教室に向かいながら、僕はこれからのことを考えた。ちなみに、僕のクラスは1年1組のようだ。さっき僕が持っていたバックの中身に、1年1組の生徒の名簿と思われるプリントが入っていた。そこに『斉木楠雄』の名前があった、というわけだ。
この状況を造り出した原因を一刻も早く突き止めたいところだが、伊旦高校1年生としての生活がもう始まってしまうのなら、それに対処していくしかあるまい。
とりあえず、目立たないことだ。偶然にも、僕の高校生活の目標は『周りの空気を読み、波風の立たない生活を送る』だと言わされていた。悪くない。いや、僕にうってつけの目標だ。
僕だって
◇
1年1組の看板が見えてきた。ただ他のクラスの心の声に比べ、1組の方から聞こえてくる心の声が熱狂的に感じるのは気のせいだろうか……。
段々と近づくにつれて、1組の方からの心の声がはっきり聞こえてきた。
(何あの子!超可愛すぎるんだけど!)
(このクラスで良かったあー!1組サイコー!!)
(伊旦高校のマドンナが、うちのクラスに!)
(うおおおお、絶世の美少女降臨だああ!)
(うわあああああうあうあいえええええいぎええええええええ)
うるさい。
1組の人気者が、もう決まっているのか……?早いな。どんな奴なのかは知らないが、僕には関係のないことだ。……向こうから話し掛けられない限りは。
そんなことを考えているうちに、1年1組の教室とご対面だ。僕は後ろの、開きっぱなしのドアから教室に入った。かなり騒がしいが、入学初日のことだ、色々なことで浮かれているのだろう。まったく、何が楽しいのか、僕にはさっぱり分からない。
そうして、自分の席に着いた瞬間。
(コロスコロスコロスコロスコロスコロス)
(アイツが死んだら、次は俺が隣だ……)
(変なヘアピンつけて、良い子ぶりやがって……)
(斉木……ね。うふふうふうううふううう)
なっ、何だこれは……?周りのクラスメイトが僕へ一斉に嫌悪を向け始めた……?一体何が起こって……え、隣?
右隣を見る。そこにいたのは、さっきの彼女、古見さんだった。まさか……。
(うおおおおおおお、古見さあああああん!!)
(伊旦高校のマドンナ!!ここに降臨だぜイェーーーーッ!!)
(何だあの美しさは……尊い……)
(はあ幸せ……。この学校来て良かったあ……)
──照橋さん*3と同格だと……?まさかここにもそんな存在がいたとは……。
ちなみに、クラスの心の声は大きく分けて二つ。古見さんに完膚なきまでに魅了された心の声と、その隣にいる僕に対する殺意だ。嫉妬深すぎるだろ。まさかそれだけで好感度が下がるなんてことは──
──クラスの僕に対する好感度は『15』。……15?
──これは『好感度メーター』が算出した好感度の数値。『好感度メーター』とは、テレパシーの応用能力で、周囲全員の心を読んで好感度を割り出し、数値化したものである。
僕の目標は、好感度『50』。……なんだこの数字は。初日から完全に異常事態だ。いきなりこんな理不尽に尽きる災難に逢うはめになるとは……。好感度『15』なんて、『挨拶したら舌打ちで返されるレベル』だぞ。
何とかして、好感度を上げなくては……。
◇
ホームルームが始まって、担任が軽く自己紹介した後、今度はこっち側の自己紹介を求めてきた。
「あっああああ
言い切れてないまま、上理さん(♀)の自己紹介は終了した。完全に顔が真っ赤だ。あがり過ぎだろ。ってか名字そのまんまじゃねーか。
と同時に、クラスから笑いが起こった。後ろの席の女子も「あはは、上理さんあがりすぎー」と笑いながらフォローしていた。良いクラスに見える。だが僕に向けられた感情を考えれば分かる、心の声は軽蔑や嫉妬に溢れかえって───
(うわ、あの子かわいー♡ 後でお話ししてみたいな♪)
(あいつ面白すぎるだろww こんな奴いたんだなぁ、やべぇ、楽しくなってきた!!)
(暖かいクラスでよかったあ、何とか高校生活の力れそうだ……)
………え?
邪険な心の声が何一つ聞こえてこない。僕のときの殺意はどうした……。本当に学校のマドンナの隣にいることだけが理由なのか?
「次」
担任の声が掛かる。その瞬間、クラスは一気に静まった。学校のマドンナの自己紹介に、クラスメイト中が注目しているのだ。
スッと立つ古見さん。
「…………」
「「「「「……………」」」」」
……………。
「………………………………………………………………………………………………………………………………」
(((((………………………………………………………………………………………………………………………………?)))))
溜めるの長すぎるだろ。そんなにじらしてどうする。
すると何を思ったか、無言のまま黒板の方に近づいた。相変わらず彼女の考えは分からない。一体何をするつもりだ……。
そしてそのままチョークをとり、カッカッカッと音を立てて書いていった。
『
古見さんは何も言わずに、そのまま自分の席に戻った。
ワアアアアアアアアアアアア!!!!!
湧き上がる歓声。ライブ会場か。
完全に自己紹介は成功した。このクラスの古見さんの好感度は『91』。『教室に現れた瞬間空気が晴れやかになるレベル』、といったところだ。
だがまさか、彼女の隣にいるだけで嫌われ者になるとは……、とんだ災難だ。照橋さんの隣になったことはないが、隣になっただけで嫌われ者になるなんて話、聴いたことないぞ……。厄介すぎる。
「次」
古見さんの次は僕だったな。席から立ち上がる。
斉木楠雄です。よろしくお願いします。
すっと座る。クラスへの自己紹介なんてこの程度で十分だ。
(チッ)
(はあぁ~)
(クールぶりやがって……)
(空気読めねえ奴……)
凍りつく空気。僕が何をしたっていうんだ。まだ読みで19文字しか喋っていないんだが。
ここまでの理不尽を喰らっては、本気になる他あるまい。見ろ、超能力者の本気を……!!
