君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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ハゲの言葉

 

 

 

 

 

 

 多少のゴタゴタこそあったが、無事に抜錨した七海率いる艦隊。

 正直に言おう。

(……なにこれ?)

 陣形が訳の分からないことになっている。

 中央に七海が困惑しながら乗っかる浮遊要塞。

 その隣には円形を描く浮遊要塞。

 さらにその周りにはメイド三名、嫁と娘と妹。

 更に外側には扶桑、山城、飛鷹、衣笠、由良、古鷹、羽黒。

 という七海絶対逃がさないウーマンによる過保護陣形の出来上がり。

 困惑している七海は漸く五十鈴に連絡。

 五十鈴は戦闘中なのか、焦るように出た。

「七海!? 無事だったのね!?」

「無事じゃないです……」 

 という泣き声で言われて何事かと焦る五十鈴だが、説明を受けると……。

「由良、聞こえてるでしょ? あんた、七海に近づくの禁止。泣かせるような奴は鎮守府に帰りなさい」

「嫌だよ。五十鈴に言われる筋合いないし。七海ちゃんは由良たちが手厚く保護しながら行くから良いの」

 無線を聞いているであろう由良に、超低い、超冷えきった声で脅す五十鈴。 

 戦いながら完全に由良に対して激怒していた。由良は涼しい顔で言い返す。

「間違った甘やかしかたをするなァッ!! そりゃ単なる束縛でしょうが!!」

 過保護と束縛を履き違えてた由良に怒鳴り、五十鈴が七海の解放を要求。

 お前ら勝手に大体何で出撃してるんだボケと怒るが、正式な許しは得ていると由良は笑う。

「脅されました……」

「七海を脅しておいてその言い種は許せないわ! あんた顔見せたらブッ飛ばしてやる!! 覚えておきなさいよ!!」 

 七海がシクシク泣いているので五十鈴お姉ちゃん、マジギレした。

 由良の暴走に、決戦そっちのけで姉妹に対する怒りのボルテージが上昇。

 由良であろうが、無意味に七海を悲しませる奴は絶対許さない五十鈴。

 由良は脅してなどない、お願いと言っただけと白々しい言い分で流すが……。

「由良、お前は今後お嬢様に対する第一級特定危険人物として排除する。第二級特定淫乱メイドよりもその処遇は重たいと思って」

「おいそこ、何で村雨を引き合いに出してるの? 村雨は爪先から毛先まで健全ですけど?」

 小春が、由良を七海に対する束縛行為により危険人物と断定したり。

「司令官に暴力を振るって良いのは事実を言われて怒る村雨ちゃんだけよ。由良さんは、心の暴力を振るうから、今後は如月たちが魔の手から守るわ」

「如月ちゃん、ちょっと待って。事実じゃないから。言い掛かりだから」

 如月までも、今の由良は危険と言って七海を守ろうとしている。

 挙げ句には。

「ママが凄く怖がってる……。今の由良は村雨と一緒でママに変なことしようとしてるんだ!」

「山風、村雨が提督にされてるのよ? 真逆だからね現実。聞いてる?」

 山風までも、由良は危ないと言い出す始末。

 更にこう、あるメイドは証言する。

「あの目付き……ご主人様のお部屋にあった、ええと……どーじんし? っていうのに出てた姉さんと同じでした。あれは、ケダモノの視線です」

「春雨、いつの間に村雨本を読んだの!? 健全なやつだよね!? エッチなのじゃないよね!? 

 従順な春雨ですら言うのだ。

 もう間違いなく由良は七海の事を狙っている狩人だ。

「一応そういうシーンのない健全ですけど姉さんがショタ……? という主人公を襲っている本でした。姉さん最低です」

「違うのおおおお!! あれはフィクション! フィクションだから!! 村雨は無実だって知ってるでしょ姉妹なんだから!」

「でも全国の村雨という艦娘が……わたしには、如何わしい艦娘にしか思えないの。だって、本の後書きに、ノンフィクションだって書いてあった。もう、わたしも姉さんがどういう人か……分かんなくなってきちゃった……」

「Noooooooooo!! おのれオータムクラウドォッ!!」

 まさか身内にまで困惑させる内容を描くとは! 

