ほどほどの糖度のガルパン恋愛もの   作:レモンの皮

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アキ『お疲れ様』

疲れというものには、種類があるというのは最近強く思い知ったことだった。

遊び疲れというのは心地よく感じるのに、仕事に追われてヒーコラ働いた故の疲れというのは、訛りの蛇のように体に巻きついて、ずっしりとのしかかってくる。

 

学園艦の整備、というのは大変な仕事だった。

高校を卒業してすぐに継続高校学園艦の整備士の見習いとして配属されて以来、仕事の山の頂が見えたことは一度もない。

部品の詰まった箱を持って駆けずりまわったり、一日中溶接のしっぱなしで作業着からあの妙な匂いが漂うような気さえする。

 

汗と埃と焦げまみれ。

半年も経ってないのに見るも無残なボロ着へと早変わりした作業着を見て虚しい気持ちになりながら、自転車をこぐ足に鞭を打つ。

継続の学園艦は、比較的小型だ。

作業現場から家までの距離は、さほど遠くもない。

 

「おつかれさまでーす!」

「あいよー」

 

挨拶をしてくる、中学生たちに手を振って答える。

整備士という人種は、学園艦と、ひいてはそこに暮らす人々と密接に関わっている職種だ。

1日の終わりに労を労ってくれる生徒たちも少なくはない。

少しだけ沸いた活力を振り絞ってペダルを踏み込むこと一桁後半分、ようやくマンションにたどり着いた俺は重たい体をなんとか持ち上げて、階段を登る。

 

今日は、ひときわ大変な作業だった。

人の腕ほどもあるボルトを持ち上げては文字通りネジ込む作業は、まだ20そこらの若造に容赦なく鞭を打ってきた。

これが明日からしばらくは続くのだと思うとさすがに辟易して、ため息の一つも吐きたくなる。

 

ショルダーバッグの中から鍵を漁って、ガチリと扉を開く。

一息ついたら、さっさと風呂に入って飯にしたい。

本当はすぐにでも倒れこんで寝てしまいたいが、洗濯だって終わらせなければならない。

まだまだ1日が終わりそうにないことに悲しい笑いをこらえながら、すっかり馴染んだ家のドアを開く────

 

「あ、おかえり」

 

少しだけ、唖然。

 

「アキ?」

「ん、お邪魔してるよ」

 

当たり前のようにアキが視線の先にいた。

亜麻色の髪を今は後ろに束ねて、エプロンをつけて狭いキッチンの前で鍋の中を覗き込んでいる。

あれ?

 

「なんで居るの?」

「あれ? ラインしたよね?」

 

スマホを取り出してアプリを開くと、今日遊びに行くね、と通知があった。

 

「見てなかった……」

「えー、彼女のやつくらい見なよーひどい!」

「いや今日はもうとにかくしんどくてさー……」

 

平謝りしながらとりあえず靴を脱ぐ。

一旦座り込んだらとたんに足がギブアップしたらしい、思わず太ももに肘をついて肺の中の空気を吐き出すと、ポフッと頭を優しく叩かれた。

 

「今日も、お疲れ様」

 

見上げてみると、秋が優しい笑顔でそんなことを言ってくれた。

何故だろう、気持ちが一気に楽になる。

 

「男の頭撫でて楽しいか」

「あんまりー」

 

そんなことを言いつつも俺のゴワゴワした髪を弄るアキに、俺もしばらくの間抵抗はしないのだった。

 

 

 

「ごめん、待たせた」

「いや、むしろ早すぎない?」

 

臭い!の一言に少しだけ傷つきつつユニットバスに詰め込まれた俺が髪をタオルで拭きながらリビングに入ると、テレビをぼんやり見つめてたアキがいぶかしむような目でこちらを見ている。

 

「しっかり洗ったの?」

「臭いって言われちまったから普段より念入りに洗った」

「ほんとにぃ?」

 

言いながらこちらに顔を近づけてスンスンと匂いを嗅いでくる姿に少しどきりとする。

首筋にまで鼻をよせられるとあれほどガシガシと擦ったのにまさか洗い残しがあったかと少し不安になる。

しかしそれとは裏腹にアキは臭くないと言ってあっさり離れる。

なんだか相変わらずこの子のペースが理解できていない。

 

「晩御飯はできてるよ、すぐ食べる?」

「ああ、ありがとう、食べる食べる」

 

もう腹ペコだよと返すと私もーと返答が。

キッチンに戻ると鍋の中身をアキが丼に盛り付けていたので、俺も茶碗に自分の分とアキの分の白米をよそっていく。

これは朝なんとか仕掛けて予約しといたやつだ、アキからもマメだねぇとツッコミが入る。

閑話休題(それはともかく)、山盛りの茶碗とほどほどの茶碗をそれぞれ左右の手に持ってリビングに戻る。

小さなテーブルには白い湯気を放つ肉じゃがと急須に湯のみ、そしてワクワクとした様子でそれらを眺めているアキの姿。

 