◇
「さて、HRに入る……がその前に」
「「「おおっ?」」」
担任のその一言に、クラスの雰囲気が明るくなり出した。まるで、
「──
「「「いよっしゃあぁーーーーーーーーーーーーー!!」」」
クラス中から歓声が上がった。よほど学校のマドンナの隣に行きたいのだろう。すぐに譲ってやるぞ。
さて、おかしいと思わないだろうか?高校生活1日目からいきなり席替え。しかも、クラスメイト全員それに順応している。実際心の声を聴いてみても、困惑は聞こえない。
理由は簡単。僕が「マインドコントロール」したからである。
厳密には超能力ではないが、僕以外の他人に対して、「不自然」な事を「自然」な事と思い込ませる事が出来る。
今のもそう。「高校生活1日目の始まりから席替え」なんて、不自然極まりないこと。普通だったら、どの高校でもしないだろう。
そこで、マインドコントロールだ。「高校生活1日目の始まりから席替え」を自然な事、当たり前の事だと思わせたのだ。実際はあまり使いたくはなかったのだが……。
このマインドコントロール、人の価値観を変えるだけではない。
例えば、僕の髪は暗いピンク色だ。染めたんじゃない、地毛だ。地毛が何故か暗いピンクなのだ。
それと、僕はメガネをかけている。それも、ただのメガネじゃない。緑のレンズのメガネだ。
しかも、僕は小五のときから、暴走気味だった超能力を制御するために、制御装置を作り上げ、自分に装着した。誰かが「変なヘアピン」と称してたやつだと思うのだが、石ころサイズの薄いピンク色の球のついたアンテナみたいな形だ。これを二つ、頭の両側に上斜め45度くらいの角度で付けているわけだが。
想像して欲しい、この僕の格好を。髪は染めたかのような暗いピンク色で、頭にオモチャのようなアンテナを頭につけ、緑のレンズのメガネをかけた奴を。こんな奴が学校にいたら、普通は間違いなく学校一目立つ。
僕の世界でそうならずに済んだのは、僕がマインドコントロールをしたからだ。ピンク色の髪を、いつも付けている制御装置を、自然な事だと思わせたのだ。周りの人間は、僕の制御装置を見ても、ただのヘアピンだと思い、ピンク色の髪を見ても、自然な事と思うようになった。
しかし、今度は「黒の地毛」がほとんど無くなった。赤や青、様々な色が人間の地毛になった。
そう、マインドコントロールは、人の考えだけでなく、
だから、多用は禁物。しかも、元に戻すことは不可能だ。とはいえ、元いた世界では幼い僕が色々な不自然を自然に変えてしまったのだが、あの場合むしろそれで良かったと思っている。
だが、周りを見渡してみても、髪の色は黒かブラウンだ。別に黒やブラウンの地毛が無くなった訳ではないとはいえ、こうも同じ色の髪が並んでいると、逆に不気味に感じてしまう……。やはりここは別の世界なのか。だが僕の髪は特に気にされてはいなかったようだが、一体────
ドン。何かが背中に当たった。一体なんだ……。後ろを振り返った。
そこにいたのは、顔だけ忍者の格好をした奴だった。口元も完全に隠れている。普通に校則違反だろ。この学校の事は何一つ知らないが。
そいつの手には、何やら上の面だけ丸い穴の開いた箱が。受け取れ、ということか。
「……………!!」(早く取ってクジ引いて、さっさと古見さんの遠く離れた席に行かんかい、この良い子ぶりヘアピン野郎!!)
変なヘアピン考えてたのお前だったのかよ。
まあ良い、クジを引けば良いだけだろ?僕は箱を受け取りクジを引き、箱を前の席に渡した。
僕が古見さんの隣になることは、もう無いだろう。こんな理不尽な災難とはおさらばだ……!
◇
席替えが終わった。右隣を見る。
僕の右隣は、学校のマドンナ、古見さんだった。
しかも、真ん中の列、一番前だった。
……………。
(コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスブチコロスブチコロスブチコロスブチコロスブチコロス──)
(またアイツが隣だと……?調子乗りやがってぇ……今すぐぶっ殺す!!!!)
(この良い子ぶりヘアピン野郎……、今すぐ地獄にたたき落とさねば……!!)
(斉木楠雄。我が伊旦高校の王女古見硝子さまの隣に一番ふさわしくない奴が隣にいる罪で、即刻死刑に処する)
……今の僕の好感度は「5」。『いつの間に背後から襲われてもおかしくないレベル』だ。
……………。
…………………………。
──斉木くんは、早くも自分の高校生活が終わりを告げた事を悟った。
漫画『斉木楠雄のΨ難』の登場人物。
PK学園時代の斉木のクラスメイトで、長身の不良。
斉木のテレパシーでさえ心の声が何も聞こえないほど何も考えていない、ミステリアスバカ。
PK学園に通っていた当初は一人で過ごしていた斉木だったが、彼の不本意ながら、不良、中二病、クラス一の人気者等、段々とワケあり生徒達が絡むようになった。
漫画「斉木楠雄のΨ難」の登場人物。
PK学園時代の斉木のクラスメイトで、自他共に認める美少女。
『自分は神に愛されている』と考えている程、自分の容姿に自信を持っている。