 絶叫する村雨は置いておくとして。弥生は黙って七海を慰めてるし。

 五十鈴も隅っこで苦悩する村雨を無視して、皆に聞いた。

 他の艦娘はどうしたと。

「川内は夜勤で眠たいそうで、寝ています。鈴谷とイムヤ、瑞鳳や祥鳳は空爆された街の方の救助と支援に向かっていて、他の駆逐艦は警備と待機任務。ですんで守りは大丈夫ですよ」

 手薄にはなっていないと教えて、五十鈴は分かったと言ってから、座標を教える。

 仮の拠点らしき小島らしい。五十鈴が事情を打ち明けているので、心配ないと教えてくれた。

 深海棲艦と知っても尚、やはり受け入れてくれた。

 信じてよかったと思う七海にここで、島村に切り替わった。

「おぉ! 渋谷さん、無事だったか!!」

「ご心配おかけしました。遅れてしまい、申し訳ないです。事情は、聞いていると思いますが」

 安堵するように出た島村に今まで陸軍と共同して艦載機の空爆を迎撃していたと伝える。

「なんと!? 不仲という陸軍と!? 相変わらず……枠に囚われない柔軟で臨機応変な対応をするのだな……。兎に角、迎撃を感謝する。あの街には、私も思い出があるのだ。焦土にならず済んで、何よりだ……」

 何でも何度も顔を出している郷土料理の老舗があるらしい。

 島村は気に入っている飲食店が吹っ飛ばずに済んで良かったと安堵していた。

 まあそれ以上に街が消えずに残っている事にほっとしている。

 七海のやり方を素晴らしいと言いつつ、島村は言った。

「此度は、私たちの為に……人間を辞めてまで救援に来てくれたことに、無限の感謝を。ありがとう、渋谷さん。私は、貴女と戦える瞬間を、誇りに、光栄に思う。良き戦友を持てた事を」

「止してください。あたしは、一度助けられたじゃないですか。あの時、真っ先に来てくれた一人だったでしょう?」 それは大本営で暗殺されかけたとき。箝口令の敷かれたあの話だ。

 人間に対する不信感を抱くなか、雄叫びをあげ助けに来た漢が、彼だった。

 憲兵相手にも怯まず白兵戦で対峙してくれたのは、誰でない島村。

 人間同士の争いにも、迷わず七海を選んでくれた豪傑程ではない。

 七海はこれでも感謝しているのだ。数名の人間たちは、少なくとも絶望しないでいい。

 深海棲艦になってでも、助ける理由も、加勢する理屈も、助力する感情もある。

 七海を救ってくれた大人。だから信じる。だから自分を賭ける。

 だから、この道を選べた。

「……私は、貴女のような強靭な信念を持つ人間ではない。自分が戦える力を失ったとき、果たして同じ立場で……同じことを選べるだろうか?」

 全てを一度は失いながら、もう一度立ち上がった。

 絶望することなく、諦めることなく、代償を支払いながら……それでも。

 これぞ、強者。

 なんと憧れる。初めて、島村は思った。

 七海のこの、揺るがない信念。まさに、島村が目指す動かざること山の如し。

 その体現であった。なんという強固な志。一片の迷いもない精神。

 高校生という幼き齢で、この境地に至れるとは、最早生まれつきの心の在り方か。

 羨望を抱く。素直にそう思う。強い人。本当に、島村は誇らしい。 

 そんな人に、救われたと言ってもらえるとは。

 少しは強さの秘訣を、自分も持てただろうか。

「選べますよ。いえ、絶対に同じことをすると思います」

 七海は島村に向かって即答する。

 周囲の意外そうな顔を一瞥して、柔く微笑む。

 それは、島村も同じように意外に感じる。

「島村さんは、あたしの私見ですが、愛国者です。誰よりもこの国に尽くして、戦おうとする。だったら、記憶喪失になったぐらいで、その魂の在り方を果たして忘れてしまうでしょうか? あたしは、あたしです。記憶を失いながらもあたしのままでした。人間、早々己の在り方は変わらないんですよ。あたしがこんな風に今、戦いに赴くように。島村さんもまた、あらゆる手段を講じて立ち上がると思います。だって、そんな安いものじゃないでしょう? 周囲の人に感謝しながら、必ず復活して、また戦うんじゃないですかね? ほら、魂に刻んだ国防の誓いは、記憶を超越している感じしませんか?」

