに怪物はいた。止まったらどうなるか分からない。とにかく、休まずに走り続けていないと――
「痛っ……!? えっ、嘘、どうして……!」
額が何かにぶつかる。
学校のすぐそばまで来ていたヒバリは、そこでかなり安堵しかけていた。しかしどういうわけか、見えない透明な壁に行く手を阻まれてしまったのだ。
「ちょっと待って、どういうこと……!?」
叩いても壁はびくともしない。確かにすぐ近くに学生達の歩く姿が見えるのだが、なぜかこちらの惨状には全く気付いていない。
もう一度、振り返る。怪物は彼女のすぐそばまで来ていた。絶体絶命の状況で恐怖の余り、へなへなと地面に座り込んでしまった。怪物の右足が上げられる。
その動作が、ヒバリには妙にゆっくりと感じられた。
「すッ――スピネル・パンチマインド……!」
突如、耳をつんざく様な激しい打撃音が聞こえた。それと同時に、怪物の身体が右後方へと吹っ飛ぶ。呆気に取られているヒバリの前に、フードを深く被った少女が現れた。ツインテールにでもしているのだろうか、そこから薄い金髪が垂れている。少女は巨大なハンマーを持っていたので、これが怪物を吹っ飛ばした武器なのだろうということはヒバリにも推測できた。
少女が振り返る。綺麗な碧眼がフードの下からヒバリを見つめていた。か細い、呟きのような声がその口から漏れた。
「あ、あの……ボク……。ま、間に合った……?」
この二人の出会いが、物語の始まり。
不幸な少女達が、幸福への旋律を紡ぎ始める。