「ほい」

「ありがと」

 

山盛りの方をアキの前において、座布団に腰を下ろす。

なんともいい香りを放つ肉じゃがを見て、忘れていた空腹が再び唸りを上げ始める。

もう我慢できんとばかりに端を伸ばしてほくほくのじゃがいもに早速箸を伸ばす。

あっと、アキの声。

 

「こらー!いただきますしなって」

「我慢できないよ」

 

お行儀悪いそのまま一口、うん、うまい。

芯まで熱々ながら煮崩れしておらずねっちりとした歯ごたえに、優しい和風の味付けが効いている。

これならいくらでも入りそうだ。

 

「また腕あげたな」

「ふふん、毎日自炊してるからね」

「そりゃいいことだ」

 

会話もそこそこ、俺はこの目の前のご馳走を処理することに専念した。

確かにアキはこれを調理してくれたが、食材は我が家のものである、ならば俺が遠慮なく食べることにはなんの問題もない。

もちろんアキも負けじと箸を動かしてその小さなお口にもぐもぐと白米と肉じゃがを詰め込んでいく。

これは負けていられない。

玄米茶で口の中をリセットして、さらに肉じゃがを食らう。

仕事で疲れた体に暖かくて美味い飯、これ以上の幸せはない。

それが、愛しい恋人の作ってくれたものならなおさらだ。

 

「アキ」

「ふぁひ?」

「詰め込みすぎだろ……いや、ほんとありがとな」

「ゴクッ……どーいたしまして!」

 

輝くような笑顔で答えるアキに、グッとくる。

誤魔化すようにお茶をすすると照れてる〜とからかうような声が追い打ちをかけてきたので、チョップで黙らせてから再びご飯に手をつける。

アキが二杯目の山盛りご飯を食べ終える頃には、かなりの量があった肉じゃがはすっかり二人の腹に収まっていた。

 

「ふぅ〜、お腹いっぱい」

「ごちそうさま、美味しかった」

「おそまつさまー」

「洗い物は俺がやるよ、後で」

「うん」

 

お腹いっぱいで動けないので食器は放置しながら、二人してふうとため息をつく。

テレビの音が虚しくこだまする部屋の中で、何らかの符丁があったわけでもなく、ちらりとアキを見ると視線がぶつかりあった。

なんか、気恥ずかしい。

 

「今日は泊まってくのか?」

「んー、どうしよっかな」

「もう外は暗いぞ」

「……泊まってって欲しい?」

「……欲しいかな」

「んー、そっか、仕方ないなあ」

 

弾むような声がしたと思ったらトトトンッと軽い足音ののちにアキが腰の上に乗っかってきた。

 

「しばらく二人きりの時間とかなかったもんね」

「……カイショーナシですいません」

「いいよ、学園艦の整備士って大変なんでしょ? でもさ……少し寂しかった」

「うん」

 

しなだれかかってくるアキの小さな体を抱き寄せてやると、耳にくすぐったがるような声が忍び込んでくる。

華奢だけど柔らかい体、なんとなく甘い匂いにクラクラとしながら柔らかい髪に頬ずりすると、むぁーと猫のようなうめき声をあげながら体をよじるものだからなんだか面白い。

 

「この後何するか」

「んー……特に思いつかない」

「じゃあ、そうだな。 確かこの後映画やるしみるかー」

「何やるっけ」

「プレデターだったかな」

「雰囲気が全然ないんですけど」

「違いないな……」

 

抵当に同意しながらふと見下ろすと、アキの方も上目遣いで俺の方を見つめていた。

気恥ずかしい。

でもそのまま我慢してそっと体を曲げて顔を近づけると、アキの方も察したのか、その小さな唇をツンと突き出してくる。

柔らかくて、しっとりとした感触が伝わった。

そのまましばらくすると、ぬるりと潜り込んでくる感触に思わず体が硬直する。

そのまま、しばらくして

 

「……ぷは」

「……ご飯の味がした」

「お前、いきなりなんてことを」

「ねえ」

「なんだ」

「硬いよ」

 

 

 

 

 

「すけべ」

「しょうがないだろ……」

「えへへ、すけべー、へんたいー」

「やめろー、やめてくれー」

「ふふん、ねえねえ、じゃあさ

 

続き、したい?」

 

胸の鼓動か、早くなる。




付き合った経緯とかそういうのは考えるのがめんどくさかったんで脳内補完してください。

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