Vが目覚める Fate/ Grand order   作:変人ちゃん

8 / 11
七話

緋色に染まった街の中、女は一人"静寂"に身を潜める

黒き装いを身に纏い、はるか遠くを眺めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見開かれた眼にははただ一人、弓を放ち続ける男だけを正確に捉えている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に.....上手くいくのかしら?」

 

不安げな表情を浮かべながら所長が口を開く

 

「上手くいくもなにも、もう後戻りのできないところまで来ているわけだが」

 

スネークが応答する

彼女たちは先程話していた場を離れ、アーチャーに攻撃された地点(ポイント)まで近づいていた

 

「でも.....」

「確かに言いたいことはわかる。こんなモノは策とも言えない特攻にすぎん」

「だったら!」

「だが.....」

 

所長の言葉に被せるようにスネークが放つ

 

「俺たちは奴に対して決定的なアドバンテージがある

それは奴が俺の宝具を知らないということだ」

 

戦いにおいて手札を隠すというのは戦術の常套句だ

手を知られていないというのはそれだけで戦術的優位(タクティカルアドバンテージ)を得ることができる

例え戦いの舞台がテーブルゲームだろうと白兵戦であろうと変わることはない

 

「どの道アーチャーの狙撃を掻い潜らなきゃいけないのは変わらない。常に僕たちの位置が割れてると仮定したなら、おとなしく正面突破っていうのも仕方ない。頼もしいバックアップが背にいると思えばいいよ」

「ご心配なく。所長の身は私が守りますっ!」

「.....分かったわよ。しっかり私を守りなさいな」

 

いかにも渋々という仕草で自らを納得させる

 

「心配事をしてる余裕もそろそろなくなってきたぜ? 奴さんもう弓を構えやがった」

 

常人を遥かに凌駕したキャスターの双眸が、弓兵の挙動を捉える

 

「見えるんですか!?」

「おうとも。おぼろげにではあるが、魔力の動きで分かる

とはいえ向こうさんはもっと鮮明にこっちが見えてるんだろうがよ」

 

少々悔し気に吐き捨てる

自分の眼がアーチャーに劣っていることが気に入らないのだろう

 

「まさかもう仕掛けてくるのかい!? ここから三キロはあるぞ!?」

「もう少し近づかせてくれるんじゃないかと思っていたが.....オリンピックにでも出てたほうが幸せなんじゃないか?

.....さあどうする、あんたの命令に従うぞ? "マスター"」

 

問いを投げかけられる

 

「.....足を止めずに全力で走れ! 三人は俺と所長の防御を頼む!」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り始めてからどれ程経っただろうか

彼らは前進をしながらもじわじわと追い詰められていた

 

「厳しいな.....」

 

藤丸が歯噛みする

火事場の馬鹿力と称すべきか、疲労で足が止まるということはない.....というより、足を止めれば蜂の巣である為動かし続けるほかない

幸いにして致命傷は避けられているが、体の隅々には小さな傷が刻まれていた

 

「スネーク! 例の宝具はまだなの!?」

「まだだ」

 

所長の投げた問いへ冷淡に言を返したスネークだが、その実彼も完璧に焦りを抑えることはできなかった

前に進み続けているが、近づくほどに攻撃の感覚は狭まる

文字通り矢の雨を走り抜けて来た彼らの背中には、合戦の後さながらの光景が広がっていた

 

(まだだ.....まだその時じゃない)

 

必死に自らに言い聞かせる

この土壇場で尚彼は何かを待っていた

次の瞬間には敗北を喫す恐れさえ、一行は呑み込み走る

 

近づく矢は燃やし、逸らし、払いのけて前進する

 

(重い.....!?)

 

雨、と形容したものの、その一粒一粒は紛れもなく殺傷力を持った死の(ひさめ)。この突貫において極めて重要な役割を持つ彼女は、その腕でマスターに届き得る全ての脅威を一身に受けねばならない

 

英霊の放つそれは只人のそれとはまず違う。増して地面までも抉り取らんとするその一矢は、少女の想像していた衝撃を優に超えてくる

 

「これがッ.....その技量で英雄の座にまで上り詰めた人物.....!」

「嬢ちゃん堪えなァ! 次にでかい掃射がくるぜ、そいつを超えりゃあ.....」

「ッ.....!」

 

近づくほどにアーチャーの姿が鮮明に見えていた彼には、おぼろげだったその射撃の様子を少しずつ捉えることがせきるようになっていた

 

(しかしまぁ、この間隔で飛んできてるからには当然かもしれねえが.....あの野郎、一体"何本同時"に矢を番えてやがる? 弓ってのは普通そうはならねえだろ.....)

 

そう、彼にはアーチャーの射撃をその目で見た

彼はその目で、赤い残光が数個同時にアーチャーの手元から放たれるのを目撃した

本来ならば弓とは二本も三本も同時に番えるようなものではない。いくら常軌を逸した技術の持ち主であろうともそのような芸当は有り得ない。もしそれを可能とするならば.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これも凌ぐか」

 

だれに話すでもなく、弓兵はひとりごちた

 

攻撃を続けてから彼の腕は止まることなく、矢を番える手はその速さを増し続けている

 

「───赤原(せきげん)()け」

 

弓に三本の矢を宛てがい

 

「.....緋の猟犬!」

 

放つ

 

赤い残光は軌道を残して飛び去り、獲物の血を得るまで突き進む

実の所、彼は狙いをつけて敵に放つ必要がない

 

その宝具の名を、赤原猟犬(フルンディング)

 

かの竜殺しが振るったとされる魔剣を、アーチャーが自身で矢として魔改造した逸品。射手が健在である限り標的を追い続けるという性質を持ち、もはや矢ではなく一種の魔弾と化している

 

彼に矢を三本も番えたまま、速射を実現させているトリックはこれだ

彼程の技量をもって弓に矢を宛てがい引くという工程さえ踏めば、本来なら出鱈目な方向に飛ぶであろう矢も、構わず敵へと向かって行く

極めて強力な攻撃だが.....

 

「いや、これでは届かんな」

 

三本ずつ矢を構えていた手は、いつのまにか一本の剣を握っている

いや、剣と表現するには少々異質な形状をしていた

かろうじて柄らしきものは付いていたが、そこから先は螺旋を象った奇妙な刀身。切るというよりは殴るか抉るための形状をしていた

しかし

 

「我が骨子は.....」

 

彼はそれを弓に番える

 

「捻れ狂う」

 

引き絞られたそれは伸びて、まるで一本の矢のように形状を変えた

その動作だけで、周囲の大気を魔力が震わせる

 

(十五.....いや、二十秒程か。リスキーではあるが、おそらくその程度でこちらまではたどり着かない)

 

「さあ、果たして躱せるかな?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。