「…………」

 軽く言っているが、暫し考える。

 成る程、自分の誓いを鑑みるに……立ち上がるだろう。

 記憶を失っても、諦めの悪い己のことだ。

 骨身に染み付いた生活習慣と、自分の癖を見れば、真実に辿り着く。

 自分の根源が、どこにあるのか。辿っていけば、分かる。

「……そうか。私もまだ、未練があるからか」

「そう言うことです。あたしも、未練があったんですよ」

 そう。結局は、やり残した心残りがあるから。

 まだ、国に己の感謝を伝えきれていない。

 愛している文化に、恩返しは終わってない。

 自分は、まだ愛している。愛されていたいと思う。

 戦い続ける理由が、魂の中にある。

「愚問だったな。私は私だ。早々、我が魂は朽ちぬし、折れぬ」

「ええ。だから、あたしが強いなら、島村さんも十分強い人です」

 七海が言うと、どこか気力が湧いてくる。

 改めて自覚した。足りない。自分はまだ、満足するほど生きてはいない。

 まだ生きたいと、互いの魂は叫んでいる。だから、戦う。

「ありがとう渋谷さん。最高の賛辞と受け取っておこう」

 尊敬さえしている人物に、自分も既に同じ高みにいると言われる。

 嬉しいと言うよりは、益々誇らしい。自分は一つ、成長できた。

 その実感が、分かるから。

 七海は言った。遅れた分は、過剰に戦力を連れてきた。

 艦娘と深海棲艦の混成艦隊に、島村は。

「援軍、心より感謝申し上げる」

 と、皆に言ってから、不意に。

 名前を聞いているからか、特定の二名を呼んだ。

「……山風。弥生。久しいな。私の声が、聞こえているだろうか?」

 元々の、自分の部下。見捨てて、囮にした張本人。

 びくりと未だに反応する二名は、強ばって困惑して七海を見た。

「大丈夫。あの人はもう、誰も沈めません」

 七海は笑顔で言った。七海を信じるつもりだが、今更何を言うのか。

 怖がっている二人に、島村は。

「貴様たちはさぞ、私を恨んでいるだろう。その恨みは正しいものだ。私は、言い逃れをする気はない。果たしたくば、何時でもその償いをする。あの頃の私の、甘ったれた采配が、貴様たちの将来を奪うかもしれなかったのだ。許されることではない」

 戸惑う弥生、山風。

 何と島村は、二人は悪くないと言い出した。

 以前の事は、全ては己の非として認めていた。

 聞いている艦娘たちも、絶句した。あの島村が、自分の甘さと断じたのだ。

 これが、七海の言っていた変化か。驚きを隠せない。

「これだけは、然し言わせてほしい。……済まなかった。貴様たちの命を消耗品にしようとした、傲慢な男はもういない。甘さを私は捨てたのだから。渋谷さんに誓おう。二度と、艦娘の命を弄ばないと。貴様らは、生きるのだ。渋谷さんと共に。そして、戦ってくれ。貴様らの戦う理由のために。それが、この国の明日を作ると私は信じている」

 こんなことを言える立場ではないと言いながら、謝罪した。

 二人は、目を丸くした。謝られた。あのハゲに。

 自分達に逆に生きろと言うあのハゲは、それだけ言えればいいと告げた。

 どうすればいいか分からないまま、代わりに七海が答える。

「分かってます。二人は、あたしが守ります」

 だから、信じる。こんな風に変わった島村を。

 七海はなにも言わないでいいという。二人も気持ちの整理がつかない。

 ただ、以前ほど怖くはないし……恨みも少し軽くなった。気がした。

 取り敢えずは戦おう。今は、勝たなければ。

 皆は向かう。ハゲたちが戦う、決戦の舞台に……。

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